2020/10/10 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」に史乃上空真咬八さんが現れました。
史乃上空真咬八 > ――――朧車の話題は、此処最近事欠かない。
出現地域、具体的な怪異の概要、対応方法。
既に何名もの人員が対処に割かれることもあれば、個人が己の力を以て対応する者。

……だが、その中には、力量を見誤った者たちが、そのまま朧車に囚われてしまうという事態も起きている。
木乃伊取りが木乃伊になる、というように、救助に向かった人員が、同じ木乃伊となって囚われる。

だから、今日。彼は要請を受け、"自ら赴いた。"




――小高い崖から、眼下を見下ろす。
朱い瞳は仄かに光り、闇に沈む裏常世渋谷の線路を睨んでいた。
地下から地上へと出てくる、トンネルから高架線路の境。
そこにやってくる存在を待っていた。

「――……ッ……ッー……」

――片手が一本、左右と後ろ、帯刀しているうちの一本を、鞘から引き抜いた。
刀といっても、近代的コンバットナイフのように材質や柄に加工の施された、チタンカーボン製の物。
一本、それを片手から、口に咥えた。柄を咬み、顔の右に刃が向く。
もう一本、それを空いた手に再び握りしめた。
最後の一本は鞘の中に入れられたまま、少しだけ鞘走らないようにだけ傾けている。




――トンネルの向こうから、咆哮が響く。同時に腰を落とし、細く。

「ッふ」

呼吸を刻んだ。

史乃上空真咬八 > ――そして、その時はやってきた。


咆哮を上げ、けたたましい音と共に、般若面の"朧車"が現れる。
夥しい車両の数、そして面から噴き出す黒炎と、人間に似通う面の動き。
――力量を見誤ってやられたのは、挑んだ者の実力不足ではない。"ある程度の車争いを乗り越えた、この朧車が想定を上回っていたからだ。"





その朧車が飛び出した瞬間、彼は崖から前のめりに飛び降りるなり、その崖の壁面を蹴り――その前方車両目掛けて飛翔した。
崖の壁面を、蹴り砕いた膂力。

(……事前に請けた情報通りか。般若面の朧車……囚われているのは、風紀委員一名、一般生徒二名、そして違法部活動に関与が疑われる生徒一名――)


――飛び込みながら、脳裏で情報を振り返る。
救助者は合計四名、この朧車を討伐し、全員を救出すること。
……笑った。刀の柄に、歯が――否、"牙"が喰い込む。


「――ック、クキ、キキッ、クク、グクッッ……!!」

抑え込む哄笑のような声、みしりと音を立てる口に咥えられた刀。同時に、彼の存在しない右腕の袖が、"内側から破れていき、腕が現れた。"
――ただの腕ではない。漆黒の毛並みに覆われ、血管の浮き出た隆々たる獣人の腕。
鋭く伸びた爪、人間に近い指の形をしながらも、その腕だけでも十分な程の破壊力を孕むそれで、三本目の刀を引き抜いた。
吐息が赤く染まる。彼の異能が、発動と同時に彼の戦闘本能を爆発させる。

「グッ――――ッルルァララァアアアァァァッッ!!!」

空中から一転、身体をよじるような動きと共に、両腕の刀を車両の天井目掛けて叩き込む。
車争いによって得られた力が、外装甲部を硬化させていようが、
まるで熱されたナイフで切られるバターのように容易く斬り裂かれ、そのまま柄まで刃は喰い込み、彼の躰を列車に繋ぎ止めた。

何者かが襲い掛かったことに憤怒の咆哮を上げた朧車が、徐々に加速していく。

史乃上空真咬八 > 突き立てた刃は二本、両腕でそのまま、力任せに身体ごと回転を掛け、――天井を丸く、自分の周囲を切り抜いた。
火花が一瞬散り、えぐり取られた金属の破片が焦げ付いた臭いを散らせる。
視線は足元を睨み、そのまま一度きり頭を振り上げると。

「ッグァアアウッ!!!!!」

咆哮一声。咥えていた刀の柄で、切り抜いた円の中心を思い切り殴りつけると、
切り取られた形に天井ごとそのまま、彼は車内へ飛び込んでいく。
そして飛び込んだ刹那には、両腕に握った刀を力任せに×字に振り抜き、四つの破片と変え、それらを蹴り散らす。

――そしてその破片は、着陸するや否や、車内で待ち構えていた、朧車内の亡者たちを蹴散らし、大きな間合いを作らせる。

その間合いだけで、彼には充分過ぎた。

「ッシッ……!!」

空気が震え、白く光が筋を引いて、彼が振り切った刃が既に、左右の鞘に納められるところだった。
――紅く飛沫いた。亡者の躰は、切られた場所に与えられた切断面から、その構成をしている、妖力ともいうべき力を噴出させて、
そのまま靄と消えていく。

"亡者を屠る方法"

彼は、それをよく知っている。

「……ッ。此処じゃねェ、か」


左右の鞘に納めた小刀二本、口に咥えていた一本を獣腕に握り、空いた口が愚痴る。
周囲を見渡し、薙ぎ払った亡者以外の存在がないことを確認すれば、その足を後方車両へ向け、歩き始める。
――討伐すれば自動的に列車は消滅するが、その後が大変になる。
先に救助者の安否と、どの程度動けるかを加味せねばならない。
途中現れる亡者を、拳と刃で屠ると共に、段々とその身に返る黒い汚れによって、その姿を変えていっていた。

……長く行動すれば、自分も二の舞か。と、苦く笑う。
穢れというものだ。こういうものは、積もらせると厄介なことになる。