2021/04/03 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」にレナードさんが現れました。
レナード > 四月一日。
世はまさにエイプリルなんとやら。
電子の海では普段は見られない企業の悪ノリがそこかしこで繰り広げられ、
SNSでは嘘か真か眉唾物な話が転がっている。

無論、そんな明るい喧騒とは縁もないわけで。

「……………。」

何をするわけでもなく常世渋谷を散歩していただけだったはずが、偶然迷い込んでいたという奴だろう。
一度この世界から去る前に、何度か来た覚えはあった。
だから動じることもなく、気づいたときには大きなため息が出た程度だった。

レナード > 目の前に広がるのは、逢魔が時の日差しに照らされて、橙色に染まる常世渋谷。
しかしそこには人っ子一人いやしない。それはまだいい、想定の範囲内だ。
だが、異形の気配さえも感じられない。

「なに、今まではなんがしかいた気がするんだけど。」

ひとまず、車さえも通ることのないだろう大通りの真ん中を歩き始めた。
例え建物の陰に隠れようとも、ここでも例外なくものを見透す蛇の眼で以て看破すればいい。
黄色い瞳をぎらつかせながら、元居た場所を目指してあてもなく往く。

レナード > それから、どれだけ歩き続けただろうか。

行けども行けども気配一つ感じられない建物が乱立するばかり。
この眼で見透したから間違いない。今日迷い込んだこの場所には、異形の一つさえ見られない。
目では見えないものがいると言われれば、それまでだが。
そして道なりに進んでいるはずなのに、まるで延々と道路が続いているように思える。
さっき傍を通ったビルでさえ、4度5度と同じものを見た覚えさえあった。

「…………疲れたし。」

建物の傍には向かわず、大通りの真ん中で腰を下ろす。
ただの常世渋谷では出来ないことだが、ここでは別。車一つ通る気配もないのだから。
多少上では出来ないことをしても、誰に怒られるわけでもない。

「……時間、進んでないな………」

何時間と進んだはずなのに、沈み切らぬ太陽から注がれる日差しは橙色を帯びたままだった。

レナード > 永遠にその先へ進まないように思える逢魔が時。
自分以外に誰もいないように思える建物乱立の世界。
そこに歩き疲れて、座り込んだ自分の姿がぽつんとひとつ。

裏常世渋谷の世界は、異形の住処。
常人が長居をすれば精神に異常をきたすと実しやかに囁かれている。
何度か入ったことのあった自分はそれを知っているし、こんなに長居はしなかった。
ただ実際に気が触れるような経験は、これまでになかった。
今でさえ、自分がおかしくなっているだなんて、自覚はない。

「……知らないうちに…僕はおかしくなってるって、言いたいわけ……?
 それとも…………あれから、何も進んでないっていうわけ……?」

自分の傍には、誰もいない。
あのときをもう一度繰り返しているかのようだった。
全てを捨てて、出ていこうとしていたあのときを。
急にこんなことを考えてしまうのは、既に気が触れている証拠なのだろうか。
歪み始めた少年の思考は止まらない。

レナード > 色んな人に迷惑をかけて、色んな人の心を弄んで、
そして結局、自分はもとの孤独に返った。
この世界は、そう告げているように思えた。

戻ってくるべきでは、なかったんじゃないか。

なんて、考えてはいけないことを想起してしまうのも、時間の問題だった。
口にこそ出してしまっては、もう終わりであることも気づいていた。

「…………なにやってんだろうな、僕は……」

大通りに居ては降り注ぐ日差しが鬱陶しく思えた。
だから、日陰を作る建物の影へとふらふら近づいて、背中に無機質なコンクリートを押し付けるように座り込む。
この世のものではないと思えるくらいに、心が凍える冷たさだった。

レナード > 「………疲れた。」

進まない逢魔が時に、人も異形も何もいない、建物が乱立した迷宮の世界。
この世界の在り方に燻ぶっていた葛藤を唆されて、少年は歩みを止めてしまう。

「……もう、いい。疲れた………」

そして、そんな自分のくすんだ心の内から目を逸らすように、ゆっくり顔を伏せた。

レナード > 少年は眠りにつく。
時の止まった世界では、それが一瞬の微睡か、長きにわたる眠りだったのかは判別できない。
少年が再び起きだして、ここから出ていけたかは、また別のお話。

ご案内:「裏常世渋谷」からレナードさんが去りました。