2021/11/23 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
何かを得るためには何かを捨てねばならない。
そこまでは当たり前で想像のしようもある話。
しかし『得た結果どんな利があるか』はともかく
『捨てた結果どんな不都合があるか』まで事前に
網羅して考えるのは存外難しい。
「……簡単なもんじゃ、無ぃのは、分かってたけぉ」
コンビニ外の駐車場近く。電動の車椅子に身体を
預けてぐったりと動かなくなっている少女が1人。
彼女──黛薫は先日、悲願叶って『魔術の適正』を
得ることに成功した。代償は魂の損傷、運動機能の
大半の喪失、それに伴う身体機能の低下、不全。
最初から軽い代償で済むとは思っていなかったので
後悔は一切無い。だが主に運動機能の喪失が原因と
なって、生活様式は大きく変わることとなった。
今は具体的にどんな不都合が生じるか、何が出来て
何が出来なくなっているかを確かめるために一通り
外を回ってきたところ。
風紀委員か公安委員、ないし生活委員の目の届く
範囲でという条件があるので、今回の活動範囲は
風紀委員の分署がある常世渋谷。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
■黛 薫 >
まず、車椅子で生活することに対する困難。
これは身体が動かなくなった時点で想定出来たし、
身体操作魔術の習熟に伴って解決する予定の問題。
しかし往々にして対処は想定より難しいものだ。
気付かされたのは場所によるバリアフリーの格差。
人の多い場所ほどバリアフリーは行き届いていて、
利用が少ない場所には手が回りきっていない。
無限にリソースがあるはずもなし、それ自体は別に
悪いことではない。費用対効果で見ても利用の多い
場所にリソースを投入するのは合理的。
問題は黛薫の異能が人の集まる場所での活動に
向いていない、その一点に尽きる。
■芥子風 菖蒲 >
今日は常世渋谷に配属された少年。
昼も夜も眠らないこの町は日夜軽犯罪が度々起きる。
それを隠れ蓑に現れる違反者の数々。それ等を取り締まり、規律を示すの役目。
「こっちは異常無し」
と言っても、そう言う事は起こらないのが一番だ。
少年は漆塗りの鞘を担いだまま、定期連絡を無線に入れた。
無線から流れてくる声も『異常無し』だ。今日は楽な仕事かもしれない。
とは言え、油断の二文字は無い。黒衣を靡かせながら、人込みを闊歩する少年。
少しは休憩でも入れようかな。そう思った矢先、向かったコンビニには……。
「……あれ?」
見覚えのある人影が見えた。
ただ、前よりも顔色が悪いどころか、車椅子に乗っている。
見ないうちに、大分弱ってしまったのだろうか。
まるで、車椅子の上で打ち捨てられてしまったかのようにも見えた。
黒衣を翻し、カツカツとアスファルト踏み鳴らし少女へと近づいていく。
「久しぶり。名前……何だっけ?と言うか、大丈夫?
あんまり顔色がよくないみたいだけど……」
とりあえず、一声掛けた。
■黛 薫 >
「んげ」
露骨に嫌そうな声。以前の邂逅で違反学生という
立場が割れているから、風紀委員の青年に対して
苦々しい顔を隠せないのは仕方がない。
「黛薫っすよ、名前。あーしはあーたの名前、
覚ぇてますけぉ。芥子風菖蒲で合ってんよな?」
目に見える外傷、例えば足が折れているとか
歩行に支障が出そうな大怪我は見当たらない。
しかし貴方を見上げる仕草ひとつにも随分と
難儀しているのは一眼で分かる。
「管轄の範囲外だからかもですけぉ、あーしの名前
前回も書類で見てたらしーのに聞くまで一致して
なかったもんな。不真面目だからとかじゃなくて
キョーミ無かったりします?」
■芥子風 菖蒲 >
嫌そうな声に、嫌そうな顔。
何かやがる事でもしたのかな?と、疑問に思う位にはのんびりとした考えだ。
そんな豊かな表情とは対照的に、乏しい無表情と澄んだ青空はじ、と彼女を見下ろしている。
「ああ、そうだ。ごめん、最近会ってないし忙しかったから忘れてた」
風紀委員と言うのも、存外休む暇もない。
特に少年は職務にも学業にも真面目でせっせこせっせこ島のあちこちに行ったり来たり。
時には多忙に記憶が埋もれることだってある。
それはそれとして平謝りをし、自らの名前にはうん、と頷いて肯定して見せた。
「オレの事覚えてたんだ。ごめん、オレはちょっと忘れてた。
……書類?薫は何か悪い事したの?オレ、そう言うの苦手だからさ」
「わかる人に任せてるし、基本的に"戦う相手"の顔しか覚えてないから」
要するに苦手な事は全部同僚とかに押し付けてるのだ。
結構ちゃっかりしているが、精々できるのはサイン位。
小難しい事を考えるよりも、信頼できる仲間からの指示を信じるスタンスだ。
それに、自分の居場所は常に敵の前。
武力を以て制圧するしかない凶悪な違反者以外は基本的に流し見ばかりだったりする。
ある意味不真面目と言うのも、興味が無いと言うのも正解だ。
表情一つ変えず、涼しい顔のままじーっと少女を見ている。
「怪我とかなさそうだけど、病気?」
見る限り、大怪我をしているようには見えない。
なら、病気だろうか。何処となく動くのにも難儀しているのが分かる。
心配の色をした声音が、少女に尋ねた。
■黛 薫 >
「別に謝る必要とかねーーですけぉ。風紀からの
覚ぇが良くて助かるコトなんざありゃしねーし、
忘れたまんまでもイィくらぃっすよ」
淡々と語る無愛想な青年にわざとらしくため息。
風紀に良い印象を抱いていないのもあって反射で
突っかかるところだったが、前回邂逅時の自分の
態度が理不尽だったこと、同日一緒にいた女性が
彼について話していたのを聞いていたこともあり
一応の冷静さを保っている。
「向き不向きがあるにしても丸投げは感心しねーぞ。
『分かる人』の言葉を鵜呑みにしてたら間違いが
あっても気付けねーし?最悪なすりつけられても
知んねーかんな」
言葉を聞くに、彼は風紀の中でも威力部門担当か。
前回、自分の名前を聞いて初めて『あってた』と
反応した興味の薄さにも納得。同時に武力による
制圧、連行が不要な自分が怯える必要はないとも
理解した。
「怪我でも病気でも、あーたに説明する義理は
ねーですよ。生活委員の問診じゃあるまいし。
あーしだから良かったよーなものの、あーたは
デリカシーってのを理解すべきだと思ぃますね」
■芥子風 菖蒲 >
「……そんなに悪い事してるって事?」
風紀に覚えられていい事は無い。
そうだろうか。彼女の考えている事が今一よくわからない。
だけど、それが後ろめたい理由なら…と、脳裏が過った途端
ほんの少し、少年の周りの空気がざわついた。
もしかすると彼女も、自分の守りたいものを"害する者"なのか、と。
そう思うだけで、強い敵意が溢れ、目を見開いてしまった。
「……前にもそれっぽい事言われたなぁ……。
て言っても、オレにはよくわかんないし……じゃぁ、薫はどうしてるの?」
それは本当に刹那の事。
青空が瞬けば口元への字、うーんと困る年相応の少年の姿。
何時かは自分で考えて、話さなきゃいけない時が来る。
そう言われても少年には難しい話だった。話すと言っても、何を話せばいいのか。
こういう時は言った当人がわかるはず、単純明快の結論。
ねぇねぇ、とせがむように聞いてくるのは少し子どもっぽい。
「デリカシー……ってのもよくわかんないけど
だって、不便そうだし、困ってそうじゃん。
そう言う人に理由を聞いて助けるのって、いけない事?」
単純明快、純一無雑。
そう、少年の行動原理はとても簡単な事だった。
風紀にいるのも、自分から戦いに赴くのも、戦えない誰かの為に。
泣いている誰かを助ける為に、風紀に入ったのだ。
行動原理に表裏も無いが、それがある意味危うさだ。
少年は、物を知らない。だから、先ほど敵意も"敵"と認識すれば当然の感情だ。
とは言え、疑ってはいるがそうとは判断していない。
彼女が言う"感心"しないと言うのは、概ね当たっている。
当人は理解していないからこそ、首を傾げてストレートにものを訪ねてくる。
■黛 薫 >
刹那の敵意、普通の学生なら怯えただろうか。
それとも反感を覚えて食ってかかっただろうか。
黛薫の反応はそのどちらとも異なっていた。
操り人形の糸が切れたように、或いは一瞬だけ
気を失ったかのように。一切の動きが途切れて、
またぎこちなく再起動する。
「……そーゆー反応するヤツがいるからだよ、クソ」
悪態混じりに呟き、冷や汗で濡れた髪を払う。
「分かんなぃなら、聞いて、調べて、考える。
聞くときは答ぇを求めずに判断材料を請う。
その過程で妥協しなぃ。……言葉にすっと
簡単になっちまぅけぉ、難しーんだわ」
『妥協しない』の果てに身体機能を喪失した少女の
言葉には実感が篭っている。『たったそれだけ』が
如何に難しいか知っているから。
「例えば、困ってる理由が聞かれたくなぃコトなら
親切心で聞ぃたつもりが相手を追い詰めるかもだ。
その場合相手は悪気が無ぃって分かっちまぅから
聞くなって言ぇねーんだわ。善意だって考えなく
振り回しゃ残酷になるっつー例な。
ま、今のあーしに限っちゃそーゆー理由は別に
無くて、意地で突っ張ってただけなんだけぉ」
嘘か真かは不明だが、最後の付け足しは貴方が
自分の問いを気に病まないための迂遠な気遣い。
もっとも、捻くれた態度と物言いで帳消しに
なってもおかしくないのだが。
■芥子風 菖蒲 >
「……あれ?」
思わず間の抜けた声が漏れた。
無意識のうちに溢れ出た敵意。
それがまさか彼女の動きを止めるとは思わなかった。
少年にとっては急に気を失ったように見えたものだから、困惑を禁じえなかった。
「ごめん……」
ただ、それが自分のせいだと言う事は理解出来た。
悪い事には素直に謝る、当然のことだ。
眉を下げて、心配そうに彼女を見やる。
「……オレってそんなにだらしなく見えるかな。
確かに出来ない事は任せっきりだけど、"妥協"なんてした事は無いよ。
オレに出来る事は、精々戦う事位だから。これでも必死だよ。……人目には付かないけどね」
確かにそう言われるとその通りでは在るが、妥協をした事は無い。
出来ない事を出来ないままなのはいけない事なのだろう。
人目に付かない自分の結果を、ひけらかす事はしない。
そもそも、日常に持ち込むような事をしてはいけない。分別は理解してる。
自分で考えれる範囲なんてたかが知れているけれど、その中で選んだ答えには妥協も、間違いも無いと信じてる。
自分で選んだ道に胸を張って進めるように、自分の意思を全て放棄したわけじゃない。
「だから、オレは聞いてくし、聞かれたくないって言っても
実際困ってるのは否定しないじゃん。知ってる顔が急に車椅子になってたら、誰だって心配はすると思うよ?」
その嫌がるとか、意地と言うのは今一つピンとこない。
ただ、自分の善意と思える感情は決して悪い事ではない…とは思っている。
それを嫌がる人間と言うのが、要するに彼女の事なのかもしれない。
んー、とうなり声を上げて一思案。
「うん、ごめん。さっきも聞いたけどさ。オレはこういう時何をするのが一番なのかわからない。
オレに出来る事はたかが知れてるけど、多分薫の助けには成れると思うな」
動くのが不便なら手足になるのも厭わない。
勿論出来る事にも限りがあるし、出来ない事は出来ないとしっかり言う。
「だから、教えてよ薫。オレは何をすればいい?」