2021/11/24 のログ
■黛 薫 >
「謝る必要はねーーんですってば。風紀みたぃに
多くの相手しなきゃいけなぃ立場で特殊な例に
いちいち頭下げてちゃキリがねーでしょーよ。
事前に言われた上でやらかしたんなら責任とか
あんのかもですけぉ。今の場合、どー考えても
事情を出し渋ってたあーしの責任だっつーの。
風紀は誠実さに付け込む悪人の相手するコトも
あんだろーよ、悪くなぃなら胸張ってろや」
相変わらず声音は不機嫌そうで、捻くれていて。
しかし発言内容は貴方に非がないと主張する物。
「出来ねーコトを誰かに任せんのは合理的だけぉ、
『武力』っつー手段は解決策としてはある意味
最終手段なんだわ。徹底的に潰しておしまいに
するか、武力報復の連鎖になるかのどっちかに
なっちまぅんだからさ。
その終着点にいるヤツが言われたとーりに刃を
振るぅだけってどーなの?ってあーしは思ぅよ。
間違ってたとき最後の最後にそれを正せんのは
戦ぅヤツだけだろーよ。……だから、あーしは
あーたの『妥協しなぃ』範囲が限られてんのが
怖ぃっつーんだ」
落第街の戦火を思い出す。紙の上で考える者が
声を上げ、前線にいる者が頷いた結果の惨劇。
一体どれだけ無関係な者が焼け出されたことか。
「あーしは、今のあーしが自力で生活出来るかを
確かめるために街を回ってんだ。そりゃ周りに
助けを求めるトコまで『自力』に入るだろーが、
甘ぇる前提で動くのもダメなワケ。
だからあーたには頼れません。あーたはきっと
『善意で』目の前の障害、全部取っ払っちまぅ。
善意の助けが助けになんねーコトもある、って
つぃさっき話したもんな?」
■芥子風 菖蒲 >
「……?悪いって思ったら謝るでしょ、薫だって。
その特殊な例、ってのはよく分からないけど……そこまで言うと流石に付け込む悪人に見えないし……」
本当にそう言うのに付け込む悪人なら、自分でそんな事は言わないだろう。
こっちを気遣っているのかそうでないのかはわからない。
だけど、此方にも比が無いとは思えない。
うーん、とほんの少し困り顔。
「何が特殊かはわかんないけど、オレから見ればか弱い女の子位にしか見えないよ。
オレが怒らせてばっかみたいだけど、オレの事気遣ってくれる優しさもあるみたいだし
少なくとも、オレが悪いなら頭を下げる理由には充分なると思うな」
少なくとも、少年はそう判断した。
「知ってる」
言葉を被せるように、ハッキリと言った。
それがどういうことか理解している。
力を扱うものが、それがどういう意味かを理解していない訳じゃない。
「オレが呼ばれる意味も知ってるし、そうしかない事も知ってる。
だから、話し合いとか調べる事は、出来る人に任せてる」
最後の手段。そうせざるを得ない、そうしないといけない相手。
違反者(はんざいしゃ)と違反組織(はんざいそしき)を相手とする最後の武器。
それが己だと知っている。弁えてるからこそ、そうしてきた。
「けど、それだけじゃダメなんだね。まだよくわかんないけど。
……ていうか、薫はどんなイメージ持ってるの?もしかして、火の海にでもすると思ってる?」
少しばかり、驚いたようにぱちくりと青空が瞬いた。
「言っておくけど、そんなのは稀だしオレ達からしても"異端"。
オレ達の相手は、表に出てくるような違反者(はんざいしゃ)なんだ。
……確かに規模次第じゃそうなるかもしれないけど、"手当り次第"なんてやってたら、意味無いでしょ」
「オレ達は別に、"人殺し集団"じゃない」
風紀とは飽く迄、秩序機構だ。
そもそも、落第街なんてものは一般的には"認知されない空白"の部分だ。
余程脅迫な違反者か組織でない限り、自ら討って出るような真似は風紀ではほとんどないはずだ。
それに、違反者であれ二級学生であれ、学園側は幾らでも更生のチャンスを用意している。
飽く迄敵は"犯罪"であり、"当人"ではない。
罪を憎んでと言うように、飽く迄拘束が目的だ。
勿論、"やむを得ない場合"も存在するが、彼女が思うイメージこそ本来"異端"であり全体のイメージではない。
「……あ、もしかしてオレって、そう見えたから警戒されてた?」
だとしたら合点が行く。
彼女の悪態も、そう言う事なんだろうか。
「ん、そっか。じゃぁ邪魔する訳にはいかないね。
体はともかく、ちゃんとそう言う事話してくれるなら良かった」
そう言う理由なら手を出すのはよくない。
「でも、暫く傍で見てていい?一応ここ、学生街より治安良くないし
何かあっても嫌だからさ。基本は見てるだけ。それでもダメ?」
■黛 薫 >
「……当たり前っちゃ当たり前だけぉ、あーしが
言って曲げるワケもねーか。風紀ってホントに
そーゆートコはガンコだよな」
落第街では愚直な者、善良な者ほど損をする。
捻くれた態度は自覚しているが、そうでなければ
『遠ざけられない』から。風紀にそんな心配など
無用だろうが、染み付いた癖は容易く抜けない。
「あーたらは『人殺し集団』じゃねーかもだけぉ、
能力的には『人を殺せる集団』だ。そーやって
見てんのは後ろめたぃコトがある奴らだけじゃ
なぃって……今の情勢なら分かんじゃねーの。
お上の人はあーたらを何だと思ってんだろな」
彼が参加したかどうかは知り得ないし興味も無いが、
落第街では風紀と違反部活動の衝突が起きたばかり。
落第街の住民からすれば何方もが『脅威』であり、
命令を下した者は『脅威』足り得ると知っていた。
「別に、見るだけを咎める気はねーですよ。
見てるだけに文句言ぅのは理不尽だもんな」
その言葉は自分に言い聞かせるように。
黛薫は見られるだけで苦痛を感じ得る異能を持つ。
しかし見る側にも悪気などありはしないのだから、
不平不満など言うまいと。
■芥子風 菖蒲 >
「これは風紀とかじゃないよ。オレが思ったからそうしただけ」
何も、そこまで考えてない訳じゃない。
自分が悪いと思ったから謝った。
自分がすべきと思ったからした。
風紀ではなく、芥子風 菖蒲として判断したことだ。
続く言葉に、少年の両目の青空は細くなった。
「────それは」
淡々と。
「"誰だって同じだろ"」
『異能者』と言う枠組みに捉われず、『人を殺せる』って言うなら、誰だってそうだ。
今この場で、コンビニから出てくる男がナイフを持ち出せば、誰かが殺せる。
もしかしたら、目の前の少女だって異能で、魔術で、己の首を飛ばせるかもしれない。
"殺せる"と言うだけなら、誰だってそうだ。
そこを"風紀だから"という体で言われるのは、少しばかり気に入らなかった。
一度植え付けてしまったイメージは中々払拭は難しいと言えど
何より、自分だけならともかく周りを悪く言われたのが気に入らなかったのだ。
「でも、薫の言う事も間違ってない。オレ達も『人を殺せる集団』だよ。
だから、その使い方位はオレは考えてるつもり。……出来てるかは、わかんないけど」
彼女がどういったイメージを、どういった風景を見て来たかはわからない。
でも、力を扱う以上それを弁えているつもりだ。
だから、その力は風紀を、自分の護りたいものの為に使っているつもりだ。
それが実現できてるかどうかは、周りの目だけでしかわからない。
「さぁ、上の考えてる事は知らないしオレは興味無い。
オレはオレに出来る事をやるだけだから」
要するに、たまたま風紀が自分の護りたいものを護り易いからそこにいる。
だから、正直組織としてのどうのこうのなんて、ほとんど気にした事が無かった。
そこまで気にするほど、賢い訳じゃない。とんとん、と漆塗りの鞘で肩を叩く。
「ありがとう、薫」
よもや、彼女の異能にそう言うものがあるとは思っていない。
けど、初めて"許し"を得た気がするし、それは素直に嬉しかった。
ほんの少し、口角が緩くなった。
■黛 薫 >
「そ、本質的には誰だって変わんねーよ。
でも、想像力には限界があるもんなんだ。
街を歩ぃてるだけの人を見て『あの人は自分を
殺せるんだ』って怖がる人は少ないだろーけぉ、
もしナイフを持ってる人を見たらそれが自分に
向けられてなくても怖ぃ。そーゆーもんさ。
だから風紀は『力』を手にしてなきゃいけなぃ。
そーじゃねーと犯罪への抑止力になれねーから。
でも持ってる『力』見てんのは犯罪者だけじゃ
なぃのよな」
手元のレバーを指で押すと電動の車椅子はゆっくり
動き始める。振り返る少女の首の動きは相変わらず
ぎこちなく、長い前髪の下から覗く瞳は物憂げにも
見えた。
「だからあーたの『妥協せず』の外だからって
ホントに『興味なぃ』で済ませてイィのかは
考えとぃたら?ってあーしは思ぅのよな。
あーたがいっくら真摯に取り組んでたって、
『興味なぃ』で済ませてた上の命令次第じゃ
あーたの『真剣』は『思考停止』に思われる。
そーゆー理不尽なの、キラィなんだわ」
黛薫は街をもう一回りしつつ病院に戻っていく。
貴方の目に少女の『日常行動』はどう映るだろう。
過酷に見えるだろうか、それとも……?
彼女は何度も健常者には見えない壁に突き当たり、
四苦八苦しながら折り合いの付け方を学んでいた。
時折敵意を向けられたときのように動きは途切れ、
漸く病院に辿り着いた頃には疲弊しきっていて。
それでも、貴方に助けを求めはしなかった。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から黛 薫さんが去りました。
■芥子風 菖蒲 >
「──────……」
『真剣』が『思考停止』に思われる『理不尽』が嫌だ。
確かに彼女は、そう言った。
『思考停止』、確かに無関心な事は良くないと彼女も、あの子も言っていた。
「……何時か、そう言う日がくる、か」
誰かに任せていた対話や物事を、何時か自分でやらなきゃいけない。
そう、他人事だった事を、誰かが"嫌だ"と言われた瞬間
何かが腑に落ちた気がする。見開いた眼をぱちくりさせて、自らの掌を見た。
「……わかんないや。けど、薫がイヤだって言うなら、オレもイヤだな」
今はまだ、それがどういうものかわからない。
けど、それが嫌だと言うなら少しは考えようと思う。
多分、今からでも遅くない事だ。
後は彼女の隣をずっとついて歩いていた。
車椅子なんだし、おまけに体も不自由しているみたいだし
苦しむのは当然なんだと思う。それでも彼女なり、自分一人で頑張っていた。
手を出せば怒るのは目に見えていた。助けを求められない限り、手は出さない。
そう、結局最後まで自分の出番はなかった。
少年の表情はずっと変わらない。
だけど、彼女と別れた後もずっと、その言葉と姿が脳裏から離れなかった。
ほんの少し、今日は空が広がって見えた気がした。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から芥子風 菖蒲さんが去りました。