2022/04/30 のログ
ご案内:「裏常世渋谷」に▇▇▇▇ちゃんさんが現れました。
▇▇▇▇ちゃん >  
ねこがいる。

尻尾を立てて縁石の上を歩いている黒猫がいる。
真似るように縁石に足を乗せ、バランスを取って
追いかける。猫の歩みは私より器用で、素早い。

ねこがいる。

まあるく切り取られた舗装路のど真ん中。
雑草まみれの腐葉土と、街路樹と言い張るには
あまりに大き過ぎる紫色の葉っぱが繁る樹木。
黒猫はぐるりと木の周りを一周して歩いていく。

真似るように木の周りを一周。半周したところで
視界が切り替わる。見えない扉を潜ったみたいに。
気付けば私は回転ドアの中にいた。

ねこがいる。

回転ドアを出ると、そこは服屋さんのようだった。
建物の構造上あり得ない場所に設置されたドアは
私が逃げ出した直後、一瞬遅れてマネキンたちを
巻き込んでバキバキと音を立てていた。

……ねこが、追いかける私を見ている。

▇▇▇▇ちゃん >  
「おはようございます」

顔の代わりに古いカメラがくっついた黒猫の顔。
レンズを見つめ返し、いつもの挨拶をしてみる。
返事はない。ふいと顔を背けてまた歩き出す。

今日は『はずれ』の日みたいだ。

ちょっぴり期待してたんだけどな、なんて
心にもないことを独りごちて後を追いかける。

▇▇▇の声は『外』には届かない。

だけどカメラを通した『▇▇▇▇ちゃん』は
声を届けることが出来る。独りじゃなくなれる。

届くかどうかは、猫の気まぐれ次第なんだけどね。

▇▇▇▇ちゃん >  
猫の行動には意味がある。

唐突に顔を背けたなら、見てはいけない物がある。
何かを催促したなら、遠からずそれが必要になる。
導いてくれているのか、揶揄っているのかは正直
よく分からない。

床に半分埋まったマネキンそっくりの石膏像。
猫がかりかりとその頭を引っ掻いていたから、
打ち捨てられていた足を掴んで叩き割る。

中からは濁った黄色い液体が流れ出してきた。
つんとした刺激臭は心地良いものではない。

反射で滲んだ涙を拭った頃には猫の姿はなかった。
代わりに▇色い足跡が点々と続いている。

▇▇▇▇ちゃん >  
猫の足跡は左に2回、右に1回曲がって、直進。
行き着く先はやけに近い試着室の側面に張り付いた
合わせ鏡の向こう側。

右の鏡を覗いてみる。猫の姿は影も形も無い。
左の鏡を覗いてみる。途中で切れた足跡がある。
猫はときどき意地悪。どっちに行けば良いんだろう。

「ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、なっ」

目を閉じて、指差して、右、左、右、左……。
ひたり、ひたりと後ろから足音が聞こえる。
こういうときは、振り返ったらダメ。

右側の鏡に、背中から飛び込む。

滲む視界。冷たい湿り気が身体を抱く感触。
邨ゅo縺」縺溽ァが黒猫の足跡を追いかけて
左の鏡に衝突する音が聞こえた。

▇▇▇▇ちゃん >  
背中から水に沈んで、私は遠い水面を見上げる。
空の上で赤くて黒い大きなシルエットが泳いでいる。
水面近くでは肘から先しかない腕が赤い墨を吐いて
顔がふたつある小鳥から逃げ回っていた。

息が続かない。肺が潰れて、口から泡が逃げていく。

視界が暗くなって、沈んで、沈んで、沈んで──

背中に強い衝撃を感じて、意識が呼び戻される。

「……うぇ」

ねこがいる。

逆さまに置かれたクローゼットの上に座って、
ずぶ濡れの私を尻目に毛繕いに勤しんでいる。

▇▇▇▇ちゃん >  
なみなみと水を湛えた天井、照明代わりの海月たち。
タコの足みたいに無秩序に絡まった配線で埋まった
でこぼこの壁は 機質に波打っている。

「っい゛」

クローゼットから降りてきた猫が胸に着地する。
折角空気を取り込んだ肺がまたぺちゃんこになった。

ねこがいる。

カメラ頭の黒猫が、クローゼットの1番下の段、
本来なら上にある観音開きの扉をかりかりと
▇で引っ掻いている。

開いた先は、きっとまた別のどこかに繋がってる。
そんな物語があったような、なかったような。

▇▇▇▇ちゃん >  
クローゼットの扉の向こう、布地の海を渡った先。
マンションのベランダに放置されていた洗濯物の
籠の中に繋がっていた。

「……また」

この世界は猫よりも気まぐれだ。知っている場所に
繋がるなんて滅多になかった。……つい最近までは。

いつからそうじゃなくなったんだろう。
銀幕の前で猫が立ち止まった日。カメラの瞳の
真ん前で、戯れに自己紹介をしたあの日から?

あの日から、私の世界に▇▇島が入り込んだ。
それとも、私が▇▇島の裏側を食べ始めた?

だけど、ここは本当は▇▇島じゃないのかも。
だってたくさんいるはずの▇▇がいないから。
時々迷い込む▇▇も、みんな『帰りたい』という。

▇▇▇▇ちゃん >  
マンションのベランダから顔を出す。
遠くに見える駅を、私はよく知って▇る。
地下深くまで続くそこに何度も ったから。

雑多な文化が混▇り合ったこの街を知っている。
きっかけひとつで迷 込み、また別のきっかけに
出会っては、知り得ないことだけを知っている
▇の世界に迷って惑う。

ねこがいる。

 が飛び降りるには少し高すぎるベランダから
身を躍らせて、身体を半回転捻って着地する。
私が手摺 絡まった人の▇で出来た配線を頼りに
降りた頃には、気紛れに歩き出し▇いた。

ねこがいる。

追いか る必要があるかと言われれば、別に。
導がないと、時々酷い目に遭 てしまうけれど、
それは猫に意地悪さ▇たって変わらない。

▇▇▇▇ちゃん >  
ねこがいる。ねこじゃない▇▇もいる。

目を合わせたらダメな▇▇もいる。
目を背けたらダメな▇▇もいる。

ねこは何がダメなのか、私よりよく知 ている。
私が頼れる はねこと運と勘と経験くらい?

音の割れた▇▇曲を流 続ける移動販売車から
目を逸らして、透明なマンホールの蓋を避けて、
 から覗き込む信号機に頭 下げて、歩く、歩く。

生 から伸びる4本指の▇から距離を取り がら、
白く滑った を垂らす雨雲の落▇地点を迂回して、
ぱっくりと路面に▇いた口に身代わ の靴下を
投▇込んで、歩く、歩く。

▇▇▇▇ちゃん >  
ねこがいる。

歩道と白線の間、▇も車も通らない曖昧な領域を
小 な足で踏み締めている。私も後をついて行く。
石のフリをして踏まれるのを待 ている▇の上を
跨いで、曲がるよ に促す  は無視して歩く。

ね がいる。

眼 がたくさ▇並んだショー ィンドウから
逃げ▇ように の反対側へ▇駆け出した。
私も を追いか て▇のいない▇道に び出す。

▇こがいる。

  に紛れ▇  を▇▇そうと っている を
▇▇して に 逃 ようと 私 追い▇ られ
いる ねこが いる▇▇いる▇います いまし
▇▇が  こが  います いる ▇▇に い
  は  逃▇▇▇ 見失  いま▇▇▇ が
女▇こが いま ▇▇    喰 ねこ▇▇

▇▇▇▇ちゃん >  
▇▇はいません。

ご案内:「裏常世渋谷」から▇▇▇▇ちゃんさんが去りました。