2022/10/11 のログ
真詠 響歌 >  
ありがとうございました。
その言葉を演者に取られた観客ってなんて返せば良いんだろう。
分からない。分からないまま、痛くなるくらいに手を叩く。

「……良い」

語彙力も秋と一緒に死んだかもしれない。
遠巻きに、通りすがりに足を止めた人が見ている。
傍から見たら壊れた人形みたいに手をたたく私は滑稽かも知れない。
でも、良いじゃん。外野の視線が痛くてアピールなんてできないんだから。

「めっちゃ、めっちゃ良い……かわいい……」

キャッチ―で可愛い、そんな歌。
私のレパートリーにあんまり無いから新鮮で、それでいてよく刺さる。

北上、北上芹香ちゃん。
SNSのプロフィールを見つけると、そっとフォローのボタンを押す。
ただの一人でいい、たくさんいる人の中の一人。
彼女の歌が良かったって、それを伝えるために次回ライブの予定にもイイネ。

北上 芹香 >  
「!?」

えっ……響歌ちゃんが良いって…言ってる?
もしかして? 私の歌を?

大噴火する活火山。
九蓮宝燈を和了する私。
北上芹香祭なる謎の奇祭。
脳内映像が次々とチャンネルを切り替えていった。

「あ、あの………」
「ストリートで歌ってると、邪念入っちゃって……」
「でも、私……歌ってるのが好きだからバンド始めたこと、思い出せました」

何言ってんだろ私、とくしゃりと表情を歪めて笑った。

 
その日は夢見心地で何を話したかあんまり覚えてない。
ただ、SNSでのフォロワーに彼女の名前を見るたび。

この日あったことが夢じゃなかったことを証明された気分になるのだ。

真詠 響歌 >  
泣きそうな、でも曇りの取れたよういい笑顔。

「嫌になったり上手く歌えなくなる時ってきっとあると思うんだ」
「考えすぎたり、変に思い悩んだり」
「でも、そういう時に思い出すんだ。良かったよって言ってくれた人の事」

それだけで、頑張れる。

あの後、本当に他愛もない話をした。
そうしている内に思っていた以上に時間が過ぎていて帰宅を急かされる事にはなったけど、
叱られながらも頬が緩むくらいには、良い日になった。

『クレスニク』……かぁ、行けばまた聴けるかな?
スキップ気味に帰る足取り。冬の寒さも忘れるくらいに、胸の内が温かかった。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から北上 芹香さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から真詠 響歌さんが去りました。