2020/08/13 のログ
ご案内:「酒場「崑崙」」にレナードさんが現れました。
レナード > カラン……
グラスの中の氷が、僅か崩れるようにして音を立てる。

ここは酒場「崑崙」。落ち着いたダイニングバーとして知れている。
騒ぎ立てる若者の酒場というよりは、大人のための空間である。
そんな場所に、不釣り合いに若い見た目の少年が独り、
バーテンダーから離れた隅のカウンター席で酒を煽っていた。

「………けふ。」

呑んでいるのは、甘い甘いカクテルのようだ。
だが、飲み進めるスピードは速い。

レナード > 昨日の自分に起きた出来事を振り替える。
自分のことを、一生かけて面倒見る…なんて、
ニュアンスこそ違っていたけれど、そこまで入れ込まれるなんて、思ってもいなかった。

「………あんなこと言われて、無下にできる訳ないじゃん……」

残りの酒を煽ろうと、グラスに手を掛ける。
カランコロンと氷が転がる音がするが、何もないことに気づくと大人しくテーブルへ置き直した。

「……不思議だなー………
 どうしてあんなに、入れ込んでくれたんだろう……」

自分の感情だから、それを嬉しく思うこと自体は、いい。
そうなってしまったこと自体は意外だが、それは納得で処理できる。
だが………

「……罪滅ぼしは少しあって、
 同情…とは違うっけ、
 ……似たような相手だから、だったかな……」

大時計台、そして屋上での、彼女の話。
その言葉の断片を、酒で蕩けた脳裏にパズルのピースの如く寄せ集めて、意味を繋いでいく。

レナード > 「………そうじゃないな……」

違う、と、自分の中の蛇は言う。
ただ、それだけの理由で"人生かける"なんて、狂人のすることだ。
或いは、ただのホラ吹きか。
だが、彼女はそんなことをするだろうか?
…理由があるはずに違いない。

「……ちがうなあ、ちがう……」

独り言ちながら、片手を上げてバーテンダーを呼ぶ。
手短に、4杯目のピーチクーラーを頼むと、酒気を織り交ぜたため息を吐く。

「…人の事なんて、ここまで考えたこと、ないんだよなぁ……」

自分以外の誰かのことを、ここまで考えこむこと。
今までにはなかったこと。
…少しずつ、彼の心は変化の時を向えているのかもしれない。
頼んだカクテルが来るのを待ちながら、ぼんやりと天井を仰いだ。

レナード > どうにも、何か飲んでいないと顔がぽかぽかしてくる。
アルコールのせいだろうか。
知恵熱のせいだろうか。
あまり、感じたことのないものだ。

「………どうも。」

バーテンダーが追加のドリンクを持ってきたので、適当に言葉をかけながら受け取ると、
そんな自分の火照りを冷ますために、ぐいと勢いよく煽った。

酒はもともと強かった。
だが、酔わないわけではない。
ここまでカシスオレンジ4杯、ファジーネーブル3杯、ピーチクーラー4杯とくれば、既に酔いが回っていてもおかしくない。
だが、何故か今日はどれだけでも飲んでいられた気さえする。

「………わからない……」

人の心が分からない。

「……わかんないなぁ……」

そのことを、何度も口許で復唱しながら。
更にもう一杯、煽る。

「人の心を読むのに、百点満点の答えなんかない。
 …だから、想像するしかないんだけど……なー……」

レナード > 「…………。」

自分に入れ込んでくれることは、嬉しい。
それも、人生をかけて、なんて言われたら、猶更。
ただ、そこまでの理由が、見当たらない。

罪悪感、似た者同士……
確かにそう思われて仕方ないことをされたし、
確かに自分たちは、笑えるくらい境遇も、性格も、似ていた。
だが、本当に、それだけなのだろうか。

「……ぁー…、足りない……。」

サーブされて、ほんの数分のドリンクを、ぐいと一気に胃に押し込んだ。
分からないことを、ずっと考えていても仕方がない。
それくらい分かっているのだけれど。

学術的だったり、一般的なことなら、調べればいい。
だが、こと人の心のことなんて、その人に聞かないと分からない。
…そんなもの、堂々と聞けたものか。

無意識にグラスを傾けると、氷の音がした。
そこでようやく我に返って、あることに思い至る。

「……いっけね、今何杯目だっけ……」

…いい時間だ。そろそろ、店を出た方が良いだろう。

レナード > 「……結局、少しずつ知っていくしかない、わけ…」

直接は聞けないだろう。
だから、少しずつ、少しずつ情報を得ていって、自分で納得するしかない。
…こういうアプローチは初めてだから、うまくいくか、分からないけれど。
分からないなりに、やっていくしかないだろう。

「はー。…まあ、いい。
 少しずつ、分かっていけばいい。
 華霧がだめだというなら、潔く諦めればいい。」

そう、これは自分の中で始めて生まれた感情だから。
それが、"そうである"とは、まだ分かってないのだから。
だったら、やれるだけやって、駄目なら駄目で、仕方ない。

「……そうなったらせめて、他の子に人生かけてやれって、言わなきゃな……」

席を立つ。
領収書を片手に、その飲み進めた分量と比べて穏やかな千鳥足でお会計へと向かっていったのだった。

レナード > 「」

千鳥足の状態でさえ、お会計総額を聞いて絶句したのはまた別の話。
明朗会計とはいえ、飲酒は計画的にね!

ご案内:「酒場「崑崙」」からレナードさんが去りました。