2020/12/11 のログ
ご案内:「歓楽街/廃ビル 屋上」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
芥子風 菖蒲 >  
「…………」

月を、見ていた。
夜の寒風が、黒衣を靡かせる。
青空の双眸が、丸い蒼月を見上げていた。
満点の夜空にちりばめられた星々に、まるで空を支配するような蒼い月がやけに大きい。
大きく見えるだけなのだろう。ただ、妙に不安を煽る。
少年は珍しく考え事をしていた。
誰もいない、誰もこないような寂れた廃ビル。
高々と、夜空まで届きそうな屋上に座り込んで空を見上げていた。

「…………」

ぐるぐると頭の中を、思考が巡る。
様々な人の事、島の事、風紀の事。

……白い少女の事。

「……クロエ、姉さん。」

姉と認める、儚い少女。
彼女が残した言葉が、少年が普段抱かない感情を抱かせる。
不安。自然と表情は、いつもの無表情と違い、眉を下げて感情が顔に出ていた。

芥子風 菖蒲 >  
不思議な女の子だと言う事は覚えてる。
とても不思議で、儚げで、優しい女の子だ。
血の繋がりも、ましてや親戚とかそう言うのではない。
島で出会った、普通の女の子だ。
きっと、何処にでもいるような女の子なのに……。

「……冷たかったな。」

少女の手は、冷たかった。
何時も急に消えてしまう。
少年はその昔、宗教関係者だった。
形ばかりの教祖。所謂傀儡政権のようなものだ。
けど、そこで色々培った。そのほとんどは、まやかしだった。
輪廻転生。信じる者は、死んだ後も輪廻転生する。

「…………」

冷たい神出鬼没な少女の姿。
なにかと、だぶる。
そう、死者。即ち"幽霊"と。

芥子風 菖蒲 >  
でも、彼女は確かにそこにいた。
ちゃんとこの手で触れることが出来た。
そこにいた、はずなんだ。

「……気にするよ。」

"気にしないで"、なんて言わないでよ。
自分でお姉さんだって言うなら、弟が気に掛けるくらい当たり前でしょう。
なんとも、心には消えないもやもやが残る。
彼女は、少女は、クロエ姉さんは本当にいたのだろう……。

「……生きて、か……。」

あれは願いなのだろうか。
それとも、あれは────……。
考えを振り払うように、首を振った。

「言われなくても、生きるよ。
 オレは死なない……死ぬ予定も、無い。」

まだやるべきことが残っている。
願われなくても、生きてやる。
真っすぐ夜空を見上げる青空。
嗚呼、今日も月が、綺麗だな。