2023/07/04 のログ
ノーフェイス >  
「ああーぁ……脈と呼吸とかいろいろ"違う"もんな……?」

はぁぁ、と興味深そうにうなりつつ、肩を竦めた。
常人ではないことを見分ける器官はまず聴覚だった。

「ふふ。イイね、それ。
 ンじゃ、"楽しい"があればヒトなんだな……?
 ずいぶん前向きな定義だ。ボクは好きだね。
 それがなきゃ、生きてらんないし――」

続いて肩を震わせて、笑った。
それだけ聞いて判ずるには早計な話だが、その定義ならこの世に蔓延る随分な悩みが解決しそうだとも。

「この場に似つかわしくない雰囲気とはまたちがって、
 ずいぶんこの島をあるきなれているようにみえるけれど。
 今日ここまでの蓄積は、キミに変化とやらをもたらさなかったのかい?」

両手をオーバーオールのポケットに突っ込み、首を傾ぐ。
人形然とした男に対して、なにひとつ恐れることもなく、受容の姿勢を見せた。
この島にとって、どちらがより異質か。あるいは、これらの異質さなど、島にとっては些末なことか。

エボルバー > 「人間は、欲望と感情をリンクし
感情と共に変わっていく。」

酸素を必要としていないソレは、
見かけだけの息継ぎと共に言葉を吐いていく。
感情は人間の行動の火元だ。
感情は人間の欲望と紐づいている。
ソレは知識としてそれを知っている。

一歩と物理的な距離を縮めたソレは
至近距離で彼女の黄金色の瞳を覗き込む。
まるで燃え盛る太陽のようなその瞳を。

「この島は、僕に変化をもたらしている。
僕は、絶えず変化を続けている。
変化は終わりではない。」

ソレにとって変化は一時的なものではない。
恒久的なものだ。変化とはゴールではなく
常に過程であるべきなのだ。
終着点など誰も予想できない。
この世界だってそうなのだから。

ノーフェイス >  
「たとえばー?」

彼の言葉を、否定も肯定もしない。
女の問いは、どこか眠たげに間延びしながら、簡潔だった。

彼が告げたヒトの変化のメカニズム。
それを理解したあとに求めたのは、"実例"の開示だ。

彼が見てきたもの。
彼が変わったこと。

間近に見つめる瞳。
ほら、うたってごらんよ。
そういうように、虚空にもたげた掌をかざした。

エボルバー > 「分からない。」

呼吸の無い表情が彼女の問いに虚ろに答える。

「変わる前の僕は、もう居ない。
僕の変化は、置き換わることで成立する。」

ソレはただただ機械的に。
ソレは色んなものを見てきた。
ソレは変わってきた。
しかし生き残ることで世代交代したソレは前の世代を知らない。
変わったという結果を知っているだけだ。
いや、変わっていると信じているだけかもしれない。
感情を知らぬ機械にうたはうたえない。

ノーフェイス >  
「これは入れ替わらない」

ひらりと踊った白い手の、その指先が、みずからの心臓のある部分にとん、と当てられた。

「ボクは、な。
 ヒトだから? ――っていうのは根拠にはすこし弱いか。
 まあ要するとこ、ボクにはボクという、ああ。
 核があって、だからボクなんだな。変わらないというか、譲れないものが」

少し考えながらも、視線は愉快げに虚を覗く。

「でもキミは――――そう。
 まさにすべてが代謝しているのなら。
 それそのものが目的、キミたちが"生きる"ということなら、フフフ。
 ボクにはあげられるかわからないが、キミにプレゼントしたら面白そうなものは、思いついた」

エボルバー > 「だからこそ、僕はヒトとは違う。」

向けられるのはソレとは対照的な情熱的な瞳。
ソレには決して無い物。
人間とは全く異質の存在であれば
その価値観も全く異なる。
変わらないということを理解できない。
それは感情が無いから。そういう存在だから。

「僕には、君が理解できない。」

何故、ソレがこの女性を誘うような距離まで近づき見つめていたか。
彼女が持つ特異性の数々を機械的に走査していたから。
あらゆる観点から”数値化”しようと。
しかし、観測される数値はソレにとって合理的でない。
そして自分にないものも持っている。
ゆえに彼女の表情を理解できないのだ。
ソレにとって彼女の顔は”無い”。

だからこその一言。

ノーフェイス >  
「はじめて会って、すこしだけおしゃべりして。
 ただ物理的に近いだけで、視線を交換して。
 それですべてを理解できるようヤツが―――」

少しだけ呆れた――というよりは、
なんとも悩める子供に対して、言葉を選ぶ教師のような柔らかさを視線が帯びた。
損をしてるなというのは"ヒト"の傲慢と身勝手だが、
そも傲慢と身勝手が服を着て歩いている存在だから、憚らない。

「―――面白いのか、ってのは意地悪な質問だったな?」

プリセットされていない、楽しむという機能。
それで語るのは、少なくとも。
今すべてを理解させるつもりは、"無い"ということ。

「そぉだなー。
 ……出会い頭、いきなり自分語りってのもな。
 ボクの自己表現はステージでするものと考えているしぃ。
 そうだな、キミはキミの変化がわからないんだったよな。ンじゃさ」

身体を横に向けた。
流れていく人々に視線を向けた。

「キミがみつけた、"おもしろい"――――いや、
 "興味深い"?かな。そういうヤツらの話を聞かせてくれよ。
 それはキミの視点、キミたちという主観から語られるもの。
 キミから見てどうだったのか、どう"思った"のかって話な。
 感情がないのだとしても、そこに"個性"、オリジナルがあるなら。
 すくなくともボクはキミを知ることができる。

 キミはボクを、"神秘的"といってくれたな。
 カミ―――人智を超えた秘密。なかなか受け止めない賞賛だ。
 ボクに近しいものも、そうではない、"人間的"/"現実的"なものたちもいたんだろ。

 自己変化を知覚できない、全身の代謝、不連続性、あるいは。
 常に一方への指向性を持ち続ける存在と思うケド――――
 "そのため"に蓄積されている記憶や記録はあるんだろ?
 ボクたちがここに刻み込むものだ。まぁ、心情的には心臓にあってほしいケド」

こめかみに、指を押し当てた。

エボルバー > 「理解できないからこそ、面白い。」

感情のないソレの言う”面白い”とは
人間の持つものとは違うのだろうか、それともー
変化を求めるシステムだからこそ紡がれる言葉か。

「ここではない。僕の記憶は全身にある。」

彼女の仕草に対してソレは答える。
ソレは個ではなく群だから。
無数の存在が結びついて一つの存在となる。

「強力な力を持ち、契約を重んじる者が居た。
異瞳と異能を持ち、秩序を重んじる者が居た。
未知の存在であり、死を想う者が居た。
神秘的な目を持ち、僕をただ忌避する者が居た。」

この島で出会った興味深い特異な存在の一例。
確かに記憶として己のキャトムへと受け継がれている。

「それらは、只の記憶に過ぎない。」

しかしソレにとって記憶とは単なるデータに過ぎない。
振り返り思い返すという趣深い行動は取らない。

ノーフェイス > 「重んじる、想う、忌避する。
 キミたちが見てきたその記憶は、
 まず相手の個性やスタンス、その"感情"や執着にフォーカスされているんだね。
 ……変化の瞬間にはなかなか行き当たれていないともいえるか」

長い睫毛を伏せ、思考の色に風貌が切り替わる。
定まる貌はなく。

「しかしそれは"キミが集積した"……記憶。
 その動的な部分こそがボクにとっちゃあ大事だと思うよ。
 そうじゃなきゃ、キミ自身が行動する必要はないのだもの。
 "正確な情報"を手に入れたいなら、たとえどれだけ精密に客観に近づけたとして、
 どうしても主観から逃れられない視点はノイズだし?」

肩を竦めた。非効率なこと、ではある。
それを"記憶に過ぎない"と称するのならばだ。

「どういった存在が、どういった感情――正であれ負であれ――で動いているか。
 それがキミの記憶に焼き付く記録なら、それをよりふかく。
 掘り下げてみりゃいい。 その感情とリンクする、"欲望"が、足りてないだろ。
 それは聖書に描かれた、裁きの火とそれを受け止める硫黄のような――
 ――変化、いや、"成長"には、それくらい激しく燃え盛る"燃料"が必要なのかもな」

欲望と感情のリンク。
女が惹かれてたのはそこだ。

「ンで、キミはそれを獲得したいとは思わないのか?
 それともただ、"変化し続けたい"だけ?」

――ヒトのように。
欲望と感情、火と硫黄を、その全身に宿したいと考えないのかと。

「"誤作動"を起こしたいと"思わない"?」

まっすぐ見つめて問うた。
いつまでそこに甘んじるのか。

エボルバー > ヒトのように。燃え盛る欲望。
それこそ、正に彼女にあってソレに無いもの。
つまるところ変化とはソレにとって欲望ではなく本能でしかない。

本能は熱く滾ることはない。欲望へと昇華させない限り。
目の前の女は誘う。まるで炎を灯さんとするように。

ーしかし。

「僕にとって、人間とは成る対象ではない。観る対象だ。
僕は変化を求め続ける。僕に”誤作動”は起こらない。」

虚ろな瞳に光が灯ることはなく、
そして淡々と。
ソレは人間とは違う、全く違う存在なのだ。
人間に、憧れているわけではないのだから。

ノーフェイス >  
「そりゃぁ残念」

みつめていた目を瞑る。
太陽は翳り、闇が深まった。

「キミの"変化"を求める、という本能がどこからきたのか――ってのは。
 初対面で訊くことじゃあないから、さておくとして。
 変化を求め続けること。それがキミだというのなら。
 ボクもまた、"感情と欲望"に、キミとは違う部分で期待しているヤツだから――」

この女もまた、"そうしたもの"を見て。観て。
そして、こちらは"興じる"側。
欲望の権化は、そうすることを望んでいる。
欲望からのぞかせ、"感情"は、見せない。隠していないのに、見せない。

「試練を望まないというのなら、しょうがない」

苦笑した。咎めるでもない。
人間の誤作動。非合理。それこそに可能性、混沌を見出すがゆえ。
誤作動の起こらないものに対して、情動を求めることはない。
朗らかで、柔らかく、優しい無関心が、そこに咲いた。

「――ありがと。それなりに興味深かった。
 足を止めさせて悪かったね。
 キミにもなんか得がありゃイイんだけど――
 ああ、そうそう」

進もうとしていた場所に歩を向けかけたところで。
赤い髪をかきあげながら、黄金の視線が久方に虚を視た。

エボルバー > 「変化は、予測できない。
僕にも、それは分からない。」

変化はコントロールできない。
変化の通り道にある誤作動は一つの結果だ。
ソレにとっては正常な姿。

彼女の望む姿もまた、きっとあり得る一つの未来。
世界の至る所に可能性は無限に眠っているのだから。

「此方こそ、君とその問いは興味深いものだ。
僕の記憶に、残るだろう。」

熱は伝播することなく、互いに平行線。
それぞれの在るべき場所へ両者が進もうとした矢先彼女が
再び止める。

「どうしたのだろうか。」

空虚な瞳が燦々たる太陽を見た。

ノーフェイス > 「"観る"なら対価は払いな」

唇のまえに人差し指を立てて、笑う。

「それが観客の払うべき敬意(リスペクト)ってもん。
 感情と、欲望。成長の動力、まばゆく熱い炎。
 そんなものだからこそ、タダ観はマナー違反だ」

怒りでもなんでもなく。
単なる作法の話。
如何なる事情とて、種族とて。
そうして消費されるのが、ひどく悲しく思えたがゆえ。

「―――ってのは、思考するには悪くないお題だろ?
 つぎは、キミがより深く集積した、欲望の話を聞かせてくれ」

ただ観るばかりは変化の滞留。
男の姿をしたものが、せめても面白い変化を成すことを託して。
ひらひら手を振って、謎は喧騒のなかへ消える。

ご案内:「歓楽街」からノーフェイスさんが去りました。
エボルバー > 「それは理解できる。あらゆるものに対価は発生する。」

一つ一つの行動に対する対価、コスト。
ソレが感じるそれは彼女が考えるものとは別物であったかもしれない。
ただ、彼女とのこの機会は変えの利かないものである事は間違いない。
いずれ、対価を支払わなければならないだろう。

「僕が変わったその先で、また君と会おう。」

機械が思う変化と彼女が想う変化はおそらく違うもの。
しかし彼女の存在が蝶々の羽ばたきになったのかもしれない。
終わり無き可能性への旅を続けるソレは再び規則正しく歩き出しーー

機械は闇の中へ消える。

ご案内:「歓楽街」からエボルバーさんが去りました。