2019/02/07 のログ
ご案内:「落第街大通り」に潤坂ノーコさんが現れました。
■潤坂ノーコ > 落第街。ケガをした男が地面に横たわっている。
軽傷ではないが、重傷ではけしてない。外傷は少ないが立ち上がれないだけだろう。
僅かに呻くような声が男の口から聞こえてくるが、道行く人は誰もそれを気に留めない。
それは――日常茶飯事で。
――他人事で。
――どうでもいいことだから。特に、この場所では。
金品を剥ぐ者がいないのは、見るからに金品を持ち合わせておらず、
自分より先にその恩恵に肖った誰かが確実に存在することが一目でわかるからだ。
倒れている男の持ち物は男の傍に散乱しているし、
その持ち物から男がロクでもない男だということは理解できるし、
何よりその風体は金を持ち合わせていないことと、育ちが悪いことを一目で理解できるような風体だったからだ。
その男の傍。
ニットの女がよいしょ、と膝を曲げてしゃがみ込んだ。
■潤坂ノーコ > 「独り言を言おう。
これは一年前か、二年前か、それよりもっと昔の話かもしれないんだけどねぇ。
こう見えて私は異能で困っている人の相談に載ってあげるのが趣味でさぁ、
それをどこから聞きつけたのか、その女の子は私を訪ねてきちゃったわけよ。
助けてください。
異能のことで困っているんです。
お願いします、キューピッドさま、ってね。
あ、キューピッドさまっていうのは私のことで、
正確に言えば私のことではないんだけど、それでもそう呼ばれたからには助けてあげないといけない。
だからその時も相談に乗ってあげたわけさぁ。
基本的に、私は誰にでも優しくて、誰にも優しくできないからねぇ」
■潤坂ノーコ > 「「その女の子曰く、彼女の異能は『他人のことを好きになることが出来ない』というモノだった。
なんともマイナスなだけの捻くれた異能だなと思ったけれど、異能なんて誰もが本人の意思とは関係なく身につくものだからねぇ。
そういう負の異能もあるところにはあるし、大体の人が異能と上手く付き合っている中で大変な異能を身に着けたもんだなぁとは思ったよ。
所詮他人事なので思っただけだけどね。
学校で色恋の話で盛り上がる同級生を見ても。
好きなアイドルの話に熱を上げる友達を見ても。
好みの男性はどんなタイプなのか男友達に聞かれても。
一向にその子は答えることができないでいた。
当たり前だよねぇ。
だって、その子には『好き』という感情自体が分からなかったのだから。
そしてそれは、間違いなく彼女の異能によって感情が制御されてしまっていたせいだった。
私はすぐさまその異能に名前をつけさせてもらったねぇ。
確か『感覚操作(エモートコントロール)』とかだったかなぁ、今考えたけど」
■潤坂ノーコ > 「でね。
どうしたかっていうと、まあそんな邪魔な異能なんだったら、
取っ払ってあげようというのが一番簡単な解決方法じゃない?
だからね、少しの間その『感覚操作』だっけ、その異能はお姉さんが『預かる』ことにしたのさぁ。
あ、どうやってっていうのはヒミツねぇ。ヒミツ。
実際その異能を預かってみると、やっぱりその異能が原因でね。
びっくりするよ、全然他人のことを好きになることが出来ないのさ。
それどころか色んなモノに対しても興味を抱くことが出来なくなって、
まあまあカミサマってやつは可哀そうな異能を他人に与えるもんだよって思ったさぁ。
その異能を私に預けたその子がどうなったか知りたいかい?
残念ながらね、私に異能を預けたことで全て解決となれば、
私ももう少し自慢げにこの話をするのだけど、そんなに簡単にはいかなかったのさ」
■潤坂ノーコ > 「その『他人を好きになることが出来ない』という異能を取り除かれて、
その子がどうなったかっていうとね。
ありとあらゆるものが"嫌い"になってしまったのさ。
今まで、自分が物事や他人を"好きになる"理由をその異能によって封じ込めていたからね、
異能がなくなれば当然それは裏返して"好きになれない"理由になるって話さ。
ここが好きならば、それがなければ好きにはなれない。
好きになれない気持ちは簡単に嫌いに転じてしまう。
今まで漣のように静かだった彼女の生活は一変してしまったのさ。
目に映る全てのモノに寛容になれない、
好きになる前に嫌いになってしまうような苦しい日々が続いた。
それはそれは苦しかっただろうね。
その証拠に、女の子はすぐに私の元を訪ねてきたよ。
『お願いします、私の異能を返してください』ってね」
■潤坂ノーコ > 「どうしたと思う?
すぐ返したさ。最初から言ってるモンね。『預かる』だけだって。
だから希望があればすぐ返すのさ。私はロッカールームみたいなものだからね。
そうして彼女はまた平穏な日を取り戻した。
誰も好きにならず、誰も嫌いにならず、何にも動じない日々を。
誰も好きにならないで済み、誰も嫌いにならないで済む、
退屈で退屈で退屈な日々を。
結局のところ、カミサマってやつはそういう人間の性質を見て、
それぞれに異能を振り分けているのかもしれないね。
そうだとしたら、随分と優しいカミサマだと、私は思うよぉ」
■潤坂ノーコ > 「さて。ここで問題です。
もしこのお話に一つだけ嘘が混ざっているとしたら。
いや、もっと単純に。
この話に一つだけ嘘を混ぜることが出来るとしたら、君なら何を混ぜるかい」