2020/06/16 のログ
城戸 良式 > ――俺は子供なんて作る気なかったんだ!!
――お前とも結婚する気なんかなかった!!
――この頭がおかしい女を、捕まえてくれよ!!

男の方が叫ぶ。
流石にそれは……と言いかけたところで、
掴んでいる女性Aの腕がだらりと力なく垂れた。
脱力し、幽鬼のような表情を浮かべて、俺など存在しないように男の方をにらみつける。

――殺してやる。
――絶対、殺してやる、お前!!

殺意を漲らせながら女が形振り構わず頭を振り回す。
男の腕力でも拘束するのがぎりぎりなくらい、
細腕のどこにそんな力があるのかという腕力で暴れ散らす。

……。
…………。

……どうすりゃいいんだ、これ。
どっちが悪いとも言えねーけど、放っておくこともできねーし。

城戸 良式 > こういうとき、
なんか片方だけをがっちり拘束するような、
なんかそういう異能持ってるやつが来るべきなんじゃねーのか。
というか俺今これを仲裁入ってるけど、
一人の公安委員としてなのか、
個人としての城戸良式としてなのか、
今何を目指しているのか全然わからなくなってきた。

城戸 良式 > そもそも、公安で自分が行っている業務の分野は、
こういった市民同士の小競り合いではない。
だからこそ荒事に発展させるわけにはいかないし、
この状況に置いて必要以上の武力を以って何かをするわけにはいかない。

と、その心の隙をついたように、
男が急に立ち上がり、俺から果物ナイフを奪おうと飛び掛かってくる。
抜き身のナイフは容易に相手を傷つける。
引いても押しても危険と判断して半身を引いたところで、
掴んでいる腕側の拘束が緩んだ。

――女が、男に向かって飛び掛かる。
――罵声を浴びせながら二人がもつれ合う。

威嚇射撃。
いや、今日は銃は携帯していない。
果物ナイフでは傷つけることはできても仲裁できない。

城戸 良式 > 女が、男の殺意に気づいてしまったゆえに、
争いは一段階上に上がってしまったように思える。
有効な対策や手段を講じれないまま二、三秒。

たった二、三秒立ち尽くしただけで。
展開は急転する。


目の前で、何かが輝くと。

一筋の光が、天を貫いた。

城戸 良式 > ――争いが。
――収まった。

上から覆いかぶさっていた女性が。
ごろりと体を横たえた。
その腹腔からどろりとした血が流れ出す。
返り血を浴びながらその体の下から男がのそりと体を起こし、
目に入った血を拭った。

一筋の光。
恐らく『異能』。
覆いかぶされていた状態で、
掌かどこかから発動した『光で貫く異能』か何かで。

女の体が貫かれていた。
恐らく、胎の中の、新しい命ごと。

――規定が頭の中に浮かぶ。
――もし、男性が今さっき、襲い掛かられたことで。
――命の危機にさらされている。と判断したのだとすれば。
――これは過剰防衛ではあるが、自衛のための行為で。

――そもそも。
――自分の所属する公安委員の部署は。
――そんな件に首を突っ込むような部署ではなく。

城戸 良式 > ――何だよ。

震えた男の声。
瞳は、声は、怯えている。
晒された殺意に、自分以外の他人に、今命を奪ったことに。

――何か、言いたいのか。
――公安の犬が、捕まえたきゃやってみろよ!!

手の中には果物ナイフ。
ナイフでの格闘術が一瞬だけ脳裏をよぎったが。
相手は『異能者』。距離的にも五分。
目撃者はいない。相手は殺人者。

ヨキ先生。
一人殺した人間を、今目の前にしています。
公安委員として、城戸良式として。

城戸 良式 > ――こいつなら。
――殺していいんじゃないですか?

城戸 良式 > 『確保!!』

大声で怒鳴られたと思い、肩が震えた。
それが自分に対する怒声ではないとすぐに気づけたのは、
目の前になだれ込んできた風紀委員の腕章をつけた男が、
血塗れの男を組み敷いたからだ。

組み敷かれた男は反射的に『異能』を使おうと右手を上げ、
それが何か硬質の物体に阻まれる。
その風紀委員の『拿捕異能』なのか、男を後ろ手で縛り上げて、
ねじり上げる。男は拘束される痛みに短い悲鳴を上げ、気を失った。

一瞬の。
一瞬の出来事だった。
一瞬で拿捕は行われ、殺人犯は正しき正義によって拘束される。

『……怪我はないか。
 異能の反応で飛んできたが……一人は間に合わなかったか……』

風紀委員は立ち上がり、こちらに手を差し伸べてくる。

城戸 良式 > 「ああ、いえ。
 ……大丈夫、です」

自分はもとより、この状況に関係ない人間なので。
消え入りそうな声で呟く。言いながら、果物ナイフを風紀委員に手渡す。
風紀委員は携帯端末を取り出し、どこかに電話を入れ始めた。
状況が状況だけに、一応事件として扱うのだろう。
落第街で起こるこういう事件は日常茶飯事であるため、
公安でも少なくとも俺のいる部署ではもみ消すことが多いのに、
真面目な風紀委員らしい。

俺は。
さっきまで右手で手首をつかんでいた女の亡骸を見ていた。
そしてそれを殺した男が、気を失っている様を見ていた。

何も出来なかった。
出来なかったが、何度考えても自分がどうしたら正解だったのかがわからない。
何ができた。
何もできなかった。
たとえ装備が十全にあったとしても、
それでも俺にはこの殺人を止めることができなかった気さえする。

城戸 良式 > あとは、一般市民のように、この風紀委員の言うことに従っていればいい。
事情聴取などは慣れたものだろうし、明日にはこの現場も何もなかったかのようになる。

大きく息を吸い。
吐く。
心臓が、早鐘のように鳴っていることに気が付く。
そうか、今俺は。
殺されかけたのか。
そして――殺しかけたのか。

ただそれだけのことであるのに。
何もかも放棄してこの場で横になりたいくらいの虚脱感が襲う。
何かを考えるのをやめて、流れに身を任せることにした。

本当に。
ついていない。

城戸 良式 > 正解の解答を。
誰か教えてくれ。

ご案内:「落第街大通り」から城戸 良式さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」にデザイア・ハートさんが現れました。
デザイア・ハート > 日の光も失せたほの暗い落第街の大通りを、この場には似つかわしくない…子供のような体格の整った顔立ちをした少女らしき人物が、何食わぬ顔で青い髪を靡かせながらも堂々と歩いている。
その手には一見してなにも持たずに、時折、街の様子を覗きこむように周囲に視線を動かしながら、その人物はどんどんと、奥まった方向へと進んでいく。

デザイア・ハート > 「…今日もこの辺りは特に変わりはなし、かな?」

しばらくその者は通りを練り歩き、路地裏に指しかかろうとするところで立ち止まる。特に何かするでもなく、くるりと宙空で人差し指を遊ばせながら、何かを確認するように周囲に視線を配る。

ご案内:「落第街大通り」に緋桜 鶫さんが現れました。
緋桜 鶫 > 「見回り見回りっと………おや…?」

昨日は自分らが見回りをした時は何も無かったが、その後で一悶着あったみたいな話を聞いて大通りから路地裏の方へと足を伸ばし……見るからに挙動不審な人影が目に入り、反射的に物陰へ身体を滑り込ませるが…。

「。oO(………って前に生徒手帳を落としてた子か……。)」

顔見知り…というには少々遠いが、知らない顔でもない相手だと気づき、あたかも今偶然通りかかりました!と言う態度でそちらの前に姿を見せ━━━

「……なーにやってるの?あまり怪しーことしてると風紀委員としてしょっ引いちゃうぞー。」

肩の腕章を揺らし、冗談交じりにそんな言葉を投げる。

デザイア・ハート > 「うん?って、風紀委員さん?」

声がした方に振り向けば目に入ったのはまずは腕章…次に特徴的なオッドアイの瞳だろうか。ひとまずは何でもない風を装って、ごくごく普通に声を返す。

「何してるのってこっちの台詞だよー?
ここがどういう場所か知らないわけでも無いだろうに。
ボクはこの辺りに家があるからここにいるだけだよ。」

つらつらと、ここにいるもっともらしい理由…もとい、ある種の事実を口にしながら質問を逆に返す。その回答は実際には”なにをしているのか”を答えていないことを雲隠れさせるかのような口弁であった。

緋桜 鶫 > 「私は風紀委員さんだけど、ちゃんと緋桜 鶫って名前がありますぅ~。
まぁ…落し物の時に顔会わせただけだから覚えてないだろうけど。」

返された声に少々拗ねたような返事をする、対して自分は良すぎる記憶力のせいで生徒手帳に入ってた名前を覚えていたのが不機嫌の原因だったりするのだが。

「勿論知ってるけど、だからこうして見回りしてるんだよね。それに私の家もここら辺だし…。
……で、何してたの?人差し指で何かしてたけど空き巣の目星でも付けてた?」

"何をしてるか"を答えない辺りなーんか怪しいな、と思いツッコミを入れる

デザイア・ハート > 「はいはーい、緋桜さん…でいいかな?
流石に顔くらいは覚えてるよ、名前は今覚えたから、それでいいでしょ?」

くつくつと笑みを浮かべつつ、悪びれもせずにそう返す。
実際、以前は落し物を拾われただけだったので、名前までは印象に残っていなかったのだ。

「あ、そうなの?風紀委員もたいへんだねぇ…。」

うむうむ、と言った様子で頷きながら…。

「てかキミもこの辺か、よくこんなとこに住むねぇ、人の事はいえないけど。んで…まー聞き逃してはくれないよねぇ。
別になんてことはない、ただの確認だよ。空き巣でも何でもない。」

緋桜 鶫 > 「鶫先輩とか鶫ちゃんでも良かったんだけど……デザイアちゃ…デザイア君。」

一瞬忘れそうになったが目の前の女の子よりも女の子ぽい見た目の男の子に対してムスーっと頬を膨らませつつ言葉を返す。

「まぁ…それが風紀委員の仕事だしね。でも一旦私の仕事の話は置いておこう、ってか"よくこんなとこに住むね"って言うのはそのまま返すからね。」

実際、風紀委員としてしょっ引く対象をすぐに見つける為にここに住んでる、なんて言ったらどんな顔されるか予想はつくので口が裂けても言えない。

「確認……?何の確認か…って聞くほどの権限も無いし、あっても答えてくれそうにもなさそうだしなぁ……まぁ傷害事件とかと無縁な感じなら別に良いよ、見なかった事にしてあげる。」

デザイア・ハート > 「じゃあ鶫ちゃんで♪」

非常に軽い感じでからかうような口調で言葉を返す。

「あはは♪でもそっちは名前覚えてたんだ。
まま、ボクはほら、こうみえても魔女だからさ、こう言う場所が生にあってるんだ。

そそ、ホントにただの確認…家の周りが危なくないかっていう、そういうやつだよ。」

緋桜 鶫 > 「………何か恥ずかしい…。」

自分で言い出したのにいざ言われると、というか、この子の容姿と声でそう呼ばれる事に妙なムズ痒さを感じ、視線をずらしつつポツリと呟く。

「え?あー……一応名前とか覚えておかないと風紀委員としての仕事上色々ね。
………魔女??魔女………まぁ……魔女……なのかな、なのかも……。」

性別を知ってると魔女と言う言葉に抵抗を覚えるが、本人がそういうならそれでいいのだろうと納得し、魔女と言う言葉の意味まで思考が回らず、珍しく調子が狂ってポンコツ具合を露呈してしまう。

「あぁ…確かに自分の家の周りが危なくないかって確認なら納得かも、場所も場所だし……でもあれ?そういえばここら辺に魔女が"色々"売ってるアトリエがある話を聞いた事があったけど、もしかして……?」

魔女と言う単語と、ここら辺が家の周り、という言葉からふとそんな疑問が浮かぶ。

デザイア・ハート > 「んふふ♪どうしたんだい?鶫ちゃん♪」

視線をずらし、むず痒そうな動作を見てニヨニヨと表情を歪めながらわざとらしく名前を呼ぶ。

「なーるほど?ボクがお客さんの名前覚えてるようなもんか。
うん?何か気になる事でもあった?」

何もおかしな事はないだろう?と行った様子で首をかしげる。
恐らく当人にとっては差ほど気になるような事ではないのだろう。

「ん、特に最近はちと事件も多いし…って、それ、ボクのお店の話じゃん。他にこの辺りでそんなとこないし。」

緋桜 鶫 > 「むむむ……やめやめ!私の名前を連呼するのはやめなさい!!」

ぐぬぬ、っと良い様に弄ばれてる気がして、つい異能の一部を発揮させつつ地団駄を一踏みし、地面にピシリと亀裂が入る。

「お客さん…って、やっぱりキミのお店だったんだ?噂程度しか聞いてなかったんだけど、そういうお店があるらしいから怪しいお薬とか売ってないか今度ガサ入れする予定だったんだけど、手間が省けたかな……。」

目の前に店主が居るなら好都合、とばかりににじり寄り。

「と、言う訳で抜き打ちで視察させて貰うからね?やましい物を売ってなければ全然問題無いよね?デ ザ イ ア 君。」

ほんの少し風紀委員としての仕事モードになり、ジッ……と色違いの瞳がそちらを覗き込む。

デザイア・ハート > 「えー?別にいいでしょ減るもんじゃ――あ、ハイ。」

微笑ましく地団駄を踏むのを見ていたが、それによって地面に皹ができたのを見てすっと言葉を止めた。

「うん、ボクの店だよ。怪しい薬は売ってるけど…まあちゃんとしたやつだから、そこは見て行ってもらえばいっかなー。」

表に出してるのにそんな危ないものはないし…と、ここまできてはどうせ店まで来るであろうことから開き直る。

「いーよいーよ、歓迎するねー?
……まあ、ちゃんとしたお店だからさ。」

故に、ここは一先ず悟らせないように、何でもない風を装ってその瞳を正面から見返す。下手に断った方が面倒そうだという判断でもあった。

緋桜 鶫 > 「うむうむ、それでよろしい。」

ピタっと止まる言葉に満足そうな表情で頷く。

「怪しい薬売ってるの??自白するなんて偉いねぇ……覚悟は良いかな?まぁ実際に見てから判断するけど今の発言は記録記録…っと。」

人差し指で自分のこめかみ辺りをトントン、と叩きつつ記録するポーズ。

「よしよし、それじゃ早速行こっか。いやー…今日はこっちまで足を伸ばした甲斐があったなぁ、昨日は事件こそ起こってたみたいだけど私が来た時には平和で平穏だったし、その分までお仕事お仕事っと。」

結局のところ誰でも良いからしょっ引きたいだけなのでは?と思われそうな言葉を口から零しつつ、小柄な魔女の少年の後ろを着いて行くだろう。