2020/06/28 のログ
鞘師華奈 > 「――私のイメージだと、公安は裏であれこれと探ってるような感じなんだけどね。
…まぁ、あくまで仕事関係なく君の個人的な考えでの参加、という所かな」

成る程、という感じで頷きつつ名刺は…まぁ貰ったのだし仕舞っておこうか。
煙草の煙を蒸かしながら、落第街を歩く――ここをゆっくり歩くのも久しぶりだ。

「――よく分からないが、君のその上司とやらは中々に食わせ物の気配がするね、」

公安の一つの部署の纏め役、みたいなものだからこそかもしれないが。
ゴミを蹴り飛ばす様を咎めも何もせず、ただチラリと横目に彼を見つつ煙草を蒸かして。

「――しかし、まぁ何かこれで色々と動くことになるのかな」

ぽつり、と。”彼女”に指摘された傍観者気取りは止めようと思ったものの。
結局、まだ自分の確固たるモノは何も示せてはいない。未だ焦熱の残り香のままだ。

夢莉 > 「そういうこった。
 ニーナからの伝言ももらっちまったしな……アイツのやる事は見とかねえとってなっちまった感じだよ」

意図せずとも日ノ岡あかねとの関わりが深くなってしまった。
めんどくさいと思いながらも、首を突っ込まない訳にもいかないのだ。

「色々と動くって、何かすんのか?」

煙草を咥えながら彼女に問う

鞘師華奈 > 「…本当に君は良い保護者になりそうだな…私には絶対無理だろうねそういうのは。」

煙草の紫煙を一度盛大に吐き出しつつ肩を竦めて。面倒見が良いとは言い切れない。
勿論、偶にお節介くらいはしてしまうかもしれないが。結局最後は自分で何とかするしかない。

「――さてね、”私の物語”はまだ始まってすらいないから。
――少なくとも、あの場に居た誰よりも”物語が無かった”と思っているよ。」

だから、何かするのか、どう動くのか。まだ考えついてすらいない。
そもそも、考えてあれこれ動くタイプという訳でもないのだ…この女は。

「――で、そういう君はどうするんだい?確かあの用紙を貰ってた気がするけど」

夢莉 > 「保護者とかガラじゃねえんだけどな…
 単にほっとけないだけだよ

 …あぁ、あれか。
 貰う奴がいなきゃ他も取りに行きにくいだろ?」

あの場は否定意見が強めだった。
あの空気じゃ取りに行きたくてもいけない面子も多いだろう。
何よりあの場の会話で、用紙を取りに行きたい人間は場に流されるなりなんなり……日ノ岡あかねが言った通り『現状仕方なく烈圧の環境に身を置いている』人間が多い筈だ。
率先して動く人間は必要だろう。

「だから別に、どうするかとか考えてねえけどな……
 でも反対じゃねえのはホントだな。
 オレも似たような風に二級学生から拾い上げられた立場だし、思惑は兎も角として、な。」

思うところは、あるのだろう。

「…で、始まってない、ね。

 ………


 ……ウチくるか?」


ふと、訊いてみる。

鞘師華奈 > 「…うん、こう言うと君には悪いけど敢えて言うなら…君、実は相当にお人好しだな?」

僅かに目を細めつつも、口元が笑みなのはからかいもあるからだろう。
とはいえ、自分としてはそういう甘さは嫌いじゃない。その甘さを捨てなければいけない時が来なければいいのだが。

「――と、いうか正直あの場に居た殆どの連中とは初対面だから何者かも分かってなかったんだがね私は。
まぁ――あの場に居た時点で、あかねの一人勝ちみたいなものじゃないかな」

ほんと、あの友人は考えることが先を見据えていて自分みたいな女ではその真意を汲み取ることは出来ない。
それはそれでしょうがないのだが、友人としての個人的意見で言えば少し寂しいものはある。
その辺りの感情が出たのか、僅かに煙草を噛みつつもゆっくりと力を抜くように吐息を零して。

「…結局、まぁ各々の立ち位置みたいなものをそれぞれ考えなきゃいけない、というのは私も理解できたけどさ。
私は拾い上げられた訳じゃないけど…。」

ただ、生き残っただけだ。故に過去の残滓…残り火のようなものだ。
と、彼からの唐突過ぎる提案に「は?」と、珍しく目を丸くしてそちらを見る。

「…あのねユーリ。流石にそれは勧誘する人選ミスだと私は思うんだけど。
まぁ、お誘いは悪くないけど――今は色々考えたくてね。保留にさせてほしい」

先延ばしにするみたいで卑怯だが、このままほいほいと気軽に受ける提案でもない。
傍観者を辞めるのは中々に難しい――けど、何もしないままよりせめて考える事をしなければ。

鞘師華奈 > 「私は――ちゃんと”私の意志で”立って、歩いて、物語を掴み取らないといけないから」

だから、済まないけどお人よしの喫煙仲間。少しこの話は保留にしてくれ、と苦笑いを淡く浮かべて。

夢莉 > 「……」

頬を掻く。
そんなつもりはないんだが
本人は気づかないだけで実際、お人よしなのだろう。

「別にウチ…第四はガチガチに凝り固まってる組織って訳でもねえし、上がユルいからな。
 ヒマな時は大体部屋で集まってダラダラしてるだけだしな……いや、ちゃんと仕事はあるけどな?



 …けど、そっか。ん……じゃ、保留でいいよ。」

保留にしてくれ、と言われれば、それ以上は誘わないだろう

鞘師華奈 > 「悪いね、――ただ、”私がそう決めたら”君の誘いに乗るよ。今はまだ色々私なりにさ。
こう、足りない頭を使って考えてるのさ――私の物語を、どう歩むのかを」

友人と同じ場所に所属するかもしれないし、むしろ再びかつての”悪”の道に戻るかもしれない。
もしくは、今彼が提案してくれた公安になる道もある。選択肢は色々あって――だけど。

(そう、私の物語(みち)は私が決めるしかない)

――要するに、誰が何と言おうとブレない自分だけの物語を掴む為に。

「――まぁ、でももし私が公安に入る道を選んだら、その時はよろしく頼むよ”先輩”」

と、煙草を蒸かしながらもそう軽口は忘れないのだけれども。

夢莉 > 「タメの相手に先輩はこそばゆいからやめろっての」

先輩呼びを嫌がりながら

「さ…ってと。折角この辺歩いてるんだし、ニーナの所に顔でも出しにいこうぜ。
 色々買ったんだぜ? ランプやら毛布やら何やら
 

 …そいや、あそこ何な訳? 変にハイテクだったけど」

そう言いながら、落第街を歩いていく

鞘師華奈 > 「…と、いうか君といいあかねといい、私の親しいやつは皆タメなんだけどね…。」

どういう偶然なのやら、と苦笑を浮かべつつ煙草を蒸かし。
本来はこのまま自宅に戻るつもりであったのだが、ユーリの提案に少し考えて。

「…そうだね、彼女の近況も気になるし。…あそこ?
ああ、私の師匠みたいな男が昔使っていたセーフハウス、というか食糧備蓄庫の一つ。
私は使わないから処分に困っていたけど、丁度ニーナに遭遇してね…彼女に譲った」

と、そんな事を彼に説明しながら落第街を歩く。
時々、女二人組と勘違いして声を掛けてこようとする輩も居るが、それは器用に”いなして”終了だ。

夢莉 > 「師匠ねぇ」

どんな師匠なんだと思いながら、しかしまぁ言わない事にした。



なお、物理的にいなす必要が出た時は全部相方任せになった。
動けない訳ではないが戦闘力はそんなにない。
どっちが男でどっちが女なのか分からない様子になるだろう……


「ま……今後はどこもかしこも忙しくなるかもな。
 何が起こるんやら…」

ご案内:「落第街大通り」から夢莉さんが去りました。
鞘師華奈 > ちなみに、声を掛けてきた連中は隣に居たユーリにも見せない挙動で”何か”をやって昏倒させた。
ともあれ、そのまま落第街を彼と共に歩いてあの少女の様子を見に行くのだろう。

「――まずは一歩。まだまだここからだ」

鞘師華奈の物語は、まだ…スタートラインなのだから。

ご案内:「落第街大通り」から鞘師華奈さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」にアルン=マコークさんが現れました。
アルン=マコーク > いまだ日の高い夕暮れ前ほどの時間、紅いマントが目立つ、線の細い少年が竹箒を振るっている。
煙草の吸殻や、飲料の空き缶、何やらの糞や吐瀉物、そういったものどもを、丁寧に掃き集めている。
金髪の少年――アルン=マコークは口を真一文字に結び、額に汗を浮かばせながら、無言で淡々と掃除を続けていた。

違法部活の人間でも、二級学生でもなさそうな、小綺麗な格好(と紅いマント)は大通りの人々の耳目を集める。
大通りのほんの一角だけを清掃することに何の意味があるのか――
自浄作用の麻痺した街は、次の日にはもう、同じくらいに汚れているだろうに。
実に無駄な行いであるように思えた。
学園でなにがしかの処罰でも受けたのか、あるいは何らかの無償奉仕、
はたまた落第街の人間に喧嘩を売っているだけなのか。

彼にそんなつもりはなくとも、そう受け取る者がいることはおかしなことではなく。

「おい、ガキ。空き缶落ちてたぜ」

薄ら笑いの三人組が、アルンに向けて思い切り空き缶を投げつける、といった光景も、何ら珍しいものではなかった。

アルン=マコーク > 悪意と共に投げつけられた空き缶は、アルンに命中する直前で何かに撃ち抜かれたように軌道を変え、地面に落ちた。
アルンはそのまま箒で一掃き、ゴミの山へと空き缶を叩き込んだ。

「やあ、ありがとう」

そして、笑顔で応える。まるで何事もなかったかのように。
ぶつけられた悪意も空き缶も、決して自分を損なうことなどない。
それは示威行為ですらない。ただただ事実としてそうである、ということが顕になっただけであった。

「っざけんなよ、ガキ……!」

そんなものは当然、示威行為として受け取られる。
薄笑いを引っ込め、威嚇のために表情を険しくした三人が、アルンを囲む。

「ナメてんのか? あァ!?」

アルン=マコーク > 落第街の大通りで目立った騒ぎを起こすような輩は、全くの門外漢か、そこそこに荒事慣れした者くらいである。
裏の世界には裏の世界なりの均衡があり、好んでその領域を荒らして良いことが起こることはない。

男たちは後者だった。
体格も良く、暴力を振るうことに慣れている。
他人を威圧することに慣れていて、その効果を十分に吟味することができる手合いだった。
一人が正面からアルンに近づき、顔を近づけ、歯を剥き出して見せる。

「オウ、こっち見ろや。売ってんのか? ああ? ったるかコラ?」

そして、二人は流れるように左右に別れ、アルンの死角へと回り込み、逃げることを許さない。

アルンは掃き掃除の手を止め、男の目を正面から見返した。

「……すまない。僕は売り子ではないんだ。何か入用なのかい。困っていることでもあるのかな」

本当に何もわかっていない様子でそう返事する。
男たちは笑った。

アルン=マコーク > 「おいおい、ブルってるぜこいつ!」
「困っていることォ~? お前が、これから! 困ることになるんだよなァ~!」

アルンの斜め後ろに回った二人が嘲るような言葉を投げかける。
目の前の男は、厳しい顔つきのまま、アルンを睨めつける。

「この通りでデカいツラしてんじゃねえって言ってんだよ……わかるか? 邪魔くせえんだよ!」

そうがなり立てると、男はゴミの積まれた山を蹴飛ばした。
それなりに威力のある蹴りが、集めたゴミを撒き散らかす。
アルンは目を細めた。

アルン=マコーク > 「そうだね。済まなかった。これでは通行の邪魔だ……これからは端に寄せるようにするよ」

アルンはそう言って、男たちに深々と頭を下げた。
そこでようやく、脅し役の男も表情を緩めた。
わざとらしく懐から煙草を取り出すと、火を点け、たっぷりと煙を吸い、頭を下げたままのアルンに向けて吹きかけた。

「わかりゃァいンだよ、なァ?」
「これからは気ィつけろよ!」

どこぞの勘違いしたガキを脅かし、黙らせたことで男たちは満足した。
アルンの掃き集めたゴミ山をもう一度派手に蹴り散らすと、火を点けたばかりの煙草をアルンに向けて投げつけ、立ち去った。

煙草が何かに撃ち抜かれるように軌道を変え、地面に落ちたのを、男たちは見なかった。

アルン=マコーク > 「確かにこれは邪魔だな。彼らが怒るのも仕方ないことだ」

誰に向けるでもなくそう呟くと、アルンは再び掃き掃除を再開する。
蹴り散らかされたゴミを手早く掃き纏め、通りの端に寄せて集める。
すっかり日の落ちて暗くなった通りでは、その姿はあまり目立つものでもない。

好奇の視線、決して良い意味でのものでもないそれに晒されることこそあれ、その後は特に誰かに絡まれるようなこともなかった。
そこそこ大きなゴミの山を再び築き上げると、アルンは満足そうに頷いた。

「今日はこんなものか。明日もまた、同じくらいの時間に続きをしよう」

ぴしゃんという大きな破裂音と、カメラのフラッシュのような一瞬の閃光。
通りを往く人々が振り返ると、そこには竹箒を担いだ小柄な人影だけがあった。
ゴミの山は聖なる雷に焼かれ、完全に消滅していた。

いつもより少しばかり綺麗になった道端に、誰かがゴミを放り捨てた。

ご案内:「落第街大通り」からアルン=マコークさんが去りました。
ご案内:「落第街 地下闘技場」に一樺 千夏さんが現れました。
一樺 千夏 > 「さぁて、他に挑戦してくるやつ いないのー?
 アタシに勝てたら、この足元にあるやつ全取りよー?」

どかりと腰を下ろした足元には、カバンにそこそこの量のお金が入っている。
ルールは簡単、チャレンジするのに一回2000円。勝ったら賞金として全部もらえる。
実に夢のある話。
……勝てれば、だが。

一樺 千夏 > 181cmにもなる長身。
明らかに機械だとわかるほどにゴツイ右腕。
それだけでも、挑むには割と勇気がいるのではあるが。
カバンにそこそこのお金が溜まる程度には、連勝しているのである。

煙草を取り出して、一服。

「おっと、次の挑戦者をご案内ー♪」

咥え煙草のまま、ゆっくりと立ち上がり。

ご案内:「落第街 地下闘技場」にエルヴェーラさんが現れました。
一樺 千夏 > 相手は鉄パイプと獲物に選んだようだ。
銃以外なら、なんでも使っていいルールなので文句はない。
開始の合図と同時に突っ込んでくる相手に合わせて、右手を振るう。

重い音が闘技場に響いて、ひしゃげた鉄パイプを握った右手を見せつける。

「まだやるかしらん?」

むしろかかって来いよ とばかりに左手で挑発を行ったのだが。
どうやら挑戦者君は心が折れたようだ。

一樺 千夏 > はー
一樺 千夏 > あまりに歯ごたえのない挑戦者に大きなため息。

「楽に稼げていいけど、スリルが足りないわ」

エルヴェーラ > 『セクト』戦での傷も癒えたエルヴェーラは、
地下闘技場に足を運んでいた。
理由は、シンプルだ。
見どころのある者をチェックする為である。
力量を見て、必要と感じればそれとなく後でアクションを取る。
そういう予定だった。

観客席に座ったエルヴェーラの何の色も映していない瞳は、
連勝を続けているらしい赤髪のエルフを見て目を細めている。

さて、次の挑戦者は――と、闘技場入り口からやって来る影を見やる。


『次の挑戦者は……おおっと、こいつは! 
 地下闘技場の黒き英雄! 目に入れた物は全てねじ伏せる!
 百戦錬磨の筋肉達磨、黒崎 力夫だァ~~~ッ!!!」

それまであがっていた歓声の色が、ふっと変わる。
千夏を応援していた声は、突然力夫を応援する歓声に変わる。
そう、彼はここの英雄の一人なのだ。

『やっちまえ、黒崎ィ! 生意気なあの女の首、
へし折ってやれェ!』

千夏の前に現れた男は、千夏と同じ程の大きな背丈の男だった。

『フン、女にしちゃでけぇじゃねぇか。だが、てめぇの活躍も
 ここまでだぜェ……」

顔に筋を浮かべながら、千夏の目の前で力夫は、
巨大な拳を打ち付ける。

一樺 千夏 > 「あー?」

すっごい面倒くさそうに新しい挑戦者の方を見る。
自分と同程度の長身。横幅は自分よりはデカいか。
見るからにパワーファイターの体裁。

「チャレンジ料は払ったかしらん?
 OK 楽しくあーそびましょッ!!」

言うが早いかゴングと同時にその右手でぶん殴る!
生身と機械、かち合えばどちらが勝つのかなんて自明の理。
異能や魔術でもなければ肉は硬さで鋼には勝てる道理なんてない。

そして、千夏はここにきて動きを変える。
大きな右手を盾のようにつかい、左手で刻むように拳を打ち込んでいく。
それは紛れもない武術経験者の動きで。

エルヴェーラ > 『遊ぶ、だァ……? ハッ! 俺がッ! てめぇをッ!
 ぶっ倒した後にッ!
 好き放題! やりたい放題! 玩具《サンドバッグ》にしてやるぜェェェ!!!』

黒崎の力は、常人のそれを遥かに超えている。
これまで何人もの頭蓋骨を破壊し、玩具《サンドバッグ》として
持ち帰っている、そういう男だ。
そんな異常な行動から、サンドバッグコレクターという二つ名も
持っている。


『おおおおッ!?』

意気込んだは良いものの、スピードで遥かに千夏が上だった。
かろうじてガードは間に合ったものの、ガードに用いた左腕が
べきり、と重々しい音を鳴らす。

スピードだけではない。機械の腕から繰り出される凄まじいパワー。
へし折れる。まるで床に落ちた硝子のように。
続く、息をつかせぬ連打。筋肉達磨の骨が、粉砕されてゆく。


『がああああああッ!!!? 何だ、てめェェェ!!!!? 
 いてぇ、いてぇよォオオオオオオオ!!!!』

男は叫びながら、人間離れした脚力で千夏から距離を取ろうと
跳躍する。


「……ガードをしながら、あの速度で連撃を叩き込むとは。
 大したものですね」

エルヴェーラは無機質な声で、ぼそりとそう呟いた。
眼下のあの女、只者ではない。

一樺 千夏 > 「いっちいち判断が遅いのよ、この鈍間!!
 銃より早く動けるようになってから出直してきなさいな!!」

相手の行動をすべて視認して、それを潰すように動き続ける。
跳躍すれば、追随するように低い姿勢で突っかかる。
逃がす気なんてさらさらない。

「あーなんだっけ。サンドバックにはしていいんだっけ?」

その長身とデカい右腕を伸ばせば、それは恐ろしくリーチの長い攻撃になる。
そして逃げようとした男の頭を握りこんで。

「つーかまーえーたー」

そのまま片手で持ち上げて、じわりじわりと締め付ける。

エルヴェーラ > 千夏の腕から繰り出される、凄まじいリーチの攻撃。
まともに受ければ、男の敗北《ノックダウン》は必至。

千夏の拳は、綺麗に男の顔面を捉え、男は地に倒れ、
敗北が確定する。


その、筈だった。


『ぐ……ぐううううッ!! 身体硬化《スティールボディ》ッ!!!』

身体硬化《スティールボディ》。字の如く、身体の表面を鋼の如く
硬質化させる異能である。シンプルである分、その効果は、高い。

あまりの一撃に発動が間に合わなかったが、これでもう、負けはない。
男は痛みに苦しみながらも、下卑た笑いを浮かべてそう思考した。

『へへ……効かねェなッ!! そんな攻撃はもう、
 この俺にはよォッ!!!」

向かう拳に放つ怒号。
男は全力で振りかぶった拳を千夏に叩きつけるべく、
ぶん回す。通常、この一撃を与えられた人間は頭蓋から肩辺りまでの
骨が砕け散り、病院送りとなる禁忌の技だ。
正直、現状で死人が出ていないのが奇跡と言えるレベルの殺人級の技。

一撃にして、必倒。


ところが、その一撃が届くことはなかった。

『なッ……!? 掴んできやがった……だとォ!?』

男の身体は硬質化している。すぐに身体が破壊されることはないが、
それでも千夏の手により彼の身体が限界を迎えるのは秒読みだった。


「優れた体術……状況判断能力……特筆に値しますね」

手の甲を自らの細い顎に乗せながら、エルヴェーラはそう口にして、
頷く。

一樺 千夏 > そのままギリギリと痛めつけようとしたのだけれど。

「あら、かたーい。てっきり爺の萎びた■■■みたいにフニャフニャだと思ってたわ。
 ごめーんね?」

エヘッと笑いながらスラングを口にして。
そのまま右手がジワジワと赤く輝いていく。
そして周囲に立ち込めるのは肉の焦げる臭い。

「握りつぶせないなら、焼けばいいわよね。
 皮膚の張り替えだからきっと値段もきっと安いから。
 ギブアップするなら、早めにねー?」


そして、その眼は……二階席にいる誰かを視た。

エルヴェーラ > 千夏が見つめる先の先。
彼女は無言にしてその顔色は無色。覗き込めば吸い込まれて、
足元の穴に落ちていってしまいそうな。
そんな瞳が、遠くからでも存在感を放っている。
しかし彼女の瞳は、千夏を見てはいなかった。
千夏と対峙する男の、そのズボンのポケットを見ていた。
その、『ちょっとした』膨らみを。


『ぐああああッ!!!? あちィイィイイッ!!!?
 肌が焼けるゥゥゥッ!!?』

千夏だけでなく、観客席の皆が耳を塞いでしまいたくなるような
悲鳴。無理もない。肌が焼かれているのだ。

『て、てめェエエッ!! 黒崎 力夫を!! 
このサンドバッグコレクターを舐めやがってッ!!
 ブッ殺してやるァァッ!!!』

そこで
男の取った行動は、観客席に居た誰が見ても、
意外な行動であった。

ただ一人、エルヴェーラを除いては。
そして闘技場に立つ千夏はさて……どうだったであろうか。

男が取り出したのは、拳銃だった。
本来、この場で持ち出すのは反則である。
力夫はそれを躊躇なくポケットから引き抜けば、
夢中でトリガーを引いて千夏の腹に叩き込む。

6発の殺人的暴力が、至近距離で千夏に叩き込まれた。

『へ、へへッ……! 俺は負けねェ……!! 負けてねェ……!
 俺がチャンピオンだァァァ!!! 未来!! 永劫ッ!!」

勝ち誇った叫びが、地下闘技場に響き渡る。
そして誰もが、黒崎を応援していた者達ですら、動揺を隠せず、
ざわめきを発し始める。

ただ一人、エルヴェーラは除いては、だが。

一樺 千夏 > 何か荷物が騒がしいな、と一瞬だけ視線を向ける。
構えられた拳銃。
向けられた銃口。口径は……小型ハンドガンだから9mm程か。
狙いは腹か。確実に当てられる場所だろうけど。

乾いた音は全部で6発。
全弾打ち尽くしたか。

「いったいわね、この■■■の■■■の■■■が!!!
 アタシを殺したいなら全弾ヘッドショットくらいしろっての、この■■■!!」

ちょっとは痛かったのか、顔をしかめこそしているけれど。
別に血が出ているわけでなく。
弾は足元にひしゃげて転がっている。

「チャンピオンがこすっからい手段を使ってんじゃねーってのよ?
 ……あー もう あったまきた。『ぶっ潰す』!!」

右手の熱がドンドンと上がっていく。
さらには、右腕を振り回して地面に叩きつける。
叩きつける。
叩きつける。
叩きつける。
叩きつける。
叩きつける。
叩きつける。

……
………。

エルヴェーラ > 『ひ、ひィィィィッ!? 何だてめェェェッ!! 腹に6発!!
 打ち込んだんだぞ、6発ゥゥ!! なんで、何で倒れてねェ
 んだよォォォッ!!』

身体硬化《スティールボディ》ですら、これだけ至近距離で銃弾を
撃ち込まれれば、簡単に決壊する。

『義手だけじゃねぇ!! まさか――』

捻れてゴミになった弾を見た力夫のズボンが染みを作っていく。

『『全身』……鋼鉄《サイボーグ》……ッ!!』

男の顔から血の気がさっと引いていく。
続いて。
彼の手から拳銃が落ち、地を滑ってカラカラと乾いた音を立てた。
それが、敗北を知らせる音であった。

肌が熱せられ、焦げていく。それだけならば、きっとまだマシだった。
顔面を掴んだ右腕は、何度も何度も、力夫の顔面を地に叩きつける。

叩きつけられる度、鋼の腕と硬い地面とで挟まれ、男の意識は次第に
薄れてゆき――

『俺は……ブッ!? 地下闘技場……ゴォッ!?
 最強、ォォッ!? の……チャ……ン……」

――やがて、動かなくなった。


『け、KO~~~~ッ!!!! 倒したァァァッ!!!
 無敵の黒崎を、新入り選手が倒したァァッ!』

ざわめく人々。混乱し、称賛の声も、悪態をつく声も、まだ出ていない。

そんな中で。

ぱちぱち、と。
小さく拍手を始めた者が居る。

それは、白髪のエルフ――エルヴェーラであった。

彼女の隣に座っていたやせ細った男も、その手を叩き始める。
その隣の男も。
目の前の男も。
向こう側に座っている男も。

『新たな伝説の、誕生だァァァ~~~ッ!!!』
『うおおお、すげぇぜ姉ちゃんッ!!!!』
『俺、あんな女に蹴られてぇ……』
『バカ、死ぬぞ』
『うおおおおッ!! 熱い、熱すぎるッ!! 今夜は最高だァ!!』

拍手は大波となり、千夏を包み込んでいく。

一樺 千夏 > 「アタシの故郷じゃサムライって言うのよ。
 エッジが効いててカッコイイでしょ!!」

拍手が周囲を包み込もうが知った事ではない。
千夏にとって、ルールを破って殺しに来た以上ここはもう殺すか殺されるかの場所になった。
つまり……相手が気を失おうが、動かなくなろうが止まることが無い。
確実に殺したと思うところまで、自分から停める気がまったくないのだ。

「なぁに、次は死んだふりぃ!?
 生温いことやってんじゃあねぇぞ、この腐れ■■■が!!
 生きてここから出られると思ってんじゃあねぇよなぁ!?」

エルヴェーラ > 『な、ちょ、待てなんだあの女……!?』
『誰か止めろ、おい止めろッ!!』
『何言ってんだ、こっちがやられちまうッ!!
 見ろよあのイカレっぷり、尋常じゃねェッ!』

多くの者達が、騒ぎ始める。
逃げ出す者まで出始める。そしてその波は次第に大きくなり。

『狂犬……!』
『狂犬だ……ッ!!』
『鋼の狂犬だァ……!!』
『狂犬ッ……! 狂犬ッ……!』

いつの間にか、観客席には『狂犬』という、
一つの言葉が響き渡っていた。


人もまばらになり始めた闘技場で、エルヴェーラは周囲を確認
した後、ようやく眼下へ声をかける。小さく、声をかける。

「……貴方、名は?」

途中から入場してきたのだ。まだ、名を聞いていない。
力量ならば十分すぎる程にある。気性は少々荒いが、
話ができないタイプではなさそうだ、とエルヴェーラは判断した。
120年の時を生きた彼女なりの勘である。
その勘が正しいかどうかは、直接話してみねば分からぬことだ。

だからこそ、名を聞く。彼女と対話をする為に。
悪を背負う覚悟が、彼女に在るのかを問う為に。

一樺 千夏 > この狂犬、元チャンピオンを痛め続けているがずっと周囲には気を張っている。
つまるところ、複数人からの襲撃を常に警戒していたのだ。
故に、話しかけられれば当然のように応じる。

「あ”?
 一樺千夏よ、白髪の嬢ちゃん。
 なに、アンタ。コレのツレ?」

態度は、最悪に近いけど。
応じている間は、一応攻撃は止まるのが幸いか。
ただ、返答次第では敵と認識して即座に襲い掛かる気配がするあたり、間違いなく狂犬の類である。

エルヴェーラ > 何のことを言ってるのか、と言わんばかりに
肩を竦めるエルヴェーラ。
何せ、見た目はただの学生である。
勿論、その深い瞳を見て『只者ではない』と見切ったであろう
千夏にとってはその限りではないのかもしれないが。

すっと席を立つエルヴェーラ。
まばらになってきたとはいえ、依然闘技場は大騒ぎである。
二人のやり取りは、周囲に察知されていない。


「いい名、ですね」

最後にそう口にすれば背を向けて、彼女は闘技場を去っていく。
制服のスカートを靡かせながら。

一樺 千夏 > 「……妙なガキね。
 ったく、冷めてきちゃったわ」

そこでようやくサンドバッグに転職した男を放り投げた。
周囲は人気がなくなってきたとはいえ、まだ人が居る。
さてそれならば。

「誰か医者を呼んで来い!!
 ここで死人がでるとヤバいんでしょーが!!
 それとコレの知り合い!!報復とかすんなら―――次は全員ぶっ殺すから死ぬ気で掛かってこいや、ヘニャ■■どもが!!」

言うだけ言って、散々目立ってから……足元の報酬を左手で担いで闘技場を後にした。

ご案内:「落第街 地下闘技場」からエルヴェーラさんが去りました。
ご案内:「落第街 地下闘技場」から一樺 千夏さんが去りました。