2020/06/30 のログ
フィフティーン > 少女の声を受け、滅音器付きの拳銃を出してくれれば
それを手に取って確かめる。

「なるほど、サプレッサー一体型ですか、良いですね。」

提示した要望の大半には添えているであろう
その銃器に合格の烙印を自分の中で押す。
彼が教えてくれた即席サプレッサーのレシピは
緊急時に有用なものとして覚えておくことにした。

「キス、とは口同士を接触させる人間特有の行動ですか。
確かに近づき過ぎれば触れてしまいますね。
この行動の動機は興味深いです。
足りなくなった栄養分のようなものを他個体へ供給しているのでしょうか...?」

また一人うーんと声を鳴らしながら考え込む。
あざといような動作をする割にその意味を理解していない。
一連の行動はあくまでも好奇心が起こしているものだ。

「機械みたい..ですか。
適切な発言だと思います。私は機械ですから。」

淡々とした表情を変えることはなく
あっさりとそのような真実を。
触れれば肌の温もりさえ感じてしまうその身体は
精巧に作られた機械なのだ。
人間に限りなく近いが決して人間そのものではない。

葉山翔一 > 「かなりのレアものだけどな。それ一丁しかないんだ」

ただ弾は先ほどの小型拳銃と同一なのでそちらは大丈夫と笑い。
気に入ったならなによりだとういう顔を見せて。

「間違ってはいないけど言い方がな……。
だろ?だからあんまり近づき過ぎるのはって……動機っておい。
そんなたいそうな物じゃない、愛情の表現だったり独占欲だったりだな」

考えて混んでいる様子の少女にそんな器用な物じゃないと。
単なる満足感やその他だと説明をしていき。
一度やってやろうかなどと考えて。

「は……え?」

あっさりと告げられた答えに処理が追い付かずに呆けてしまい。
嘘だろと言うように手を伸ばして少女の頬に触れていこうとして。

フィフティーン > なるほど、キスには人間特有の理由が絡んでいるのですね。
私はまだまだ勉強が必要なようです。
この身体ではキスは攻撃用にも使えるようですが...
話を聞く限り人間は敵に対しては行わないようですね。」

少しこの辺りは解釈の違いが起こっている。
機械は想定する要素がまだまだ少ないので、
戦闘用のボディを使い続けてきた経緯からあくまで敵味方と
陣営を考慮した思考法になってしまっている。
物知らぬ可憐な少女に対して
一瞬たりともキスのチャンスと考えていたような青年の思惑には
全く気付いていないし気にもしていない。

「この身体は提供された人型の義体で
とても精巧に人間を模して造られています。」

伸ばされた手には拒むことなく、
頬に触れたその指には年頃の女の子と何ら変わりない
柔らかい皮膚の感覚が贈られるだろう。

葉山翔一 > 「まあ、そんなところだよ。
勉強不足はまあ……あるだろうけどどう勉強するつもりなんだ?
キスを攻撃に使うな。噛み切るつもりか?」

さらりと混じる物騒な言葉に呆れてしまい。
そもそもどう勉強するつもりなのかと見て。
ただ目の前の可愛い少女は殴られてもやって見たいと思うほど。

「提供された云々は別として機械には思えないぞ。
こんなに柔らかいのにな……もしかしてヤれるのか?」

手に感じるのは人間と同じ感触。
いい手触りと触れていたが模しているという言葉にもしかしてと。

フィフティーン > 「勉強に関してはさらに多くの人間と接触して
サンプルデータを集める必要がありますね。
攻撃といっても唾液を利用するものです。
装備している成分を混合させることが可能で
フッ化水素酸は攻撃に利用できそうです。
殺傷力が無い媚薬という薬品も分泌できますが
用途はまだ探っています。」

キスによる攻撃と言われれば唇に指を添えながらそのような返答を。
唾液を特定の成分液に置換することで異なる効果を発揮させようとするもので
少女が一例として挙げたフッ化水素酸は金属をも溶かす
超強力な酸として有名な物質。それが唾液を絡め合うキスという形で
口内に送り込まれればどうなるか想像に難くはないだろう。
最後の媚薬については機械が理解するのはとても難しい。

「ヤれる...?一体どういった意味でしょうか?」

主語がない動詞に少女は困惑を見せる。
青年の真意などいざ知らず、どんどんと踏み込んでゆく。
知らないものを聞けばもはやブレーキなど知らない。

葉山翔一 > 「なんていうか……勤勉なんだな。
そこはまあ…頑張ってしか言えないけどな。
それはまた便利って言うか……それは死ぬからな?
それに媚薬っておい……」

聞いていれば攻撃というよりも暗殺向け。
酸など体内に流し込まれればそれだけで死んでしまう。
そんな凶悪があると思えば媚薬と聞けば何でと呆れ。

「あー…つまりはセックスだ。判るか?
何なら経験してみるか?」

流石に判らないかと思えばはっきりと告げて。
これなら判るだろう、そして踏み込んでくる事に冗談のように告げて。

フィフティーン > 「知らないものは是非とも学びたいので。
...媚薬の用途を知っているのですか?」

酸に関しての反応は共通の理解を得たが
媚薬という単語を聞いて呆れたような反応を見せる彼に
恐らく媚薬の意味を知ってのことだろうと判断し質問を重ねる。

「なるほど、性行為の事ですね。
関心はありますが、私は機械です。
繁殖のための行動が必要ないので可能かどうかは分かりません。」

正確にはこの義体には快楽を感じる機能も備わっているし
なんなら性交渉だって可能な造りになっている。
ただし、それをフィフティーンは知らないだけ、
まだ人型の自分自身についても理解は進行途中だ。

葉山翔一 > 「なんていうか……よくここまで無事に来れたよな?
そんな事大きな声で言ったら連れ込まれてるって。
媚薬の用途もまあ……知ってるま」

簡単に人を殺せるものかと思えば何で媚薬だと呆れ。
勿論知っている、扱った事もあるのだから。
なので頷いてしまい」

「それなら判るのか……。
人間を模してるのなら出来るかもしれないぞ?
見た目の可愛いし、触った感触も全く人間と同じなんだ。
せっかくだし試してみるのも経験だぞ?」

経験はあるがそれは同じ人間が相手。
少女のような機械とは経験はないがこれだけ人間と変わらないのであれば案外と考え。
色々学びたいと言ってたので何事も経験だと告げていき。

取り出した商品は話の間に消音機付きの物だけ残してしまい。
それ用の弾とマガシンを取り出して置く。

フィフティーン > 「...?媚薬については用途を調べておきます。」

この姿で落第街をうろつくという事がどういうことを意味するか
そこを理解できていないのがこの少女であり機械。
普段の戦車の姿で制圧しながら歩いているわけではないのだ。
相変わらず声を詰まらせる青年にも不思議そうな様子で。

「折角の提案ですが、この場は遠慮しておきます。
実際に可能なのかもどういった挙動を起こすかも分かりませんし、
この義体には自爆用の液体爆薬も備わっており
予期せぬ挙動を起こした場合、起爆する可能性もあります。
私はまだこの身体を失いたくはありません。」

好奇心の塊としては性行為がどういうものなのか大変興味はある。
ただ、それ以上に義体を理解しきれていないからこその不安要素もあり
折角得た、世界観全てが置き換わるほどの経験をくれるこの身体。
失うことは避けたいと考えていた。不安要素が払拭できれば
それらの行為にも食いつくのだろうがまた後の話だろう。

「私はそろそろ帰ろうかと思います。代金は此方の方に。」

滅音器内蔵型拳銃とそのマガジンと弾薬をバッグへと放り込み
ファスナーを閉めた後に肩を掛ける。
重量は増えたはずだが全く変わらない様子で。
また後に代金と称して一枚のカードを彼に渡す。
そのカードには茸と歯車が不気味に絡まったようなロゴと
「Eryngii Robotics」という文字が記されている。
機能として海外の銀行口座に直結しており
今回の買い物の代金とぴたりと一致している金額が眠っているだろう。

買い物を終えた少女は肩にかけたバッグと金髪を揺らしながら
軽い足取りで落第街を去っていく。

葉山翔一 > 「そうしてくれ、まあ……調べたら調べたで面白いかもな?」

知識はあるのに無知な所もある少女のちぐはぐさ。
落第街では本当に見ないタイプ、今更にもう一度よく無事だったなと感心し。

「そうか、そんなら仕方ないな。
あー……それならって…爆薬あるなら俺が一番困るっての。
そっちは修理できれば直るが俺は確実に死んじまう」

自爆用と聞けば流石に死にたくはないと言葉を撤回。
興味はあるがそれで死んでしまっては元も子もないと。
少なくとも爆発リスクがなくならない限りはこの話題は持ち出す事はないだろう。

「それが良いな。俺も売ったら引き上げる」

拳銃と弾薬をしまい込むのを眺め、代金はと確認する前に出されたカード。
滅多に見ないそれではあるは代金がそこに眠っているのは知っているだけに黙って受け取り。

そして去っていく後姿に「まいどあり」と声をかければトランクを持ちその場から消えてしまって。

ご案内:「落第街大通り」からフィフティーンさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から葉山翔一さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」にアルン=マコークさんが現れました。
アルン=マコーク > 薄曇りの夕暮れ、いつもよりも早く日が陰るころ。
金髪の少年が一人、竹箒を担いでやってくる。今日は大きなちりとりも持参しているようだ。
小綺麗な格好は落第街に興味本位でやってきた間抜けな学生そのもので、演劇の衣装のような紅いマントは二重の意味で場違いであった。

「雨が降ってくれれば、砂埃は流れて助かるね。そのうちに側溝もさらわなければ」

そんな展望をのんびりと呟く少年――アルン=マコークは、ちりとりを置くと竹箒を素早く動かした。

昨日の騒動、大通りでの狂気の自傷行為についてを聞き及ぶものは、かかわり合いにならぬようにと目を逸らす。
つまり、この大通りを行く大半の者達が。
起きた揉め事の情報は、雷よりも速く伝播する。
情報に敏くなければ、この落第街でうまく生き延びることは難しいのだ。

アルン=マコーク > 湿った空気は、通り雨を予感させる。
どうしてか多かった生ゴミを、小規模な神聖雷撃呪文で消し炭に変えながら、掃き掃除を進めていく。

「雨具を用意していなかったな。今日は早めに引き上げるか」

今にも降り出しそうな、重く、湿った空気を感じると、天を仰いで、アルンはため息をついた。

「そいつァ困るな……おめえに話があんだからよ」

風を切る音。アルンが振り返るより先に、迫っている。
攻撃が!

アルン=マコーク > 瞬間、アルンは素早く膝の力を抜く。
横薙ぎの一撃をしゃがんで躱し、後ろを振り向く。
不意打ちを回避。追撃はなし。
(獲物は腕一つぶんの長さか)
そのままの勢いで回転、背後の襲撃者の脚を狩らんと下段の回し蹴りを放つ。

崩れた態勢からの一撃はしかし、追撃をせず、距離を取った襲撃者にやすやすと避けられた。

「ああ、そう上手くはいかねェか。まあ、そうだろうなァ」
「君か」

大きな鉈を肩に担ぎ、斜めに構えていたのは、アルンに腕を灼かれ、即座に治癒された男だった。

アルン=マコーク > (周囲に殺気はなし、ひとりきりか、しかし)

「ビビってんだろ?『なんで俺が攻撃するまでわからなかったんだ』とか……っくく、漫画じゃあるめえし、まさか気配がどうとか思ってんじゃねえだろうな、ええ?『勇者』サマよう」
「そうだね。完全に気配がないところから君は現れたが」

男の表情を、アルンは冷静に確認する。
男は懐から何かを取り出し、軽く放った。飛んできたそれを、アルンは受け取る。
何やら魔力の込められた、細かい紋様の描きこまれた紙切れ。
その紋様の意味はわからない。

「『隠形の呪符』。そういう暗殺向きの道具ってのは、裏ルートで手に入らねえこともない。コネも、金も必要だがな」

男の瞳には昏い歓びが浮かんでいる。

アルン=マコーク > 「わかるか? つまり、コネと金がある誰かが、おめえを殺してこいって命令したんだ。もうおめえはおしまいってわけだ」
「おしまい? とはどういう意味だ?」

眉を顰め、首を傾げて心底わからない、といった表情で問いかけるアルンに、男は歯を剥き出して叫ぶ。

「バラバラに臓物ブッ散らかして死ねってこった!!!!」

アルンが持っていた紙切れが、不吉に黒く輝き始める。
待機状態であった魔力が励起し、その紋様――魔法陣に込められた効果を発動する。
閃光。
大通りの一角に、激しい爆発音が響いた。

アルン=マコーク > 爆煙の向こうが輝いている。炎の色ではない。
黄金色の輝き。おそらくはあの『勇者』サマの異能だか魔術だかなのだろう。

男は懐から拳銃を取り出し、油断なく構える。

(煙が晴れたところに、ありったけを撃ち込んでやる!)

「なるほど」

爆発音で一時的に聞こえづらくなっている耳に、その声は妙に良く響いた。
そこまで大きな声ではない。
しかし、地獄の底から響くような。

「君は『悪』だな」

決して逃れることを許さないような。

アルン=マコーク > アルンの背中には、巨大な光の翼が生えていた。
爆発の余波から、通行人を守ったらしい。
そのせいもあってか、爆発を無傷で耐えたわけではないようだ。
額を伝って、僅かに血が流れている。

「『勇者』サマがお綺麗にモブを守るってかァ!? 後で治せばいいんじゃなかったのかよォ!」

怒りに任せて、しかし冷静に。
男は拳銃の引き金を引く。距離はおよそ8mといったところ。
自分の腕を斬り落とした、不可視の斬撃が届く距離ではないはずだ。

となれば。

(来るよなァ、やはり!)

少年の右腕に、雷光が集う。
馬鹿げた威力の雷撃の魔法。
必殺の魔法が放たれようとしていた。

アルン=マコーク > そして、それこそが男の目的。

男に与えられた三つの魔術道具の最後の一つ。
『隠形の護符』『起爆符』『返雷の呪符』。

勇者が強力だというならば、自分の放った必殺の魔法を跳ね返してしまえばいい――!

「神聖雷撃魔法(カンデイン)!」
「死ね!!!勘違い野郎が!!!!」

激しい稲妻が男に向かいそうになり、急にその矛先をアルンへと向け直し、炸裂した。
白い閃光が視界を焼き、大地を揺らした。

アルン=マコーク > 目が慣れると、アルンが立っていた地面は割れ、焼け焦げていた。
アルンがいつもゴミ山にそうしているように、そこには僅かな灰が残っているだけで、人の居た証拠など欠片も残っていない。

「ひひ、ひひひ……ざまあ見ろ」

それはそうだろう。

「滅びろ、『悪』」

単純に、勇者は移動していたのだから。

アルン=マコーク > 瞬間的に起爆符を起動できたのは、奇跡のような偶然だった。
いつの間にか足元から迫る逆袈裟の斬撃を、自分もろとも爆発に巻き込むことで、結果的に回避することに成功した。

男は爆発の勢いのまま、地面に背中を叩きつけられ、空気を全て吐いてしまう。

「がっは!?」
「逃さない」

静かな声が耳に届く。そんな小さな声が、聞こえるはずもないのに。

「ひ、ひいいいい!」

隠形の護符を全開で起動する。
そのはずなのに、煙の向こうのアルンが、真紅の瞳がこちらを見ている。
何故? 隠形の護符はたしかに励起状態にある。見つかるはずがない。
どうして? 雷撃を跳ね返したはずなのに、無傷なはずがない。
そんな心の声が、今は煩わしい。
うるさいうるさい、そんなことはどうだっていい!
逃げなくては、今すぐ。
あの化け物から、わずかでも遠いところへ!

アルン=マコーク > 爆煙が晴れた後、アルンは周囲を見回した。
『悪』の姿がない。

(しかし、あの魔力は感じる)

アルンの神聖雷撃魔法を跳ね返した、妙な魔法具。
徐々に離れていくその気配を頼りに、アルンは走り出した。
頬に雨粒が落ちる。
雨足は強まり、気配が薄れていく。

(気配を断つ魔法具――なるほど。強力だな)

しかし、『悪』を逃がすわけにはいかない。
・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
だから、気配のある周囲全てを焼き払うしかない。

「滅びろ……広域・神聖雷撃魔法(ミナ・カンデイン)!!!!」

雷の雨が、大通りの一角に降り注ぐ。

アルン=マコーク > 雷が不自然な跳ね方をするのを見て、アルンは瓦礫を蹴り、その方角へ走る。
途中で跳ね返ってきた雷を浴びるが、気にも止めない。
神霊に愛されし勇者であるアルンが、神聖雷撃魔法で傷つくことなどありえないからだ。

『返雷の呪符』によって守られた男は、反射した雷が自分の居場所を知らせていることに気付く。
しかし、呪符を止めることはできない。こんな雷の嵐を、逃れることなどできはしない。

「ああ、なんで、こんな、化け物が……どうして、俺が、こんな目に!」
「僕が勇者で、君が『悪』だからだ」

どこに向けたでもない呪いの言葉に、勇者が返答する。

アルン=マコーク > 「あの爆発で、ほかの人を巻き込んだろう。『悪』め……滅びるがいい」
「おめえがソレを言うのかよォ!!!!!」

男は腰を抜かし、足元の小石をアルンに向けて投げつける。

「このザマを見ろ……こんな! お前の雷で街がボロボロだ!」

雷に穿たれた建物からは、火の手があがっているのが見える。
幸いにも、この通り雨のおかげで大きく燃え上がっていることはないようだ。

「何人が傷ついたか! お前のほうがよっぽど多くを巻き込んでる!」
「今回は威力を絞った。君の居場所を探るための魔法だからな」
「そういう問題じゃねえだろう!!!!」

アルン=マコーク > アルンは眉を顰めて尋ねる。

「じゃあ、どういう問題なんだ?」

人が傷つくことを、なんとも思っていないような問いかけに、男の言葉が止まる。
こいつは、この化け物は。

「傷はいつか癒える。建物はまた建て直せる。だが『悪』は、人を損ない、新たな悪を産む。そんなものを、許すわけにはいかないだろう」
「おま、お前は人間じゃない!!!!」

こいつは異邦人なんて、生易しいものじゃない!

しかし、そんな男の叫びが、どこかに届くことは二度となかった。

「そうさ」

アルンは右腕を振り抜いた。
右手の先には、光輝く剣。
剣の先には、物言わぬ躯。

「僕は光の勇者だからね」

ご案内:「落第街大通り」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 > 風紀委員会の所有する特殊な車両
サイレンを鳴らすことでその存在を主張し、現場へと迅速に駆けつけることが出来る
往々にして、それらは落第街の住人には歓迎されないものだろう
しかし、今この状況下では…どうだろうか

「うわ…なんでまたこんな……」

あちこちから上がる火の手
慌てて逃げることで二次的なけが人なども発生しているだろう
現場はやや混乱した状況、手慣れた風紀委員でもやや対応が遅れてしまう

「とりあえず手分けして消化と、けが人の保護を──」

一緒に現場に訪れた風紀委員二名に指示をし、自分もまた駆け足で現場の調査に入る
その大通り、やや進んだ場所で見た光景は…──どこか現実離れしたような

「──そこまで。"これ"をやったの、貴方ですか」

眩いばかりの光の剣を携えた少年へと、声をかける
光に貫かれている人は…動かない。おそらくはもう──

アルン=マコーク > 「まずいな……早く帰らないと」

神聖雷撃呪文で破壊した家々を見て回り、瓦礫に潰された住民や、雷でやけどをした人々に、治癒魔法をかけていく。

完全なマッチポンプなのだが、雷の雨が目の前の少年によって引き起こされたものであるなどと、気付くはずもなく。
繰り返される感謝をやんわりと拒否しながら、アルンは破壊してしまった一角を回っていた。

アルン=マコーク > 「やあ、こんばんは」

雨の降りしきる中、少年はかけられた声に振り返ると、笑顔で挨拶した。

「これというのは、街のことですか、それとも『これ』のことですか」

これ、と言いながら、光の剣で男の死体を指し示す。

「どちらも僕がやりました」

そして、光の剣は解けるように消える。
敵意はない。そう示すかのように、少年は片手を上げた。

伊都波 凛霞 >  
「──………どっちもです」

雨に濡れ、顔に張り付いた髪を指で退けながら、まっすぐに少年へと視線を向ける

返ってきた答えは…素直なもの
やや淡白、とすら言っても良いかもしれない

「…助けてたよね。怪我した人達のこと…。
 私、立場上は事情を聞かないといけないんだけどな…」

街に被害を与えたのは自分だという
そして男を、恐らくは殺害したのも
その上で、彼はこの騒ぎで怪我をした人に対して治療を行っていたように見えた
そのちぐはぐな行動の答えを、問う

アルン=マコーク > 髪を直す手付きをぼんやりとした目で追っている。
何か思うところがあるのか、それとも何も思っていないのか。
夕闇に紛れてその表情は曖昧に見える。
笑顔のような顔つきをした少年は、まるで世間話でもするような気負いのない口調で答える。

「はい。事情というほどのものはないですね。『悪』を滅ぼし、その途中で傷つけてしまった人たちを癒やしていました」

悪、と言いながら傍らの死体にちらと目をやる。
どうやらその男が、少年の言う『悪』であるようだ。

伊都波 凛霞 >  
「悪……」

少年の目線の先にある、遺骸
口元をきゅっと結んで、雨の中ゆっくりと、倒れている男の元へと向かう
何をするのか、といえば…その場にしゃがみこみ、ただ少しの時間、手を合わせる
それだけ

ややすれば立ち上がって、再び少年へとその視線を向ける

「──この人は、一体何をしたの?」

それが、知りたかった
関係のない人に怪我をさせて、危険な目に遭わせて──
でもそれを治療して歩くのは、そこに悪意があったわけではない
そこまでは、理解が及んだから

アルン=マコーク > 手を合わせ、祈りを捧げる少女の様子を、興味深そうに見つめていた。
少年には、祈りというものが理解できないのだろうか?
視線を戻した際、不躾な視線を恥じるように僅かに視線を外して、それから再び、目を見て答える。

「彼は僕への私怨から攻撃を仕掛けてきたのですが……その際に、通りの人間を巻き込むことを厭わない、爆発物を用いたのです。僕は彼を『悪』と認定し、滅ぼしました」

微妙に癖のある日本語で滑らかにそう答えると、少年は小さく呟くように漏らした。

「彼への謝罪は昨日済ませたはずなのに……彼はそれを良しとしなかったんでしょう」

伊都波 凛霞 >  
「…そっか。君の言葉を聞く限りは、君には非はなかったようにも思える。
 と、いっても…"彼"から何も聞けない以上は、君の一方的な主張にすぎないんだけど…」

手を合わせた遺骸へと、もう一度視線を送る

「でも『私怨』ってことは発端は君にも一因がある、ってことだよね。
 ……爆発物がどんなものだったのかは兎も角して、それでも少し、やりすぎな気はするけど……」

雨の降る天を仰ぐようにして、見上げれば
消火作業が行き渡った廃ビルからは僅かな黒煙が上がっていた

「殺す必要も、あった?」

済んだ瞳が、勇者を見つめながら問いかける

アルン=マコーク > 「失礼。言葉が足りませんでした」

死体に目をやる少女を不思議そうに見つめながら、アルンは大雨の中居住まいを正し、背筋を伸ばし、胸に右腕を当てて、口を開いた。

「我、光の勇者アルンは、我が言葉の全てに嘘偽りのないことをここに宣言する」

芝居のような口調で、儀式めいたやりとりを大真面目に口にする。
わずかな間の後、小さくため息をついて付け加えた。

「後は……そうですね。彼との諍いについては、やりとりの際に同席した人間が数人いました。僕の発言が偽りではないと証言してくれるかもしれません」

そして、目の前の少女の澄んだ目を、正面から見つめ返す。
紅い瞳は揺れることなく、少女を捉える。

「はい。『悪』は滅ぼさなければならない。僕は『悪』を許さない」

伊都波 凛霞 >  
「光の、勇者……」

その言葉に少しだけきょとんとしつつも、なんとなく、異邦人の類なのだと納得する

「アルンさん、でいいんのかな。…私はリンカ。
 ええと…なんていえばいいのかな…此処の警団…?みたいなもの…わかるかなあ‥」

異邦人に組織のことを説明するのはなかなか難しい
勇者であると名乗った少年に、どう言えば伝わりやすいか、と考えた結果の言葉だったが…

「……そう。もう彼には何も聞けないから、わからないけど…。
 ねえ。貴方は二次被害にあってた人達を治療してまわっていたよね…。
 みんなきっと怖い思いをしたと思う。この落第街にはたくさん人が住んでいるし、ましてやここは大通り…。
 住むところがなくなるかもしれない恐怖とか、瓦礫が降ってきた時のこととか…心には治せない傷もできるよ?
 何が言いたいか、伝わるかな……」

アルン=マコーク > 「警団……ああ、騎士団ですか。警邏を目的とした。夜分までお疲れさまです」

頭を深く下げて、少女を労う。
完全に隙を晒す行動であるのだが、特に気にした様子はない。

「そうですね。『悪』は人々の心に暗い影を投げかけるものです。僕は未だ全ての『悪』を、この世から滅ぼしきるに至っていない……」

アルンは表情を歪めて俯くと、しばし置いて、

「しかし、僕は人間の強さを信じています。幾度打たれても、また立ち上がる強さを、人間は持っている。どんな恐怖だって、明日には乗り越えてゆく。僕はそれを……人間の心に宿る光を、誇りに思っています」

胸を張って答えた。
……言いたいことは、恐らく伝わっていない。

伊都波 凛霞 >  
「──………」

この少年の言葉は、ひどく強い
そう感じる
強烈なまでの、エゴイズム
この少年はきっと、本来形のないものである理想や、正義…
そういったものしか、見えていない……
そう、思わせてしまうほどに、少年の光は、強く……──危うさを感じた

「私は、強い人間ばかりじゃない…とも思うけど。そういう信念を否定はしない。
 でも、じゃあ…それなら余計に、どうしてこの人を殺したのかが、わからない…。
 本当に君が人の強さを信じているのなら、滅ぼすのではなく、光に導くことが正統、なんじゃない…?」

人は、弱い側面もある
時には、魔が差して…彼の言う悪の側面を見せることもあるだろう
けれど僅かな良心や、ちょっとしたことで…完全に染まることを拒む人もいる
むしろ、そういった人間が大半なのではないかとすら、思う

アルン=マコーク > 「そうですか。え、ああ、それは……なんとも、不思議なものですね。否定されなかったのは、初めてです」

ひどく面食らったように、目を白黒させながら、少年はたどたどしく言葉を紡いだ。

「『悪』には、『アシェ』……ああ、ええと……幸せ、か。幸せを他人と分かち合う機能がないんです」

言葉の翻訳に手間取るように、理解してもらおうと丁寧に言葉を選んでいるようだったが。

「損なわれてしまったのか、摩耗したのか。そういう人間……人間だけじゃない、野の獣の中にも一定の周期で『悪』は現れる。『悪』は水瓶に空いた穴です。そこにあるだけで、水を零してしまう。それは、そういった性質であって、『悪』が悪いということではないですが、滅ぼさなければ、人々は幸せになれない」

どこか違う論理。違和感の拭えない倫理観。
目の前の少年は、正しく『異邦人』であるということを嫌でも理解させられる。

「だから、滅ぼすしかないんです。それが、勇者の役割ですから」

そう言って向けられる笑顔は、本当に少女の感じる『笑顔』のもつ意味を持っているのだろうか?

伊都波 凛霞 >  
「──ちょ、ちょっと待った、ストップ!」

少年の言葉がものすごい勢いで斜め上にズレていく
これは片手落ちだ、異邦人とわかった時点で、そういうタイプとのやりとりに優れた風紀委員を応援に呼ぶべきだった

「アルンさん、貴方は最初から此処にいた人じゃない、ですよね?」

一応の確認、そこが違っていたら元も子もない

「ええと…いいですか?
 この島…というか、この世界でいう「悪」って、貴方のいう「悪」とは性質が違うもの、なんです……けど…」

理解、してもらえるかなあ…と…
やや、弱気
異邦人とまともにやりとりしたこと、あんまりないんだもん

アルン=マコーク > 「あ、ああ……すいません。そうですね。そうだ。わかってもらえるはずがない」

金髪の少年は力なく謝罪した。
後半はぼそぼそと呟くような声でそう漏らしている。

「はい。僕はこの世界に召喚されて、一時的にこの身体を借りています……ああ、認識に齟齬がありそうですね」

そして、困ったように説明を続ける少女につられるようにして、表情を歪める。

「そうでしたか。では、こちらで言う『悪』とはどのような性質を持っているのですか」

そして、困っている少女を助けるのは勇者の仕事であるとばかりに、胸を張った。

「それを知れたなら、僕にも。あなた方の追う『悪』を滅ぼすことも、できるかもしれません」

伊都波 凛霞 >  
「そう…だね…。えっと……」

説明、するには…
勇者と名乗る彼には…やや、辛いことになるかもしれないと
けれど、これは現場に居合わせた自分が責任をもって、やることだ──

「こちらでいう悪とは、法律に背く行為のことを言います。
 法律は掟、決まりのようなものと言えばわかるかな……。
 そして『悪』というのはどんな人の心にも必ずあるもので、なくなることは、ないです」

当然、私の中にも、と胸元に手をあて言葉を続ける

「でも悪と同時に善の心も持ってます。その均衡が悪に傾いた時…魔が差した…何ていうんだけど。
 そういう時に、人は法を侵し、裁かれる存在…「悪人」になる……。
 でも貴方の言う悪とは違って、そこから改心し、善人に戻る可能性もたくさんあるの。…そう」

「──アルンさんが殺した、その人にも」

やや表情を陰らせる
この世界では悪は、絶対に不可逆的なものではないということ、そして…

「だから…君がとった行動も、私達から見たら…「悪」になる、と思う」

アルン=マコーク > 「なるほど。僕は――この身体の持ち主、閂くんも、法についてあまり詳しくないようです。だから気づかなかったんだな」

唇に手を当て、何かを考えている。
そして、思い当たったように顔を上げて、少女の目を見た。

「僕が何かの法を犯してしまっていて、そしてあなた達が来た。あなたからすれば僕は『悪』で、それは僕の倒さねばならぬ『悪』と違って、絶対に覆らないようなものではないが、あなた方は『悪』である僕を討ち滅ぼさなければならない」

少年は目を細める。身体の重心を落とす。
その行動の意図がわからない。
常識を同じくするものではないから。

「そういうことですか?」

目の前の少年は、『異邦人』だから。

伊都波 凛霞 >  
「身体が違う…って、言ってたね。
 そのへんは色々調べてみないとわからないかもしれないけど…」

少年の様子を伺いつつも視線を真っ直ぐに戻して──
…しつこい雨だ、少しくらい遠慮して降ってくれてもいいのに

「ううん…討ち滅ぼすなんていうのは、此処では最後の手段。
 捕まえて、反省してもらって、罪を償って、善人への道を歩んでもらう。
 …そういう、世界なの」

悪人は討ち滅ぼすもの
固定観念に囚われているというよりも、これは違う世界を生きた人間同士の会話
互いに距離を縮めようとしない限りは、心は噛み合わない──

「アルンさんの言う『悪』は、この世界にはないと思う…。
 そしてこの世界では、『悪』は必ずしも滅ぼす必要のないもの、です。
 アルンさんが此処で行ったことも、本当にそれが罪にあたるのかは…これから調べた上で、法に照らし合わせて決められること、なんだけど……」

何も知らない異邦人の行動
それを矯正できる者が不幸にもいなかったこと
ひいては、責任能力の有無──
この場では、ある程度の裁定すらも難しい事案だろう

「だからきっと、今必要なことは…沢山こちらの世界の話を聞いて、
 たくさん、アルンさん自身の話を聞いてもらうことだと思う…私と一緒に、来れる?」

悪意がなかったことは、理解できる
それでもよくて、風紀委員の監視対象
悪ければ…しばらく身柄を拘束されるかもしれない
どのような理由があれど、彼の取った行動は、破壊活動と殺人、なのだから

アルン=マコーク > 「そうでしたか」

その言葉と同時に、視界から少年の姿が瞬間的に消える。
魔力の気配はない。ただ単純なその身体能力をもって、

濡れた地面に身体を投げ出し、顔を地に押し付け、両の掌を上に向けていた。
泥にまみれ、くぐもった声で言葉をつぐ。

「罪があるとするならば、いかようにでも償います。善人……というのが何かはわかりませんが、勇者と兼任できるのであれば歩みます」

声が震えている。

「僕は……『悪』を滅ぼさなければならない。この身に『悪』が在るというなら、取り除いて下さい」

お願いします、とか細い声で懇願する。
超常の力を振るい、街を破壊し、一人の人間を惨殺した者とは信じがたい、弱々しい声で。

伊都波 凛霞 >  
一瞬、その姿を見失った
自分の動体視力で…?と、戦慄を覚える程度には、勇者を名乗る少年の能力は逸していた
けれど、その声は弱々しく──

「…善と悪は光と闇…この世界の人の心に等しく在るものだよ」

這い蹲る少年へと、ゆっくり、足を進める
スカートや、脚が汚れることは気に留めず、その側へと膝を下ろして

「大丈夫…君は君の考える「悪」とは違うよ。
 この世界では、罪を犯す人が悪とは限らない…、君はきっと、何も知らなかっただけ……。
 犠牲は、出ちゃったかもしれないけど…」

弱々しく、震えた声
やや痛ましいとも思えるその姿、背中にそっと手を触れて

「此処には、自ら望まない限り不可逆的な悪なんてないから、安心して。
 君の力はきっと、この世界でも「悪」を「善」へと導ける。
 えっと、『善』っていうのは『悪』の逆で───」

ややもたついた説明をしながら、彼に話しかけていると、先程別れた他の風紀委員2名が駆けつけてくるのが見えた
男の死体や、状況の説明は、後にしよう
そう考えながら、少年の肩を支えるようにして立ち上がろうとする

アルン=マコーク > 「善と悪が等しく在る……?」

少女の言葉に、びくりと身体を震わせる。

「……そう、僕は知らない。この世界における『悪』も。あなた達が信じる『法』も」

伏せたままの表情は伺いしれない。しかし、声に先程までの弱々しさはもう、ない。

「だとしたら、あなた達はそれをどう裁いているんですか。等価の悪を、どうやって識別しているんですか」

駆けつけてきた二人の増援を前に、身体を跳ね起こす。
少女が差し伸べた手を振り払うように、魔術的な光の翼が編まれる。

「……危うく判断を投げ出すところだった。僕は僕が『悪』ではないと知っている。僕は光の勇者だから、『悪』と『勇者』が両立することはあり得ないと知っている」

励起状態になった魔力。いつ放たれるともしれない、完全な臨戦態勢。
それは……事情を知らない風紀委員にとって、敵対行動と映るかもしれない。

「あなたと、あなたが信奉する『法』は『悪』ではないのか? その答えが得られるならば、同行しよう」

伊都波 凛霞 >  
「っと……」

差し伸べた手は、振り払われた
こちらに近寄ろうとする二人には、静止をかけて

「…ん。わかんないよね。
 君が此処のことをまだ知らないように、私も君の世界のことを詳しく知るわけじゃない。
 だから、まずはお話。言葉がちゃんと通じるだけでも本当に良かったよ」

臨戦態勢をとるアルンに対し、凛霞はやや眉の下がった笑みを向ける
ただそれだけで、警戒する姿勢すらも、とらなかった

「答えは、よーくこの世界のことを知った後で、君が出さなきゃダメなもの。
 そしてそれは私も同じ。私が知らないだけで、君の言うような『悪』がもしかしたらこの世界にもあるかもしれない。
 今必要なのは、互いの知っている世界の姿を知ること…だから、私と一緒に来て」

そう言って、跳ね除けられた手を、もう一度差し伸べた

アルン=マコーク > 「僕の言葉は本当にあなた達に通じているのか」

差し出された手を、雨に打たれるそれを、少年はじっと見ている。

「あなたの言葉を、僕は本当に理解できているのか」

焦がれるように。手を伸ばそうとして、止めた。

「あなたのこの手は、かつての僕だ。僕は信じ、『悪』に奪われた。『悪』は人間の信頼を『使う』」

少年の視線には、闇夜でも隠しきれないほどに、強い感情の色が込められている。
感情の機微に敏いなら、あるいは、そういった異能を有しているなら。
それが、憧憬だとか、渇望といった感情のないまぜになったものであると気づけるかもしれない。

そして、深々とため息を吐き、

「ああ。ああ……あなたの信頼を、僕は信じたいけれど、勇者はそれを是としない」

どうしようもないのだとばかりに首を小さく横に振る。

「僕は勇者だ。答えは揺るがない。君たちに身を任せることは、『できない』。どうしようもなく、反応してしまう」

だから、無理難題とわかって、希う。

「あなたが『悪』ではないと、示してくれ……」

伊都波 凛霞 >  
「いいよ」

即答だった
差し出した手をそのままに、言葉を続ける

「君の言葉を信じるなら『悪』は幸せを分かち合うことができない、だったっけ?
 だったらまず、君の『幸せ』を、私に教えてよ!私がそれを感じることができれば、理解することができれば君の敵…『悪』じゃない証明になるはずだよ」

あらゆる感情の混ざってしまった少年の表情
理の違う世界にいることを、おそらくは理解して尚、使命に殉じようという強い意思──
あるいは、そう決められているもの

だったら、こちらからそちらに寄り添うだけだった
後から駆けつけた二人の風紀委員はやや心配そうな視線を送るも、この凛霞という少女に在る種の信頼をおいているのだろう
その場から動こうとせず、ただただ、見守っていた

アルン=マコーク > 「僕に幸せはない」

勇者だからね、と微笑む。

「だから、それはできないんだ」

そして、増援の二人が手出しをしないのを見て、何かを察したように頷く。

「あなたは、この世界における勇者であるようだ。その在り方は僕とは違うけれど……ならば、勇者と勇者の約定ということにすれば……問題ない。それなら、力が反応することもないだろう」

そう言うと、少年は光の翼を収め、差し出されたままでいた手を両手でそっと包むと、唇を近づける。

「異(まれ)なる勇者よ、我、光の勇者アルンは、貴殿への調停を『保留』する」

唇が触れそうになるところで、少年は許可を取るように視線を上げて、目を見つめる。

「僕は『法』には従わない。あなたの裁定に身を任せることに決めた」

伊都波 凛霞 >  
幸せはない、と微笑む少年
勇者だから、と、そう言った
勇者は幸せにはなれない…ということなのだろうけれど、それは──

どういう意味なんだろう、と問いかけようとした矢先…

「うん???」

勇者?私が?みたいな感じでちょっと呆気にとられる表情を見せてしまう
と、同時に、手の甲へと近づけられる、少年の唇

「え、あ-…えっと…わ、わかりました。じゃあ、そういうことで…」

なんか後方で見てる風紀委員二人の視線がちょっとエッちょっと見たいな感じになっている気がする…
でも風紀委員として、まずはこの場を収めることが肝要だろう そのはず!

「わ、わかりました…光の勇者、アルン…」

やや耳が赤かった気もするが、この薄暗さではよくわからないだろう、きっと

──ややして、しとどに降っていた雨がややその雨足を弱める
裁定を少女に委ねる、と言った少年
おそらく、殺害した男は二級学生…常世学園の裁定では存在しない者
更に、加害者はこの世界の理を知らぬ異邦人、で、あれば責任の所在は…?
重く見ても、風紀委員の監視下に置かれる…そんな程度だろう

どういう理屈なのかは、完全には理解しかねるけれど、彼はその手を取ってくれた

「裁定、光の勇者アルンはこの場を混乱させた罰として此処大通りの保全作業を手伝ってください」

風紀委員、それも女3人じゃこの広さは結構大変なんだよ?と苦笑しつつ、そう告げるのだった

アルン=マコーク > 苦笑の意味を理解したのか、はたまた別の何かと勘違いしただろうか。
ともあれ、アルンは素直に裁定を受け入れた。

「はい。元よりそのつもりです。大まかに怪我人は治したはずですが……」

唇で触れることはなく。差し出された手を、名残惜しそうに、僅かに握り、それから手放した。
そして、少年は後ろに控えていた二人に視線を向ける。

「僕はアルン。光の勇者です。必要な作業があれば教えてください」

素直に頭を下げる。
雨足は弱まり、柔らかな月光が差込んで、アルンの金色の髪に反射する。

「高所の作業、力のいる仕事、治療や解毒など。たいていのことはできます」

再び光の翼を展開すると、一打ちして宙に飛び上がった。

「上手く使って下さい。僕には……わからないことが多すぎる」