2020/07/26 のログ
ご案内:「落第街大通り」に『陰鬱な弦楽奏者』さんが現れました。
『陰鬱な弦楽奏者』 > 鳴り響く。
落第街に似つかわしい歪んだ音色で。
落第街に似つかわしくない荘厳な音色で。
弦が空を震わせて、闇夜の中に鳴り響く。

午前2時。
落第街に、沈痛な音色が響く。人の狂気を沸き立たせ、人の怠惰を引き起こす、
諦めと陰鬱をもたらす、泥濘のような弦の音色が。

『陰鬱な弦楽奏者』 > 外に出てくるものは居ない。
それがこの怪異の力なのか、それとも誰も気付いていないのかはわからない。
……あるいは、出てくる気力すら薄れているのか。

気力を奪われ、現状に言い訳し、ただ現在を受け入れ始める。
何かを成そうという意思はそのままに、それを行う気力が失せていく。
故に今の何もしない自分を正当化するために、愚痴を溢し、嘯き、吐き捨て、
そして闇の中で潰れるように眠っていく。
……落第街の一角では、異様なほどに犯罪発生率の低い区画が発生していた。
しかしそれは、治安がいいからというわけではない。

そこは、この怪異の通り道なのだ。
無気力と無為を撒き散らす、この陰鬱の化身の。

『陰鬱な弦楽奏者』 >  
例えば、この落第街での生活を良しとしないとして。
例えば、光の当たる学園で真っ当に過ごしたいとして。
例えば、友と語らい、恩師に授かり、ただそんな普通の生活を望むとして。

全ては叶わぬ夢となる。
『どうせ叶わない』『次にやろう』『時期が来れば必ず』『何も無理しなくても』
現状を肯定するため、無為と無気力を自らの口から吐き散らし、
怠惰の泥濘に沈み、溺れ、そのまま心も体も朽ちていく。

ある者は、過去の失敗を思い出すかも知れない。
ある者は、現在の逆境を受け入れる準備をするかもしれない。
ある者は、未来の絶望から必死に必死に目を背けるかもしれない。

いずれにせよ、逃避と虚構の満足の先にあるのは、碌なものではない。
…否。あるいは、それもまた幸福なのかもしれない。

『陰鬱な弦楽奏者』 > 午前5時。
朝日が昇るのと同じ時間に、朝焼けの光に溶けて消える。
新たな希望の一日を知らせる輝きを、オーディエンスの喝采の如く背に受けて。

こうしてまた、一日が始まる。
変わらぬ日常を、変わらぬ労働を、変わらぬ学業を、
そして何より代わり映えのない人生を背負い、人々は歩き始める。

……この一角の人々は除いて。
泥濘に沈む事を運命付けられた人々は、決してその足を前に出すことはない。
希望に背を向け、絶望から目を背け、丸く蹲って縮こまるだけだ。
それが大罪だ、悪徳だと指摘するものは、誰も居ない。

『悪を為すこと』は万人に明らかなる罪なれど、
『善をも為さぬこと』は罪と断じることができないのだから。

ご案内:「落第街大通り」から『陰鬱な弦楽奏者』さんが去りました。