2020/07/30 のログ
■涼風 雷火 > 「……あ、ボク分かった。『ヒーロー』としてじゃなくて『人間』として最低なんだ。」
呆れて溜息をつく少女。
最早『断罪』以前の問題だと認識し始めた。
ひとまずは風菜さん任せでいいか、と更に諦観、もしくは傍観の気持ちになる。
■持流 童男 > 「うっ・・・!!」
明らかに動揺する。
「・・・本当でござるよ。某は病院に行こうと思ってたでござる。」
本音を言いつつも
「某の古い友人が休むことを教えてくれたのでござる。こう、お主の威圧に気圧されて、用事がと言ってしまったでござる。済まない」
地面に頭を擦り付ける。
雷火さんのヒーローとして人間として最低という言葉を聞いて
(あぁ全くでござる。某は最低な人間でござる)
少しだけ悲しい顔をしつつも。
■雨見風菜 > その童男の姿に
「……まあ良いでしょう。
私も、少し怒りすぎました」
すっかり毒気を抜かれた様子で。
「さて、では一緒に病院に行きますよ。
それも嘘だったら承知しませんからね」
それでもまだ信用しきれてない視線を童男に向ける。
そこで雷火に向き直り。
「ええと……雷火さん、でしたっけ。
ごめんなさい、これから彼を病院まで連行しますので失礼しますね」
童男の言った名前を思い出して。
置いてけぼりになってしまった彼女に、すっかり怒りの抜けた顔で謝る。
「また、機会があればお話しましょうね」
■涼風 雷火 > 「なんかもう、ボクは悲しいよ。保身、言い訳、逃走。
無茶なんてなんでもないって風でいて、自分を変なところで守ろうとして逃げる。
なんなの、本当にさ。守りどころも頑張りどころも何もかも間違ってるじゃん……」
がっくりと肩を落とす。
今日一番、悲しそうな顔を浮かべた。
「ああ、うん。風菜さん、後は任せるね。なんか『断罪』する気にもならないや……」
はあ、とため息を盛大につく。
しゅん、とポニーテールも心なしかうなだれたように揺れる。
「あ、そうだ名乗ってなかった。ボクは涼風雷火。よろしくね。
うん、機会があったらもうちょっと別のお名無しもできたら良いな」
やや力なく手を振ってみせる。
■持流 童男 > 「おう!気をつけて帰るでござるよ!雷火殿!!」
言いつつも
「・・・・そうか、某は逃げようとしてたのでござるな」
「・・・・次に繋げる。逃げないように」
言いつつも引きずられていきつつも
「風見殿があのことを忘れてくれててよかったでござる・・・あ」
うっかりポロットでてしまった。
■雨見風菜 > 「忘れてませんが、そんな場合じゃないですからね?」
そう言いながら、童男を連行していくのであった。
ご案内:「落第街大通り」から持流 童男さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から雨見風菜さんが去りました。
■涼風 雷火 > 「風菜さん、優しい感じなのに怖かったなあ……」
二人が去った後、少女はポツリと漏らした。
「……あ。そういえば、此処例の場所だった! こういうところに平気でいる女の子が、普通なわけ無いか。
ボクも急いで帰らないと……」
はたと、何かに気づく少女。
慌てて自分も走り去るのだった。
ご案内:「落第街大通り」から涼風 雷火さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に水無月 沙羅さんが現れました。
■水無月 沙羅 > 「なかなか、見つからないよね。 そりゃぁ。」
沙羅が理央の元を去ったその後、彼女はとある違反部活と接触を図ろうと奔走していた。
【裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》】
この落第街の、ある種均衡を保つために一役買っているという組織。
悪には悪のルールがあり、その秩序を守る者たち。
風紀委員を頼るわけにも行かない今の沙羅にとっては、そういった者たちに頼るほかなかったともいう。
何より、『神代理央』が抱え込んでいる狂気が、この街を焼きかねないという事を伝えるためでもあった。
しかし、探していると言ってそう見つかるものではない。
沙羅も風紀委員としてこの街を廻っていた身、先日の拡散された映像にも名前が出ていた故に、関わろうとする人間もほとんどいなかった。
孤立無援とはこのことか。
ご案内:「落第街大通り」に吸血鬼《ヴラド》さんが現れました。
■吸血鬼《ヴラド》 >
黒き鎖は、探した所で見つかりはしない。
しかし、そう探している者が――今はその証なくとも――風紀委員である事、『拡散された例の映像に出てくる名前の少女』と知っている住人たちもここには多い。
そんな立場の人間の行動は言ってしまえば派手に目立つ。
彼女が、していることは、存在しないはず幻想がこの世にあると言っているようなものだ。
それはあまりよろしい事ではない、組織にとっても。
噂として、掴めない煙でなければならないのだ。 少なくとも表向きは。
故に男は黒い霧となり浮かび上がる黒い動物――狐――を模した片目だけ欠けた面をした存在として、
独り言を口にした少女の正面から声をかけた。
「何か、人かモノをお探しかな?」
周囲は彼を避けるが、認識した様子はない。
認識阻害によって普通の者は彼には気が付けないが、そこになにかあると無意識に男を避けて歩く。
《言葉/意志》を向けられた少女だけは気づくことが出来るだろう。
■水無月 沙羅 > ――それは唐突だった。
誰もいないように見えていた其処には、黒い狐の面を被った男が居る。
無意識の中に隠れていたかのように、突然に目の前に出現したことに驚きを隠せない。
辺りを見回しても、自分を避けようとする人混みの目は変わらない。
関わりたくない相手に関わろうとするモノ好きを見る、好奇のまなざしは感じない。
だとするならば彼は――
「……。名前、出しちゃ……まずい、のかな。 えっと、すみません。
こういう場所のルール、分からないから。 悪を裁く悪……彼らを探している。
っていえば、通じるんでしょうか。」
――自分に話しかけてくる彼は、《あたり》かもしれない。
見かねて話かけた、という線が最も濃いが。
期待せずにはいられない、自分にとっての蜘蛛の糸。
今はそれに縋りつくほかなかった。
臆面もなく、目の前の男に尋ねる。
■吸血鬼《ヴラド》 >
彼女の、水無月 沙羅の表向きの情報は掴んでいる。
風紀委員の一人であり、同じく風紀委員であるお騒がせの『鉄火の支配者』の恋人。
定期的に受ける情報からその程度の事は理解しているし、なんなら一度この街で『自殺』したのを見たという奴もいる。
更には今の状況だ。
ある意味では、『鉄火の支配者』よりも今は有名な者の一人だ。
あの公開された情報では、名前だけ。 顔がなかったからこそ調べて知ろうとした奴は多い。
「……そうだな、話をするなら道の真ん中というのは、あまりよろしくない。
人の通りの邪魔になる」
通じたとも通じないとも答えはしないが、黒い霧は大通りから一つ横に入る道をの方を見た。
この認識阻害も万能ではない。
人混みなどで長くそこに違和感があり続ければ、気づく人も出てくる。
「悪を裁く悪か……。
幻想の話《おとぎばなし》はあまりいいものではない」
落第街の大通りにありながら居住区(スラム)へ続くその横道は人影も減る場所のようである。
男は、なにも言わずそちらへと先行する。
■水無月 沙羅 > 「お伽噺でも……構わない、それが幻想だったとしても。
今の私にはそれが必要だから。」
きっと、自分は快く思われていない。
紛れもない、二級生にとっての敵、風紀委員、その中でも最も忌み嫌われていると言っても過言ではない、過激派筆頭の『鉄火の支配者』の恋人。
これが罠で、理央憎さに自分を殺そうとする人間や、拉致して人質にしようとする人間が接触してきたとしてもおかしくはない。
そうだとしても、自分がそれに批判する権利はない。
沙羅は彼らにとってそういう人間なのだから。
恐怖心を唾液と共に飲み込んで、拳を強く握りしめた。
何が起きてもいいように、警戒だけは怠らず、彼が歩む横道の後へ続く。
「……自己紹介は、必要ないと思いますけど。
一応、私は水無月沙羅です、肩書は、今はありません。
貴方は……誰なのかって、聴いてもいいんでしょうか。」
不安を押し込める様に口を開く。
黙っているだけで息が詰まりそうなのは、きっとこの空間だけが理由ではないだろう。
今の沙羅を取り巻く状況全て、沙羅にとっては敵かも知れない。
その事実に緊張を隠せずにいる。
■吸血鬼《ヴラド》 >
「水無月 沙羅。 その名は、まあ、今や有名な個人名の一つだ」
そんな人物が接触を図ってきた。
窓口とかそういう担当が組織内にある訳ではないが、
先日の件の事後報告に来たらたまたまそういう輩がいるとこの街で暮らす構成員から耳打ちされた。
巡り合わせ、今一番手早く対処できる人員だった。 それだけである。
「少し違和感を覚えるだろうが、受け入れろ」
そう言うと男は、彼女も道の影に入ったのを確認して印を結ぶ。
簡単な精霊魔術。
呼び出すための印結びにより常世島に存在する精霊を呼び出し、意思を伝えることで効果を発揮する学園でも習う程度のもの。
これはその低級魔術。 ちょっとだけ、周囲から認識されづらくなる光と闇の精霊魔術。
これがあるだけで農業区を荒らす野生動物を狩猟するのが段違いに楽になる技の一つ、農業に役立つ程度の魔術だ。
「俺は、《ヴラド》と名乗っている」
そして、
「君の探す幻想、悪を裁く悪
―――裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》の一人」
闇の中だと言うのに、
欠けた瞳の部分から見える 赤い瞳 は煌めいて
君を、水無月 沙羅の瞳を覗き込む。
「何故――……我々を探している?」
霧に包まれた男の声はただただ事務的に、少女へと問い掛けた。
■水無月 沙羅 > 「……有名なのは、自覚はしているつもりです。 少なくとも、この街の中では。」
普通の生徒なら、なんてことはないゴシップに出てくる名前、数瞬後には忘れるであろう、そんな事件だ。
だが、此処ではそんな言い訳は通用しない。
「えっと、わかりました。」
魔術の影響を感じる。
拒絶しようと思えば自分で拒絶することもできるかもしれないが、それは得策ではないことぐらいは理解できた。
少しの恐怖に目を瞑って、自分に悪影響がないことに胸を撫でおろした。
少なくとも目の前に立っているこの人物は、今は未だ敵ではないらしい。
「ヴラド……。」
名前を繰り返す、組織の人員まで把握しているわけではない。
ただ、そういう組織があるという情報から手繰り寄せた、細い糸、それがつながった瞬間だった。
「……裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》。」
覗き込む赤い瞳に、自らも赤い瞳を向け返す。
やっとスタートライン、此処からが沙羅の戦い。
自分を、『悪』と断じた沙羅の孤独な闘いの幕開け。
「虫のいい、お願いだという事は理解しているんです。
それでも、私は、あの人を助けたいんです……。
神代理央を、システムに、死神に成ろうとしているあの人を止めるために、協力してほしい。」
胸元を握りしめて、煌めく瞳を見据えたまま告げる。
一蹴されるかもしれない、むしろそれが当たり前の反応で。
それでも、今諦めるわけにはいかないのだ。
■吸血鬼《ヴラド》 >
名乗りを聞いた瞬間に、期待するような反応。
そして、決意するように握られた手は――…それに、何処にも見えない証。
「助けたい、協力して欲しい……そうか」
少女からは何やら決意のようなものも感じる。
「―――なぜだ?」
で、あればこそ少女の知り得ている状況は不明だが、
持っている情報から考えたところで『裏切りの黒』がこの少女を助ける理由はない。
「なぜ『鉄火の支配者』を止める必要がある?
彼は程よく街を牽制し、
彼と彼の率いる『過激派』はこの街に適度に均している。
で、あれば『我々』に彼を止める理由はない。
先の動画も、私怨かなにか……風紀に対する風当たりは強くなるが、それだけだろう。
風紀委員が起こす問題であれば、同じ風紀や公安が黙っているはずもない。
今、君が我々を頼る理由が分からない」
たかが悪評一つ、悪名一つ轟いたくらいで、何を焦っているのかと。
■水無月 沙羅 > 「……。」
男の、《ヴラド》と名乗った彼の言葉に、首を振る。
決してそれだけでは済まない、そんな予感もあるが、本題はそこではない。
「今の、『神代理央』なら、確かにあなたの言う通りでしょう。
問題を起こしただけの、『悪』だけを切り捨てる、今まで通りの彼だったのなら、存在しない者を刈り取る正義の執行者の彼だったなら、私も後をついていきました。
あの動画を見ただけなら、私怨が起こした風紀委員の名声を汚そうとする、唯のゴシップ動画に見えると思います。
――でも、そうじゃないんです。 そうじゃ、ない。」
目を伏せる。 自分がいま、どんなことを彼に言っているのかは理解しているつもりだ。
この街の人間が、彼によって殺されるのを自分は容認する、そう言っている。
それは、この町に住む彼らにとって、心良いことではないだろうことも、しかし彼らにとって、それは止めるべきではないという事も。
彼らはあくまで、悪を裁く悪なのだから。
――でもそこには例外もあるはずだ。
「……今殺されようとしている、『神代理央』は、『鉄火の支配者』である彼、なんです。
『鉄火の支配者』で居る事を強いられていた、彼なんです。
それを演じる事を、強いられていた彼なんです」
なんといえば、目の前の吸血鬼は理解してくれるだろうか、理解したとして、協力してくれる保証もない。
もともと、断られて当然の願いだ。
「彼は、言っていました、言ったんです、私に、打ち明けてくれたんです。
たった一度だけ。
殺したいわけじゃない、傷つけたいわけじゃない、そうやって、泣いていたんです。
そう言った彼は、あの言葉に殺されてしまう。
だめなんです、その言葉を発した神代理央が殺されたら、『正義の死神』に成り果ててしまう。」
「……きっと、この街を一つ残らず燃やし尽くす、『正義の執行者』になってしまう。」
彼を縛る、支配者の呪縛である『もう一人の理央』なら、きっとそうするだろう。
彼の良心が殺されてしまったら、究極の正義の執行者になったとしたら、存在しないものは、悉く消されるだろう。
それが沙羅の感じている危機感の正体だった。
「わたしは、そんな風に泣いている彼を、助けたいんです。」
「――正義の死神を殺す、『悪』になってでも。」
■吸血鬼《ヴラド》 >
「なるほど……」
動画でも一方的に罵られ感情的に『悪手』な台詞を放つ彼の姿は、まだ記憶に新しい。
それに少し前の幌川 最中もいた現場での負傷に加えて、その恋人の登場。
つまり、
この少女は、『鉄火の支配者』をただのヒトに変えたという訳か。
で、あればこの少女の願いは罪悪感から来る悲鳴とも取れる。
「少し理解したが、それこそ同じ風紀の仲間に止められるのではないか?
幾ら彼がたった一人での殲滅戦に優れていようと、多勢に無勢でもある。
街を全て焼くというのも現実味に欠ける。
彼と衝突し目を光らせているという公安の一員もいると噂に聞く。
そして、君のことはよく知らないが故に聞くが……」
一瞬だけ、言葉を区切った男が肩を上下に揺らして
ここではない何処かを見た気がした。
それは最近のことを、少し思い出したのかも知れない。
■吸血鬼《ヴラド》 > 「君はどのような『悪』で『正義』とやらを害するつもりなんだ?」
■水無月 沙羅 > 「……。」
彼のいう事は、逐一が正しく、通りだ。
どんなに彼が殲滅戦を得意とする異能であったとしても、風紀委員や公安の彼らが立ち上がれば、それは抑え込めるのだろう。
それは、きっと間違いない。
でも、それではだめなのだ。
それでは、遅いのだ。
「不愉快に、思ったら……ごめんなさい。
あなた達の言う、悪というほどの、それじゃないかもしれない。
あなた達ほど、崇高な理念があるわけじゃない。
それでも。」
■水無月 沙羅 > 「わたしが、あの人を助けなきゃダメなんです!!
あの人の隣に居る、あの人の罪も、悲しみも、全部を一緒に背負うって約束した、私が止めないといけないです!!
ずっと傍に居る、必ず助けて見せるって約束したんです!」
■水無月 沙羅 > 「……きっと、今の彼は。 死神にされてしまった彼は、それを望まない。
だから、これは私の我儘なんです。
私の我儘で、いろんな人を巻き込んで、いろんな人を踏みにじって、それでも。
それでも彼を助けたい。
正義も、志も、知ったことじゃない。
私は、彼だけの、味方でありたいから。」
一息で吐き切って、思いの丈をぶつけて。
申しわけなさそうに、うつむいた。
■吸血鬼《ヴラド》 >
彼女の大声を聞いて、
あー、近くに組織のメンバーいてよかったーと思わず、笑う。
周囲のメンバーにより先程の認識阻害よりも強い阻害が既にこの場に、あの魔術を使ったタイミングで行われていた。
「く、はっはっは、はははははは!」
なるほどなるほど、
思いの丈を『ぶつけられる側』になるというのは、思わず笑いたくもなる。
「なるほど、『それ』が君『水無月 沙羅』か。 悪くない」
先程までの、感情のないような声から一転し人らしい声色へと変化する。
よく見れば、顔から霧が薄れ、消える。
その顔は嬉しそうで、楽しそうだった。
「なんだよ、最初のよく分からない理屈より断然いいじゃんか。
下手理屈幾つ並べられるより、その単純な理由の方が最高だ」
我儘だってさ、そう言ってしまえば『鉄火の支配者』なんてやってるのも彼の『我儘/傲慢』だろうと青年は思っている。
なら、その彼を彼女だから好きだから惚れた弱みだからと止めようとする『彼女の我儘』は認められないものだろうか。
そんな事はない。 彼女、恋人なのだから『不遜』でいいのだ。
恋人は操り人形でも道具でもない。
なら、これは。
「そこまで言い切ってんだ。 俯くな、前を向けよ。
要は君は、『彼氏』をガツンと一発やって『正気』にしたいっていうように俺には思えるんだけど
そこはオーケー?」
そう言いながら、逆に男は申し訳なさそうに笑っていた。
■水無月 沙羅 > 「ぅ、わ、笑わなくても……いいじゃないですか。
私だって、恥ずかしいこと言ってるのぐらい、自覚してます。」
こうも盛大に笑われると、拗ねたくもなる。
唇をとがらせて、ヴラドと名乗った少年を少し睨んで見せる。
本当に怒っているわけではないけれど、恥ずかしさを隠すように。
しかしその悪態も、少年の様な楽し気な声色に毒気を抜かれることになる。
どうしてこの人は、こんなに嬉しそうなんだろう。
がんばっていろいろ説得の言葉を考えたのが、少し馬鹿らしくなった。
「えっと……、はい。 端的に言えば。 そうです。
『オーケー』です。」
頷いて、同意するほかなかった。
そこまではっきり直訳されると、顔も赤くなる。
これでは惚気ているようなものだ。
■吸血鬼《ヴラド》 >
「オーケーオーケー。
でも、結論だけ言えば、現状じゃ『幻想』は力を貸せない」
喉を震わせてまだ、笑いながら。
こういうこっ恥ずかしい台詞をちゃんと聞けるっていうのは、
確かにそれだけで幸せなんだろうな。
「街の一部がどうにかなる、一個人が壊れる。
そんなのは『幻想』が現し世に出てくる理由にはならない。
ま、状況が変わったら即行動がモットーみたいなところはあるけどな」
となれば、彼女の願いは叶わない。
「それに、この街の秩序っていうのは結構よく出来てる。
残念だったな」
そう、この街を消せるとすれば、それは『学園の支配者』が動いた時くらいだ。
広いこの街はただ一人が暴れた程度で消せるほど、ここにいる連中も甘くはない。
「……あー、面白かった。
面白かったから、個人的に協力は必要ならしよう」
「ま、俺じゃ『鉄火の支配者』を一秒も止められないだろうけど」
そう、笑みを浮かべながら言って、左手を伸ばす。
「君が『悪』で『彼氏』をぶん殴るのを見たくなった。
俺個人で手伝える事があれば多少の協力は惜しまない」
必要だと言うなら、この手を取るといい。
■水無月 沙羅 > 「……あはは、はい。 最初からわかってはいたんです。
きっと協力は得られない。
彼がどんなにこの島を破壊しようと思っても、上には上が居る。
だから、彼が死ぬとしたら。
それはきっとこの島に揉み消されて。」
なら、彼らが動く必要はない。
島の、学園の自浄作用によって消されるような存在ならば、幻は存在する必要がない。
実像に任せておけばいい、現象に任せておけばいい。
それでも、無力な自分を助けてくれる誰かを、欲していた。
独りは、心細くて、怖いから。
「だから……そんなことにならないように、私が助けたいんです。
あの人を、殺させたりしない。
正気に戻して、戻ってきてもらわないといけないんです。」
少し恥ずかしそうに、笑い返す。
個人として手を貸してくれる、そんな風に言ってくれる人が居ることが、何よりうれしかった。
あの人を、私を認めてくれる人がちゃんといるのだと、此処に証明してくれる人が居る。
「猫の手だって借りたいぐらいなんです、情報も、人手も足りない、私は無力だから。
私の『我儘』を、見届けてください。」
左手を伸ばして、その手を握る。
「……あの、なんで左手なんですか?」
何か意味があったような。 無かったような。
■吸血鬼《ヴラド》 >
「特に意味はないが、強いて言えば
……右手は最近不幸が多いから」
そういう口調は苦虫を噛み潰したような声色である。
握った手を話すとふと思い出したかのように、
「じゃあ、どうするかは知らないが早速助言として他人からの受け売り言葉を一つ、だ。
――"遠慮ない方は嬉しい。変に遠慮されたり、変に敬遠されたり、変に腫物扱いされる方が……人って傷つくもの"
だそうだから、一発やる際は全力を期待してるよ」
武器を持つのは利き手。
守るための防具は反対の手。
これは『守る』ための協力関係だから、とはちょっと厨ニ臭くて言えないなと笑みで誤魔化す。
「……さて、先ずは何が必要かな?」
■水無月 沙羅 > 「不幸が多い……ですか。 わかりました、深くは聞かないでおきます。」
この人にもいろいろ事情があるのだろう、飲み込むことにする。
青臭い理由が言えないなんてことは、彼女の頭には浮かびもしない。
そもそも沙羅自体が、青臭いことを全力でやっているのだから。
「つまり、やるなら正面から……ですか。
わかりました。
こう、一発、想いっきり引っぱたいてきます。 グーで!」
握り拳をみせてにこっとする。
多分彼の言っていることはそういう事ではないのだろうが。
自分は意外とそういう頭を使うのは苦手なのだという事に最近理解してきていた。
「……先だって、必要なのは情報です。 私は腐っても風紀委員です、この街での情報収集は意味をなさないでしょう。
あなたなら、いろいろな方法があるでしょうから。
あの殺し屋について、できれば背後関係が判ればうれしいんですけど。」
高望みしすぎだな、と少し自重して笑って。
「あと……いろいろお願いしすぎなのは承知なんですが。
たぶん、理央さんの近くに居たら、私は彼のコマにされてしまうから、あそこにいるわけにも行かなくて。
でも行く当てもないんですけど。
どこかいいところ知りませんかね。」
単純な話、寝る場所が欲しい。
ここ24時間ほど、あてもなく歩いているゆえに体力も限界だった。
安心感からか、眠気まで襲ってくる。
油断すればヴラドと名乗った少年に倒れこみそうなほどに。
■吸血鬼《ヴラド》 >
「ま、遠慮なく全部ぶつけて行くといいよ。
あんな啖呵切れるんだ。 遠慮するのは馬鹿らしいさ」
少女の握りこぶしに笑いつつ、
さて、どうしたものかと考えはじめる。
「情報と寝床ね……
そうだな、調べる気はそんななかった件だが少しそこは調べよう。
寝床に関してはそうだなぁ……
異邦人街寄りのスラムに融通のきく場所がある。 そこでよければ使ってくれて構わないって……!」
フラフラする少女に思わず手をのばす。
倒れるのであれば、少女を支えるだろう。
――寝床、提供すれば嫌でも色々と関わることになるなかなと考えていたのが中断される。
■水無月 沙羅 > 「っ……と、すいません。 もうずっと寝てないもので、あはは。」
首を振り、考え直す。
「……いえ、寝床は、やっぱりよしておきます。
よく考えたら、私、たぶん追われる身ですから。
風紀とか、下手すれば公安とか……危険な異能持ち、ですからね。」
苦笑いをして、一歩二歩後ろに下がる。
「幻を、現実に視認させるわけにはいかないでしょう?」
くすりと笑って、元の道へ振り返った。
今は協力者ができただけで、それだけで十分だ。
「私は現実に帰りますから、また。 現実と幻の境目で会いましょう?
吸血鬼さん。」
ふら付く足取りを、口の中を噛みしめる様にして耐える。
ヴラドが止めないのであれば、彼女はそのまま幻を後にするだろう。
迷いはもうない。
■吸血鬼《ヴラド》 >
「だから、遠慮するなって言っただろう?
行くならここに行くといい……先程言った場所だ。
ちょっとした廃施設の奥に鍵のかかった部屋がある。
好きに使え、数日くらいなら貸してやる」
そう言って最後に彼の言う施設についてメモ書きと古びた鍵を手渡す。
「そちらも色々あるのだろうが、
一度抱いた『我儘』は大切にするといい」
「――それは『君』が『彼』を『守る我儘』だ」
■水無月 沙羅 > 「……意外と、お節介焼きなんですね。
ヴラドさん。
わかりました、そういう事なら遠慮なく。
出ていく時には鍵は部屋の中に置いておきます。」
呼び止められれば、睡眠という名の欲求にあらがえるはずもなく、受け取るほかなかった。
正直に言えばかなり嬉しくはあるが、相手も心配になる。
ずっと敵視してきた違反部活を行う生徒だというのに。
「―――どこまで、貴方の言ってることを私ができるのか、わかりません。
我儘を言い通すの、あんまり経験ないんです、ずっと誰かに従って生きてきたから。
だから……。」
「ありがとう、わたしの『我儘』を守ってくれて。
理央さんに会ってなかったら惚れちゃったかもしれませんね。」
でも、まだ足りない、もっと、協力してくれる人を集めないと。
私一人が何を言っても、きっと彼は止まらない。
自分にできる最大限をするために、今は休息をとろう。
背後の吸血鬼に最後に一礼をして、今度こそ、この場所から、幻の一幕から退場する。
自分の我儘を通すためにするべきことを、考えなくては。
■吸血鬼《ヴラド》 >
「それは、僥倖だ」
相手の言葉は冗談として笑って受けておく。
「では、また君が幻に足を踏み込んだ時か……
機会があれば、また会おう」
そう言って、少女が去っていくのを見て、青年もまた闇に消えていくだろう。
ご案内:「落第街大通り」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から吸血鬼《ヴラド》さんが去りました。