2020/08/14 のログ
ご案内:「落第街大通り」に月ヶ杜 遍さんが現れました。
月ヶ杜 遍 >  
「だァ~~~~~から、そんな依頼受けるわけにはいかないって何度言えば理解るんですの?
 不満も文句もタラタラなのは理解してますけれど、私にはやる理由がありませんもの。」

しっしっ、と足に縋り付くように擦り寄ってくる落第街の連中。
そんな惨めな姿とは相反するような、上品で清潔感溢れる姿でそれを振り払う女。

「……そんなに不満がおありなら、自分ですればいいじゃありませんか?
 私、便利屋ですが自殺志願者ではありませんの。
 『鉄火』を討伐してくれだなんて、万札10束積まれたって嫌ですわよ。」

月ヶ杜 遍 >  
「えぇいうるっさいですわねぇ。分かりました検討します検討します。
 ただ受けるかどうかはこっちで決めさせてもらいますので。
 ただでさえ面倒事抱えてるのにこの上『鉄火』なんて……」

ブツブツ言いながら、すっと取り出したメモ帳にかりかりと書き込む。
それを見てようやく安心したのか、ペコペコと頭を下げる衆愚たち。
……なんともシュールな光景ではあるが……一応、納得は出来た模様。

「はー、ったくもう。……どうせクスリのシノギが邪魔された逆恨みでしょうに。
 誰がやり合うもんですか面倒くさい。」

けっ、と去っていった連中の背中に舌打ちを一つ。
面倒事は極力避けたい。元風紀委員であり、一応彼らの先輩に当たるのだし。
彼女は古巣と事を構えるとどれほど面倒かも、しっかり理解していた。

ご案内:「落第街大通り」にハルシャッハさんが現れました。
ハルシャッハ >  
――この時間帯は裏通りも表も騒がしい。
衆愚も多ければ影の中を生きる住人にとってもかき入れ時になる。
男のところにも飛んでくる暗殺の依頼に、
半ば苛立ちをごまかさない男はめんどくさい顔を隠さなかった。

「うるせぇってんだろ……。
 確かにカネかかっちゃいるがオメーなぁ……。」

帰れ帰れと追っ払って大通りへ歩みを進めれば、
ちょうど女の姿のあるとおりに出るのは偶然の一致の出来事だ。
めんどくさい顔をごまかすように、頭をガシガシと掻く手は、
面倒事を嫌がるクズ独特の顔だ。
ちらりと、相手の方向に視線が飛んだ。

月ヶ杜 遍 >  
「………あら。」

ちらりとその姿を見る。
見覚えはないが……見た感じ、カタギの人間ではないことは理解した。
それに、被食者ではないことも。
さらについでに……その後ろに腰巾着のように付いている、暗殺依頼を持ち込んだ男を見た。

「……そこにいらっしゃるのは、私に依頼しておいて金払いが惜しくなって
 逃げた素敵なご依頼者様じゃありませんの。お元気でしたか?
 私、貴方の事を思うと体が熱くなって夜も眠れない生活を送ってましたのよ?」

当然怒りで、だ。
そのうち探し出して顔面を蹴り潰してでも金を搾ってやろうと思っていたところ。
ガンガンとヒールを割れたアスファルトに打ち付け、硬い音を上げる。

ハルシャッハ >  
その声に声をかけてきた男が明らかに拒否反応を示したのが見える。
そのような事をすれば裏の世界はより厳しい。
取り立ての対象がカネから命に切り替わることは珍しいことではない。
男としても、そのような事態になれば喜々として取り立てに走るだろう。

「――だそうだな?
 とんでもねぇ行状持ちじゃねぇか。 首でも払っていくか? え?」

ニヤリと笑顔を浮かべれば相手はすぐにでも逃げ出しにかかるのが見えた。
もう、それ以上追うこともないが、カネがかかれば男の財布に収まるだけだ。
追跡は暗黒街の仲間に聞けばすぐにでも動き出すことが出来るのだから。
拒否と殺意をないまぜにした音がアスファルトを叩く、
それだけでも圧としてはかなり強いものとなる。

「……マジか? 今の話。」

近づくとボソリと、女に耳打ちを入れるのはやはり裏の住人だ。
男からすれば、裏取りを取るのはよくやることだった。

月ヶ杜 遍 >  
じろりと目線を逃げ出す男に投げて、しかし追うこともない。
むしろ、逃げ出すのを待っていたようにも見える。

「マジもマジ、大マジですわよ。このまま泳がせて人通りが少なくなったら
 きっちり出すもの出すまで全身蹴り潰して差し上げますわ。
 私、こういう契約はきっちりしてもらわないとナメられると思ってますので。」

がしがしと地面を叩いていたヒールをすっと抑え、再び上品そうな雰囲気に戻る。
先程の人物とは別人……とまではいかないが、まるで人が変わったようだ。
あるいは猫を被っているのか。

「ちゃんと依頼者の名前と住所を抑えておくのは大事ですわよぉ?
 特にこんな情報が信頼できない場所なら尚更。
 当然、裏取りも必要ですわ。」

ハルシャッハ >  
むしろ逃げてくれたほうが好都合だった。
面倒なことは少ないに限る。
そして、先程の話が相手からすれば本当であったなら、
男からすればそれはカネの種だ。

「確かに道理だな。 ――仮に、首にカネかかってるなら俺の方で狩り出すか。
 それか、捕まえてそっちに突きだしたらカネになるかね?」

ニヤリと笑う男はカタギではないのはよく分かる。
盗賊と言われる昔ながらの人種独特の空気だ。
追跡、捕縛は無能力者ならば容易にできる程度の腕はあった。

「それも確かに、だな。
 まぁ、ルートが悪い依頼なんざこんな物だろうが。」

男も男で軽く体勢を戻し、きちんと対話する構えを取る。
革鎧の一式に身を包み、
バックラーを握る白の姿は昔ながらの盗賊そのものだった。

月ヶ杜 遍 >  
「ふふふ、そうして下さると面倒がなくて助かるんですが、生憎私個人の問題ですので。
 それに……とっ捕まえてしょっぴいたら、その礼金を払わなきゃいけないでしょう?」

手で口元を覆い、クスクスと笑う。
その目は心底笑っているとは言いにくい代物ではあったが、少なくとも敵意や
剣呑な雰囲気は醸し出していない。

「まぁ、カタギの仕事は大体公安や風紀に食われちゃいますからねぇ。
 私のような便利屋が生き残るには、やっぱりこういう供給の細い界隈でないと。
 多少ルートが悪くても、まぁ情報料と思えば少しは溜飲が下がるというものですわよ?
 それはそれとしてあの滞納野郎はハンバーグにしますけど。」

……やっぱりまだ怒ってるっぽい。

「……ところで、あの男に声をかけられてたということは……もしかして同業の方ですこと?
 それならご挨拶しておいたほうが良さそうですわねぇ。
 私、『月ヶ杜 遍』と申します。便利屋《月妖》を経営してますの。
 あ、これ名刺です。」

スッとポケットから名刺入れを取り出し、差し出す。
……落第街で、このような行為は非常に珍しい。
名刺もだが、自分の情報を相手に差し出す行為そのものが。

ハルシャッハ >  
「HAHAHA. 仕方ねぇな。
 最も、カネは俺にも回してくれたほうが幸せなんだがね。」

軽く笑い飛ばす男は男のことなどどうでもいい。
カネのクチになれば基本は何でもやる男だ。
しかしそれでも、敵をある程度選びながら働くのだが。
何処か和気あいあいとした空気の中で、男もまたそこにいた。

「それももっともな話だな。 公の組織が一番何だかんだ強えし。
 ――しかし、地形や裏事情といった情報は良いカネになるぜ。

 あとは、特段ヤバい奴らの捕縛の手引なんかもいい。
 ああいう奴らなんかも叩き潰してカネになるなら俺もやる。」

怒りはごもっともだ。
男もそれをやられたらクビをカネに変えているクラスの話であるから。

「同業は同業、だが……。多少なりとも毛色が違くてな。
 名前なんざわ分かればそれで良いもんだが――。
 最近では『ブラウン』と名乗り、呼ばれることが多い。
 落第街とスラムで盗賊をやっている。 よろしく願うぜ。」

名刺と呼ばれるカードをやり取りする文化は正直初めてだ。
受け取りはするが扱いがなんともわからないので、
とりあえずまじまじと見た後に、しまうこととした。

月ヶ杜 遍 >  
「あいにく私も他人に気前よく撒けるほど懐は暖かくありませんの。
 パンくらいなら奢りましてよ、食パンとか。」

どことなくケチくさい。まぁ、生活力があると言えば聞こえもいいだろう。
何にせよ、裏事情に噛んでくる職業はこういった根回しも大事。
敵を選べない依頼のときに『使える』からだ。

「ちゃーんと自分の実力も見ておかないと足を掬われますけどねぇ。
 さっきも『鉄火』を討伐してくれとか無茶振りが過ぎる依頼を回されましてぇ。
 当然受けませんけど。命がいくらあっても足りませんわよ。」

……『鉄火の支配者』。
苛烈にして狡猾、冷徹にして無慈悲。
従える鋼鉄の尖兵と振り撒く戦火の鉄槌にて罪を焼き悪を裁く、風紀委員会の『執行者』。
つい先日も、落第街での問題を裁き……それにより、壊滅した組織がアジトとして使っていた
廃倉庫まるまる一つが跡形もなく崩壊した、とかなんとかという噂が聞こえている。

「……ブラウンさんも、こういう無茶には気をつけないといけませんわよぉ?
 情報は力なんですから。きちんと裏取りはしておかないとねぇ。」

ハルシャッハ >  
「手厳しいもんだなぁ? カネは何だかんだ回ってくるもんだが。
 パンを撒くならスラムの連中にでも少し分けてやってくれ。」

ケチ臭さは男も見習うべきところであろうとは思う。
しかし、スラムや貧民とともに生きるスタイルの男は、
稼ぐ時に稼ぎ、使う時に使う男でもあった。
カネは適切に使えばいい仕事と縁を連れてくるものだ。賢く『使え』ばいい。

「そりゃそうだ。 俺もそんな依頼は御免被る。
 ――クビは取れなくもねぇだろうが、生命がいくらあっても足りねぇ。」

暗殺さえも軸とする男は本気になれば狙えなくはないのだろう。
しかし、それも割の良い悪いは常にあるものだ。
なにより、そんな事に割く時間が馬鹿らしい。
他のところで稼げる時間をわざわざコッチに割くこと自体がコストだ。
利益とリスクが釣り合わなければ暗殺は特にやる気が起きなかった。

「無論。 乞食たちの伝聞だったりもきちんと裏取らねぇとわからんしな。
 ああいうのはあからさまな『バカ』ってやつだが。
 きちんと調査しねぇと命が足りねぇ。」

月ヶ杜 遍 >  
「手厳しくもなりますわよ。夏は暑いが懐はひんやりですわよ!
 ……あら、もしかして義賊っぽい活動してらっしゃる方でした?いい事なさってますわねぇ。
 ま、それなら私は自分のために使いますわ。」

この部分は相容れない。……自分だけが大切、というわけではないが、
他人を気にかけたり、他人のために散財するような生き方はここでは長く続かない。
昨日手を取ってくれた人間を、今日崖から蹴落とすような世界が落第街。
食うか、食われるか。損得のない友情が成立するのは、地位と力のある者同士だけだ。

「大体、始末に成功したところで後に続くと思ってるんですかねぇ。
 風紀が本気出して動いて落第街の大半が焼き払われるのが目に見えてるのに。
 そんなことにも頭が回らないほどアホ……失礼、気が利かない方なのかしら。
 はーやだやだ、これだからその場の雰囲気で生きてる連中は。私はこういう依頼者は大嫌いですの。」

客商売にあるまじき発言である。
しかしこの女は、とにかく仕事を選ぶタイプであった。
……受けたくない仕事ややりたくない任務、断れば経歴に傷が付くであろう事も、
それ以上にそれを受ければ経歴以上に自分のプライドに傷が付くからだ。

ハルシャッハ >  
「そりゃぁ失敬。 いや、何だかんだではじめは釣り合わねぇが……。
 情報とか諸々の稼ぎの種を得れればその分稼げるんでな。
 うまく互いに、『自分のために』使おうぜ。」

情けは人の為ならず、回り回って己が為、である。
それは道理であり、残酷なる根本原理であることは疑う余地がない。
しかし、一方でその下に生きる弱い者達、
穏やかな暮らしを望む者達もまた大多数。
そんな弱き多数の力を借り、活かし、助けるのが男のスタンスでもあった。

「全くだ。 過激派をイキりつかせるだけだろうし……。
 よりヤベェ事になるのは火を見るよりも明らかだしな。

 ――ヒトの半分以下は平均以下の知能ってもんだ。
 俺達がいるのは、その半分以下の領域かも知れねぇけどな。」

男もその点は同意だった。その点を責める気はない。
キチンと白黒と峻別を付けられなければ、
この世界で生きることは叶わない。 それもまた、冷厳なる現実だった。

月ヶ杜 遍 >  
「うふふ、未来への投資ができるほど太く長い生活は送ってませんので。
 ……人生なんてそんなものですわよ、大体の人間の導火線は道半ばでブツ切りになってますわ。
 それなら自分が全て背負って、自分のためだけに生きるのもまた一つではなくて?」

情けは人の為ならず。それも道理としては正しいのだろう。
しかし彼女の胸に宿るのは、不透明で濁ったそれよりも朗々たる根本原理。
……『人は尽く獣』。己が為の情けさえ、獣にかけては砂に埋められるだけである。

「まぁ、私としてはそうなって下さっても仕事が増えて嬉しいのですが。
 別に二級学生や不法入居でもないですし、ほとぼり冷めるまでどこかに隠れるだけですわ。
 むしろそっちのほうが質の悪い仕事が減って良いかもしれませんわねぇ!」

けらけらと笑う。……性格が悪い。
この世界ではそれもまた真理。契約はあれど、情や慈悲など持つだけ損だ。

ハルシャッハ >  
「――道理だな。 俺も似たもんだがまぁ、良い。

 まぁ、竜の視点かもしれねぇからその点は差っ引いてくれ。
 生き方それぞれ、だ。 種を蒔くか、刈り取るか。
 その時その時のスタンスでしかねぇ。それにとやかく言うつもりもねぇよ。」

しかし、同族が同族を呼ぶ。獣に獣が付くのもまた事実である。
この辺りの人生の取り回しにおいては男もまた上手くはない。
やり方は様々だが、それでも何処か泥臭く、
しかしスマートに生きるのが男の目指すやり方だった。
埋められた種から芽吹くのを待つ、それもまた一つであるから。

「HAHAHA! 違いねぇ!
 似たようなもんさ。 雨が降れば家の中に居りゃぁ良いだけの事。
 俺も同じ手を使うだろうなぁ。」

女も女なら男も男。
下手すれば300年という長さを生きる生き物故の、
中長期で生きるという視点の長さはこのような点でも生きていたと言えた。

月ヶ杜 遍 >  
「ふふ、分かりませんわよ?
 人も竜も死神には大人しく首を差し出すしかないんですもの。」

どこまでも物騒でさっぱりとした女だ。
あるいは、何かを諦めているようにも見え……しかしそれは確証には至らない。
何か、底知れない物があるらしい。

「うふふふ、そこは気が合いますわねぇ。
 本当に、『鉄火』やら『黒鉄』やら『暴君』やら『工匠』やら……
 手を出したら出した手を切り落とされた挙げ句熨しつけて返される連中ばかりですもの。
 触れないに越したことはありませんわよ~、公安もそうですが。」

ハルシャッハ >  
「死神、ねぇ……。 大人しく首を差し出すつもりもねぇが。
 最低限やれるだけのことやるのが俺のスタンスでな。

 どうしてもダメなら、後は諦めるさ。」

死神の顔を持つ男としてはしゃーねーなと言わんばかりのこざっぱりした顔だ。
いずれ来る終末、盗賊という家業ならば尚更近い、
必ず来るものだろう。 しかし、それは今ではない。
足掻けるだけ足掻くという意味において、男は徹底的に生き汚かった。

「――全くだ。触らぬ神になんとやら、だしな。
 上手く立ち回るに越したこたぁねぇ。
 何れ、ぶつかる可能性があったにしても、な。」 

月ヶ杜 遍 >  
「あら、そこも気が合いますわね。
 来たら大人しく首を差し出す他ありませんが、手でも足でも使って追い返せるならそうしますわよ。」

……互いに、死神としての顔はある。
しかしそれは傲慢だ。もっと絶対的な死というものは、前触れ無く唐突に訪れるもの。
いずれは誰もが死ぬ。誰もが暴威と偶然の前に敗北し、膝を折る。
……しかしそれは今ではないし、少なくとも目の前の相手にでもない。
ならばそれまで、足掻いて楽しんで、只管に己の道を進めば良いのだ。

「ええ、そうしたいところですわねぇ。
 ……とはいえ、このままだといずれ誤魔化しが効かなくなりますわね。
 そのうちどこかで大きめの衝突が起こりそうですわ……ただでさえこの間の『戦火』の襲撃で
 復讐に燃えた残党共がお冠ですのに。

 ……さて、そろそろ私は戻らなくては。
 例の『戦火』へ報復を依頼してきた連中の前科を調べて風紀に通報してやるのですわよ。
 いや~、この瞬間が一番楽しいですわね便利屋やってて!」

ハルシャッハ >  
「――似通ってるもんだな、全くもって。
 そういう意味では互いにスタンスが同じ盗賊なのかもしれねぇが。」

同業故のエンパシーに近いそれなのだろうと思う。
そういう意味においては、男の心と、
今この場には青く澄み渡った青空が広がっている。

互いに思うところは同じ。

運命に翻弄され、時にまた因果律に支配されるのも同じことだ。
ならば、互いの自由と目的のために、今この場を楽しむ。
それは悪いことでは一切なかった。

「その時はまた稼ぎの種にするってだけだろ?
 場が荒れればモノも動くしカネも動くってもんだ。
 俺らもそれに乗って一稼ぎ。ってな。

 そいつぁおもしれぇ話だ。 俺も後で情報付け足してやる。
 風紀でいいか? 投げ込んどいてやるぜ。

 ――互いの無事と、武運長久を、ってな。」

月ヶ杜 遍 >  
「えぇ、偶然というのはあるものですわねぇ。
 あいにく盗賊稼業を始めるつもりはありませんけど。」

そこは流石に譲れない。
金のため、評判のため、誇りのため……
そして何より、自分がやりたいことを叶えるため、盗賊は遠回りだ。

互いに目指す所は違う。

青く澄み切った空が灰に染まるように、涙を流すように、怒声を荒げて猛り狂うように、
人を縛り連れ回す因果は一定になく、右へ左へとねじ曲がっていく。
……だが、今この境遇にあってなお、己の心は揺れず曲がらず、目指すところ違えず逸れず。
そこに悪も善もなく、ただ一切の損得を廃した意地だけがあった。

「そうなってくれれば一番いいんですけどねぇ。
 ……問題は、そうなった時についでに落第街全体への粛清に乗り出さないかって事ですわよ。
 ……稼ぎになると良いんですけど。

 うふふ、ご協力感謝いたします。
 風紀でも公安でも、適当に投げ込んでおけば動いてくださいますわよきっと。

 ……ええ、それではまた。無事……は祈ってあげられませんがね。」

……かん、とヒールが地面を叩く。
軽いその動きに似合わず、その一蹴は女の体を宙へと運び……
そのまま、地面を蹴るが如く壁を蹴り、空を走り、そして廃ビルの上へ消えていった。

ご案内:「落第街大通り」から月ヶ杜 遍さんが去りました。
ハルシャッハ >  
「――それでいい。
 最も、盗賊なんて名前さえ、いらねぇかも知れねぇがな。」

名前なんて、分かればそれで良い。
盗賊というスタンス、生き方において、名前なんてものは分かればそれで良いのだ。
形さえも水のごとくにして、器が与えられれば自由になってしまう世界。
その中で生きているのだから、フレキシブルになるのは当然だった。

そして、進む先が違うのもまた変わりはしないのだ。
流れに棹さすことさえもせず、互いに互いの大河の流れる先を目指せばそれでいい。
大河の流れ先はいずれ変わらずとも、場所と流れの急さは違う。
全てにおいて、それは同じことだった。

すべてが違い、全てが異なりながら、共に寄り添う。
それが出来るのがこの街であったから、互いにいられるのだろうと。

「ま、時勢を見ながら動くだけだ。
 緩くやろうぜ。 粛清だってんなら……。 とっとと逃げるに限る。

 OKOK. じゃ、俺からも匿名でぶん投げておくさ。

 HAHAHA. 『また生きて会おうぜ』。 それだけで良い。」

最低限言葉を投げれば、男も影へと消えるだろう。
悪くない会話だった、とさえ今なら思えるほどの、心の軽さを残して。

――後に、声をかけた男が風紀によって御用となったのは、
当然の結末であったと言えよう――。

ご案内:「落第街大通り」からハルシャッハさんが去りました。