2020/09/25 のログ
ご案内:「落第街大通り」に池垣 あくるさんが現れました。
■池垣 あくる > 「ええと……今日の警邏は、このあたり、でしょうか……」
普段とは違い手ぶらで、それでいて風紀の腕章をつけて落第街を練り歩くあくる。
いつものように槍を手に持ったままだと余計な刺激を与えてしまう、ということで泣く泣く置いてきたのではあるが。
「なんだか、手が寂しい、です……うう」
普段からほとんど常にと言っていいほど手に持っていた槍。
それがないまま歩くということは、全裸で歩いているにも等しい心許なさがあった。
あくるにとっては、全裸で歩く方がよほどましかもしれない。そちらに関する羞恥心の方が、かなり未成熟であるから。
ともあれ、何事かあるかないかと周囲をきょろきょろと見渡しながら、歩いている。
ご案内:「落第街大通り」に柊真白さんが現れました。
■柊真白 > 落第街を歩く風紀委員。
あれはたしか一時期誰彼構わずケンカを吹っ掛けていた槍使いだったはず。
それが何故槍を持たずに歩いているのだろうか。
しかも風紀委員の腕章まで付けて。
「槍は?」
だから本人に聞いてみることにした。
彼女の進行方向壁際にで、彼女が通りかかったタイミングで。
派手な服装の割にうっかりしていると見過ごすかもしれない存在感の無さ。
■池垣 あくる > 「っ!」
パッと見れば、ぼやーっとキョロキョロしているだけのあくる。
しかし、声をかけられれば、即座にその声の先から飛び退り、身構える。
「貴女は、どちら様でしょう……?私のことは、ご存じのよう、ですが……。いきなりの質問は、不躾では?」
キッと睨む。
視線で牽制しつつ、胸ポケットに手を入れ、構えは半身に。
そのまま、言葉を待つ。
■柊真白 >
先ほどまでのぼんやりっぷりとは一転した気配。
なるほど、良い戦士である。
「ごめん、癖みたいなもので」
立ったまま彼女を目で追う。
彼女が手を入れる胸ポケット、何か得物が入っているのだろうか。
「落第街でこうやって顔隠す程度のことしてる者。貴女は前こっちでちょっと暴れてた子でしょ。ホントに風紀入ってたんだ」
■池垣 あくる > 「それ、良くない癖だと、思いますよ?」
むすっとした表情で、拗ねたように告げる。唇が若干尖っている。
そのまま、じり、と間合いを図りつつ。
「そんなに、有名になっていた、でしょうか……?そんなつもりは、なかったのですが……。ええ、槍の最果てを見るためには、必要なことだと、思いました……。強さの別の視点が、欲しく、なりまして」
そこは素直に話す。隠すことでもない。池垣あくるにとっては、槍の最果てに至ること。神槍『天耀』を極めること。
それ以外のほとんどは、些事。姑息にあれそれと誤魔化す意味は、無い。
■柊真白 >
「知ってる」
そうして驚かせた相手の反応が面白いから。
悪い癖だ、とは自覚している。
「こういう街だからね。そういうのは噂になる」
誰彼構わずケンカを売れば、大抵はすぐ潰される。
そうじゃなければ避ける必要がある。
どちらにせよ、噂にはなるのだ。
「槍の、最果て?」
首を傾げる。
言葉の意味が分からないのではない。
むしろわかるからこそ、自分が持たないその考えを聞いてみたくて聞いてみた。
■池垣 あくる > 「……貴女、意地悪です」
更に唇が尖る。
律してはいるが、敵愾心が湧いてきてしまっている。
私は風紀、私は風紀、と抑えてはいるのだが。
「――神槍『天耀』は、素敵な槍。きっと、極めればあらゆる状況に、一本で対応し、無双しうる至高の槍。その全てを、引き出したい、だけです。この槍の持つ可能性全てを引き出す。それが、私が、天耀に対して出来る、唯一にして全て」
池垣あくるの人生の退屈は、この槍によって払われた。
文字通り、人生が変わったのだ。
それに対する報恩。槍使いとして目指すべき最果て。
即ち、性能の全てを引き出し、無双の兵器であると証明し、体現すること。
槍の持つ最果てに、到達することだ。
それが、池垣あくるの全てである。
■柊真白 >
意地悪。
自覚しているし、恋人にもよく言われる。
「ふうん」
自身にとって武器は道具だ。
使うべき時に使うべきモノを選ぶ。
一を百で使うのではなく、十を八十で使う方がトータルでの戦力は上だ。
何より一つの武器に拘るといざと言う時の判断が遅れるし、そうなれば待っているのは死。
だからその感覚はわからない。
とは言え理解はできる。
「槍――天耀、だっけ。それがあなたの全てなんだね」
■池垣 あくる > 「ええ。神槍『天耀』こそが、私の全て、です」
こく、と、はっきり、堂々と頷く。
他の何を憂えても、他の何に迷っても、この一事には何の迷いも気後れもない。
そう心の定まっている者の、揺るぎなき首肯。
「持ち歩けないのは、いささか……いえ、とっても、寂しいですが……うん、寂しいですが……でも、私の心は、槍と共に、あります」
■柊真白 >
危ういな、と少し思う。
余りにまっすぐすぎる。
それはともすれば柔軟性が無いようにも見えて。
「で。なんでそのあなたの全ての天耀を持ってないの」
それはそれとして。
そうまで語るその槍を何故持っていないのか。
大方風紀としてはあまり過剰な武装はするな、とでも言われているのだろう。
それをわかった上で尋ねてみる。
顔は面に隠れているが、ニヤニヤした雰囲気は伝わるだろう。
■池垣 あくる > イラッ。
表情がゆがむ。虚仮にされているのが感じ取れる。
今直ぐ襲い掛かってやろうか、という気持ちを必死に律して。
「――風紀、ですから。常から天耀を持ち歩いていると、警邏の時などは、無駄な刺激を与えてしまいかねないと、言われまして」
襲い掛かることが目的だった頃なら問題にはならなかったが、今はそうではない。
立場があり、守るべき規律がある。
それを、窮屈と思わなくもない。
だが、その上に強さを成り立たせている人たちがいる以上、それに倣おうと決めた以上、軽々に感情に流されるつもりもなかった。
■柊真白 >
反応がかわいい。
無限にからかってしまいそうだが、あまりやり過ぎて風紀に敵対していると思われるのもよろしくない。
風紀に追われるようなことをしている自覚はあるが、敵対する意思はないのだ。
「――あなたは槍を使うのが一番強いんでしょ。じゃあ、槍持ってきた方がいいよ」
表ならばともかく、こちらでは何が起こるかわからない。
ならば自分に出来る最高の装備で挑むのが最善だと思うのだが。
「そもそも、ここをあなたみたいな風紀委員が歩いている、っていう時点で無駄な刺激をバラ撒いているようなもの。自衛ぐらいは出来る方がいい」
辺りに視線を向けてみれば、敵意の視線を彼女へ送る男が数人。
固まっているのではなく、それぞれが仲間同士という訳でもなく。
ただ、風紀と言うだけで敵意を向けてくるものは多い、と言うだけの話。
■池垣 あくる > 「ご忠告は、感謝いたします。でも」
自分を取り巻く気配に、嘆息。
ああだこうだと言い合っているうちに、余計なものを招いてしまった様子だと肩を落としながら、胸ポケットから紙を取り出す。
――否。符を。
そして、その符を振りながら。
「神槍招来……急急如律令!」
叫ぶ。瞬間、符が小さく爆ぜて。
「神槍『天耀』は、ここに、ありますから」
あくるの手には、片鎌槍……神槍『天耀』が、握られている。
それを、構えて。
「襲ってくるならば、この槍の餌食にして差し上げます。そうでなければ、御下がりなさい。そこの、貴女も」
真白の方も睨みながら、周囲を警戒。
臨戦態勢に入る。
■柊真白 >
取り出されたのは、符。
そうして唱えられる呪言。
瞬間、彼女の手には槍が握られていた。
「なるほど」
彼女に敵意の目を向けていた男たちは、舌打ちをして思い思いの方向へと歩いて行った。
元より敵対するつもりはないようだ。
「私にその意思はない。風紀と敵対しても得は無いし、そもそも襲うつもりなら、もうその首を刎ねている」
どうやら彼女は割と血の気が多い方らしい。
ふう、と溜息を吐いて鞘に刀をぱちり、と収める。
いつの間にか抜刀していた刀を。
地面に落ちている石がパカリと綺麗に二つに割れる。
■池垣 あくる > 「……」
石を見やる。
手に持つ刀も。
そして、イメージする。意識を散らしていたとはいえ、今の斬撃が自分に向いたとき、対応しきれていたかどうか。
「(危ういところ、ですね……符から呼ぶ一手で確実に間に合わない、でしょうか)」
答えは否。
天耀を持った状態なら、全神経を集中できている状態なら、間に合ったと、思う。
だが、符から槍を呼び出す一工程を挟むことで、その余地が消えてしまう。
それくらいに、その剣は冴えていた。
「一度だけ見た、本家のご当主の抜きもかくや、という速さ。御見それ、しました」
やり合いたい。
今直ぐ、その剣とこの槍を交えたい。
その欲求を振り払うかのように、槍を振るって、そして地面に突き刺す。
「して……そんな方が何故、私に戯れを?」
■柊真白 >
「ありがとう」
どこの流派かはわからないが、そこの本家の当主ともなれば腕前は一級品なのだろう。
それと比べられるほどならば、自分の技も捨てたものではないらしい。
ただ人を殺すために鍛えた技ではあるが、褒められればやはり嬉しいものだ。
「一度話をしてみたかった」
ただそれだけ。
殺しの仕事をしてはいるが、元々話は好きなのだ。
ただそれだけの話。
■池垣 あくる > 「……なら、そんな意地悪しない方がいいと、思います」
むす、とまたしても唇を尖らせる。
普通に話しかけてきてくれれば、普通に話も出来ようものなのに。
脅かしたり、嘲笑してみたり。心をもてあそぶようなコミュニケーションをされては、警戒心や敵愾心も湧こうというものだ。
「意地悪は、良くない、です」
■柊真白 >
「それはごめん」
こて、と首を傾げて。
少し柔らかい雰囲気。
「あなたみたいな子は、からかうと反応が楽しくて」
今みたいな頬を膨らませるような表情だったり、拗ねた様な言葉だったり。
どうしてもそう言う反応が面白くてからかってしまう。
「――でも、風紀委員を続けるなら。あなたももう少し敵意を抑えた方がいいと思う」
風紀にしてはあまりに血の気が多い。
それでは得物の有無にかかわらず余計な波風を立てることもあるだろう。
■池垣 あくる > 「意地悪、です……」
むすーっとむくれる。
そういう反応をからかわれているのだと気づいていない様子で。
「それは、わかって、います。ええ、わかっているの、ですが……」
本質は槍狂いのあくるにとっては、闘争本能を抑え込むのはなかなかに難しい。
それもまた修行、と考えて努力はしているが、あまり芳しくはないのだ。
■柊真白 >
「これあげるから機嫌直して」
ポケットから取り出すのはラ・ソレイユのクッキー。
ハロウィン用の試作クッキーだ。
「なかなか大変だね、武芸者も」
きっと彼女は本質的に戦うのが好きなのだろう。
危ういな、とは思うけれど、まぁそれはそれ。
自分の弟子でも無し、どこまで行っても他人事である。
■池垣 あくる > 「……貰います、けど」
拗ねた表情のままクッキーを受け取る。
一応の警戒はしつつ、だが。
「大変なんです。けど、嫌では、ないです」
強くなりたい。
その願いを胸に抱いて生きてきた。
そのための苦労なら、望むところ。どんな道でも歩き切って見せる。
――あるいはその覚悟の強さこそが、危うさになっているのかもしれないけれど。
■柊真白 >
「はい。毒とかは入ってないから。おいしいよ」
店の試作品とは言え、包装は無地。
よほど彼女の舌が肥えていない限り、ここからあの店にたどり着くことは難しいだろう。
「そう。頑張って。焦らずに」
強くなりたい、と言う気持ちはわかる。
ただ、強さは手段と考える自分からすると、強くなって何をするのか、と言うのは思うところ。
彼女にとってどうかはわからないが、それが落とし穴にならなければいいな、と。
■池垣 あくる > 「……あむ」
とりあえず口をつける。
美味しい。
ぱぁ、と表情が一瞬明るくなるが、ブンブンと首を振って警戒を保った表情に戻す。
「――なんだか、見透かされているみたい、です」
池垣あくるにとって、武は手段ではなく、それ自体が一つの目的だ。
だからこその無軌道さを補正するために、風紀に入った……その自覚は当人にはないが、周囲の影響がそうさせたと言える。
とはいえ、手段が目的になっている、良くも悪くも『求道者』の姿勢は崩れておらず、それは今後の課題でもあった。
■柊真白 >
「見てきたから。色々」
伊達に長くは生きていない。
彼女のような人も、そうでない人も。
色んな人を見て、色んな人を見送ってきた。
「ん。そろそろ私は行くけど。あなたは見回り頑張って」
さて、そろそろ仕事の時間だ。
ひら、と手を振って路地裏の方へ歩いていこう。
足音がほとんど聞こえない歩き方で、白い姿は闇に溶けて消えていく――
ご案内:「落第街大通り」から柊真白さんが去りました。
■池垣 あくる > 「……忍者みたい」
なんとなく、足音のしない歩法を見て、そう感じる。
その手の流派の人も、同じような歩き方をしていた。
そして、むっとしたまま、しばらく練り歩く。
――その日のあくるは、考え事に夢中になり壁にぶつかったり、何もないところでスッ転んで擦り傷を作ったりと、さんざんであった。
ご案内:「落第街大通り」から池垣 あくるさんが去りました。