2020/10/19 のログ
■芥子風 菖蒲 >
宵闇を瞬く雷光は消えた。
肌を撫でる敵意も無い。
とりあえず、面倒になる気配はない。
余計な仕事が増えなくて、とりあえずは一段落。
「何が気に入らないかは知らないけど、アンタも大変そうだね。
……色々言ってるけど、アンタ自身はその"悪党"じゃないの?」
個人の事情にとやかく言うつもりは無い。
だが、この落第街、根の国において、風紀の敵に成ると堂々と言ってのけた。
それは即ち、宣戦布告。秩序に立ちはだかるは、何者であろうと"悪"である。
無論、表で言えばただの世迷言と処理されるだろうが、この空気。今更冗談と言えまい。
相手の方も、そのつもりは毛頭ないと、少年は踏んでいる。
まぁ、だからなんだ、という訳では無い。
言ってしまえば、ただの素朴な疑問に過ぎないのだから。
「それに、オレに言われてもなぁ。オレ一人の組織ってわけじゃないし
アンタの言ってる事もわかるけど、破壊してる本人に言いなよ。オレ一人でどうこう、なんて無理だからさ。」
それこそ風紀こそ一枚岩でもなければ、善人の集まりでもない。
多くの群雄、群像で成り立つ大規模な組織に、たかが一人が大声を大にして言った所で何も変わりはしない。
困ったように首を振れば、漆塗りの鞘に刀を治めた。
間合いへと入った相手を見上げる、青空の双眸。
「"鉄火の支配者"……かは、知らないけど、一番目立ってるのソイツだろ?
コッチであったら、一言位は言っておく。オレから出来るのはそれ位。」
バックに組織はあれど、そのやり方はほぼほぼ"個人規模"に収まってしまう。
精々、出来る事はこれ位だ。風紀全体のやり方でもなければ、この程度で終わってしまう。
■虚無 > 「ああ、悪党さ……でも悪党じゃないと守れない者だっている。逆に悪党じゃないと裁けない奴らもな」
吐き捨てるように言い放つ。
みんなが幸せならばどれほど良いだろうか。だがそれこそ妄言にしかならない。だからせめて正しい人では守れない人を守るために。
自分の言葉に少しだけ困っているようにすれば鼻で笑うように。
「わかっている。だから”できる限り”だ。例えばだが……今回の場合だって殺さないように手加減はできただろう。別に毒を仕込んでいて勝手に死んだわけじゃないはずだ」
と倒れた犯罪者を見やる。その素性はわからない。だがもしかしたら光の中では生きていけないからここにいた。そんな人物もいたのかもしれない。そう考えてしまうのはどちらも知っているからだろうか。
「鉄火の支配者にか、そうだな……そうして貰えるとありがたい。最もそれで変わってくれるのならあそこまではやらないだろうが」
半分あきらめるかのようにそういう。クルリと背を向ける。そしてゆっくりと歩き始める。
「そろそろ応援部隊がくる時間だろう……悪党と話していてお前の立場が悪くなるというのも面白くはない。それにある程度話は分かる相手みたいだからな。もし何かあったときに協力できるかもしれない」
そういうと少しだけ振り返る。
「虚無―ヴァニタス―だ一応名前は名乗っておく。できれば敵対しない事を願っている」
そう言い切ると甲高い金属音と共に近くの屋根の上へ。もう一度金属音がなった時。もうその姿はなかった。
■芥子風 菖蒲 >
「そう言うものかな。オレにはよくわからないけど
アンタがそう言うならそうなんだろうね。ほんの少しだけだけど、わかる気はするよ。」
生憎少年は大局的物見はしないし、する気も無い。
悪党とは表現したが、善悪に頓着も無い。
ともすれば、人を殺す己も悪だが、道を踏み外す外道ではない。
つまり、彼も道は違えど"外道"に非ず。
そう言うことなら、少しだけ気持ちはわかる。
「ああ、コレ?ごめん。オレはそんなに"強くない"し
加減が出来る程、器用じゃないから。一応、勧告はしたけどね。」
相手の事情に興味などないし、悪びれる様子もない平謝り。
自業自得は元より、そんな"非合理的"手段を優先しない。
最小限の被害で、最短で済ます。それが最も合理的であり
加減が出来ると言うのは、強者だからこそ出来る事。
簡単に言うが、"加減"というのは難しいものだ。
そもそも、どんな結果であれ命はお互いに張り合った。
ならば、それが結果だ。そこに加減する理由も意味も無い。
「けど、半分は生きてるんじゃないかな?
オレの目的は、飽く迄制圧だから。」
故に、好き好む殺人者に非ず。
ただの合理主義者に過ぎず、必要な手段をとっただけ。
「オレは邪魔しなければどっちでもいいけど
他の人は話が通じるとは思わない方が……あ。」
金属音が聞こえる頃には、その姿は見えなくなった。
すれ違うかのように現れた応援部隊。
なんとも、せわしない人物だ、と虚空を見上げた。
「随分と変わった奴だったなぁ、まぁいいか。」
それよりも、仕事だ。
生き残った連中の運搬、事後処理。
風紀の仕事は、まだ続く……────。
ご案内:「落第街」から虚無さんが去りました。
ご案内:「落第街」から芥子風 菖蒲さんが去りました。