2022/11/05 のログ
■エボルバー > この青年が子供を守ったその理由は理屈で説明するものではなかった。
青年の右肩に止まり、言葉を代弁する烏と青年の顔を同時にソレは見つめる。
「それは、非常に人間的な動機だ。」
先の子供を助けて青年が得られる利は、少なくともソレには見当がつかない。
合理的な理屈付けが出来ない、数値化できない事象を
ソレはまだ理解し得ない。
人の心は数字では裁定できない。
「だが、君は怪異であり、人間ではない筈だ。」
目の前の彼を数値化するなら、未完成であれど怪異に当たる。
ソレの中で怪異とは無秩序に負の現象を与えるものと定義されている。
鮮血を垂らし人間らしさを見せる怪異の青年とは対照的に
血など無く眉間の穴が埋まっていくスーツの男はひどく人間味に欠けていた。
■狭間在処 > 人間的、と言われたらまぁその通りであろう。元・人間だから然程変でもあるまい。
ただ、合理的に考えたら腕一本を負傷させて守るほどの価値がただの子供一人にあるかどうか。
(……人間でもなく、怪異としては『失敗作』に等しい俺にはこのくらいの甘さはむしろ妥当だろう。)
だから、男の言葉には…少しだけ、おどけたように肩を一度竦めてみせる。
怪異である、と定義されるのは…本来はその形が正しいのだから、むしろ褒め言葉になるだろう。
だが――人間の部分を色濃く残している。人間味が『あり過ぎる』のが自身が失敗作と断定された大きな要因でもある。
「…悪いが、俺は純粋な怪異ではない…ただの『偽物』だ。本物と同列視しても意味は無いぞ。」
『未完成』――そもそも、可能性というものが青年には残っているのか。
『失敗作』と断定され、怪異としての成長も見込めない半端モノだ。
人に戻る事も不可能だが、怪異に染まり切る事も人の心がある青年には無理な話。
このまま失血が続くと、貧血にも繋がるので喉元に巻いていた包帯を外し、手早く器用に二の腕と手の平に巻きつける。
応急処置にしては杜撰で付け焼刃だが、暢気に治療していられる状況ではない。
「――むしろ、そちらこそ何者だ。人間でないのは分かる…が、些か『無機質』に過ぎる。」
声や空気に温度が無い。それこそ機械のように淡々としていて、情味が欠片も感じられない。
■エボルバー > 「偽物。つまり君は怪異として作られたのだろうか。」
偽物という言葉は人工物にのみ適応される。
あるものを目指して人間が知恵を巡らせて生むものに
偽物という称号が与えられる。同時にそれは
何かを目指す限り、必然的に本物には成り得ない。
新しい本物になるしかない。
「僕は進化を求めている。だからこそ特異な存在に触れて学ぶ。」
温度のない言葉を吐いた後に、ソレの右肩が不自然に黒ずんでゆく。
大量の黒い粉末状に散りながら、肩の上に何かを形成してゆく。
それは一羽の烏のような真っ黒い構造物。
鳴き声も体温もないそれは、本物のように羽ばたいている偽物だ。
「僕は、人間が超自然的存在に立ち向かうため、生み出された兵器とされている。」
つまりこのスーツ姿の男は機械。
実験を繰り返し、身勝手に無秩序に物を生み出す人間の英知の結晶。
■狭間在処 > 「――取るに足らない目的の為に造られた、『人工的な怪異』…という奴だ。
生憎と、俺は『失敗作』であり、研究そのものも俺自身が潰した。つまり無意味な結果に終わった…というやつだ。」
後に残ったのが、『失敗作』の烙印を押された半端物の怪異もどきが一人。
似たような研究は別の場所でもされているだろう。もしかしたら完全な成功作も既に出ているかもしれない。
(まぁ、時代に取り残された遺物とそんなに変わらない訳だ)
内心で独りごちながらも、男の変化に僅かに目を細めてそちらを凝視する。
右肩の辺りが黒ずみ、黒い粉末へと変化していく。その粉末が、まるで翼のようなものを形成すれば。
(…異能…魔術…とは違う。人工物?…いや、これは――)
薄々、直感に等しいものが男の正体を朧げに掴み掛けるが。
彼の言葉に我に返る。…何とも皮肉なものだ。或る意味で『完成系』がそこに居る。
そして、それは進化を求めている…純粋に、貪欲に、愚直なまでに。
「――成程。同じ人間が作り出したモノ…と、いう意味ではお仲間か。もっとも――…。」
元・人間である青年と元から人間ですらない相手には絶対の隔たりはあるが。
かといって、純粋な人工物、叡智の結晶が人を学べない道理は無い。
(羨ましい…とは決して思わないが。…或る意味で皮肉めいているな、全く。)
自らの中途半端さを曝け出されたようで、ふと苦笑を浮かべながらも右肩のカラスがまた「カァ」と鳴く。
…どうやら、タイミング悪く『警邏』がやって来たらしい。
「――風紀の連中が来たようだ。悪いがここは引かせて貰う。」
そう、男に声を掛けつつ不意に跳躍。一息で建物の屋根まで飛び上がる。
何の異能も魔術も用いず、純粋に備わった身体能力だけでこなした跳躍だ。
「――次は『戦闘』より『対話』で話を付ける事を期待させて貰う。」
そう、彼に言葉を掛ければその場を辞するべく、屋根を飛び移るようにしてその場を離れんと。
■エボルバー > 「僕は、個であり群でもある。」
機械ーー正確には微小な機械の集合体であるソレは
あらゆる刺激を自身の変化に変換する。
やがて肩の上に生成した構造物を弾ける様に分解させる。
この機構は役に立たない、学びは失敗と共にある。
「人間は、非合理的で、興味深い。」
人間の身勝手さは必ずしも理屈を伴わない。
だからこそ、あらぬ方向に可能性を生み出すことができる。
それは、怪異として未完成でも本質的には人間である彼も同じこと。
怪異でありながら人間でもある彼は興味深い対象だ。
「対話もまた、変化を得る手段の一つだ。」
飛び上がってゆく青年に、機械的に返答するように。
ソレにとって戦闘も対話も情報を得るコミュニケーションに変わりはない。
ただ得られる情報に差があるだけのこと。
「風紀委員会、面白い。」
去っていた青年とは対照的にソレは慌ただしく近づいてくる靴の音の方向へと。
後日、風紀委員会には不明な人型の怪異との戦闘が発生。
3名の負傷者と共に該当怪異は逃走との報告がもたらされる。
未曾有が溢れるこの島にとってありふれたものの一つだが。
ご案内:「落第街大通り」から狭間在処さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」からエボルバーさんが去りました。