2020/06/22 のログ
日ノ岡 あかね > 「そんなことないわ」

はっきりと、あかねは笑って。

「趣味は趣味よ。それ以上にもそれ以下にもならないわ。高尚な趣味と下賤な趣味があるかしら? ないでしょ? どっちも主観の問題。他人から見れば等しく同じ……タダの『他人の趣味』でしかないわ」

そう、バッサリと……矜持を切り捨てた。

「『起こってしまった争い』と、『意図的に起こす争い』も全然違う物よ。食べる為にする狩りと、趣味で行う殺しは全然違う。それを同じというのなら……殺しに法は関与しないわ。誰もがもっと自由に殺戮を楽しめるはずよ? そうでしょ? でも現実には違う……つまり、事実として、『起こってしまった争い』と『意図的に起こす争い』にはそれだけの隔絶があるのよ」

あかねは笑う。知ってか知らずか、ただただ笑う。
仮面の奥を見通すように。
その先の何かを見る様に。
目を細めて、ただただ笑う。

「公安委員会のルール……取り決めは、みんなで話し合って決められたもの。公安委員会の当事者だけじゃないわ。生徒会の人達も、他の委員会の人達も、それだけでなく、この常世学園を運営する大人達も皆含めて……とっても多くの人達が、力と知恵を合わせて決めたもの。だから責任が伴う。だから罰則が伴う。だから……好き勝手は許されない。それに……この学園に居る以上、普通の人達はそういう規約や校則も同意の上でここに居るはずよ? だけど……その趣味でやってる人達の取り決めは……『そこにいる当事者の独断と偏見』以外に何か介在する余地なんてあるのかしら? その人達が振るう暴力はこの学園の規約や規則に含まれているのかしら?」

当然、同意しようもない異邦人などもいるだろう。
だが、彼等にはちゃんと相応の特別待遇がある。
特別居住区まで準備されている。
だが……他の学生は、二級学生まで含めて、『それらに同意した上』で入島しているはずだ。
不法入島でない限り。
つまり。

「公安委員会の暴力は『ある程度はみんな同意の上で振るわれる理不尽』……だけど、その趣味でやってる人達のそれって……『みんなの同意』が少しでもあるのかしら?」

答えは、出ている。
それでも、あかねは。
日ノ岡あかねは。

「『アナタ』は『どう』思う?」

問いかける。
面白そうに。楽しそうに。
ただただ、問う。
綺麗な御題目なんかじゃない。
分かりやすい一般論でもない。
それらに反逆してまで振るう『理不尽』を『なぜ』振るうのか?
その問いを、ただ一人。目の前にいるただ一人に……問いかける。
目に見えない誰かなどではない。
実態のない誰かなどではない。
そこに確かにいる、そこに確かに存在している。
『名も無き誰か』という『確かな個人』に……問いかける。

ソレイユ > 「う、ぐ……」
ずきん、と頭が痛む 痛む

うるさい女だ ぐだぐだ ぐだぐだ と
もういい 殺してしまえ
だめ にげなきゃ
ちがう だまらせろ

「ぅ、く……」

目の前の女は、笑い続ける。
正論を。まさしく正論を。
完膚無きまでの、当然の論理を叩きつける。
その正しさは、よく、わかる。

この女は ただ、笑ガおのままで。
滔とうと 語る
わかっている。あくの理屈は、しょ詮、悪のり屈だ。
正しいことなど これっぽちも ない
そん な こと わかって……

『アナタ』は『どう』思う?

オレ、は……ワシは……あたしは、ボクは……
ちがう、ちがう
この問は……

「そう、か……おまえ、は……『私』に、聞いて、いる、んだな?
 違反部活が、どう、とか……では、なく……『私』に」

改めての、確認。
今まで、自分が避けてきたもの。
ごまかしてきたもの。
組織の一員である、とおおっぴらにしないためにぼやかしてきたこと。
あるのか、ないのか、はっきりしない
それを、答えろと。

「な、ら……答えは、簡単……だ。
『みんなの同意』……? そんな、もの……くそ、くらえ、だ」

絞り出すようにして、答える。

「『悪』は『悪』だ。決まっている。『悪』が、すべての意見を取り入れるなど、お笑い草だろう。
 『悪』は謗られてこそ、『悪』だ。おまえは、話を間違えている。
 『悪』に、『正しさ』を求めている時点で、滑稽な話だろう。
 これは、『悪』が『悪』だから『悪』を行う話、だ」

日ノ岡 あかね > 「……」

その答えを。
名も無き誰かの……いや、『名を持とうとしている誰か』の答えを。
自我から絞り出された、一滴のような確かな答えを。
あかねは。
日ノ岡あかねは。
最後までじっとりと。
その顔を見ながら……味わうように、聞き終えて。

「あははははははははははは!!」

笑った。
高らかに。朗らかに。
満面の笑みで。

「それでいいのよ」

慈しむように……まるで、放課後、たまたま通学路で出会った同級生のように。

「『アナタの答え』なんだから、それでいいのよ」

嬉しそうに……笑った。
月明りが二人を照らす。
微かな光が仮面の相貌と、少女の相貌を照らす。
夜天の光は誰にも等しく……降り注ぐ。

「それはアナタが行う事。誰かがやる事なんかじゃない。誰かに強制された事なんかじゃない。義務じゃない。責務じゃない。仕事じゃない……矜持だというなら、趣味だというなら……それは全部、『アナタの好き』に、『アナタの責任』でやるべきこと……イイ子ね、ちゃんと答えられて」

当然のように、あかねはその頭に手を伸ばし。
当然のように、あかねはその頭を撫でた。
先輩が後輩に、そうするように。

「自分を悪と呼ぶのなら……己を悪と認めるのなら……それは他人のせいにしちゃダメ。環境のせいにしちゃダメ。誰かに阿っちゃダメ。だって悪い事なんですもの。悪い事は、どこまでいっても悪い事……誰がやっても悪い事……だから、悪い事をするときは……言い訳しちゃダメ。悪い事だって認めなきゃダメ。自分自身の咎を認めて、それに向き合って、そのうえで……覚悟しなきゃダメ……誰かの何かを奪うなら、奪われる覚悟も、奪い去る責任も……全部負わなきゃ」

あかねは、恋する乙女のように笑って。

「『カッコ悪い』わ」

そっと、身を離した。
野良猫がそうするように、ただそっと、さっきまでの距離に……本来の二人の距離にまで戻って。

「悪い事をするのなら……悪い子になるのなら、ちゃんと『自分は悪い奴だ』って……一から十まで、認めなきゃダメよ? だって、自分から悪い事するんですもの。悪い事に手を染めるんですもの。そこまで含めて、悪い事なんだから……悪い事をするなら、綺麗な御題目とか大義なんかに頼らないで、ちゃんと自分の足で、自分の意見で、自分の言葉で……ちゃあんと、全部向き合わなきゃ」

当然のように、踵を返して。

「『勿体ない』でしょ?」

そのまま、夜に溶けて……消えていった。
あっというまに、その姿が路地裏の向こうに消える。
もう、スカートの裾すら見えない。
足音をさせず、振り返りもせず……猫のように。

「だって……『自分で選んだ』んだから」

日ノ岡あかねは……夜の向こうへ、消えていった。

ご案内:「違反部活「陽人犯輪」」」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
ソレイユ > 「な、ぁ……」

絞り出した答えを、全霊を込めて出してみれば……
突然笑い出す女。
思わず、呆然としてしまう。
気勢を削がれた、とでもいうのだろうか。
いや、狐につままれたような、というべきか……

「なに、を……な、に……」

慈しむような、労うような、女の言葉に、態度に
ただただ、呆然となすすべなく されるままに、される

「『カッコ悪い』……『勿体ない』……」

呆然と、言われた言葉を鸚鵡返しにつぶやく。
そして、本来であれば止めるべきであろう、
追いかけるべきであろう、相手の退場も
ただ為すすべもなく、見つめていた。

「…………………」

少女がいなくなった部屋で、仮面を外す。
もう、頭痛はない。

「日ノ岡、あかね……だった、か……
 妙なやつ、だ」

ぽつり、とつぶやく。
それは、自分が自我を取り戻してから初めての体験。
言いようもない気分に包まれていた。
明日になれば、この出会いも記憶から消え去ってしまうだろうか。
それは、なんだか少しさびしい気がしていた。

「……まさか」

そんな気持ちを組織の外に抱くことになるとは思わなかった。
歯車として、ただただ働いていれば、それでいいと思っていた。
それなのに……

「『自分で選んだ』……か。
 そう……だな。確かに、そう、だ」

最初は、たまたま助けられて拾われただけだった。
そこで生きると『選んだ』のは確かに、自分だ。
そこすらも、忘れていたというのか。

「……」

どうやら、考えることが増えそうだ。
この気持は……そう、この身、この心に刻んでおこう。
そして彼女もまた、闇に消えていった。

ご案内:「違反部活「陽人犯輪」」」からソレイユさんが去りました。
ご案内:「違反組織群 裏競売所」に羽月 柊さんが現れました。
羽月 柊 > 『さぁさぁ今回の品は―――。』

遠く、そんな声がこだまする。

自分の研究の為に男はここ、違反組織群の一画に来ていた。
様々なモノが競りにかけられている声が、施設の前に居ても聞こえてくる。

男は竜を模した仮面で顔を隠し、黒のスーツに身を包んでいる。

いつもの護衛の小龍たちも一緒で、傍から離れないようにはさせている。
仮にも競売所。金を持っている輩の集まる所だ。無差別に手を出してくる確率は低い。

研究の情報集めとはいえ、こういった場所に潜り込むのいささか勇気がいる。
風紀委員の摘発に出くわさないことを祈るばかりだ。

羽月 柊 > "門"が出現している現在、表にも裏にも流れて来るモノが在る。
表で拾われれば適切に処理されたり保護されたりだが、
裏で拾われればこうやって金が動く元にもなる。

競売の利益の行先は――まぁ、違法活動の資金だろう。

(出来れば出費は避けたいな…。)

腕に留まらせている小龍を撫でやり、男は仮面の下で溜息を吐いた。

自分は一般人だ。息子を学園に通わせているからこそ、この島にいる。

羽月 柊 > 場合によっては表に報告を上げて、
検挙されて流れた品を目的の為に買い取る方が良い。

それでは間に合わない時、男は自分の金を動かすことになる。

その金が違反活動に使われようと、手を出す時は出す。



何者も現れなければ、男はスーツのネクタイを締め直し、施設に入って行くだろう。