2020/07/04 のログ
■神代理央 > まあ、上層部の気持ちも理解は出来る。
何せ、落第街の住民とはいえ、子供。孤児。力無き者。彼等諸共違反組織を処理するというのは、実に見栄えが悪い。
色々と嗅ぎつけてくるマスコミもいるだろう。人権派だの国境なき何とかだのといった連中が現れる可能性もある。
「…それで、連中に脱出の準備を行う時間を与えているのだから救われぬ。連中が野に解き放たれれば、再び危険に晒されるのは我々であり、一般生徒だと言うのに」
忌々し気な舌打ち。
此の組織が製造している合成獣は、個体の戦闘力は高くないもののやたら数だけは多い事で有名。それと"子供程度の知能"を持っている事も、他の違反部活で現れた合成獣との交戦記録に残されている。
「……まあ、流石に突入する前衛の連中には同情を禁じ得ないが」
缶コーヒーを傾けながら、深々と溜息を吐き出す。
押し付けてしまえば良いのに。己に命令すれば良いのに、と思うのだ。
良心の呵責などこれっぽっちも感じない己に命じれば、事は済むというのに。
ご案内:「違反部活の拠点――とある孤児院」に幌川 最中さんが現れました。
■幌川 最中 >
風紀委員の仕事はやはり多岐に渡る。
こういう「汚れ仕事」や、「やりたくない仕事」というのは山程ある。
その上、誰かがやらなければいけない仕事であることは間違いない。
「……理央ちゃんさあ、信じてるものってある?
神様とか、それ以外とか、まあなんだっていいけど」
最前線には似ても似つかない男が、理央の隣で呟く。
攻撃命令を出すのは、現場にいる当人たちでは決してない。そして、それはまだ出されていない。
風紀委員の上層部がゴーサインを出してから、ようやく暴力という手段を使うことになる。
「ここの孤児院、『かみさま』がいるんだってさ」
違反部活群に存在する、とある孤児院をじっと見やる。
子どもたちを救う偶像としての「誰か」がここにはいるらしい。
その『かみさま』は現状、人質の子供たちを救わなかった以上、「そういう」ことなのだろうが。
幌川は、理央を見て首を小さく傾げた。
■神代理央 > 「何を言うかと思えば。ありますよ。私は私自身を一番信じています」
己の横に立つ年上の風紀委員。幌川最中。生徒指導課に席を置く、年上の同僚。
そんな彼が呟いた言葉に、甘ったるい缶コーヒーを流し込みながら答える。一体、何を言っているんだと言わんばかりの視線と共に。
「『かみさま』ですか。生憎無神論者なもので偶像を崇拝する気にはなれませんが。我々に天罰でも与えてくれるのならば、是非今からでも宗教地区に駆け込もうとは思いますがね」
他者が神を信じようが信じまいが、己には関係無い。
一度命令が下れば『かみさま』とやらの加護も空しく、孤児院に籠る子供達は己の放った砲火に焼き尽くされる。ただそれだけ。
首を傾げる幌川に、だからどうしたのだと言いたげな視線と共に淡々とした口調で言葉を返す。
■幌川 最中 >
「アハハハハそうだよねえ。
俺理央ちゃんがそう言わなかったら病院連れ込むところだった」
肩を竦めながら、安っぽい缶コーヒーを飲みながら笑う。
目の前で何人が死ぬかもわからないのに、日和った調子で。
そして、続いたのはなんとも「らしくない」世間話だった。
慌ただしく交渉担当の風紀委員が拡声器を持ち、大声を上げている。
携帯端末で委員会本部と連絡を取る委員も忙しない。
「そうじゃなくてさ。この調査資料読んだ?
ここにいるコたちの『かみさま』は、『地獄』からやってくるんだってさ。
もし理央ちゃんが突入したらさ、理央ちゃん、神様になれるかもしれないぜ」
書類を挟まれたファイルを手渡してから、またコーヒーを傾け。
信仰の自由は、この常世島では強く認められている。
だから、誰が何を信じていようが、誰が何に祈ろうが許される。
どうやら、この違反部活のルーツは、《大変容》の前。
くだらない人間同士の紛争をしていた、中東と呼ばれた地域の新興宗教が由来らしい。
「理央ちゃんって、なんで風紀に入ったんだっけ?」
■神代理央 >
「…人を何だと思っているんですか?先輩って時々……いや、何時も結構失礼ですよね」
鉄火場に似付かわしくない世間話。雑談。
彼に向けられるジト目は、此処が風紀の本庁かと錯覚させる様な"いつもの"表情。
孤児達を助ける為に。立て籠もる違反組織の者達と交渉の手立てを繋ぐ為に。懸命に走り回り、行動する委員達の中で、此の場所だけは気味が悪い程の平穏が漂っていた。
「地獄から……?またけったいな宗教観もあったものですね。まあ、何を信じようが誰を信じようが、個人個人の勝手です。
どんなに神を信じたところで、救われる訳がない。それは、歴史が証明しているのですから」
手渡されたファイルをパラパラと眺めるが、興味を示した様子は無い。どのみち死ぬ可能性が高い者達の些細な宗教観など興味が無い、と言わんばかり。
寧ろ、祈る時間があるのなら生き残る為に行動するべきだろうとまで思う有様。
「決まっているじゃないですか。学園の治安を守り、人々を守る為です。社会の規律と法を。秩序を守る為です。それが何か?」
今更何を、と僅かに首を傾げながらも聞かれた事には素直に応えるのだろう。
幌川に対しては、特に悪感情があるわけではない。同僚から聞かれた事で有ればと言わんばかりに、淀みなく答えるのだろうか。
■幌川 最中 >
「理央ちゃんだって同じくらい失礼だろ。
人を守るため。ああ、そうか。予防なのか、これ。納得」
ほらトントン、と言わんばかりに瞬きを数度。一人で納得して頷く。
いつも通りの視線には、少しだけ悲しげな表情で笑った。
風紀委員会としても、「全てを焼き払って解決」などは本来不本意なのだろう。
どうやら、いつもより今回は時間が少しばかり与えられているらしい。
「死は始まりにすぎないんだってさ。
『生まれる』ために必要な儀式でしかないから、地獄から神様が迎えに来るって。
多分これもさ、宗教側が環境に合わせてそういう物語に書き換わったんだろうなってさ。
第四宗教史の講義、単位取るのはクソ難しいけど面白いからオススメ」
それこそ、カフェテラスや教室で行われていてもおかしくない会話。
じきに戦場になるだろう(どうやら交渉はうまく進んでいないらしい)地で男は言う。
「少年兵っていうのが、昔は流行ってたんだってさ。
旧時代は「そういう」のを組織して、敵が殺すのに抵抗を持ってくれるように、って。
その一瞬で少年側が大人を殺す、なんてのがあった時期が古い世界にはあるらしい。
そういうのの名残みたいだね。この違反部活ってさ」
「そういう少年兵って、最初に何やらされるか、知ってる?」
■神代理央 >
「予防…まあ、そうですね。此処で彼等を逃がしては、今後考えられる生徒と風紀委員への損害は憂慮すべきものになりますから。
叩けるうちに、叩いておいた方が良いでしょう」
一瞬、考える様な素振りを見せるが、曖昧な笑みと共に彼に頷く。
確かに、この違反部活の逃亡を阻止する為の戦闘行動は予防足り得る。では、孤児たちを巻き込む事の意義は何か。幌川の言う様に、予防という言い訳が成り立つかも知れない。
しかし己にとっては、本当に孤児達の事など"どうでもいい"のだ。殺そうとも思わないが、救おうとも思わない。違反部活への攻撃の妨げになるなら、一緒に砲撃してしまおう、程度のもの。
それが他者には些か過激な発言、行為として捉えられている事を理解するが故の、曖昧な同意。
「死が始まりに過ぎないのなら、生は終わりなんでしょうかね。
彼等の宗教観では、始めの生物は最初から死んでいたとでも言うのでしょうか。面白い話だ。
宗教史、ですか。まあ、後期のシラバスを確認してみます。興味が無い訳では無いので」
へえ、と言わんばかりに相槌を打ちながらの会話。
死臭が漂う様な此の場所で、交わされる朴訥な日常会話。奔走する委員達も、怪訝そうな視線をちらちらと向けているだろうか。
「少年兵はコスパ良いですしね。というか、今でも島の外にはいるんじゃないですか、少年兵。彼等が最初にすること?さあ――」
「――自分の親でも殺すんじゃないですか?」
小さく肩を竦め、彼に視線を向けて、笑う。
■幌川 最中 >
「そういうときは都合よく『そうです』っつっときゃいいの!」
多少鈍い幌川にもその意図は伝わったらしく、
困ったような表情を浮かべながら、無理矢理理央の肩を組んだ。
つまるところの真意も少し、一端ばかりは指先で感じる。
「死んでるから、死ぬのも怖くないってね。
この違反部活は『そうやって』子どもたちと接してきたんだろうし、
きっと彼らからしても『そう』なのかもしれないよね。
俺はそういう神様を信じてないから、全然わかんねえ話だけど。
こういう話してくれるし、先生カワイイから。27歳彼氏なし。浮いた話なし」
コーヒーの缶を揺らしながら、ぼんやりと前線の距離が詰まっていくのを見る。
無理な突入はしないが、どうやら事態が少しだけ進んだらしい。
いい方向にか、悪い方向にかはここからでは知れないが。
「君のやってることは正しいよ、って丁寧に教え込むんだってさ」
全部がそうとは言えないけどね、と付け足してから軽く笑った。
笑えないこの場で、不謹慎極まりないのだが。
「今でも『島の外には』ってことは、
理央ちゃんは『島の中』にはいないと思ってるのかい。
どうなんだい理央ちゃん。理央ちゃん。理央ちゃん。……理央ちゃんって、ご両親は健在?」
後輩の挙げ足を平然と、干支で言えばひとまわりほど違う相手に。
しれっと、明日の天気を聞くように問いかけた。
「孤児院のコからしたら、親を全員奪われるようなもんだよなってさ。
自分の親を殺されても、子どもたちは銃を持つようになったらしい」
■神代理央 > 「…まさか先輩から処世術を教えられるとは…不覚です。今度麻雀してるとこ見つけたら刑事課に通報しておきますね。ラムレイ先輩に怒られれば良いんです」
肩を組まれれば、何なんですかと言わんばかりのジト目を向けるも振り払う事は無い。
相変わらず距離感の近い先輩だな、程度のもの。
「私にも理解出来ませんよ。死への恐怖が無い事は結構ですが、彼等が死してまで成し遂げようとしている事は余りに下らない。
…いや、下らない事だから、そういう『かみさま』を与えているんですかね。順序が逆なんでしょうか。
先輩はもう少し浮いた話を作って落ち着いて下さい。その27歳の先生とでも構いませんから」
突入部隊は、未だ子供達の解放を諦めてはいないらしい。
防御魔法の薄い場所を。突入出来る場所を、懸命に捜索している様子。それは、交渉担当達も同じ事。孤児院が完全に包囲されており、幾ら時間を稼いでも脱出は不可能だと訴えながら降伏を勧告する。
「いないと良いな、くらいには思っていますよ。直接相対した事はありませんが実際に戦うと面倒そうですし」
取られた揚げ足には、のしをつけて返礼を。
もう慣れたものだと言わんばかりの態度。
「健在ですよ。両親ともに健在でいるのは喜ばしい事です。
まあ、そうやって復讐心だのなんだのを焚き付けた方が、色々とやりやすいでしょうしね」
■幌川 最中 >
「俺からなんか言われんのそんな嫌……?
……レイチェルちゃん起こるとこえーからなあ!
勉強代と思ってうまいこと勘弁してくんねえかなあ!」
肩を組んだまま、一息をついてから解放する。
趣味を没収されては困ってしまう。それは嫌だ。勘弁して欲しい。
「『下らなく』なかったら、理央ちゃんは理解しようとするもん?」
単純な、どうにも興味本位の質問だった。
視線の先では、『何らか』の理由と信念を持っている誰かが大声を上げている。
違反部活の信念・理念……なんてものは、十把一絡げに押し潰されるというのに。
書類上にそれを記されて、その報告書を掘り起こして読むような物好きも多くない。
『それ』を知る者は、こうして現場の最前線で『それ』に触れた者のみ。
きっと、この違反部活もそうなのだろう。じきに、それがあったことも忘れられる。
「それなら、『親を奪われる子供』の気持ちはわかんねえわけか。
ううむ。これ、俺流の理央ちゃんへの説得なんだけどさ。
『死人を出さないで』、この一件、上手いこと片付けてくれねえかなあっていう。
っていうか俺がここにいる理由、それなんだけど。理央ちゃんの説得。
委員会側はどうしても子供を傷つけたりはしたくないみたいだしね。被害はできるだけ抑えたい」
それで、と息継ぎをしながら笑う。
「理央ちゃんならできたりしない?
適当に頼まれるんじゃ、理央ちゃん、頷いてはくれないでしょ」
■神代理央 > 「冗談ですよ。麻雀してたら通報するのは流石に控えます。報告書上げるだけにしておきますから」
解放された肩や首をコキコキと鳴らしながら、呆れた様に笑う。
報告書は、結構真面目に書くつもりであった。
「どうでしょうね?結局は、自分の命を投げ出して迄成し遂げたい事など、或いは全て下らない事なのかもしれません。
まして、あの孤児院の子供達は結局のところ自分の意思で選択した道では無く、与えられたレールの上で死んでいこうとしている。其処にどんな大義や理由があっても、興味はありませんよ」
彼に合わせる様に視線を向けても、決してその視線に色が灯る事は無い。結局のところ、違反部活にどんな大義があれ。其処で死ぬ者達に信念があれ。
死ななければ成し遂げられない。或いは、成し遂げられないかも知れない事など、己にとってはどうでも良いのだ。
「そんな事だろうとは思っていました。被害がゼロ、という訳にはいかないかも知れませんが、あの建物を消し飛ばすよりは穏便に済ませる事も、まあ、出来なくはないかもしれません」
「でも、間違いなくあの孤児院ごと、籠る連中を吹き飛ばした方が犠牲もリソースも少なくて済むのです。それをせずに得られるものは、一体何なんでしょうか?」
己の深紅の瞳が、じっと彼を捉えて離さない。
ある程度の犠牲を是認した上で、子供達を助ける事は不可能ではない。しかし、其処まで風紀委員が 骨を折り、危険を犯してまで助ける価値が、あの孤児たちにあるのだろうか。
そう問いかける様な瞳が、静かに、しかし苛烈な焔を灯して、彼に向けられていた。
■幌川 最中 >
「真面目に仕事しなさい!!
……って冗談は置いといてね。
俺が知りたいだけなんだけど、理央ちゃんの思う『下らなくないこと』ってどんな?」
“どうでもいい”。無関心。
大いにそれは自分が賛同する主義ではあるが、“どうでもいい”ならば。
なにもせずに放ったらかしておいて勝手に死ぬのを待つほうがラクだろう。
わざわざ出張って、相手の庭に踏み込む理由。
「あ、やっぱ? バレてたかあ~。
まあ、俺がこんな現場に呼ばれる理由なんてそんくらいのもんよな」
そして、赤い瞳に視線を合わせて笑う。
理央がこうして質問をしてくるのは珍しいな、と胸中思いながら頷き。
「……理央ちゃんって、二級学生までちゃんと葬ってるって知らない?」
常世島関係物故者慰霊祭。
祭祀局を中心として、各種委員会や部活の協力の下、喪われてしまった
常世島・常世学園関係者のための「関係物故者慰霊祭」が毎年行われていること。
そんな物故者たちの慰霊のために、様々な宗教の祭式作法に則り、
あるいは「無宗教」形式にて、慰霊のための祭祀が数日に渡って行われる大きなイベント。
「犠牲も、リソースも。
感情をエネルギーと捉えるのなら、よっぽど少なく済む。
恨みも、憎しみも処理するのは面倒だし大変だし、“もとに戻す”のも面倒だ」
年上ぶりながら、そう言って笑う。
なにかを喪ったものの心のケア。それに伴う二次被害の増加。
そのどれもが、“面倒”であると幌川は言い切った。
燃えるような視線に対して、フラットで――平坦で、平等な冷ややかさを孕んだ視線。
「これは、『レールを壊す』仕事なんだよ、理央ちゃん。
レールは、なにも全てを更地にしなくても壊してやれる。
レールさえ壊しちゃえば、嫌でも自分の意思で考える『キッカケ』になるっしょ」
■神代理央 > 【後日継続予定】
ご案内:「違反部活の拠点――とある孤児院」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「違反部活の拠点――とある孤児院」から幌川 最中さんが去りました。
ご案内:「裏切りの黒 地下拠点」にエルヴェーラ・ネーヴェさんが現れました。
■エルヴェーラ・ネーヴェ > 青白い魔術光に照らし出された地下空間。
そこで、長耳の少女は落第街の様子を監視していた。
魔術による空間転写。
深い所まで張り巡らされているものではない。
しかし、落第街の大通りの様子であれば、確認することが可能だ。
日ノ岡 あかねによる『結成式』。
それを白髪の少女は、その様子を虚ろな瞳で見続ける。
眺め続ける。魔術の光を通して。
「トゥルーバイツ――真理に噛み付く者達、ですか」
目を細めるエルヴェーラ。
笑ってはいない。声に、色もない。
その筈なのに。
どこか、その言葉は彼女の『微かな喜び』を表しているようにも感じられる。
「裏切りの律者《トラディメント・ロワ》
……貴方なら、こういう時、どんな風に笑うのでしょうね」
爆炎の中に散っていった組織の長を思う。
かつて風紀委員に属しながら、落第街へと堕ちた一人の男のことを。
彼は、よく笑っていた。エルヴェーラには決してできないその色を、
彼は出していた。
そうして、魔術光の先に居る『日ノ岡 あかね』もまた同じ。
「……私達は、成すべき事を成すだけですよ、日ノ岡 あかね」
エルヴェーラが掌をすっと払うと、青白い光が消え、失せる。
エルヴェーラが座っていたソファ。
その上に置かれていた狐を模した漆黒の仮面を、彼女は手にとった。
「さて、落第街《わたしたち》の
『結末』はどちらへ向かうのでしょうね……?」
エルヴェーラ・ネーヴェは悪の矜持に忠誠を誓う。
落第街の均衡を保つ為に。
事の次第を静観する為に。
過去から未来を繋ぐ為に。
全て、虚に過ぎない。
全て、幻想に過ぎない。
その仮面の下の表情は……分からない。
ご案内:「裏切りの黒 地下拠点」からエルヴェーラ・ネーヴェさんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
■日ノ岡 あかね > 違反部活群の一角。
摘発と介入を行うと申請書を一方的に出して、早速『トゥルーバイツ』は動いていた。
独立遊撃小隊としたのはこの為だ。
上に言われるまで待機などはしない。
上にこちらから上申して動く。
それが出来るのが、独立小隊の強み。
好き勝手動き回れるのが、遊撃の強み。
「さて、『トゥルーバイツ』の初仕事ね」
手勢を引き連れ……日ノ岡あかねは楽しそうに笑っていた。
全員、隊服すら揃えていない。
統一感のない一団が違反部活群の中を練り歩く。
■日ノ岡 あかね > 「手荒な真似はなるべくしないでね。面倒だから。メインは勧誘。まだ、うちの隊は人が少ないからね」
クスクスとあかねは笑う。
実際、『トゥルーバイツ』の人員は三十人に満たない。
分類上一応は歩兵である小隊としては少なすぎる数。
もう二十人は欲を言えば欲しい。
「ま、そんなに集まらないとは思うけど……ダメ元でね?」
ニコニコ笑いながら、勝手知ったる落第街の路地裏を歩く。
かつてはあかねも『此処』に居た。
庭のようなものだ。
「前線要員も欲しいし、異能とか魔術の研究者の人とかも欲しいわねぇ。居たら優先的に誘ってね」
■日ノ岡 あかね > 警邏がてら、『トゥルーバイツ』の行う行動は全く単純だった。
ただ、声を掛けて回った。
ただ、不本意にそこに居るモノ達に『話し合い』の時の書類を渡した。
そして、それぞれにこう問う。
「……アナタは……どう『思う』? どう『したい』?」
それだけ。
それを、繰り返すだけ。
「……自分で『選びなさい』、ね?」
薄笑みと共に。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に『シエル』さんが現れました。
■『シエル』 > 『トゥルーバイツ』が練り歩く中、
仮面を着けぬエルヴェーラ――『シエル』は、廃ビルに背を預けていた。
彼らの来るのを待っていたかのように。
否。
『彼女』の来るのを、待っていたかのように。
少女はただ静かに腕を組みながら、
視界の端からやって来る彼女らを見やっていた。
■日ノ岡 あかね > 腕組みをして佇む少女に視線を向けて……日ノ岡あかねは楽しそうに笑う。
手勢を二人ほど引き連れて、少女に歩み寄る。
「こんにちは、いい夜ね」
あかねは満面の笑みで……初対面の少女に挨拶をした。
「私達は『トゥルーバイツ』、まぁ簡単に言えば風紀委員ね。此処には摘発と介入に来てるの……といっても、何かされない限り荒事をするつもりはないから、安心してね。職務質問させてもらっていい?」
そう、小首を傾げる。
お茶にでも誘うように、軽く。
■『シエル』 > 「……こんにちは。ええ、悪くはない夜ですね」
初対面の少女――実のところ、顔を合わせるのはこれが初めてである
――に、長耳の少女は小さく会釈をする。
その表情に笑みの色はなく。
無色透明な『空』のように、何も映し出してはいない。
見る者に虚無を感じさせる。そんな『空白』を宿していた。
「トゥルーバイツ……風紀委員の下部組織か何か……でしょうか」
あかねの顔を見上げる長耳。
少女は彼女に比べて随分と背が小さい。
齢にして12,3程の外見である。
「……職務質問ですか。ただの学生ですけどね。
聞きたいこと、他にあります?」
虚ろな紅の宝石をあかねの方へ向けながら、
簡潔にそう応えた少女は逆に、彼女へと問いかける。
■日ノ岡 あかね > 「タダの学生が此処にいるわけないでしょ?」
ニコニコ笑いながら、あかねは視線を逸らさない。
ずっと笑ったまま……真っ赤な空の瞳に、真っ暗な夜の瞳を向ける。
「私はあかね。日ノ岡あかね」
そう……少女の目を見たまま、あかねは笑う。
視線は逸らさない。
「アナタは?」
クスクスと……笑う。
■『シエル』 > 「それは偏見というものです」
やれやれ、と面倒くさそうに目を閉じて首を振る少女。
「私は、『シエル』。『シエル・フィオーレ』と言います。
考え事をしながら歩いていたら、道に迷ってしまって――」
聞かれれば、そのように答えるシエル。
当然である、といった風であり、その点は微塵も揺るがない。
そよ風のような返しである。
「――遠目に『風紀の腕章のようなもの』を着けた貴女を見つけたので、
保護していただこうと思いまして。
ですので、もし可能であれば保護をお願いできますか、
『日ノ岡 あかね』さん?」
そう口にして、小首を傾げるシエル。
そのついでに、少し話でも、などと誘いつつ。
■日ノ岡 あかね > 「ふふ、どうかしら? 保護には勿論応じるわ。仕事中だから帰るのは少し遅れるけどね」
ニコニコと笑って、シエルを一同に加えて歩き出す。
『トゥルーバイツ』構成員は全員それも特に気にした様子もなく、相変わらず職務をこなしている。
やっていることは本当に「見て」「聞いて」「誘う」それだけ。
それ以外何もしない。
強いて言うなら、聞く際に問うているだけ。
「どうしたいのか?」と。
「自分で選んだのか?」と。
まるで、「そこに居る言い訳」を奪うように。
そんな摘発と介入というにはあまりに静かで地味な職務をこなしながら。
「ねぇ、シエルちゃん。これは風の噂なんだけどね」
あかねは、シエルの顔を見て笑い。
「違反部活を狩る違反部活があるらしいんだけど……聞いた事ある?」
そう、問うた。
■『シエル』 > 「それくらいは問題ありませんよ。どのみち、一人では帰れませんし、
こちらはお願いしている立場ですから。最寄りの異邦人街の停留所
まで連れていっていただけると、助かります」
ぺこり、とお辞儀をするシエル。
そうして、『トゥルーバイツ』の仕事のあり様をちらりと見やる。
彼らは、問うている。彼らの『真たる存在理由』を。
この落第街に住まう者達には、『真たる存在理由』を持つ者がどれだけ
居ることか。シエルは、その問いかけに内心成程、と。
素直に感心の意を表した。
彼らを『突き動かす』ことを目的とするのであれば、
核心をついた効率的で、強力なやり方であると感じていた。
問題はその『突き動かした』矛先だ。
真理へ噛み付く――『トゥルーバイト』の向かう先。
シエル――否、エルヴェーラは、そこに興味があった。
「はい」
シエルちゃん、と呼ばれればそう答えて、風に靡く白髪を
人差し指で撫でる。
「違反部活……聞いたことがあります。でも、違反部活を狩る違反部活
だなんて、そんなものが存在するなんていうのは、聞いたことのない
話ですね」
そう、答えた。
そうして。
「すみません、この学園には来たばかりなもので、その辺りの事情には
疎くて……お力になれず、すみません」
そう口にして、シエルは再びあかねを見やる。
そうして、今度は彼女自身が問いかけたいことを、投げかけていく。
「違反部活、というのは……公に認められていない部活だと聞いています。色々な悪事も働いているとか――」
そこまで口にして、そよぐ風に白を靡かせながら、少女は『逆に』
問いかける。
「――何故、『悪』は存在するのでしょうね? 日ノ岡さん」
■日ノ岡 あかね > 「そんなものは存在しないわよ」
しれっと、あかねは返事をした。
昨日の天気の話でもするように、あっさりと軽く。
「陳腐な言葉だけど……『悪』は相対概念でしかないわ。誰かにとっての気に入らないことがその人にとっての『悪』になるだけ。それ以上でもそれ以下でもない」
古来から、『悪』とは何か。
そう議論はされてきた。
だが、答えは出ない。
時代と場所で全く変わる。
なんだったら……『正義』とされたことが『悪』になった例も枚挙に暇がない。
当然……その逆も。
しかし、それごと笑い飛ばすようにあかねは微笑んで。
「まぁでも……便利な言葉よね、『悪』って」
そう、目を細める。
楽しそうに。
「適当に同調圧力かけてそう『レッテル』を張れば……『悪』を叩くことに誰も罪悪感を抱かなくなるんだから」
クスクスとあかねは笑う。
過去、いくらでもあった話を。
今、いくらでもある話を。
そして未来にも……きっと途絶えないであろう話を。
何処にでもある悲喜劇を。
「だから、シエルちゃんの「何故、『悪』は存在するのか」という問いに強いて答えるなら……それが自然だから、じゃないかしら?」
あかねは笑う。変わらず笑う。
シエルの顔を見て。目を見て。
一度も、目を逸らさずに。
「……でもそれって、いい事じゃない?」
あかねは、呟いた。
「だってそれって……『いろいろな価値観』があるから発生することよ? みんな一緒なんて『つまんない』事になったら、そんな事起きないわ」
■『シエル』 > 「『悪』は、存在しない……? なるほど、面白い答えです」
悪は存在しない、と。
一言で以て軽く切って捨てた目の前の少女を見て、
シエルは、ほう、と小さく息を漏らす。
「相対概念。便利なレッテル。そうですね、私もそう思います。
『悪』の裁量は法や個人に委ねられる。
そしてそれはおそらく、絶対のものではない。
ですから、『悪』は虚構のものであるという考え方であれば、
納得がいく話です。私も同意します」
彼女に対して、深く頷いて肯定の意志を見せるシエル=エルヴェーラ。
「ですが、『存在しない』というのは、違うと思います。
だって、『虚構』だとしても、『幻想』だとしても。
現に『悪』と呼ばれる存在は血を通わせて、
この世に存在してるんじゃありませんか」
小首を傾げる。
一歩前へ出て。
彼女の瞳を見上げて。
「――だから私は、『悪』は虚構の上に成り立つ『生きた幻想』だと
思っているんです。
『生きた幻想』は確かにこの世に『存在』している。
それを私たちは恐れている。そう考えています。
そしてそんな私達をこの島で『悪』から救ってくれるのが
『風紀委員』や『公安委員』の方々……なんですよね?」
シエルは。エルヴェーラは。彼女の問いかけに、そう答えた。
ま、受け売りですが、などと小さく言葉を添えながら。
瞳は逸らさない。一瞬たりとも、彼女の瞳を寧ろ、覗き込むかのように
シエルは。エルヴェーラは、見つめている。
そうして。
「そうですね、『多様性』というやつでしょうか。私もそれは、素敵な
ことだと思います」
両者の間を、穏やかな風が吹き抜けていく。
■日ノ岡 あかね > 「それも違うわ」
あかねは笑う。
やはり、軽く。
どこまでも軽く。
楽しそうに微笑む。
「風紀委員会のやる事は治安維持。公安委員会のやる事は司法執行。どちらも『実在の脅威』を振り払うだけ。『生きた幻想』なんて曖昧なものは相手にしない。だって、その『生きた幻想』は……時に風紀委員会や公安委員会になることもあるんだから」
治安維持も司法執行も、どちらも常世島運営の実際利益を守るためにすること。
つまるところ、誰かの願望や欲望を守るためにすること。
「『実在の脅威』となった『誰かにとっての悪』を倒すことは確かに主な仕事。だけど、それは相互利益がたまたま重なり合うからそうなるだけ……だから、『救ってくれるに違いない』なんて甘えた事を抜かす『ダッサい』人達にとっては敵でも味方でもない組織よ……時に、『多様性』をも殺すのが体制なのだから」
それは、この常世島に限らない。
あらゆる行政機関がそうでしかない。
あらゆる体制権力がそうでしかない。
そこを履き違えた時に……悲劇が起きる。
「だから、最後は自分自身でやるしかないの。自分にとっての『悪』と闘うつもりならね……とはいえ」
クスクスとあかねは笑う。
「せいぜい武力だの矜持だので『それ』を何とかすると考えてる人達は、素直に全員体制と手を取り合った方がいいと思うけどね。その方が効率的だから」
シエルの瞳を覗き込んで。
夜の瞳で覗き込んで。
あかねは笑う。
「『私みたい』にすれば出来るんだから」
ニヤニヤと。
楽しそうに。
■『シエル』 > 「そう、なのですね。それは知りませんでした。
『風紀委員』や『公安委員』の方々はてっきりそういう方々だと
思っていました。風の噂に聞いた程度、でしたので」
返答を受けた『シエル』はそう口にする。そうして。
「でしたら、あかねさんの言っていた『違反部活を狩る違反部活』
が出てくるのも頷ける話です。
公の組織が行うのは治安維持と司法執行。
『生きた幻想』でなく、『実在の脅威』に立ち向かう組織。
ならば、だからこそ――存在するのでしょう。
『生きた幻想』を狩る、『生きた幻想』が。
それこそが、恐らく違反部活を狩る違反部活の、存在理由の一つ
なのかもしれませんね」
そう口にして『彼女』は目を閉じ、頷いた。
そして、自分でやるしかない、という答えに対して、内心もう一度、
深く頷いた。日ノ岡 あかねの行動理念に、頷いた。
「きっと。
そうなんでしょうね、日ノ岡さん。
でも、きっと。
その人達は手を取り合わないんじゃないでしょうか。
確かに存在する効率的な『現実』よりも
存在しないかもしれない『幻想』に生きる。
そういう人達なんじゃないでしょうか」
『彼女』は語る。
「それは――
救えぬほどに愚かで。
ひどく自我《エゴ》的で。
どうしようもなく朧げで。
馬鹿馬鹿しいほどに真っ直ぐで。
そこまでする人達に私、賛同はできません。
ですが、それでも。
理解できない話ではありません。
そういう人たちも、『多様性』の一つとして存在してるんだな、と。
話を聞いていて、そんな風に私、思いました」
色が無い筈のその顔に、ふっと。
穏やかな色が浮かんだように見えた。
それはこの場での彼女との語らいを心から楽しんでいるような。
そんな、そよ風のような笑みが、浮かんだように。
そう、見えた。
■日ノ岡 あかね > 「その人たちのやりたいことの『多様性』の担保は体制側で出来るのよ」
あかねは笑う。
目を見て、その奥を見て。
穏やかな空の向こうを、深い夜が覗き込む。
「私のように独立遊撃部隊になればいい。私のように体制と相互利益を形成すればいい。半端者を拾い上げ、選り分け、最後に残った『目に見える敵』と闘えばいい。『生きた幻想』なんてものは……『見えないから幻想』なだけ。ちゃんと『見えるところまで近づく努力』をすれば見えてくる。実際の問題も、実際の目標も……戦い、争うべき脅威も」
あかねは。
日ノ岡あかねは。
「それをしない事は……怠惰でしかないわ」
そう、断言する。
「いつか現れるかもしれない幻想が現れるまで待つ。それは、それが目に付くところまで『来てくれなければ動かない』ということ……いうなれば、向こう任せ。自分からは歩み寄らないってこと。だから、『居もしない巨悪』を作らなければ動けなくなる。だから、『ありもしない対立』を望まなければ実在もできなくなる。そんなのは座っているだけ。そんなのは口を開けて餌が来るまで待ってるだけ。私、同じことをしている組織を知っている」
目を細める。
「風紀委員会」
じわりと。
笑う。
笑う。
……嗤う。
「……『幻想』が『実在』になるまで待つのなら、それは一緒。何も変わらない。『誰かが悪になってくれるまで待つ』だけ。『自分のせい』にしたくないから……『誰かのせい』になるまで待つだけ。それって……言うなれば、治安維持じゃないの?」
治安維持は、言葉にすれば……治安が乱れるまでは小さな芽を無限に摘み取る地道な作業を続けるだけ。
そして、乱れるような脅威が生まれた時……大きく動く。
だが、自分から動いたりはしない。
待つものだ。
待つだけだ。
それこそが……体制武力のあるべき形といえる。
「存在しないかもしれない『幻想』を『幻想』の内に討ちたいなら……公安委員会がある。存在しないかもしれない『幻想』が『脅威』になった時に討ちたいなら……風紀委員会がある。やりたいこと一緒なら、手をつないだ方がいいわ」
それは最早、効率の話ではない。
もっともっと単純。
それこそ、物語に例えるなら。
「じゃないと、『誰かが譲歩して悪役するまで待つ』ことになるから」
納得の話。
整合性の話。
それが無い物語は……単純に収拾がつかない。
収拾がつかない以上、どこかで誰かに無理をさせる。
どこかの誰かが無理をしたときに崩れ落ちる。
そんなのは。
「……それこそ、『そんな状況を作り出している人達』こそ……『生きた幻想としての悪』じゃないかしら……?」
それは、真っすぐではない。
それは。
「……歪よ、それって」
手段と目的が、入れ替わっている。
日ノ岡あかねは……その歪を指摘した。
『居もしない敵を作ろうとする誰か』に。
『ありもしない対立を煽ろうとする誰か』に。
仮に『無為な血を流す事を悪』とするなら。
……そんな手合いこそが……『悪』を『作り出す』ことになる。
「……『悪』が『悪』だから『悪』を行う話をするって言ってた子が前にいたの」
あかねは笑う。
「楽しみにしてるんだけど、その話……着地点あるのかしら?」
あかねは……笑う。
「アナタは……『どう思う』?」
静かに……笑う。
■『シエル』 > 「組織だって、個々の集合体。
なら、一人ひとりの話には、きっと着地点が――」
そこまで口にして、『エルヴェーラ』は口を止める。
――私の、『物語《ちゃくちてん》』は?
それは、長年の間、彼女の内に無かった『問いかけ』だ。
終わりの無き悪の矜持。
組織の長を失い、それでも歩き続けるしかない。
その覚悟は、持っているつもりだ。
大切な男から、託されたからだ。
だが、その先には、何が在るのか。
そうか。
あの男の影を追いかけて。
己は、大切なことを見落としていた。
ならば、と。
「――その時はきっと。
『その人』が『その人』の『悪』を、行うのでしょうね。
それこそ、『貴女と同じように』」
そう口にして、『エルヴェーラ』は今度こそ笑った。
不慣れなそれは穏やかではない。
歪で、自然な笑みとは言えなかったかもしれない。
それでも、己の笑みを浮かべた。
「それは『破滅への道』かもしれません。
それでも、きっと……」
きっと。
話しながら歩いている内に、停留所は見えてくれば、
ぺこりと礼をした後、「ありがとうございました」と
言って、去っていくことだろう。
■日ノ岡 あかね > あかねはその言葉に……少しだけ、柔らかく微笑み。
「『敵』も『悪』も探すものじゃあないわ……見つけるものよ。自分に問うて、しっかりと考えて、目を凝らして……ずっと向こうまで見つめて、初めて見つかるもの」
それは、外にあるばかりではない。
内にもある。
自分自身の中にもある。
時にそれは様々な形になる。
実在の脅威であることもあれば……目に見えない幻想。
……ただの偏見や思い込みであることも、多々ある。
そして、それを生み出すのは。
「『自分自身』が『敵』のことだって……よくある事よ」
笑みに笑みを返して……去り行く背中を見送る。
シエルと名乗った少女の背中。
その背中を、ただ見つめて。
「相容れないと思っていたものだって……もしかしたら、同じ目的をもって戦う誰かかもしれないわよ。私、結構色々な風紀委員みてきたけど」
小さく、微笑む。
「大差なかったわよ。落第街にいる人達と」
争い、拳を向けあう事だけが道ではない。
それだけが物語ではない。
故にこそ、日ノ岡あかねは。
「『敵』だと思ってた者同士が『お互いに手を取り合う』とかも……結末の形じゃないかしら」
そう、静かに……夜に呟いた。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」から『シエル』さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
ご案内:「違反組織跡地」に角鹿建悟さんが現れました。
■角鹿建悟 > 『――こちら、角鹿…今回の依頼の現場に到着しました。これから作業に取り掛かります。』
そんな通信を耳元に付けた小型インカムで親方―男が所属する第九修繕部隊のボス…通称《親方》へと送る。
何時もの手順、何時もの作業。依頼人は相変わらず曖昧だが慣れたもの。
直すべき物がそこにあるならば、角鹿建悟に断る理由は無く引き受けない理由も無い。
「――さて、今回の物件は…また派手に壊れているな」
実際はほぼ更地に近い状況ではあるのだけれど。瓦礫の点在するそこをザッと銀の双眸で見渡す。
(…少し骨が折れそうだが、まぁ何とかなるか)
そう結論付ければ、何時ものように瓦礫の一部に右手を触れさせて。既に魔術で全体の再現・確認は済んでいる。
頭で描いた手順を何度も何度も繰り返しながら、能力で瓦礫を”巻き戻す”ようにして建物の修復を始めよう。
時間としては1時間もあれば充分か。残念ながら一瞬や数秒で直すのは可能ではあるが仕事が雑になってしまう。
直すならきっちりと――一切の妥協や怠慢は許されない。きっちり仕事をこなしてこその修復作業だろう。
■角鹿建悟 > 修復作業というのは裏方仕事だ。何か事件が起きて、風紀や公安が解決して、そしてその後に現場検証や諸々が終わった最後の最後。
”元通りに戻す”事を専門にした修復・修繕を専門とした部隊…それが男の所属する生活委員会傘下の特務部隊。
大工(カーペンター)の通称も、彼らの仕事ぶりを大工に例えたものであり、実際職人気質が多い。
この少年も例外ではなく、職人気質で堅物。手抜きも無ければ妥協も無い。…”出来ない”というのが正しいか。
(…予想と少しズレてるな…修復速度を落として…確実性を取るか。ここで失敗したら元も子もない)
若干ながら修復の速度を落としながら、その分を確実に復元…その精密性へと割り振る。
端から見れば、それこそ瓦礫が空中を舞い踊るようにして元の建物の形に戻っていく光景が見えるだろうか。
――ぶっちゃけ、相応に目立つので何時襲撃やちょっかいがあってもおかしくない。
が、生憎と今夜は間が悪い事に風紀の護衛などもいない。彼一人きりで修復だ。
チームのメンバーもそれぞれの持ち場で忙しく、お互い加勢できる状況でもない。
仕事を途中で投げ出すのは言語道断だが、いざ何かあったら彼には逃げることしか出来ない。
――戦う?いいや、角鹿建悟という男に戦う力は無い。あっても彼はその力を他者には振るわない。
平和主義者?臆病者?…そのどちらでもない。単に彼は己を直す者と断じているだけだ…壊す事は彼の生き様に反する。
ご案内:「違反組織跡地」に不凋花 ひぐれさんが現れました。
■角鹿建悟 > 「……思ったより…構造が…。」
事前に確認していたとはいえ、思ったより建物の老朽化が激しい。自身の復元はあくまで巻き戻しのようなもの。
つまり、新築同様の状態にする都合のいい事は”今は”出来ないのだ。
だが、出来る限りは破損や老朽化をマシな状態にはしておきたい。
負担が掛かるが致し方ない、直す為なら血肉などくれてやる、と本気で思いながら能力の出力を引き上げる。
「……ッ!……まだ…もう少し、精密に…構造…違う、修正…ぁ…ぐ!?」
無理に能力の回転数を上げた事で肉体や脳内が軋みを上げるが、彼はそれでも緩めない。
歯を食いしばりつつ、汗水を垂らしながら建物の修復を8割まで一気に終えていく。
「ハァ…ッ…これは…思ったより手強い、な…だが…。」
必ず直す。その初志貫徹の意志に揺らぎは無く、曲がりも欠けもしないのだ。
■不凋花 ひぐれ > からん、ころんと下駄が鳴る。
とうに壊滅した違反組組織の跡地に参るは、壊滅させた実動部隊の仲間である。
実戦での処理、書類上での処理、そして壊滅させた後の見回りを行うのが主だが、この見回りというのが曲者で、端的に言えばだれもやりたがらない。
危険が孕んでいるかもしれないのに面倒臭い雑務なぞこなしたいと思うことは余程のお人好しでない限り皆無だ。
そこで槍玉に挙げられるのはソロでしかパフォーマンスを発揮できない己である。
実務を行うことは己の特性上難儀を極める上、眼が見えないというハンディキャップの所為で扱い兼ねる。
一人で行動して問題なく、且つ当人が多少なり不測の事態に対応できるとなれば、不凋花ひぐれに雑務が回るのは自明の理だった。
からんころん。
瓦礫が浮き上がるように逆再生される光景は見れないが、瓦礫が何者かの手で浮き上がり、修復していることは音で分かった。
その方向へと向かい、彼との間合いに入る直前で止まる。
「――ごきげんよう。精が出ますね。随分と難儀しているご様子ですが」
かつ、と刀を白杖代わりにして持つ女生徒が、彼の苦しげな声に反応して肩を震わせた。
■角鹿建悟 > 「……問題…無い…。一応、難儀な所は…乗り越えた、から…な…あと、2割…で、終わる。」
呼吸が乱れているせいか、やや途切れがちに答えるがその声は苦しげではあるがしっかりとしており。
その右手と左手は修復されていく瓦礫に触れたまま、時々何かを操るように動かして効率的に瓦礫を建物という元の姿に修復していく。
「……そっちは…風紀の…特別攻撃課…か。風紀がここに来るという…話は…聞いていない、が…。」
先ほど、消耗したとはいえ峠は越えたので後ろを振り返る余裕くらいは出来た。
そこで、彼女の容姿と…その腕章を一瞥する。風紀の特別攻撃課、となれば…。
(――いかん、集中を殺いだら仕事にならない)
と、考えはそこで中断して残りの修復作業に改めて取り掛かる。今度は後ろを振り返る事無く。
とはいえ、まさか誰か来るとは思わなかった…少なくとも風紀の者が。
まぁ、彼女は何かしらの理由で偶々来ただけだろうし、護衛を頼むのは図々し過ぎるだろう。
ともあれ、ほぼ9割方の修復を終えれば…最後、深呼吸をして一踏ん張り。
「――全工程精査(オールサーチ)……完了(コンプリート)…能力回転数(コア・アイドリング)…零に移行(ゼロ・シフト)……よし。」
作業完了。復元されたのは6階建てのマンションに近いビルだった。
■不凋花 ひぐれ > 概ねこの辺りの瓦礫は撤去・修復に回されているだろうから盲目の己でも歩きやすい場所は判別しやすくなる。
それでも何かにぶつかって転ぶと命の危機に瀕するので、慎重に周囲を歩く。彼と己の間合いには絶対に入らないように意識しつつ。
「周囲の調査と見回りです。風紀委員会がここらを制圧したとかで、事後の確認がてらお邪魔しております。
作業の邪魔はしないようにしますので、『見張って』おきますよ」
彼の異能の影響か、ひどい呼吸の乱れを感じ取る。仕事を終えたら糸の切れた人形のように倒れるのではないかと心配する程に。
彼が護衛を必要とするかは与り知らぬ。だからこうしてビルの修復が終わるまでは歩き回ることにした。せっかく歩きやすくなっているのだから。
風の通りは次第に異なってくる。修復されていく建築物は大きく、なるほど人一人が修繕するには多少きついものだったのやもしれないと推測するに至った。
「おつかれさまです、終わりましたか?」
何周か彼の周囲で刀を握りしめながら、確信を抱いた声に反応して口元を緩ませた。眼は固く閉ざされたまま顔をそちらへと向ける。
■角鹿建悟 > 流石に、これだけの規模の建物だと幾ら強力で精密な修復能力を持っていてもきつい。
そもそも、男の持つ復元能力は…正直に言うなら決して珍しい力でもないのだ。
ただ、弛まぬ努力と実践、そして狂的なほどに直す事への思いを糧に能力を磨いてきた。
そのお蔭で、ここまでの大きさの建物も彼一人で何とかなる程度には成長したのだが…。
「――それは…ご苦労様、と言うべきなんだろう、な……。」
最後の確認をしながら、会話をする余裕が出来ただけ今回はマシなのだろう。
酷い時は暫くまともに動けないくらいの疲労や頭痛に苛まれるのだから。
彼女の『見張って』おくという言葉に僅かにだが無表情の中、その口元を緩めた。
有り難い、と礼を小さく零しながら最後の最後、確認作業は怠らず…程なく修復作業は終わりを迎える。
「…ああ、これで完了だ。…済まないな、わざわざ『見張り』をしてくれて助かった――」
と、改めて少女へと振り向いてそちらを見つめる。銀の双眸が少女の姿を認めれば、改めて気付いた。
「――全盲なのか?優れた感覚の持ち主は、目が見えなくても行動にあまり支障が出ないとは聞くが。」
そう首を傾げて率直に尋ねながら、彼女の持つ刀にも視線を向ける。
盲目の刀剣使い――特別攻撃課。…話だけは微かに小耳に挟んだ事はあった気がする。
「…確か、能力の無効化…だったか?特別攻撃課に、そういう力を持つ刀剣使いが居るとは、俺も一度聞いた覚えがあるが」
あくまで噂を聞いたのみで、彼女とはこれが初対面だ…そもそも所属している委員会も違う。
それでも、盲目、刀使い、そしてその強力な能力となれば噂くらいは僅かに男の耳にも届くもので。
もっとも、噂で聞いた程度なので実際は盲目ではない、という事は知らなかったが。