2020/07/23 のログ
ご案内:「某違反部活の拠点」に角鹿建悟さんが現れました。
■角鹿建悟 > ”真理”を巡る一件のその裏で、生活委員会とその傘下の修繕部隊の仕事は変わりなく続いている。
――今日も、落第街のとある一角の修繕を請負い、その途上で彼は気が付いたらこんな場所に居た。
「――……む。」
ゆっくりと瞳を開く。見知らぬ場所だ――明かりも殆ど無い。自分はどうやら椅子の上に座らせられて――手足をきつく縛られている様子。
(――確か、俺は仕事に向かう途中で――…)
記憶を辿る…ああ、思い出した。確か背後からいきなり襲われて昏倒したのだ。
…そしてこの状況から察するに、どうやら自分は囚われの身となっているらしい。
「……参ったな。仕事の遅れは流石に避けたい所なんだが」
思わず、そんな呟きが漏れる。無論、今自分が置かれた状況や立場は流石に理解できる。
――が、彼にとって”そんな事よりも”仕事に遅延が出る方が重要度は高いらしい。
■違反部活構成員 > 「よぅ、やっと目覚めたか”直し屋”さんよ。しかしまぁ、思ったよりあっさり拉致れたもんだ」
そんな軽薄な男の声が聞こえれば、何時の間にか複数の人影が現れる。
どうやら、彼を拉致した面々らしい。リーダーと思しき軽薄な男は、ニヤニヤと笑いながら建悟を見ている。
「――角鹿建悟…確か、第九修繕特務…だっけか?生活委員会のパシリの一員に間違いねーよな?」
■角鹿建悟 > 「――何だ、その”直し屋”というのは。…あと、アンタ達が何処の誰かは知らない…いや、全く興味は無いが人の仕事の邪魔をしないで貰いたいんだが」
淡々と、人影の連中を無表情と銀瞳でザッと一瞥してからひたり、とリーダーらしき男へと視線を据えて。
そもそも、たかがその生活委員のパシリ一人を拉致するのにご苦労な事だ、と冷めた思考。
(――助けを呼ぶのは厳しいか。…こっちのスケジュールを把握されていたか、或いは…)
そう、考えを巡らせていたが何時の間にかニヤニヤ笑いの軽薄な男が目の前におり――一発、顔面を殴打された。
「――っ!」
手加減無しで殴られたせいか、口の中を軽く切ってしまった。ぺっ!と血の唾を吐き出しながらそちらを改めて見据える。
「――分かり易いチンピラ連中だな。…俺一人どうこうした所でアンタ等に何の得がある?」
■違反部活構成員 > 「ああ、悪い悪い。つい隙だらけだったんで殴っちまったわー…で、何だっけ?アンタを拉致った理由?
――決まってんだろ、目障りなんだよアンタは。慈善事業者にでもなったつもりか?
――のこのこ現れて勝手に直して勝手に立ち去る。――うぜぇんだよテメェは」
最初こそケラケラと笑っていたが、不意に冷めた目で建悟を見下ろす。その瞳に感情は無い。
――あるとすれば、言葉どおり”お前は目障りだ”という想念のみ。
■角鹿建悟 > 「――そうか、目障りか……まぁ、否定はしない。確かに余所者が勝手に縄張りを直して回るようなものだろう。
――――で?」
それがどうした。たかが”その程度の理由”で人の仕事を邪魔したのかお前等は。
怒りも何も無い。ただ、つまらん連中だな、という無味乾燥な感情しか沸いて来ない。
「――まぁ、いい。取り合えずさっさと俺を解放しろ。アンタ等はどうでもいいが仕事は別だ。
それに――俺には大事な”約束”があるんだよ。それを破る訳にはいかない――」
だから――
「―――壊す事しか能が無い三下の有象無象が俺の邪魔をするな」
淡々と、自分の置かれた状況を全て把握しながら、目の前の男達に向けて何時もの無表情で口にした。
■角鹿建悟 > ――瞬間、こちらの眉間にゴリッと何か金属製の固い物が押し付けられる――銃口だ。
「――成る程、分かり易いな。…しかしまぁ、何と言うか…そうだな、俺の悪友っぽく言わせて貰うなら…「お約束すぎる」ってやつだな、これは」
銃口を向けられても、ただ視線を一瞥しただけ。そんな事より、もう仕事の開始予定時間を過ぎている。
――そちらの方が遥かに問題だ。親方…部隊の隊長にどやされるし、信用にも響く。
手足を拘束され、額に銃口を押し付けられてもそれは大した問題ではない。
それが強がりではないと伝わったのか、一部から困惑するような視線と空気を感じる。
「――どうした。撃つならさっさと撃てよ三下。
俺がここでくたばるならそれまで。それでも”世界は回る”んだ…別の誰かが直しにくるだけだ」
だから、さっさとしてくれ――くだらない脅しに付き合う義理も時間もこっちには無いんだ。
ご案内:「某違反部活の拠点」に『シエル』さんが現れました。
■『シエル』 > 違反部活の拠点。
そこに、白い霧が立ち込める。
辺りに根を張っていく朧気な白は、またたく間に
違反部活の拠点を呑み込んでいく。
霧の向こう、銃を突きつける男の背後に、人影を認めることが
建悟にはできたことだろう。
全てを覆い尽くす、そこに在り得ないはずの霧。
それは平等に、全てを包み込む白。
少女の操る、『呪い』の力。
「……バカですか?」
目の前の、銃を突きつけている男。
まるでその男が存在していないかのように、
縛られ嬲られている建悟へそう問いかける。
その声は普段通りの、色を持たぬ声で。
■角鹿建悟 > 「―――霧…?」
突如、白い霧が立ち込める――天候?いや、霧の発生する条件は整っていない筈だ。
そもそも予報では濃霧注意報など全く無かったし、これはそんな気象現象とは違う気がする。
――と、突然の霧の発生にざわつく周囲を他所に、男の視線はとある一点に釘付けになった。
霧の向こう側に人影が一つ。姿はハッキリとはしないが――その声は馴染みのあるもので。
「――シエル、か?」
ぽつり、と呟くように。この霧が彼女の仕業で、そしてただの霧ではないのは明確だ。
更に、彼女からのストレート且つ端的な問い掛けに男は僅かに首を緩く傾げてみせながら。
「――バカも何も当然だろう。嬲られようが殺されようが、”壊すしか能が無い馬鹿”に俺が屈する理由は見当たらない」
直す者として、愚直なまでに頑固な気質――ある種の狂人の域にまで既に踏み込んでいる男だ。
彼は本気でそう思っているし、もし、あのまま射殺されていても”何も変わらない”だろう。
――その場合、”約束”は果たせなくなってしまうが。
「――で、わざわざそんなバカに苦言でも言いに来たのかアンタは」
そういえば、あの時の女の子は無事だろうか?と、ぼんやりと思う。
自分の命の危機には未だ変わりないのだが、そんなものは彼にとって有象無象だ。
■『シエル』 > 拳銃を持った男がどう反応するにせよ、
背後から声がかかれば注意はそちらへ向くことだろう。
シエルは建悟の答えを耳で聞きながら、
霧の中で瞬時に低姿勢をとる。
それと同時に、彼女の周りの霧が一層、濃くなる。
そして彼女は破壊された瓦礫の破片を
幾つか拾い上げ、左手の内に収めていく。
「……」
無言のまま息を入れず、膝を曲げ、地を蹴る。
銃を突きつけている男の右へ向けて、身体を動かす。
素早く、一直線に、音を立てず。
彼女が向かうのは無論、縛られた建悟の居る地点。
霧の中であっても、虚ろなその瞳は確かに建悟を映し出して。
その左手が数度、振られる。
掌に収められていた瓦礫の破片が、銃を突きつけている男の
左手側で数度音を立てる。それは駆ける足音の如く空間に響き渡ることだろう。
それは正確に、歩幅の感覚を空けて地を跳ねていく音のデコイである。
機械的な無駄のない動きで建悟へと駆け寄れば、
その拘束を、右手で懐から取り出したナイフで一息に切断する。
「ええ、そんなところです」
抑揚のない響きを建悟に返しつつ、
白く細い腕を伸ばし、建悟のその手を取るシエル。
■角鹿建悟 > リーダー格と思しき男は右手の拳銃を素早く背後へと向けようとする――が、少女の動きの方が一瞬早い。
身を沈めた彼女が、左手に何かを握るのを霧の中でも僅かに見えた…気がする。
そこからの展開は数秒も掛からなかった。素早く、彼女が音も立てずに一直線に男――いや、こちらへと疾走。
その左手が振られれば、投擲された何かがあちこちにぶつかり反響音が行き渡る。
(これは――足音の擬似再現、か?)
と、疑問に思うのも束の間、気が付けばその音に紛れて目の前に来た少女が取り出したナイフでこちらの拘束を切断してくれていた。
「――それは律儀な事だ――一先ず、今回は”貸し”にしておいてくれ。いずれきちんと返す。」
命を救われたのは事実なのだから。とはいえ、ぼさっとしている暇は無い。素早く立ち上がりながらも既にデコイを見破った者も居るかもしれない。
「――ここはさっさと逃げるに限るな」
男は直す者――戦う者ではない。だから迷わず逃げる事を優先する。
かといって、幾ら霧の援護とシエルという心強い味方がいるとはいえ…
(三下でも落第街で生き抜いている連中だ。…底抜けにバカって訳じゃない)
つまり、逃げるにしても相応の策を必要とする。自分に出来る事はそれこそ、直す事だけだ。
■『シエル』 > 建悟を解放したは良いものの、無論このままでは蜂の巣である。
瓦礫のデコイにも限界があるし、霧とて全てを覆い隠せる訳では
ない。一刻も早い離脱が必要だった。
此処は文字通りの死地である。
端末を手に、自殺を続ける人々。彼らの動向を追っている最中に、この男が拉致される現場を目撃してしまった。
この、ところどころ瓦礫が散らばり『荒れ果てた』、違反部活の拠点に。
シエルは、壁の方に目をやる。
何故、このような行動をしてしまったのか。
それは彼女自身も分からなかった。
ただ、胸の内に違和感があった。それは、長い間忘れていて、
そして思い出したとしてもすぐに零れ落ちてしまうものだったろうか。
こんなことは、今までなかったはずだ。
これでは、まるで――
シエルは首を振る。
思考する時間は無駄だ。
この間にも、建物の出入り口には銃を手にした男達が詰め寄ってきている。
だから簡潔に、少女は建悟へと問いかける。
「力を、使ってくれますか?」
石を投げた方へ乱射される銃声を背に聞きながら、
シエルは建悟の手を取ったまま走り出す。
その先は、壁。
手詰まりの行き止まり《デッドエンド》。
ただ一つ、そこに大きな穴――破壊の爪痕が開かれていることを除けば。
■角鹿建悟 > (まったく、俺が完全に足手まといだな、これは…)
死ぬ事などいちいち恐れてはいないが、別に生への執着がゼロだとか、無駄死にするつもりもない。
この死地を離脱する為には限られた手札で何が出来るか。打開策もあるにはあるが。
(――却下だ。”アレ”は使わない)
出し惜しみしている余裕など無いのだが、それでも使いたくないのは―己の直す信念に反するから。
シエルをちらり、と一瞥する。幾ら約束をしていたとはいえ、彼女が危険を冒してわざわざ助けに来るのは無謀に等しい。
彼女がとんでもなく強いのかとも思ったが――否、そんな詮索は後回しだ。
(折角助けられたんだ。借りをきちんと返すのと――)
何時か、叶わぬ約束を果たす為にも…角鹿建悟はここで死ぬ訳にはいかない。
彼女の言葉に「了解した」と即答する。ここで作戦会議をしている時間すら惜しい。
白い手指が男の無骨な職人のような手を取り、彼女と共に男も死地を抜けるべく走る。
走りながら男は意識を集中。すると、男の右手に時計盤のような幾何学模様が浮かび上がり。
「―――何時でも行けるぞ、合図はシエルに任せる。俺だとタイミングが狂いそうだ」
こういう鉄火場の経験則は明らかに彼女の方が上だろう。自分は、ただ彼女を信じてそのタイミングで力を振るうのみ。
二人が走る先は行き止まり(デッドエンド)――だが、そこにぽっかりと開いた大穴。
――穴の大きさ、厚み、構造、材質。魔術で把握する暇はない。全てリアルに目算で設定をしていく。
男の右手に浮かぶ時計盤の針が動き出す。時計回りではなくその逆へと。巻き戻し――復元の力の象徴。
――逆巻き時計の修復者(リバース・エンジニア)は此処に居る。