2021/11/19 のログ
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
芥子風 菖蒲 >  
歓楽街の奥の奥。
此処は開発予定の雑居ビルだったが、どういう訳か今は放置されてしまっている。
そう、此処は本来常世島では認知されないアンダーグラウンド、落第街。
余程の物好きか、或いは後ろ暗い理由が無ければ普通の人間は訪れない。
違反者の巣窟、スラム。何とでもいえる。
過激派の"ガス抜き"や締め付けにも使われているらしいが、そこまでは良く知らない。

「……いい迷惑だけどなぁ」

ただ、そのせいで一部の人間からは風紀が"人殺し集団"と言われる原因にもなっていた。
ある意味で正しいが、誤解と言えば誤解。少年にとっていい迷惑だ。
他の風紀がどう思っているかは知らないが、それはさておき仕事仕事。
雑居ビルの前に立つのは黒衣を靡かせる少年と、風紀の腕章を付けた数名の風紀委員。
理由は単純明快。ある違反組織を取り締まりにきた。

今回は公安協力の調査の下、拠点が特定された。
組織の名前は憶えていない。ただ、薬だのをばら撒く違反部活らしい。
その薬が、歓楽街や常夜渋谷の一部で売られてしまったことを皮切りに特定されたようだ。
恐らくは組織の"シノギ"なんだろう。薬自体もよくある依存性の高い薬物らしい。
ただ、本来群生しない異世界の植物を使った薬物らしく
人体への強烈な負担を問題視され、早急に派遣された。……と言う事だ。

「…………」

ハッキリ言ってしまえば、少年は今回の一連の騒動は話半分。
この違反組織のしている事が、自分の守ろうとしているものを脅かそうとしている。
戦う理由は、それだけで充分だった。担いだ漆塗りの鞘を掲げると
両隣の風紀委員があるものを雑居ビルの窓へと投げ込んだ。
途端、ビル中から溢れる煙。催涙式の手りゅう弾だ。
即座に少年たちはガスマスクを装着し、黒い疾風が雑居ビルへと吹き抜ける。

芥子風 菖蒲 >  
雑居ビルを飛び込んでいく風紀委員たち。
煙をかき分け、ひび割れた床を踏みしていく。
階段一気に駆け上がり、開けた場所には煙をもろに吸い込んだのかせき込む違反生徒達。
少年の背後に控えていたキャップを目深にかぶった風紀委員が獲物を構える。
甲高い破裂音の後、鈍い音と違反生徒たちの苦悶の声が上がった。
拳銃に仕込まれたゴム弾、らしい。

「オレはこのまま上を制圧するから、キッドと坂上先輩達は後宜しく」

有無を言わさず、悶絶する違反生徒を踏み台に更に上へと駆け抜ける少年。
『おい!』と背後で聞こえた気がするが、静止の声で今更止まりはしない。
今回は電撃作戦だ。迅速に、全てを制圧する。
それなら機動力なる自分が、前に出るのは道理だ。

その早駆は風の如く、黒い風が一直線に階段を吹き抜ける。
黒衣をはためかせ、踊り場で武装した違反生徒に鉢合わせるも、即座に漆塗りの鞘を構える。

「邪魔」

向こうが銃口を向けるより、此方のが早い。
素早く鞘で喉仏を突き、続けざまに階段から蹴り落とした。
苦悶と悲鳴を上げ乍ら転げ落ちる違反生徒を尻目に、構わず突き進む。
あの程度で死にはしないだろう。無事とは言わないが、容赦してる余裕はない。
流れるように最上階。扉を蹴破ると同時に、少年の体が宙へと浮いた。

芥子風 菖蒲 >  
「っ……!?」

強い衝撃が全身を襲う。
腹部から入った衝撃だ。なんだ。背中が天井に叩きつけられている。
全身が砕けるような痛みに、意識まで飛びそうになった。何をされた。
とにかく意識を飛ばさないようにと、咄嗟に舌に噛み付いた。
血の味と共に、意識が頭部を叩きつけるように戻ってきた。

そんな刹那の思考。
天井にめり込んだからだが、僅かな瓦礫と共に床に崩れ落ちる。
鞘を支えに、倒れる事を何とか免れてまだ暈けている視界で前を向く。
何をされたのかは、すぐに理解した。
少年の前に立ちふさがるのは、自分よりも何倍も大きな巨躯。
浅黒い肌に、天を衝く一本角。その姿、まさに鬼と言うの相応しい。
手に持った鉄塊の如き巨大なこん棒が如何にもと言った感じだ。

「……けほっ。随分と余裕じゃん」

せき込んだ途端、口の中に鉄臭さが充満する。
全身も痛いが、特に腹部が尋常ではない。
どうやら、蹴破ると同時にあの鉄塊で吹き飛ばされたらしい。
よく死ななかったと、鍛えていた事をありがたがるしかない。

一方で追撃は無かった。そのムカつくにやけ面。
明らかに此方を見下している。小さいからか、或いは"勝ち誇った"のか。
だがそんな事はどうでもいい。返ってありがたい。
油断してくれた方が、"殺さずにすみそうだ"。
敵意に見開いた両目の青空。同じ色をした青々とした暖かな光が、少年の全身を包んでいく。
少年が振り抜くと同時に、鞘から抜かれた刃を構え、両者は対峙する。

芥子風 菖蒲 >  
鬼の咆哮が、待機を揺らす。
一歩で床に亀裂が走り、鈍い音を立てて薙ぎ払われる鉄塊。
大振り、威力抜群。だからこそ、対処できる。

「──────……!」

即座に撤回を潜る様にしゃがみ、青い軌道が太い腕をなぞる。
異能により強化された身体能力により、その程度の大振りなら"見切れる"。
此方を侮った代償は、その"片腕"で支払ってもらおう。
青い軌道に合わせて振られた刃が、丸太の如き腕を斬り飛ばした。
余裕を保っていた鬼の表情も瞬時に引きずり、悲鳴を上げる前にその胸元に切っ先が付きたてられた。

「沈め──────……!」

床を踏み抜き、渾身の一撃で飛び出す突き。
一筋の青空の軌跡、鬼の胸へと深々と刃が突き刺さり、その巨体が床に伏した。
鬼を足蹴にし、見開かれた青空が隠忍を見下ろす。
気づけばその黒衣も刃も、赤い返り血に塗れていた。
鬼の片腕と、胸から溢れる赤い体液が辺り一面を染めている。
これだけの重傷を負ったのに、まだ鬼には息が合った。

「……まだ生きてるんだ」

ペッ。口に溜った血と唾を吐き捨てた。
これだけやっても生きているのは、亜人のなせる生命力だろうか。
胸元から刃を引き抜き、切っ先を喉元へと突き立てる。
見下ろすものが勝者であるなら、少年は勝ちを収めた。
慢心が足元を救う典型。油断せずに来られていたら、蛮勇を潰されていたのは此方だった。

「…………」

何処までも無慈悲に済んだ青空が、じっと鬼を見下ろしたままだ。
生殺与奪は、この手にある。それを理解しているからこそ、鬼の表情は悲壮なもの。
随分と都合のいいものだ。自分が人様に迷惑をかけていると知らないで、のうのうと。
"コイツが……"と、どす黒い殺意が血染めの腹部に湧き上がる。
自分の守りたいものを侵そうとした"コレ"を生かす意味は、あるのか。
鬼の息がどんどんと荒くなるのとは正反対に、酷く少年の呼吸は落ち着いていた。

柄を両手で握り、黒衣を覆う青い光は爛々と輝いた。
酷く気も落ち着いている。まるで、全身の血液が冷えてしまったようだ。
コイツは、殺せる。死んでいい奴だ。
衝動だけが少年を突き動かし、切っ先を浮かせ、その頭部に狙いを定め──────……。

芥子風 菖蒲 > 『──────確保ッ!!』
芥子風 菖蒲 >  
他の男が張り上げた声に、はっと我に返った。
気づけば背後からぞろぞろと他の風紀委員がやってきた。
どうやら、下層の制圧を終えて此方の援護に来たらしい。

「ん、キッド達も終わったんだ」

その刃が下ろされる前に、鬼の体は他の風紀委員達に拘束される。
腕一つ斬り落とされてこの人数さ、最早抵抗は出来ないだろう。
ふぅ、と一息吐けば少し気が抜けた。その瞳に、先ほどの殺意はない。

芥子風 菖蒲 >  
風紀は"人殺し集団"ではない。
だが、結果的に殺人が発生するケースもおかしくは無い。
異能も魔術もその肉体も、悪事に使えば即座にそれは凶器になる。
目には目を、凶器には凶器を。それを制圧するには、同じ力でしかない。
それを生かして捕らえるなんてのは、ある意味綺麗事だ。
だが、その綺麗事を実行しようとしなければ秩序など生まれはしない。
ただ"殺す"だけならきっと、今頃落第街はもっと凄惨な光景になっていただろう。
独裁とはきっと、そう言う事だ。
尤も扱うのが人間なら、ちょっとした拍子で"不本意"な事も起きるかもしれない。

「…………」

これらの事を少年が実感するかはさておき。
頬の血を拭いながら、鬼を下ろしていき他の風紀を見ていた。

「いてて……」

気が抜けた途端、一気に全身の痛みが思い出したかのように駆け巡る。
特にこれは、あばらが何本かイったかもしれない。
よくわかんないけど、大袈裟に言えばそれ位痛い。
はぁ、と溜息を吐いてる傍では、紫煙を吹かすキャップ帽の風紀委員。
少年よりも大きな体躯を見上げると、静かに碧眼が此方を見下ろしている。

『とりあえずご苦労、相棒。けど、やりすぎだぜ。本気で殺す気だったのかい?』

キャップ帽の問いに、んー、と少年は唸り声を漏らす。

「無我夢中だった、かな」

加減が出来る相手ではなかったのは事実だ。
だから答えは、それだけだ。無雑な返答にキャップ帽は『そうかい』とだけ返事をし、他の風紀委員達と合流していった。

芥子風 菖蒲 >  
何にせよ、仕事は終わった。
これは後で病院いきかな、とぼんやり考えて軽く伸び…。

「っ……てて……」

…ると痛い。仕方ない。
気だるそうに溜息を吐いた。

「美奈穂と食べたクレープが出そう……」

腹にもろに食らったし、吐かない事を願うばかりだ。
少年もゆっくり階段を下りて行った。

こうして、落第街から一つの違反部活が消えた。
薬は全て押収され、公安委員会が処理する事になっている。
違反生徒たちは、二級学生と今回の事が考慮され
暫く地下で収容され、反省が見込まれれば正式に生徒に迎え入れられるらしい。
あの鬼も例外ではないが、怪我が怪我だ。
異能治療を受ける為に、現在は隔離施設の病院で治療を受けているとか。

ただ、今回も飽く迄氷山の一角。
少年は、己の守りたいものの為に、また此の舞台裏へと降り立つのだろう。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」から芥子風 菖蒲さんが去りました。