2022/11/15 のログ
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に真詠 響歌さんが現れました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に麝香 廬山さんが現れました。
■真詠 響歌 >
クレスニクからの帰り道。
『地獄の門』を超えてその先へ。
大通りの裏手から路地を抜けた先、
数分も歩けば居を置いている『ライオット』のテリトリー。
認識阻害はとっくの昔に効果も切れた。
遠巻きにこっちを伺う人の姿も少なく無かった。
少し考えて、足も止めずに手だけ振って答えて後ろの方に置いてきた。
手を振り、笑顔で真詠 響歌は此処にいるよと喧伝する。
表側を大手を振って出歩けない。
都市伝説、街談巷説、道聴塗説。
監視対象という伏せられていた線は、どこで漏れたか噂になってここにある。
歩けば歩くほど、人通りは少なくなる。
この辺りは目的も無く人が歩くような場所じゃない。
■麝香 廬山 >
そしてそれは、"そこ"にいた。
ただそこで相手が来るのを知っていたかのように
夜風に揺れるジャケットと髪。融和な笑みを貼り付けた青年がそこにいた。
「やぁ、歌姫ちゃん」
夕暮れよりも赤く、血よりも澄んだ紅の双眸が彼女を見据えていた。
辺りは酷く静かで、二人だけしかいないのか錯覚するほどだ。
そのせいかちょっとしたこんな挨拶でさえ、やけに響くように聞こえる。
片手を軽くひらひら振って、さながら友人に挨拶するように会釈する。
"第一級監視対象"。
自らより上にいたより一層の危険人物。
それが此処にいる意味を、"逃亡の身"が知らないと言わせない。
人差し指を口元に立てて、し、と口角を釣り上げる。
「先に言っておくけど、別に今日"は"乱暴しにきたワケじゃない。
所で、北上ちゃんのライブ。楽しかった?チケット、ちゃんと届けて上げたでしょ」
「感想くらいは聞かせて欲しいな?郵便屋さんとしては、だけど」
■真詠 響歌 >
「んぐぇ……」
変な声が出た。その姿は初めて見る。
日の落ちた路地、その真ん中で怪しく光るその双眸。
一目見ただけでそれが誰かは分かった。
"第一級監視対象"麝香 廬山。
等級の区分けにどういった段階が定められているかは聞かされていない。
ただ扱い次第で『災害』にもなるから、と制限を受けていた私以上の物なのだろう。
「初めましてだよね、廬山くん」
「チケットありがとね」
とんでもない人を郵便屋さんに使う人もいるものだ。
感想を問われれば、少し悩んで――
「めっちゃ良かった。
そんなおっきいハコじゃないけど、熱かった」
#迷走中、届いたよ。それを伝えてくれると嬉しい。
言いかけた言葉は飲み込んで。
■麝香 廬山 >
「ちゃんと顔を合わせるのは初めまして、かな?
どういたしまして。楽しめたなら何よりだよ」
生憎同じ監視対象とは言え、毎日顔を合わせるほどじゃない。
友人同士であっても、お互い"睨まれてる"いるのだ。
寧ろ、その接触こそ警戒されてしかるべきではある。
今起きてる事情はきっと、その警戒が形となって現れた悪い例だ。
青年は肩を揺らしてクスクスと笑う。
当然、談笑しにきたわけではないが
青年は温和な雰囲気を崩さない。
さて、と軽く首を回せば仰々しく両手を広げた。
"通行止め"だと言いたげな、そんな雰囲気だ。
「さて、ボクは人を虐めるのは好きだけど
真琴ちゃんみたいに言葉遊びはあまり得意じゃない」
広げた手がくるりと円を描く。
ゆるりと伸ばした指先が、彼女を指さした。
「単刀直入に聞こうか。『第二級監視対象《叫喚者》』」
「君とぬっきーのおかげで、ボク等のお上はカンカンさ。
ボクも、キミ自身だって"どうして"監視されているかなんてわかるでしょ?」
今更その事をどうと突っ込む気はない。
監視対象と言えど、監視理由は十人十色。
等級分けされているとは言え、共通点は
"監視されるほどの劇物である"、と言うことだ。
それは他ならぬ監視対象自身が強く自覚しているはず。
二人の音しかないテリトリー。青年がわざとらしく首を振れば
まるで二人をスポットライトのように月明かりが照らす。
「戻りなよ、歌姫ちゃん。
今ならボクがナシ付けてあげるからさ」
「ボクもなるべく、乱暴はしたくないんだよね」
「──────"この先の人たちみたいにさ"」
飽くまでは声音は温和のまま、帰るべき道。
彼女の現在の居場所である暗がりを親指で指した。
その声音は温和なのに酷く淀んで、鉛のように鼓膜を揺らすその声。
勿論"ハッタリ"の大嘘なのだが、それだけ真に迫るような物言いだった。
■真詠 響歌 >
お互い仲良くお話しよう、という立場じゃない。
進んで接触するべきではない。
お上が、というからには独断では無くて監視対象を管轄する、
風紀委員の判断という事なのだろう。
「わぁ、ヤなヒトだ」
素直な感想が口をついて出た。
踊るように、檀上で振る舞う役者のように。
青年の温和な雰囲気そのままに虐めるのが好きと語り、
クスクスと笑う姿はいっそ不気味で。
ただ、彼は聞き捨てならない言葉を吐いた。
「ヤだよ、戻ったって歌えないなら意味ないし。
そこまでどうこうしてくれるってわけじゃないんでしょ?
それより手、出したんだ」
温和なままに語るその声に、暫くの沈黙。
それがハッタリだと看破するような能力など何もない。
真偽はどうあれ、その言葉を受けて少女は肩を落とす。
「なんでだろね」
その声に籠るのは怒りか、自分のしたことへの後悔か。
声に宿る温度が下がっていく。
直接私を処断するのではなく周囲を壊す。
それは間違いなく私に効く。
というよりも、逃げ出した程度だと直接私を殺す判断を下せる段階にはならないのかも知れない。
研究区主導で行われた、プロジェクト『ハーモナイズ』。
人為的に人心を操作する試み。
その副産物として報告の上がっているのが真詠 響歌の死後に発生が予見される影響。
影響範囲が知覚できない事、それこそが真詠 響歌が監視対象に於いて二級に充てられている理由でもある。
■麝香 廬山 >
ヤなヒトだ。
にっこりと満面の笑みを浮かべた。
「そうだよ」
何一つ曇り無くそう答えてみせた。
自他ともに認める嫌な奴らしい答えだ。
そして当然嫌なやつなので、気落ちする彼女を見ても笑みを崩さない。
予想通りの返答に、予想通りの反応。
一歩、青年が足を踏み出せば月が翳る。
夜空を覆う、満点の曇天。星の光一つさえ、届きはしない。
この人気の無い静寂の宵闇がより一層暗くなる。
それなのに、何故か二人の姿だけ明確だ。
「……正直、お上が何処まで話してるかは知らないけどさ
周りの人を気にするくらいなら、キミは歌わないほうがいいよ?」
「お互い監視対象でさ、どうして"ソレ"が禁止されるかなんて、わかるでしょ?」
監視対象の監視理由と束縛条件は人それぞれだ。
一つ言えるとすれば、その条件を呑めば人並みの生活を得られる。
勿論監視対象以外にも異能の制限を受けるものもいるだろう。
それは生きづらいのか、単純に危険なのかはさておき
監視対象(ボクら)は彼等と違い、約束事を守らねば人でいられない。
他の連中はともかく、少なくとも廬山はそう思っている。
故に、歌を奪われた歌姫の歌声の危険性。
そして、鳴けないからこそ鳥かごのトリは可愛がられる事を忘れてはいけない。
「先に言っておくけど、ボクは今回の一件を一任されてるんだよね。
ぬっきーと歌姫ちゃんの"措置"をね。二人とも反省してるなら、ボクは意地悪しかしない」
闇の中でまた一歩近づき、半身乗り出し瞳を覗き込む。
「けど、キミ達に反省が見られない場合はね。
最悪"処分"しなきゃいけない。さっきも言ったけど、それはシュミじゃないんだよね」
「キミ達もアッチの連中も、"殺すくらいワケないからさ"」
真偽はともかく、揺るぎない自信がそこにはある。
第一級の所以、制限されている自らの異能。
悠々と告げる残酷さにさえ、青年は笑みを崩さなかった。
「寧ろ、感謝してほしいんだよね。歌姫ちゃん。
切ちゃんが担当だったら、キミもぬっきーも、キミを監視してた二人もとっくに斬られてる」
「……話し合いの余地だってきっとないよ?」
「キミの歌は"危険"なんだ。
生き甲斐を奪われる辛さはよくわかってるよ」
視線に僅かに、憐憫の色が宿る。
穏やかな声音にはため息混じりの辟易が混じった。
「キミはさ、周りに迷惑かけてまで歌いたいの?それが、キミ達の言う"ロック"って奴なのかい?」
■真詠 響歌 >
「切ちゃん」
誰よ切ちゃん。
言いかけて、いつぞやに見たリストの名前を思い出す。
「あ……追影先輩?
そういえば斬り殺すとかいろいろって言ってたっけ」
「生かすも殺すも君次第って奴だ」
できるんだろう。
腕っぷしに自信のあるライオットのメンバーを降せるほどに腕は立つのだし。
なにより第一級の肩書きは、それだけの物なのだから。
それに、その許可を一任されているという事は――
「ふふっ、押し付けられてるね。廬山くん」
ひどい扱いだよね、と薄く笑う。
「最初にね、約束はあったんだよ?
舞台は用意する、その為に受け入れろって。
他者に影響する可能性がある以上死ぬことも許可しないって」
「まぁ、守られなかったんだけど」
結果から言えば、その舞台は用意されなかった。
条件が整わなかったが故に。
「どうして"ソレ"が禁止されるか?
知らないよ?」
数千人もの人の大量自殺。
その切っ掛けになったとされているのが私の、私たちの歌だ。
集団の思想誘導、精神支配を目的としてその歌を使うというプロジェクト『ハーモナイズ』。
その実現の為に、まず無制御状態の歌を管理体制の中で制御可能な状態に昇華する。
それが初めに用意されていたシナリオだった。
定期的にテストを重ね、最新の設備で検査を繰り返して。
あの手この手で、私の異能を"理解"しようとした。
だから、科学者たちはきっともう気付いている。
気づいた上で言い出せない。
真詠 響歌に、異能など無い。
その上で処分に困っている。
異能の制御を前提に多大な資金を出させて管理させてきた"被検体"だから。
そして、異能は無いと判断を付ける事を最後まで悩ませた、
『真詠 響歌の死を知った人間の変死』という事例の未解決状態。
思っている物とは別種の危険な異能をもっている"かもしれない"という懸念。
だから、自分たちの手に無い所で処分"させよう"とした。
機械的な処理に人の手を介在させて、情に絆された担当者が隙を見せるのを狙って。
その上で他の監視対象による措置によって死んだとしても、言い逃れができる。
恐れていた"死後"という蓋を開けた責任を、彼らはひっかぶりたくないのだ。
「守られないから、私は好き勝手やろうって決めた。
だからここにいる」
「迷惑かけてまでって言われたら悩むよ? でも、息するなって言われてるようなものだよ、それ」
私はロッカーじゃない。
ミュージシャンで、ボーカリスト。
一年間止め続けた呼吸を、今しているだけに過ぎない。
■麝香 廬山 >
「そ、切ちゃん。知ってるでしょ?」
監視対象なら大体見たこともある(…と思う)第一級監視対象のあれだ。
斬りたがりの狂人。恐らく、"処分"となれば話し合いには成らないだろう。
彼女の嘲りが如き言葉を笑顔を崩さず聞いていた。
彼女が監視対象になった理由も、それ以前の事も耳に挟んだ。
彼女がそういうのはなんというか、酷く滑稽で鼻で笑ってました。
「そ、押し付けられた。けど、キミほどじゃないかな?」
目の前にいる青年は劇物そのものだが
埃を被らせるほど連中も愚かではない。
勿論廬山自身に拒否権はないにしろ、半ば受け入れている。
その上であっちこっちと押し付けられる歌姫に言われたとなると
此れほど立つ瀬のないことも無いだろう。
これはもう、恨み言だ。
出自のせいで、異能のせいで、能力のせいで。
或いは、或いは───────…。
そんな"たられば"の夢物語さえ哄笑する現実。
悲劇のカナリア姫に絆されるのもわからなくはない悲劇。
しかし、しかし……───────。
「それは一理あるかな。
ボクも立場が立場でなければ、寧ろキミを応援していると思う」
「けどね、"それはそれ"。"これはこれ"なんだよね」
猟犬が牙を納めるはずもない。
静寂の暗闇の中で、赤い双眸を怪しく細める刹那。
"周辺を埋め尽くす百目の空間"。
ぎょろりと大目玉が四方八方、隙間なく響歌を射抜く異形の空間。
宵闇自体の境界線が曖昧で、一度目玉に触れれば"沈んでしまいそう"な黒の涅槃。
ただ一つ言えるのは、その精神力にもよるだろう。
見られているだけで得も知れぬ恐怖感の重圧感がそこにはあった。
「一応キミには教えておこう。
ボクの監視理由の一つであるボクの異能」
「第一級監視対象《無間山脈》と呼ばれる所以。
挟山超海<ヴォイドウォーカー>。境界線を操る能力」
「……面白みもなく言っちゃえば、空間や事象を操る能力、かな。
平行世界の移動やワープ。現象の反転をする漫画の神様……」
「そう言うの、見たこと無い?」
一つ指を立てれば向こうは別世界。
一つなぞれば花は枯れて塵になる。
空間と事象に作用する異能。
廬山の絶対的自身こそこの異能が裏付けていた。
少し境界線を弄れば、離れた屋台を壊すことも
知らない人間の名前を知っていることにするのも
招待状一つ、離れた相手に投げることすら訳ない事だ。
そう、夜の宵闇などではなかった。
麝香 廬山の作り出した"彼だけの異空間"。
百目の向こうは文字通りの"見知らぬ世界"。
脆弱な精神力であるならば、目を合わせ続けない事だ。
超常的な視線はただただ、精神を摩耗させるだけなのだから。
「勿論ボクは生涯、此の島に来てからそれらをフルに使うことは出来ない」
「ボク自身も使う気はない。使うとしたら……」
「ボクが相当ムカついたら、かな?」
可愛げもなくメッシュを揺らし、小首を傾けた。
すると、崩れるように百々目く空間は塵のように消えていき
淡い月明かりに冷たい夜風、耳をすませば遠目の人気まで感じさえ出来る。
見下ろす月明かりが、"戻ってきた"事を教えてくれた。
自らの異能を明かすことについては
ひいては彼女自身に教えてやっているのだ。
"逃げ場など、何処にもない"、と。
「まぁ、一応紹介しておこうと思ってね。
それで、キミは……なんだっけ?ああ、そうそう」
「息苦しいんだよね。わかるよ、うんうん。
けど、他人を犠牲にするほど自分勝手でもない」
「キミの生き甲斐、歌さえ歌えればいいけど待ちくたびれた」
「……って、所かな?」
どう、合ってる?と青年は微笑みかける。