2022/12/16 のログ
■角鹿建悟 > 「――そうだな……それは”その通り”だ。」
覚えがあるのか、僅かに目を伏せて頷く。幼い頃の自分は…けれど今よりずっと笑っていたけれど。
同時に、思い出す。あのライブステージで輝いていた後輩とその仲間達の姿を。
あれは胸を衝くと同時に、羨望と嫉妬を正直覚えた。俺もああなりたかった…と、そこまでは言わない。
けれど、誰かの心を震わせるモノを届けたい、見せ付けてやりたいと思ったのも正直な所で。
――だから、あっさりと反論されて僅かに瞑目した。
そう、男には”力”がある。そして、それは”連中”と同じ土俵で振るうものではない。
むしろ、男の本領や本質は、破壊や殺しからある意味で一番遠く、それでいて鏡写しのような対極に近い所に在る。
「…いきなりそう言われても――…。」
トン、と。女が一歩を踏み出してこちらの心臓辺りに指先を当てる。
自覚がどうの、と言われてもピンと来ない。それこそ矢張り無自覚なのだろう。
…指先に力が篭る。その言葉に一度目を閉じて自分自身をきちんと見つめ直す。
――憎しみ、敵対心、己自身への怒り、嘆き、無力感。そういったものを一度綺麗にリセットするつもりで。
心の底の更に奥底に沈んでいるものを引き摺りだし、拾い上げろ。少しずつ、少しずつ。
(そもそも、破壊者に真っ向から向き合う必要は無い。俺には直し、そして創る事が本分だ。)
自分自身の原点を、自覚した願いを、過去も約束も思いもさて置き、奥底を曝け出す。
――俺は創る者だ。お前らみたいな破壊する事しか能が無い連中に出来ない事をやってやる。
憎悪を、敵愾を、怒りを、全て創る事へと集約するように己の思いを纏め上げる。
同じ土俵には立たない。自分には自分だけの、自分にしか出来ない舞台がある。
――ゆっくりと目を開ける。まだ、漠然とした形になりきらない混沌としたものではあるが。
一つ、定まったものがある。それは――…
「――そうだな。上手く言葉に表現は出来ないが…。
破壊するしか出来ない連中の度肝を抜くくらいの…”イカしたもの”を創ってやる。
…いいや。”俺にしか創れない”ものを創り上げてみせる。今はまだ形にすらなっていないが、いずれ必ず。」
憎悪や怒りは消えないが、その熱は一先ず冷めずとも置いておく。
そして、不器用にだが口元を薄く、それでいてはっきりと笑みの形へと変えて。
「俺は角鹿建悟―――破壊を嘲笑う『創作者(クリエイター)』だ。」
■ノーフェイス >
「――あとは、これから。
キミだけの言葉を見つけていけばいいよ」
にまりと笑みを深める。
それくらい不敵でいい。それくらい傲岸でいいのだ。
そうしただけの発言に釣り合うものを造れるかは、彼次第。
「それじゃ、こっちからはコレだけだ」
細顎にふれていた指を軽く噛み、手袋を外す。
ギターを爪弾いていたその白く長い指――演奏者の手。
それを彼に差し出した。
「一緒にやらない?」
彼に、己が、表舞台に行きづらい存在だと初対面で明かした上で。
その言葉は要するに、こちら側に来い、という誘いだ。
違反部活――であるからこそ、できることもある。
「人足と資材、建築やるなら土地もだな――
部活動の一貫ってことなら、カネとコネで引っ張ってこれる。
もちろんキミが見合う仕事をやれる前提だケド」
マネジメント業務、のようなもの。
要するに部活への勧誘だ。彼がやりやすくなる下地とサポート。
その代わり、背負ってもらう名がある。
■角鹿建悟 > (…上手く”乗せられた”気もするな…いや、乗ったのは俺自身か…。)
我ながら、何とも大言壮語をぶちかましたものだ。少し前の自分ならまずこんな傲岸不遜な事は口にしなかったろうに。
とはいえ、ここまで焚き付けられて、そしてそれに乗っかったのだ。
後には引けないし引くつもりも無い。引いたら今までの自分に逆戻りだ。それは”つまらない”から。
「そうだな…俺が、何時か俺自身の言葉で己を示せるように努力するさ…。」
今はまだこの程度。だからこそ”挑戦”するのだ。破壊する連中と、何より自分自身へ。
ふと、彼女が手袋を外してその白く長い指先を晒す。演奏者の手というものだろうか?差し出されたそれに一瞬、きょとんとして。
「……一緒に?」
それは、つまり”こちら側に来い”という勧誘だろう。
彼女があの時、変装していた事から表側では大っぴらに活動できない立場なのは勘付いていたが。
…いや、そもそもそれを承知で探していたのだから今更だろう。
「…少なくとも、仕事を手抜きするなんて事は論外だな。」
まず、そこはきちんと申しておく。直す仕事だって今まで手抜きした事はただの一度も無い。
創る仕事はまたそれとは方向性は異なるが、だからといって手を抜くなんて、それこそ挑戦する資格すらないだろう。
一度、己の右手を見つめる。この手を取れば後戻りは本当に出来無いだろう。
表側の生活や、委員会の仕事、直し屋としての仕事も捨てるつもりはさらさら無い。
(――けど、創作者なら…表だ裏だなんていう拘りはむしろ”邪魔”だろう)
二足の草鞋、大いに結構だ。今まで以上に健康方面には気を使わなければいけない懸念はあるが。
それに、”こちら側”への関与がバレたら退学…いや、風紀とかの世話になりかねない。
「――分かった。今はまだ未熟者だが世話になる。」
なんて、そんな事は承知の上で右手を今度こそ差し出して握手をしようか。
――これが、己の人生の転換点の一つになるのだと淡く思いながら。
■ノーフェイス >
「言っとくけど、呼べるひとたちも対等なパートナーだ。
カネでつるんでる関係で、なにひとつ保障はないのがこっち側。
そういうひとたちをうまく使えるか、ってのもキミの仕事のうちだよ?
信頼を失えば、そこでつまずくことになる――試練はそこにも、だな?」
あくまでこちらはコネクションとマネーで人を呼べるだけ。
現場責任は彼が負うものであり、創作者はそれをこなさなければならない。
あるいは、優秀なマネージャーを見つけるか、だ。
「建築家(アーキテクト)は芸術家の中でもやるハードルがめちゃくちゃ高い。
作品を遺すのに必要なものが多すぎる――そのいくつかを既に飛び越えてるのがキミだ。
ハードボイルドになれるよう、協力は惜しまないつもりだから、
神がかったヤツを頼むよ、期待してる――これからよろしくね」
握り返す。
「フフフ」
女の手は大きく、右手であっても修練の硬さが染み付く。
彼の手も同様だろう。刻み続けたものがある。そしてこれからも。
「キミも、"夜に吼えるもの"だ」
ぶんぶん、と握った手を上下に振った。
その違反部活は、複数形では語られない。
集うのは個人だ。個人の集まり。
「さて……キミのこと、なんて呼べばイイ?
こっちだと"ヴィランコード"ってので名乗るのが作法みたいなんだよね」
イイのある?と、手を解いて問うてみる。
本名は問わなかった。
そして女はここにいたるまで、彼の名を一度たりとも聞いていなかった。
「ボクは顔見知り(ノーフェイス)。
ちょうどいいから、ここに来るまえの通称をそのまま使わせてもらってるんだ。
――もうちょっとカッコイイのにすりゃ良かったかなぁ~、って。
会うヤツ会うヤツがいいもん名乗ってるから、ちょっと思ったりもするケド」
照れくさそうに戯けつつ。
■角鹿建悟 > 「…そもそも、創作活動に手を貸してくれる連中に対して、利害であろうがそうでなかろうが対等だろう。
元より下に見るつもりはないし、保障が無いのは百も承知だ。
…と、いうより…個人でこっち側で直し屋をしている時点で身に染みているしな…。」
問題は、その連中を自分が上手く使えるか、というただ一点に尽きる。
正直、コミュニケーション能力は決して高いとは言えない職人気質でもあるので、そこは難題だろうがやるしかない。
「…ハードボイルドになるかは兎も角。俺は俺にやれる事を全力でやるだけだ。
…ああ、”神掛かった物”はそれこそ…いや、何でもない。」
そもそも、文字通りの神掛かった物を創ってきた家系ではあるのだ。
その血筋に頼りきるつもりはない。あくまで自分の努力と研鑽と発想。そして…まぁ、色々課題は多いが。
握手をしてみて、初めてその手の大きさと”積み上げてきたもの”を感じ取れた。
見ただけでは分からないものは矢張り多いものだな、と今更に思いながら。
「…夜に吼えるもの…か。」
それが部活の名前なのだろう。その名前を刻み込むように口にしつつ、手をぶんぶんと振られながら。
「…ヴィランコード……?いや、何でそんなもの…あぁ、まぁそうか。そうだな…。」
まさか、馬鹿正直にこちら側で名前をそのまま使う訳にもいかないだろう。
直し屋としては、普通に本名で通しているから迂闊というか今更な気もするが。
そもそも、そう言われてもしっくり来る名前なんて浮かびはしないのだが。
「……さっき大言壮語をぶちかましたから、いっそ大仰なものでいいだろう。
――《デミウルゴス》。ギリシア語で《工匠》や《職人》を意味する言葉だ。
…少し言い難いかもしれないが、それでよければそう呼んでくれ――ノーフェイス。」
《世界を作る職人》という意味でもあるその名前は大仰に過ぎるかもしれないが。
このくらいがむしろ丁度イイかもしれない。と、我ながら馬鹿だな、と思いながら口にした。
「…あと、ノーフェイスというのもそれはそれで格好良いと俺は思うが。
…何より大事なのは、自分がその名に意味と愛着を持っているかどうかだと思う。」
■ノーフェイス >
きょとり、と大きな金瞳を見開いて驚き顔。
続いて、にやり、と愉しそうに、そして少し悔しそうに笑みを浮かべる。
――よく言ったもんだ。これは、とてもいい刺激だ。
「イイねイイねー! どんどん大げさに格好つけていこーぜ。
この昏い街に花を咲かせ、虹を架けよう。
そう在ろうと道を極めれば、キミはまさにそう為ってしまう奴かもな?」
激しくハンドクラップを鳴らし、賑わしく。
楽しそうに笑った。出逢いと新生に、今日はめでたい日だ。
この世界のとらえ方で、善にも悪にも成るという神の名を。
「よろしく、デミウルゴス。
……デミウルゴス。
んっん……凄ぉーく据わった呼び名だ。
んー、……んん、そうだなぁ」
名前への愛着。意味。
どうだろうか。
みずからが、ごくありふれた、どこにでもいるような人間であると。
その証明でしかない名前――あえてそれを名乗っている、偽名であるという事実。
眼を伏せて、少し考えてから。にぱ、と笑う。
「キミの感性がそう言うなら、ありがたく頂戴しとこうかな。
なにより――そう、意味があるとすれば。
明日の保障もないこの街に、夢や希望は見つかりづらくったって。
いまは"ノーフェイス"や、"デミウルゴス"は居るじゃないかって。
そーなったらサイコーだね?」
判り易い呼び名、それだけで意味がある。
そう思う者が、同じようになろうとしてくれれば、もっと楽しくなるだろう。
時折破壊もする、敵にもなりえるこの女は、ただ楽しいことを求めていた。
「さて、デミウルゴス。
さっそくひとつ頼まれてくれない?
人足と資材はある――発注しすぎちゃったヤツが。
納期はカツカツなんだけど、ぜひ。
ボクの小さい頃からのささやかな夢を叶えて欲しいんだけど――」
女は唇のまえにひとさしゆびを立てると。
不敵に笑い、新たに誕まれた"夜に吼えるもの"に対して、悪ふざけを持ちかける。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」からノーフェイスさんが去りました。
■角鹿建悟 > 「……いや、流石にいきなり吹っ切れるのは難しいかもしれないが…まぁ、うむ。」
大言壮語をぶちかました挙句に、果てしなく大仰に過ぎるヴィランコードを決めてしまった。
が、今までの自分から決別、とは言わないまでも変化していくならこのくらいの刺激は必要だ。
あと、どうやら彼女にはこのコードネームは”ウケた”らしい。愉しそうに、そして何処か悔しそうな笑みを眺めつつ。
「…まぁ、呼び難かったら適当に省略というか、短くして呼んでくれればいいさ。」
と、いうよりまず自分が”こちら側”このコードネームを名乗る事に慣れないといけない問題がある。
流石に、直し屋としての自分ではこのコードネームを名乗る迂闊はしないつもりではあるが。
「…名前には意味があるというか、言霊…と、言えばいいのか。そういうものが宿ると思っている。
偽名だろうがふざけた名前だろうが、大仰な名前だろうが…無意味なんて事は無いだろう。」
少なくとも、男はそう思っているし信じている。無意味で無価値な名前など無いと。
それが、プラスであれマイナスであれ何かしらの意味は持ち合わせている筈だ。
「――仕事か?…了解した。」
そして、いきなりのノーフェイスの”依頼”に即座にそう返答するのは日頃の仕事の癖だろう。
とはいえ、彼女の言うささやかな夢とはどんなものだろうか?と。
――余談だが、その詳細を聞いて何とも言えない表情を浮かべた後に、男はこう口にしたのだ。
■角鹿建悟 > 「――把握した。《世界を作る職人(デミウルゴス)》がその仕事を承ろう。」
ご案内:「違反部活群/違反組織群」から角鹿建悟さんが去りました。