2020/06/21 のログ
227番 > 相手をじろじろと見ると怒られそうな気がして、道の方を見つめている。
少しずつ呼吸が落ち着いてきて、もうちょっとすれば動けそうだ、などと考えていると、食べ物を差し出された。

「ぇ……」

意外だ、といった様子でフードの下から目を覗かせ、首を傾げる。

「……どうして?」

食べ物には目がないものの、理由がわからないと素直には受け取れないようだ。
227は向けられることも少なかった、憐れみや同情といった感情をまだ理解していない。
タダより安いものはない、ではないが、納得できる理由を欲している。
善意を無邪気に受け取れない程度にはここに適応してしまっていた。

夢莉 > 「あ?」

どうして。まぁ、当然の反応だ。
身寄りのない者、頼れる者のいない者は警戒心が強くなければ生きてはいけない。
だから急にこうして食事を出されても、素直に『ありがとうございます』などと言って受け取って食べるなんてことは、自分でもしなかったろう。

「どうしてっつわれてもな……
 
 …強いて言うなら、あー…死なれたら夢見が悪いからだよ。
 
 いいから、ほら。
 毒も何も入ってねえから。食っとけ」

少女の問いかけに素っ気なく返すと、そのまま食べかけのアンパンと牛乳を乱暴に押し付けるように渡し、しゃがみ込んでポケットから煙草を一本取り出し、おもむろに吸いだした。
子供の前で喫煙は褒められた事ではないのかもしれないが、そんな事を気にはしなかった。

「……お前名前は? そんなナリでこんなトコほっつき歩いてると苦労すんぞ。
 …ああ、今してんのか。
 
 で、何に逃げてた訳」

相手に干渉しだすと、気になる事は増えていく。
煙草を吸いながら雑談がてら、気になった事を聞いていくだろう。

227番 > 強引に押し付けられ、返せそうな気もしない。
受け取らないなら、ゴミにになってしまう。
納得できず、困った表情をしながらも、仕方ないので貰うことにする。

「……うん」

教養は無いが、頭は回る方だ。相手もそう言っている上、目の前で食べていたのだから、まず毒はないと思った。
匂いを嗅いでから、すこし齧る。
たばこについては、気にする様子もない。そういう人を知っているかのようだ。

「わたしの、名前……これ」

フードのタグをひっぱって、に、に、なな、と読み上げる。
227はこの形はこう読むとだけ理解しており、これが何に使う文字かも理解していない。

「……ご飯、探してたら、怒鳴られた」

食べ物を貰ったので、たどたどしいながら素直に答えた。
227は単純なので、すでに相手は悪い人ではないと認識している。

夢莉 > 「それは名前じゃねえだろ…」

数字の描かれたタグを指さしてそれを名前と称する少女を、呆れたように見ながら煙草を吸う。
一体どういう人生を歩んできたんだか。
まぁ、人の事は言えないが。

「…まあいいや。じゃあ……ニーナでいいな。ニーニーナナだし。
 
 で、食べ物を探して…ね。ま、そんな事だろうと思ったけどよ。
 ……大方メンドクセエ輩のテリトリーに入ったんだろーな。
 ここらは自分の縄張り作って人に見られちゃ拙い事してる奴ら、腐るほどいやがるからな。」

次から変な奴には近寄らねえようにすんだな、と軽く忠告をしながら、大体話が分かれば少女がやってきた方の道を見る。
暫く走れなくなるほど逃げたという事は、そうしなきゃいけない程追いかけられていたという事だろう。

この場でこの少女を探している者に出くわしたくはない。
知らん顔をして関わり合いにならないというのは、出来ないだろうと思ったからだ。

227番 > 「わたし、これしか、しらないから」

唯一の自分のことを示していると知っている記号である。
だから、名前を聞かれたらこれを答えている。

「……いい人の、ほうが、少ない」

ここ数日はいい出会いに恵まれているものの、当然、そうでない人のほうが多いのは事実。
忠告はもちろんわかっているので軽く聞きながら、また一口かじった。

追っ手が来る気配は無いだろう。
追い払うために怒鳴られているので、そもそも追いかけられていないのだ。
しかし、それはこの場のどちらも知る由はない。
ここまで切羽詰まって走るのは、227が過剰に臆病なだけなのだろう。

夢莉 > 「まぁ、この辺で『いい人』なんざ天然記念物モノなのは同意だけどな」

追手はいない。とりあえず今のところは。
ならいい。それに仮に来ていたら、まぁ…面倒な事になる前に適当に巻くだけだ。

「…にしても、これしか知らないってのは流石に大げさだろ。
 親とか…はいなさそうか。
 どーせ迷子みてえなモンだろ。元居た所とかは?」

変なガキだな、と思った。
浮浪児のような見た目で、実際浮浪児そのものに見えるのに、浮浪児であれば知っていそうな生きていくための『貧民街での常識』のようなものを知らないような噛み合いの悪さ。

力の弱い子供が治安の悪い地域で生き残るには、大人の庇護を受けるか、上手く立ち回るか、あるいは両方が求められる。
なければ、早々に死ぬか、死ぬよりも酷い扱い…大方、何も知らない子供を欲しがる輩に連れていかれる。
その末路は、解体されるか、戦争に連れてかれるか、運がよければ、金持ちの変態に買ってもらうか
…大方、そんな所だ。

目の前の子供は、頼りになる大人がいるようには見えない。
そして出会った時の事を顧みるに、上手く立ち回るのも、得意そうには見えない。
つまるところ何方もない。
生きてるのが不思議な子供に見えてならないのだ。

227番 > 「てんねん……?」

知らない言葉に首を傾げる。
学問は一切修めていないため、口語でよく使われる言葉以外には疎い。

「……なにも、しらない。気づいたら、このあたりにいて、それより前は、なにも、わからない」

可能な限り、他人との接触を避け、とにかく逃げることを繰り返している。
その生活は数年にもなるが、こうしてたまに失敗している。
それでも、なんとか生き延びているのは、ただ運がいいだけなのかも知れない。

親も知らない。というか親の概念もよく知らない。
覚えているのは、ある日路地裏で目が覚めたこと。
227という文字が自分のことを示している事。それぐらいだ。

実際にこの少女には謎が多い。
路地裏に時折現れる猫のように、どこか掴めない所があるのは確かだ。

夢莉 > 「クッソ珍しいっつー事」

雑に説明してくれた。
そして少女の言葉で頭を抱えるだろう。

「………マジか」

つまるところ、記憶喪失。
どんな人生だったのだろうか、想像するだけでクラクラとしてくる。

自分が一人でスラムを生きて来た時は、ある程度生きる方法を見出して、危険かそうでないかが見極めれるようになってからだった。
だから今日まで生きられたし、危険も回避できた。

何もしらない状態でこんな場所に放り出されたらどうだったろうか。
多分、数日ももっていない。

「それでよく生きてこれたな、お前…。
 
 ……あぁくそっ、めんどうくせえのに出くわしちまった…!」

何が面倒くさいかと言えば、無視できない自分が一番面倒くさいのだが。
そう思いながら乱暴に頭を掻く。難儀な性格になった自分を、恨むように。


「はぁ……
 …お前、家は?

 ねえなら、あー……ウチに来い。
 飯とフトン位ならあるし、まぁ…ココよりは安全だぞ」

227番 > 「……そうなんだ」

しかし覚えることはないだろう。今の所は必要ないから。

それから、葛藤している様子を不思議に思い、首を傾げながら見つめる。
昨日会った人も、そうだった。突然見返りもなしに、自分に何かをくれるという。
悪意が無いことはわかるものの、赤の他人にどうしてそこまで気を回せるのか、227には分からなかった。

「家……寝るとこは、ある。えっと……カナ?に貰った」

名前のところだけ、自信がなさそうに言う。
227は名前を覚えるのが苦手なのだ。

「だから、大丈夫」

そして申し出には、少女は首を縦に振らなかった。

夢莉 > 「あ? カナ…?
 ……そいつのフルネーム、鞘師華奈で合ってっか?
 こんくらいの背で、茶髪で、赤いメッシュ……赤い髪が片っぽに少しだけある奴。」

こんな風な髪型をした、と自分の長い髪を軽く手でまとめてヘアスタイルを真似たりする。
カナという名前だけで判断するのは尚早かもしれないが、前にも似たような事はあった。
ので、一応確認をとった。
自分の知ってる人物と同じなら、多分大丈夫だ。
まぁ…まら顔見知り程度の仲だが。

「…まぁ、家があんならいいや。
 ……でも家あんならこんなトコこねえほうがいいぞ。
 こんなトコこなくても、メシくらいありつけんだろ?」

住処を用意しておいて餓死させるような真似は流石にしないだろ、と信じたい。

227番 > 「ふる、ねーむ?……わかんない。けど、たぶんあってる。ちょっと、煙たい人」

フルネームは覚えていなかったものの、髪型の真似をすれば、肯定の返事をする。
煙たいというのはタバコのことだ。

「……なにしたらいいか、わかんなくて」

言われる通り、食べ物はたしかにある。しかもそれなりの量だ。
しかし、食べ物探しに全てを費やしていた227は、
やらなくて良くなっても、他に時間の使い方を知らなかった。
習慣的に外をでて、収穫がありそうなゴミを見たら漁ってしまう。

夢莉 > 「…あー」

そっと自分の持ってる煙草を見て、地面で火を消した。
煙たいと言う子供の前で吸い続けるのは流石に忍びない。


「……ほんっとになんも知らねえのな。はぁ…しゃーない」

そう言うとカバンからがさごそと何か、ケースのようなものを取り出してそこから1枚カード状のものを抜く。

カラフルなデザインの表面と、裏面に連絡先等が羅列されたカードだ。
ちゃんと教養があればバンドの名刺だと分かるが、少女には難しいかもしれない

『 〇〇○○○
 ボーカル:ユウリ
 連絡先:■■■-■■■■-■■■■』

「とりあえず今日はそこ帰って…カナに連絡つくならそいつ、カナに渡しな。
 『ユウリが呼んでた』っつえば多分通じるから。
 
 いいな?」

227番 > 「……わかった」

初めて見る類のものに首をかしげる。
それから、引き受ける、という旨の返事を返した。
227的には、食べ物をもらったお礼、と言ったところだろう。
連絡方法は無いが、会ったら伝えるぐらいはきっと出来る。

そっとカードを受け取って、見てもわからないが、両面をチェックした。

夢莉 > 「じゃあオレ帰るから、お前もさっさと帰れよ。
 
 …変なトコいかねえで真っ直ぐ帰れよ?」

指を差して念を押す。
何で自分は見ず知らずの相手にこんなおせっかいをしているのかと一瞬思ったが、考えない事にした。

「帰り道も分かるな?
 …迷ったら風紀委員。…あー、こういうマークつけたマジメそうな奴に道訪ねろよ。
 そいつらなら変な事してこねえから」

こういうマーク、と風紀委員のマークを簡単に教えた。
ここまで言っておけば多分大丈夫だろう…多分。

「それじゃ、気を付けて帰れよ」

そうして一通り困ったらああしろ、こうしろと世話を焼いた後、その場を後にするだろう…

ご案内:「落第街 路地裏」から夢莉さんが去りました。
227番 > 「ふーき……」

最近何処かで聞いたような気がする。何処で聞いたんだったか。
いはんがどうとかとか、言っていたような……。
とにかく、まじめそうなやつ、はわからないが、マークについては記憶に留めておくことにした。

「帰りは、大丈夫……えっと、そっちも、気を付けて」

どのみち全力疾走で疲れてしまったので、今日の徘徊はこれまでだ。
話してるうちに、大体息も落ち着いたし、動けるようになったら、
言われたとおり隠れ家へと帰ることにするのだろう。

去っていく姿に、小さく手を振った。

ご案内:「落第街 路地裏」から227番さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」に山本 英治さんが現れました。
ご案内:「落第街 路地裏」にアーヴァリティさんが現れました。
山本 英治 >  
ここは路地裏。公には存在しない街。
空は曇天。日曜も昼から薄暗い。
こんな時にこそ、警邏を重視しなければならない。

「Come on,Come on,My love~♪ 好きとキスの謎を解いて~♪」

上機嫌にアイドルソングを口ずさみながら歩く。
緊張感がないわけではない。
誰もが風紀の存在に気付いて、気を引き締めてくれればよい。
そう考えている。

「眩しい瞳~触れ合う瞬間にスパークする恋心~♪」

雨が、来そうだった。

アーヴァリティ > 「うーん...そろそろ大人しく吐いてくれないかな...僕もそろそろ迷惑してるんだよね」

先日、1週間戦い通した弊害からか、ぶっ倒れた僕。
襲撃者を返り討ちにするのにも飽きがやってきて、そろそろ本当にどうにかしないといけないなーなんて、今日も飽きずにやってくる襲撃者の首を片手で締め上げて尋問する。
襲撃者の四肢は変な方向を向いており、その顔には生気がない。まさに瀕死といった様子だがまだ生きてはいるみたいだ。
さっきからずっと知らないって言ってるし本当に知らないのかなあ、なんて思いながら壁に押し付けて。

「誰の依頼か教えてくれたら楽に死ぬか生きるか、選ばせてあげるけど。ほら早く決めて?」

面倒で、早く吐いて欲しい。その表情に愉快そうな様子などなく、純粋なただの尋問が行われている。
なんか歌声が近づいてくるけどどうせこの様子を見たら逃げ出すだろう、なんて思っていたり。

山本 英治 >  
その時、小さな影が見えた。
それは男性を……首を締め上げている。
傷害───いや、違う。

拷問と蹂躙だ………一方的な暴力。

飛び出していって構える。
少女の姿をした存在に声を張り上げる。

「何をしているッ!?」

距離にして一足飛びというわけにもいかない。
かなり距離はあるが、迂闊に近づくにも危険。

正体不明。いや、違う。報告書にあった……

「黒蝕姫、アーヴァリティ………!!」

アーヴァリティ > 「あれ?すぐに逃げ出すと思ったんだけど勇気ある...
あ!風紀だ!こんにちは!」

てっきり逃げ出すと思い込んでいた歌声は逃げ出さず、大声で僕を止めにきた。
どんな相手かと思ったら風紀じゃないか!
締め上げていた首から手を離し、それと同時に意識を失った男がその場に倒れる。

「ねえねえなんで僕の名前知ってるの?もしかして風紀の間で僕のこと話題になってたりする?」

そんなことを話しかけながら風紀の男へと近づいていく。アフロなんて面白い髪型だな、なんて思いつつ。
僕の名前を知っているなんて、風紀の間で僕の情報が出回ってたりするのかな?かなかな?
とっても楽しそう。

「武器は持ってないみたいだけど。楽しませてくれるよね?こいつみたいに弱くないよね?」

なんて、にこやかに、楽しそうに、気絶している襲撃者を指差して。

山本 英治 >  
「……こんにちは」

辟易した様子で挨拶を返す。
どんな相手とも対話を心がけてきた。
しかし、あまりにも異質な精神構造と凶悪な行動を伴う少女に。

心火が燃えていた。

「もちろんだ、有名人だよ……お前は」
「風紀公開一級指名手配犯、アーヴァリティ」

罪状にして発見次第の発砲が認められている。
しかし、しかし。

「どうしてそいつを壊した? 冬の枝みたいに手足を折りやがって」
「生きてるんだぞ! 命なんだぞ!?」

信じられない、という風に表情を歪めて叫ぶ。

アーヴァリティ > 「へえ!風紀で指名手配!
ってことはこれから...」

うへへ、と狂気じみた笑みを浮かべる。戦闘狂である彼女にとって最上の喜びである強者との戦いの機会が増えるということはなんと嬉しいことか。
風紀には強者が多い!いっぱい戦えるなんて夢のようだ!

なんて、目の前で怒っている風紀委員会なんて知らずに。

「生きてる?知らないなあ。そいつは弱っちいのに僕を殺しに来たんだよ?
僕はそんな面白くないそいつと戦わされて、なんなら命を狙われたんだよ?
生かしているだけマシじゃないかなあ?」

やれやれ、と言ったふうに。
目の前の彼の怒りに、仕返しでしかない、と答える。
それに別に僕は人をもの扱いしたりはしないからそんなに酷くはないと思うんだけどなあ、なんて思っていたり。

山本 英治 >  
なんて物言いをするのだろう。
どれだけ話し合っても、分かり合えない存在はいるのか。
すまない、遠山未来………俺は…

拳を握り、構える。

「構えろ」

怒りに燃える心を、呼法で強引に押さえつける。

「お前も────生きているだけマシな姿にしてやる……」

師父。未来。すまない。
俺はやはり、こういう道しか選べない。

アーヴァリティ > 「いいねいいね!僕はそれが見たかった!」

構えろ、それは最高な言葉だ!言われなくたって構えるさ!
やっと戦える!お楽しみの時間だ!

「やれるものならやってみればいいよ!君こそそのアフロなくならないといいね!」

彼の心情なぞ知らない。ただ戦えればいいのだ。
さあ、戦いの時間だ。
楽しい楽しい戦いの時間だ。
両の袖から銀色の触手が出て二の腕にまとわり付く。
そして、その一本がまるで人さじ指のように立ったかと思えば、その先端を振って怒り狂うアフロを挑発した。

山本 英治 >  
いいだろう。その挑発に乗ってやる。
駆ける。
踏み足に地面が少しヘコんだ。

短いストロークで駆けながら突き出した右腕は物差し。
本命は左拳の突きだ。

馬歩弓捶。
踏み足から腰、肩、肘までを捻りながら打つ螺旋の拳。
小さな少女に似た怪物に向ける以上、打ち下ろしに近くなるが。

コークスクリューブロー、という概念がある。
拳を回転させながら打つことでインパクトが強まる、というものだ。
それは現代において否定されているが。

それは拳法に置いて、幾千の時を超えて信じられてきた。
波ではなく、押し出す力。それに螺旋が加わることで。

人は、骨を砕く一撃を放てるのだ、と。

アーヴァリティ > 随分と速い。その巨大な体格と違い随分と速い。
そして随分と力が乗った走りだ。ろくに整備されていないとはいえ地面を凹ませるパワー!
体当たりされただけでも結構吹っ飛びそうだ。

挑戦的な笑みを浮かべながらも、その表情には真面目さが読み取れるだろう。
この戦いにすでに楽しみを見出したということだ。
さて、指標となる右腕ではなく、突き出された左拳は身長差からどうしても打ち下ろす形になる。
ならば、避けるのであれば左右か上か。
ならば、本来体勢を変えることができなくなり不利とされる上を選んでやろうか!
強く地面を蹴り、その場から跳躍して彼の拳をさければ、両手の触手をそれぞれ左右の地面にアンカーのように突き刺してアフロのさらに上から彼を見下すだろうか。

山本 英治 >  
形意拳・馬歩から構えを変える。
開門八極拳、両儀式だ。

呼吸。重心。解放の力。
そこから熊が威嚇するように両腕を振り上げると。

「破ッ!!」

断破。銀の触手に対し、何本かを両手の掌の打ち下ろしで“切断”しにかかる。

武器術を習った際に教わったこと。
本来、これらの殺傷は無手にて代用できるのだ、と。

アーヴァリティ > 「いいね!力が強いだけじゃなくて武術も使えるってのはいいね!」

少し前にもパワータイプの相手とも戦ったが、あちらは喧嘩といった感じだった。
武術ではなく喧嘩である。
喧嘩には喧嘩の面白さがあるが、武術にはまた面白さと力強さがある。
パワーと技術を備えた彼は僕をどこまで楽しませてくれるだろうか、ああ楽しみだ。

彼の打ち下ろしは鋼鉄並みの硬度を誇る触手を切断するのにも十分な威力を持っているようだ。
しかし、たった数本切られたところで揺るがないその位置。
なんなら切断された触手も即座に再生させ、突き刺すのではなく彼の両腕を捕まえようと絡ませにいくだろう。

一方突き刺さった触手は、それぞれが地面へと潜り続け、彼の足元から襲い掛からんとしている。
腕を絡めとる方よりもこちらが本命と言えるだろう。

山本 英治 >  
「俺は暴力を憎むッ!! 己の力を嫌うッ!!」
「武術は暴力の対極だから学んだ……だが!!」

頭頂藍天(頭頂を天に向け)。
脚踏清泉(足は清泉を踏む)。
懐抱嬰児(懐に嬰児を抱く)。
両肘頂山(両肘で山を支え)。

天然理心、その流れのままに両腕を動かし。
捕まえようとする触手を払う。

足元から襲い掛かる銀の触手。
それは計3本、腹部に突き刺さる。

「墳ッ!!」

腹筋に力を入れて内臓までの到達をコンマ数秒遅らせると。
手刀で刺さった触手を切り払った。

刺さったままの銀を無造作に引き抜くと放り捨てて。

「だが……今、武にて………悪意を断つッ!!」

絶招歩法、箭疾歩!!
一気呵成に距離を詰め、突き出したままの拳を当てにかかる。
それは全身の関節を硬く硬直させる剛の体術により!!

砲撃のように全体重を右拳に乗せる!!

アーヴァリティ > 「お、いいねいいね!普通じゃないか!
普通だからこそいい!」

あくまでも普通の肉体。
そこに技術が合わさり普通を脱している。
なんと素晴らしいことか。
魔術でも異能でも何か特殊な技術を使うでもなく。
ただただ技能。だからこそ、ただただ触手を止めたというだけで素晴らしく感じる。

さて、高いところに居て一方的に嬲れば勝ててしまう敵だが、それでは「面白くない」
少し体の位置を下げれば、そこに彼は拳を打ち込んでくる。
見るからに威力の乗ったそれを強力な身体強化の乗った蹴りで受けてみる。
武術とは違い、ただの暴力でありただの力だが、その威力は基よりある身体能力に身体強化が合わさり、ただの人間相手であればその骨を木っ端微塵に粉砕するような一撃だ。

山本 英治 >  
「その“普通”に殴られてみるか!? 死ぬほど痛いぞ!!」

拳を当てる体当たり、絶招は蹴りで迎撃される。
拳に伝わるは、陰の気。
丹田に貯めた陽の気が打ち消されるほどの、無造作。

だが如何に一撃必倒を標榜する拳法であろうと。
コンビネーションが存在しない拳術など存在しない。

刮地風。地面を削るように吹く風、という意味の技だ。
相手に拳を防御された瞬間に左脚で相手の脛を蹴りつける。
硬打の応用技。

相手は蹴り足を出している以上、逆の足を蹴るのは自然の理。

アーヴァリティ > 「褒めてるんだよ!」

普通なのにすごいといった意味だったのだが、まあ言葉足らずだったのだろう。

さて、流石にこれまでの人生?怪異生?怪生?
なんでもいいがとてつもなく長い時間のなかで最上級の魔力を込めた身体強化は彼の拳を迎え撃った...が

(押し返すぐらいのつもりだったんだけどな。思った以上だ。)

 なんて、思っている間に追撃がその足に襲いかかる。恐ろしい威力だ。身体強化なしでは足が千切れ飛んでいたかもしれないし、そうじゃなくてもミシっと、嫌な音がする。
痛みに表情を歪ませつつ、スカートの中から現れた触手が彼の足を絡めとろうとし、自分は蹴られた威力を少しでも流すために全身で横に回転しながら体勢を整えて少し背後に着地するだろう。
触手が足を絡めとれれば、そのまま彼の体ごと高く持ち上げて、即座に地面へと強く叩きつけるであろう。

山本 英治 >  
「お前に褒められて喜ぶ風紀が、いるかぁ!!」

その時、足を触手が絡め取る。

「!!」

持ち上げられた瞬間、硬気功を練る。が。
そのまま地面に強烈に叩きつけられ、地面をバウンドして転がる。

肺から全ての空気が逃げていく気がした。
だが負けてはいられない。
風紀は、この街の正義だ。
正義を背負っている人間が。痛いから。苦しいから。

逃げていいはずがないのだ。
よろめきながら立ち上がる。

「形意拳は……動物の動きにヒントを得た十二の型がある…」
「形意拳十二形……その存在しないはずの十三階梯………」

「我流十三形、銃砲拳(マグナムアーツ)……」

「人間が作り出した殺意の力…」
「今、見せる時!!」

翻身、強烈に踏み込むと左に……いや! 路地裏の壁に向かって跳んだ!!
左、地面、右、左、地面!!
壁と地面を蹴りながら多角的に相手に接近すること、跳弾の如し!!

そして相手の胴体に向け、拳を打ち抜く。いや、撃ち貫く!!
27関節全ての駆動を加速させ、音速を超える拳を“撃つ”!!

アーヴァリティ > 「大人しく褒められておいた方がいいと思うよ?
ほら、そうやって転がってるわけだし?」

なんて、地面に叩きつけられた彼に向けてワザとらしくやれやれと首を竦める。

「まだ動けるよね?そうそう、そうじゃなきゃつまらないよね!」

なんて、立ち上がった彼の向けて称賛の拍手を送る。
さぁその普通の体から繰り出される武術を僕に見せて!

「すごい!スーパーボールみたいだ!面白い動きをするじゃないか!」

彼の繰り出したその動きは、なんとも人外たる動き。凄まじい動きだった。
身体強化を伴わない目では到底追えず、なんならその上でも追うのに難儀する動き。
その動きに称賛の意を称して、と言う訳ではないが...

「なら僕も本気を見せてあげるよ!」

と、言えば先ほどの身体強化より更に、それこそ全魔力の殆どをつぎ込んだ拳を構えて、彼の拳へと合わせ、更にその上から跳戟を放ち、彼の本体へダメージを与え吹き飛ばすことを試みる。

山本 英治 >  
音速を超える拳を、迎撃された!?
撃ち殺すくらいの強度で撃った拳を!!
相殺と共に身体強化を伴う跳戟を受け、吹き飛ばされる。

「ぐっ!!」

電線も通っていない電信柱の残骸に背中から叩きつけられ。
アフロから……いや、切れた頭から血が流れて顔を汚す。

折り悪く、空から雨が降り始めた。

雨が降りしきる中、立ち上がる。
鏡で見てはいないが、俺の瞳には。

野獣の殺意が満ちていたはずだ。

「細切れに……………」

放たれた殺気に、周囲一円から烏が飛び立って逃げる。
無造作に跳びかかる。
その振り下ろされる右拳に、なんの技もない。功もない。正義もない。

至純の暴力。複合合金を紙のように引きちぎる、ただの力任せが振るわれた。

山本 英治 > 「してやらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
アーヴァリティ > 「ッ.....いたタタタタ...今ので僕の魔力ほぼ空っぽなんだけどなあ」

なんて威力だ、拳が砕けている。
さっきの拳なんかと比べ物にならない威力だったみたいで、まともに撃ち合った拳は粉砕されたようだった。身体強化ありなんだけどなあ。
潰れてしまい、かなり痛む右拳に、つい左手で抑えてしまう。
もうこの戦いでは使い物にならない右拳の痛みに堪えながら吹っ飛んで行った彼に目をやろうとすれば...

「...そんな怒らなくなっていいじゃないか。ほら僕の拳だってこんなんになっちゃったし」

ブチギレて襲いかかってくる彼に、怖いなあ、と戯け半分本気半分の声を掛ける。
おっそろしい目をしている。切人の見えない斬撃ぐらい威圧感あるよ...
でも、技がないなあ。
なんて、思いながらその拳を軽く横にずれて避ける。
拳があたりの空気を巻き込み、局所的な暴風が吹き荒れるが、涼しい顔をしており。

「そんなんじゃ当たらないよほら」

なんて言いながら彼の足を後ろから触手で引っ張ってこかしてやろうとするだろう。

山本 英治 >  
振り下ろされる拳を避けられ、それでも叫びながら拳を振るう。
そのことごとくを回避され、それでも。
獣性は止まることを知らない。

拳が空隙を貫く。捕まえようとした手が虚空を掴む。

そして後ろから足を引っ張られて倒れれば。

「がああああぁ!!」

と咆哮しながら、バターのように足元を掬って散弾のように投げつける。
赤く染まっていく頭。冷静な思考はもうできない。
このまま赤に塗り潰されたら、どんなに楽だろう。

何が理合だ、くだらない。
暴力を振るっている時の世界は、こんなにも輝いているじゃないか。

アーヴァリティ > 「うーん...どうしようかなこのアフロ」

ブチギレて理性を失っているのか、簡単に転けたこのアフロ。
このまま気絶させて離れてしまおうかと思ったが、気絶させる術が思いつかないし近寄りたくない。
投げられた石や土を触手を盾に弾きつつ、考えて。

「あ、そうだ」

手をぽん、と叩けば...普段はあまり取らない手段ではあるが、さっきの四肢が変な方向いた男を触手で自分の目の前へと吊り下げて盾にしてみる。
随分と最初怒っていたし、これで正気に戻ってくれないだろうか。

山本 英治 >  
足元の触手を引きちぎる。
拳を構え、前方に突進する。

アーヴァリティは男を盾にしている。
いいぞ。
その隙だらけの体に、“盾”を貫いて一撃を叩き込め!!

貫いて?

俺は、今、何を………?
拳が人質に当たる寸前で正気に戻る。

「あ、あ………」

ダメだ。してはならない。
そのようなこと、赦されるはずがない!!
未来に永遠に会えなくなる蛮行だぞ!!

そのまま全身から力が抜けて、片膝をついた。
できない。俺には。倦んだ感情が心を蝕んでいた。

アーヴァリティ > 「お?落ち着いたかな?」

やばいかな、と思いつつなけなしの魔力でシールドを展開する直前。
動きを止めた彼をぶら下げた男の影から覗き込む。
そして、動きを止めた彼を見て。

「まあまあ、そう落ち込まない落ち込まない。
ほら、次は勝ちにおいでよ」

なんて、少し後退りながら冗談めかしてどうどうと、声を掛ける。
そして、再び彼の足を触手で吊り上げようと、足元から這わせていく。

山本 英治 >  
足を吊り上げられると、逆さまになる。
雨が降りしきる中、彼女は“次”を口にしていた。

「……俺をどうしようと」
「これ以上そいつには手を出すな」

残った気力で、そう口にするのが限界だった。

拳理はこの手に宿ってはいなかった。
結局、暴力に頼り、その上で敗北した俺は風紀を背負う資格もない。
逆さまになった体を伝って、雨垂れがアフロから落ちた。

アーヴァリティ > 「わかったよ。こいつにはもう何もしなことにするよ」

楽しませてくれたしね、と付け加えて、仕方ないな、と言わんばかりに一息ついて。
彼を吊り上げた触手を左右に揺らして...
揺れるアフロについ吹き出しそうになりながら...

「楽しかったよ!またやろうね!
それじゃ...じゃあね!」

最後にそう声をかけ、触手を大きく斜め上に振れば、遠くへと彼を投げ飛ばした。
其の声は、彼の心情とは真逆で、非常に楽しそうな、とても、そうとても楽しそうだった。

「さて...この手は治るまでおいておこうかな...いいなあ武術。僕も習得したいね」

なんていいながら、男を放置してその場を満足げに去っていった。
其の足取りは非常に浮いてるものだった。

「あ、名前聞き忘れた」

山本 英治 >  
拳理と剣理が存在するように。
人外には人外の理がある。
そう、桁外れの力を無造作に振るっていい。
そういう理が。

俺は放り投げられ、どこかの屋根に落ちた。
風紀の仲間がやってきて救助されるまで、一歩だって動けなかった。

俺は……負け犬だ。

ご案内:「落第街 路地裏」からアーヴァリティさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」から山本 英治さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」にエインヘリヤルさんが現れました。
エインヘリヤル > 「ふうん、コレが常世……ティルナノーグとはよくいったものね?」

常世に到着し、必要な手続きを済ませた後。
まず最初にしたことは落第街の視察。

異能調査委員会の特別顧問として、最初に行う仕事でもある。

場に、明らかに似つかわしくない上等そうな外套と、丁寧に手入れのされた赤いツインテールを揺らしながら、廃ビル群を眺め微笑む。

「これ……間引いたら、どれだけ残るかしら?」

ご案内:「落第街 路地裏」にキッドさんが現れました。
エインヘリヤル > 落第街は、半分の優秀さと半分のクズで出来ていると聞く。
クズの部分は、いらない。

もっとも、残り半分に興味がないわけでもない。
視察のため、肩で風を切りながら、路地裏にまで悠然と歩を進めていく。

キッド > 少女が路地裏へと差し掛かった辺り、僅かに煙たくなる。
そよ風に乗って漂う白い煙。
コツン、コツン、と背後から聞こえる足音。
振り返れば、黒いキャップを目深に被った男の姿が見えるだろう。
裏路地の暗がりを僅かに照らす、咥え煙草の火。
キャップの奥から、碧の視線が少女を見据えている。

「コイツはどうも、お嬢さん。子どもがあんまり、こんな場所うろついてるのは感心しないねぇ
 さっさと家に帰って、ママに子守歌でも歌ってもらいな。」

早々に軽口でご挨拶。
煙草を咥えたにやけ面のまま、男は少女へと歩み寄ってくる。

エインヘリヤル > 「ふふ……吠えるわね、畜生風情が」

そもそも、小娘がこのナリでココに来るという意味をわかっていない。
外見で相手を判断できないということは、そのまま死を意味するのが、こういったところの習わしではなかったか?

「まだ間に合うわ、躾けられるか逃げるか、選んで」

近寄ってくる男の様子を気にもせず、偉そうに微笑みつつ振る舞う彼女には、妙な威圧感があった。

【そう……すでに彼女の間合いに入っている】という。

キッド > 口から白い煙がゆったりと漏れる。
強気な言動に臆する事は一切なく、既に男の右手は
腰のホルスターに添えられている。
"何時でも抜く準備は出来ている"。

「野良犬に吠えられてチビっちまったか?
 ソイツは結構。今度は噛まれる前に、保険に入っておくことをオススメしとくぜ?」

くつくつと喉を鳴らしながら、平然と軽口で返した。
身なりこそ少女のものだが、油断している訳ではない。
此の場所で油断など、出来るはずもない。

「おお、そりゃ怖い。ついでに、ピザのデリバリーもやってねぇのかい?
 そんだけ気前よくサービスしてくれんなら、一つ位つけておくべきだと思うがね?」

程よい所で、足を止める。
やれやれ、早速仕事にぶち当たるとは思わなかった。
胸中思わず、溜息だ。

エインヘリヤル > 「未成年者の喫煙に恐喝? 獣は躾けないと」

微笑んではいるが、冷めた目はかわらないまま。
要は……相手としてみていないのだ。

「さ……ひれ伏しなさいな」

まるで、挨拶するように軽い口調で手をかざす。
いや、かざすというより軽く髪をかきあげた程度だ。

それだけで、強烈に視界の制御が揺らいで、脳が揺さぶられたような気がするかもしれない。

《10%の獣》

意図しないまま、あなたの獣は暴れるだろう。

キッド > 「恐喝?ただのジョークだよ。」

鼻で笑い飛ばした。
ニヤけた口元だが、キャップの奥では相手と同様に冷めた目をしていた。
獲物を捕らえる鷹の眼光。
異能の発動と共に、周囲の景色の動作が遅く見え始める。
暗がりの中、自分だけは鮮明に、少女の姿も、景色も見え始めた。

「アンタがどんな悪党かは知らねェが、黙ってひれ伏す程プライドが低いワケじゃないんでね。」

即座にホルスターから拳銃を抜いた。
鈍く銀色に光る、大型拳銃。
無機質な銃口を少女の脳天へと向け、引き金を────……。

「……ッ!」

引く指を、止める。
視界が揺らぐ。
スローペースとハイペースを、景色が繰り返している。
脳が揺さぶられるような吐き気に、全身から脂汗が噴き出した。
……これは……

(……異能の暴走か。アイツ、何しやがった……?)

「……参ったな。脳にもウェイトトレーニングをさせておくべきだったか?」

だが、この程度で減らず口が収まるはずもない。
銃口を向けたまま一発、視界不良なまま引き金を引いた。
爆発音と聞き間違う巨大な銃声と共に、風を切って弾丸が飛ぶ。
だが、制御の利かない視界だ。
本来の狙いからは大きくそれ、下手に動かなければそれは少女の横を通り過ぎるだけに終わるだろう。

エインヘリヤル > 「あは……まだ、立ってられるんだ?」

笑った。
うれしそうに。

ただ、相手をちゃんと見て、笑った。

それだけだ。

銃弾など、まるで何もなかったかのように。
最初から、外れるのがわかっていたとでもいうように。

無邪気に。

「ふふ……いいわ、気に入った。
 もし、暴れたいなら、理由と大義名分をあげる……どう?」

優しく、細く白い手を差し出して。

受け取るなら、理由の手綱を。
受け取らないのなら、さらなる目眩が襲うだろうか。

キッド > 「あぁ……レディの前で情けない姿は見せない事にしてるんでね。」

酷く頭が揺れる。
視界が回る。
明らかに正常に自らの異能が機能していない事が分かった。
彼女の能力と見て、間違いは無いだろう。
効果範囲は如何程か。
条件は何なのか。
軽薄な態度の裏側で、様々な思考が巡っていった。

そんな中、差し伸べられた白い手を一瞥した。
まるで無垢な少女の白。
その冷笑とは裏腹に、人によっては天使と見間違うかもしれない。
そんな手を見て、男は軽く肩を竦めた。

「理由と大義名分、ね。……オーケー、わかったよ。」

「────これが俺の答えだ。」

即座に拳銃を腰だめに構え、引き金を引いた。
拳銃の尻尾、ハンマーと呼ばれる部位を連続で手で倒す事により可能とする連射。
所謂"ファニングショット"と呼ばれる技術だ。
瞬く間にリボルバーに残っていた五発の弾丸が嵐のように連射される。
だが、致命的かな。
雲った鷹の目では当たりもしないが
"最後の一発"だけは、動かなければ横髪を掠める事だろう。

エインヘリヤル > 銃弾は、放っておいたら、かすめるかもしれないが。

まるで……そう動くのが自然であるかのように。
避けたとも思えないような、自然な動きで躱しながら。

そっと近づいて、顔を寄せる。

「残念ね……優秀な獣も、噛み付いたら矯められるのを、ご存知?」

最初と同じ、相手としてみていない。
真正面から、なにか、ゴミのようなものを見る目で優しく微笑むと。
そっと耳元で囁いた。

「優秀だから、今日は許してあげるわ。
 またやったら……次はないと思って?」

その声は、甘く可愛らしく、爽やかで。
まるで人間としてみなしていない。ためらいなどまったく感じない。

そんな、死を思わせる囁きだった。

キッド > リボルバー部分が横にスライドし、薬莢がカランカランと地面に落ちる。
当たりはしなかった、だが避けた。
なら、"それで良い"。
口元の笑みは絶えない。

顔を寄せれば、煙草を咥えているせいで煙たいかもしれない。
暴走する視界の中でも
いやに"作り物"みたいな顔はハッキリ映った。
────気に入らねェな。
獰猛な野良犬の心が、胸中で吠える。

「御尤も。でも、一つ勘違いしてるな。
 世の中、例え野良犬でも首輪をつけられねぇ気高い獣もいるって事さ。」

ルールに縛られない無法者には、無法者なりの信念がある。
風紀を制する側に立ちながら、その信念の強さを男は知っている。
その人を人とも見ないような視線を碧眼が見返すと、ヘッと鼻で笑い飛ばした。

「俺の能力を買ってくれるのは光栄だな。……所で……。」

確かに死を思わせる囁きかもしれなかった。
だが、その程度で臆するような男でもなかった。
そして、何よりこの少女の目は"気に入らなかった"。
だから、顔が近い事をいい事に
ペッ、と"煙草を吐き捨てた"。
当たればその顔に熱と灰をプレゼントだ。

「────で、この場合は?」

エインヘリヤル > 「……ああ、その程度」

今度は、避けもしなかった。
代わりに……ゴミ以下の、なにか見てはいけない、可哀想なものを見る目で。

「がっかりしたわ。いらない」

確かに顔にあたった。
やけども汚れもしているようにも見える……が。

「優秀であるものの責務として、その程度の【愚痴】は受けます、でもね」

まったくなにも気にしていない様子で。
汚れを拭きもしなければ落としもしない。

くだらないものを見た、そんな目だ。

「気高いのに、いたずらに相手を汚す程度の自己満足で十分なんです?
 それじゃ、ただのゴミじゃないですか。野良犬でも、もうすこし気高いですよ?

 ……見損ないました、ええ。もう、手を汚す価値もありません」

気晴らしに、死を覚悟してでも相手を汚せばいい、などというのは気高いとかそういうものじゃない。
意地ですら無い。駄々っ子のわがままか、それ以下。

意地の張りどころを間違えるな。
そう言い切った。

そして、まるで興味がなくなった……というより、そもそもそこになにも存在していないかのように。
そっとその場を離れ視察を続ける。

きっとその気なら後ろから撃てるくらい無防備に。

だって、言葉が届かないなら、それはもう人である必要がない。

キッド > 「……ヘッ。」

逆に鼻で笑ってやった。
此方に説教をくれている気のようだが
男にとっては何もかもおかしくて仕方ない。
肩を竦めて、両手を上げる。
所謂"お手上げのポーズ"。

胸ポケットから取り出したマグナム弾をシリンダーにねじ込み、元に戻した。

「随分とアンタ、小さいくせに偉そうじゃないか。どっかの社長さんかい?
 親の七光りを出すなら、此処じゃなくてもうちょっとマシな舞台を選なんだ方が面白いぜ?」

新しい煙草を取り出して、火をつける。
白い煙が、暗がりに立ち上る。
減らず口は止まらない。
背中を向けた所で、平然とニヤけ面で付いてくるような男だ。

「なんだい?アンタ初めから自分の手を汚すつもりだったのか?
 何しでかす気かは知らねぇけど、喧嘩売っといて拗ねて背中向けるようじゃぁ、此の先何やっても上手く行くようにゃぁ、見えないがな……。」

一体何に失望したのかは男は知らない。
男は確かに減らず口を叩く軽薄な男ではあるが
それなりの信念と意地を持っている。
挑発した。売られた喧嘩は買った。
勝手に失望している少女を見ているだけで、笑いがこみ上げてしまう。
くつくつと喉を鳴らしながら、笑いが零れた。

「おお、そうかそうか。俺の話が難しかったかい?
 ソイツは謝るよ。悪かった。……それじゃ、愚痴でも何でも言ってみた。
 "優秀なものの責務として、受け止めてやるよ"。」

ハッキリ言えば、自分から見れば"子どもの癇癪と相違ない"。
その程度で自分の底を見た気でいるなら、片腹痛いと言わざるを得ない。
だからこその、意趣返し。
どうぞ?と言わんばかりに両腕を広げてみせた。

エインヘリヤル > 【構えたのはこちらではない】し、双方合意のものを売った売らないなどと。
そもそも、必要ならいつでも手を汚すのは当然の責務ではないかしら。

【立っていられる】男だからと、時間を無駄にした。
あれはきっと自分の大事なものまで噛み付くんだろう……噛み付いたあとかもしれない。
もったいないが、今は視察のほうが先だ。

どうでもいい。

そのまま、振り返ることなく路地裏深く歩いていった。

キッド > (……挑発に乗る気配はない、か。)

コイツは中々、一筋縄ではいかない女だ。
暴力でこのままねじ伏せに行くのもいいが
そんなものは流儀でもないし、後から問題を起こしても面倒だ。
はぁ、と気の抜けた感じで煙を吐き捨て、帽子を目深に被った。

「……ったく、ノリが悪いねぇ。子どものお守りは得意じゃないんだぜ?」

毒気が抜かれた。
ホルスターに拳銃を戻した。
しかしまぁ、面倒な輩が出てきたものだ。
他の風紀の連中は知っているのだろうか。

(……仕方ねぇ、一応連中にも報告してやるか。)

この上なく、真面目に仕事をするのは面倒だ。
ともあれ、落第街とはいえ、変に暴れられたりするのは面倒だ。
見失うまでは、とりあえず少女の後を付いていくことにした。

「……所でお前さん────……」

……無視されるであろう、軽口と一緒に……。

ご案内:「落第街 路地裏」からエインヘリヤルさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からキッドさんが去りました。