2021/03/19 のログ
■神代理央 >
突然、視界が揺れる。
くるりと回転した視界の先には落第街の薄汚れた路面。
視界の端に、マディファの衣服が見える。
今自分がどんな状況に置かれているのか把握するのに、数秒の時間を有して――
「……どういうつもりだ。というか、離せ。自分一人で歩ける!」
何が何だか分からないが、少女に担がれた事だけは理解出来た。
急に高くなった視界と、僅かに映る機械の脚。
其処に疑問を感じる間もない儘、じたばたと暴れようとして――
疲弊した肉体ではそれも叶わず、小さく息を荒げるばかり。
■マディファ=オルナ > 「お主の足で歩かせたら、じきにここの連中に袋叩きにされるじゃろうな。
異形を出せばなんとかなるじゃろうが、果たして出せるとは思えんがの」
自分の言葉すら届いてなかったほどだ。
出せるにしても、相当遅れたりはするだろう。
しかもそれが一度とは限らない。
そうだ、と思い今更サーモビジョンで理央の体を見てみる。
「人の子の平均から見れば、少々体温が高い……風邪の初期症状かもしれんな。
しばらく療養したほうが良いのではないかの」
■神代理央 >
体温と療養の話になれば、ぐ、と言葉に詰まる。
自覚症状はあるのだ。強く彼女の言葉を否定する事も出来ない。
「……分かった。体調が優れないのは認めよう。
認めるから…その、取り敢えず降ろしてくれないか。
それなりに顔も割れている私が、お前に担がれている様はイメージが良くない」
"鉄火の支配者が少女に担がれている"という有様を、此処の住民に見せる訳にはいかない、と。
溜息交じりにそんな事を彼女に申し出て。
「療養や休暇の必要性は感じているが、早々休んでいる訳にもいかんでな。
まあ、症状が落ち着く迄現場に出るのは控えようとは思うが…」
■マディファ=オルナ > 「ならば自分を運ばせる異形を出せい。
少なくとも、今のお主はふらつくほどだということを自覚せよ」
またため息一つ。
自分の異形に運ばせるか、もしくはマディファが運ぶか。
自分の足で歩かせるつもりはない。
「どちらにせよ、体調不良で弱々しい姿を見せた時点で手遅れじゃろう。
全く、人間の強みは群れであることじゃろうに。
なんのために社会を、組織を作るんじゃ」
ため息を付きながら、説教染みたことを言う。
「お主がおらねば部が回らぬ時点で組織としては落第点じゃ。
風紀とはそんな軟弱な組織かや?
お主も、他の風紀委員も、何度も入院しておるものも居よう。
殉職したものも居よう。
それでも尚、風紀委員として業務を回しておる。
お主は、それを間近で見ておるはずじゃ」
■神代理央 >
運ばせる異形、と言われれば少し考え込むが…答えとなる言葉は出てこない。
腰掛ける程度なら砲身を減らせば何とかなるかもしれないが
怪我人や病人を運ぶ様な異形は、正直召喚出来るイメージが湧かない。
異能の効能が、それを示している様な気がするのだ。
完全に戦闘に特化した異能。こういう時は不便なものだと
彼女に応えるのは溜息になってしまうのだろう。
「……せめて、大通りまでにしてくれ。
歩けない程ではないんだ。衆目に晒されるのは、流石に耐え難い…」
というわけで、妥協点。
人気の少ない路地裏は大人しくしておく。
その代わり、大通りの手前くらいで降ろしてくれ、と。
大通りなら、風紀委員の応援や迎えも呼びやすい。
彼女が自分を見掛ければ、声をかける巡回の委員くらいいるだろう。
「……回らない、とは言わない。
最近は皆も良くやってくれている。私が休んだ程度で、機能不全に陥る事も無いだろう。
……だからまあ、これは私の我儘の様なものかもしれんな。
或いは矜持か。意地か。その程度のものだ」
自分一人が少しばかり休んだところで、大勢に影響がある訳では無い。
流石に長期の入院ともなれば話は別だが――二、三日程度なら何も問題は無いだろう。
にも拘らず、こうして仕事を熟そうとするのは義務感と矜持。
社会的な立場に重きを置く自らの悪癖。
「……とはいえ、それで体調不良が長引いては元も子もない。
それは分かっているのだがな…」
事実、今夜違反部活の摘発に出る前までは多少気分が悪いかな程度のものだった。
それを悪化させたのは前線に出た自分の判断でもあるので
反省すべきところではあるだろう。
分かってはいるのだけど、と言わんばかりに、再度深い溜息。
■マディファ=オルナ > 「よかろう。
本来ならばお主の家まで送り届けようと思っていたところじゃが」
それは止めといたほうがいい。
何が起こるかわかったものではない。
「全く、難儀な子供じゃな。
斯様に仕事に追い詰められるのは、儂の世界では早々おらんかったぞ。
せめて週に一度くらい休みを取って、友と遊ぶなり体を休めるなりせんか。
重い荷物、時には降ろして休まんといつか潰れるぞ」
あちらの世界の子供も、こちらの世界の子供も、逞しいものだ。
だが、今担いでいる彼は逞しすぎる。
自分を追い込んでいるのか何なのかは知らないが、大きくあろうとしすぎている。
「とりあえず、此度はきちんと休め。
倦怠感、発熱が収まるまでじゃぞ」
そうして、大通りにたどり着く。
言われていたとおりに彼を降ろす。
■神代理央 >
「……流石に自宅は此方も申し訳ないからな。
とはいえ、気遣いには感謝しよう。すまないな」
頼みを聞き入れてくれた言葉に、安堵の吐息。
自宅は…まあ、控えた方が良いのだろう。
同居人の少女に、あらぬ心配をかけさせる訳にもいかないし。
「…子供であることは自覚しているつもりなんだけどな。
いや、だからこそ背伸びをしてしまうというか…。
そういう年頃なのだと言われれば、反論はしないがね。
休暇の必要性については、今回身に染みて感じたよ。
真面目に検討しておくとしよう」
大人ぶっている事をなまじ自覚しているが故に、子供であることから駆け足で卒業しようとする。
そんな雰囲気が感じられるだろう。
しかし、彼女の気遣いや忠告は素直に聞き入れる姿勢を見せる。
実際、こうして体調を崩してしまったのだから反論の余地は無い訳であるし。
「……そうさせて貰おう。その間…と言っても、大した日数では無いが
違反部活の連中を図に乗らせる訳にもいかぬ。
物資の統制は部下達が恙なく行うだろうが、戦闘面はそうもいかない。
報酬は不足なく支払う故、犯罪者共の掃除は任せる」
休む、ということは代役が必要だという事。
その点、金という明確な利害関係で繋がる彼女には"依頼"が出しやすい。
僅かな期間ではあるが、特務広報部の戦力低下を悟られぬ様に
彼女に、より一層の違反部活への対処を求めつつ――
「……ああ、もう着いたのか。
有難う、世話になったな。今度、何か御馳走しよう。
近くで部下達が検問を行っているから、其処まで行ければ大丈夫だ」
と、大地に立てば僅かにふらつくが、歩けない程ではない様子。
彼女に礼を告げると、今夜のスケジュールを思い返しつつ――
「……では私は、検問所まで戻るが…。
お前も帰るなら、車くらいは手配しよう。まあ、不要かも知れぬがね。
多少楽をしたいのならついて来ても構わんし、まだ此処に用があるのなら、無理にとは言わぬ。
車といっても、装甲車の類だから乗り心地は保証しないけど」
と、帰宅するなら一緒にどうか、と誘うのだろう。
彼女が応じれば、検問所までの短い距離を細やかな雑談を交えながら共に行くのだろうし
車なぞ、と断られれば気を悪くする事もなく彼女を見送るのだろう。
何方にせよ、弱ったところを助けられた事には変わりない。
彼女に次回振り込まれる報酬は、細やかではあるが少しだけ色がついていたのだとか。
■マディファ=オルナ > 実際問題、彼の家まで連れて行かなくて正解である。
まず間違いなく、理央の同居人の少女からの害意がマディファに向けられることだろう。
無論、そんなことは二人とも露知らぬことではあるが。
「何事も全力疾走ばかりでは続かんものじゃ。
休んで体力を養わねば、いつかは立ち枯れよう。
儂もまた、メンテナンス無しで動き続けることはできん故な」
機械はいつの世もデリケートだ。
メンテナンス無しで動き続ける機械など早々存在しない。
メンテナンスなしに見えても、自己診断から自己メンテナンスまでこなしていたりもする。
マディファ自身、軽いメンテナンス程度なら自分で行っているのだ。
無論、先の戦いのような大きな内部ダメージについては表の健全な企業に頼んでいるのだが。
「任せよ。
その為の契約じゃからの」
マディファ自身、売り込みした側である以上。
自身が戦力として発揮されるべきだと考えている。
もちろん、それは犯罪者相手の武のみならず。
「いくら大通りとて、まだ落第街じゃぞ。
放っておける訳があるまい、嫌だと言っても同行しよう。
車は要らんがの」
こういったときの護衛も。
相手は大事な契約相手なのだから、これくらいはサービスだ。
それは口に出さず、検問所までの間を雑談しながら二人は歩いていくのであった。
後日、色のついた報酬に律儀だと漏らすのは別の話。
ご案内:「落第街 路地裏」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からマディファ=オルナさんが去りました。