2021/09/08 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に黒髪の少年さんが現れました。
■黒髪の少年 > 「……………。」
落第街のとある路地裏。
なんの変哲もない、掃き溜めの一角に少年は立っていた。
ボロボロに見える灰色のローブを頭からかぶって、全身を隠すようないでたちの彼は
目の前の張り紙を忌々し気に見ていた。
「……いよいよ、なりふり構わなくなってきたってわけ……」
逃亡生活はまだ続いていた。
というのも、核心的な情報を確保できておらず、反撃の一手を打てずにいた。
一時的な拠点を確保しても、絶対に暴かれない場所もなく
それを見越せば戦略的に重要な物資も持ち込めないという状況でもあった。
だが、持ち前の能力も相まって、差し向けられた追手からは何とか逃れ続けることができている。
■黒髪の少年 > 「いろいろと協力してたころに渡した情報が、こんなとこで公開されるとか…
ほんっとカンベン願いてーし……、人事情報だっつーの……」
そんな鼬ごっこに等しい状況に、"連中"はしびれを切らしつつあるのか、
ここ落第街にまで、尋ね人のビラをそこかしこに貼り付け始めていた。
…もちろん、尋ね人とは自分のことだ。
それには学生証に記された自分の顔が添付されていた。
今見ているそれも、無造作に貼り付けられたうちの一枚だろう。
少年は手を伸ばして、それを引きちぎる。
乱暴にくしゃくしゃと丸めると、徐にゴミ溜まりに放り投げた。
■黒髪の少年 > 「…………はぁ……」
未だに学生たちのいる都市部には足を踏み込むことができない。
この眼は物の向こう側は見通せても、人の心までは見通せない。
誰が敵で、誰が自分の味方になってくれそうか、正直わからなかったからだ。
既にこういったビラの類は、"連中"によって多量に配布されていたし、
尋ね人とあらば、お節介な善人から自分の居場所や情報を流されたりしたこともあった。
…その頃からこうして借りたローブを着て都市部に近寄らなくなり、今は久しい。
落第街やスラムの連中は、多少金を握らせれば身分不詳でも物品の購入は叶った。
もちろん、質のいいものでは決してない。だが、生きるためには必要だった。
「……安心して居続けられる拠点……
追われることのない安心感……
…奴らの目的と、勝利条件……それが分かる情報……
やらなきゃいけないこと、山積みだし……」
■黒髪の少年 > 正直、じっくりと詰みつつある現状を少年は憂いていた。
ここもいずれ、都市部と同じように、金銭目的で自分を売るものが現れてくるだろう。
寧ろそれが盛んなのがこの界隈だが、今はまだ知られていないだけなのだ。
そうなってしまえば、いよいよ自分が"連中"と戦うための術を失う。
もう野山に逃げるしか手段がなくなってしまえば、それこそ…
「また、別の世界に逃げるなんて、考えたくないんだけどなぁ………」
何度目のため息だろうか。
数えるのをやめたくらいに、少年の心は曇っている。
■黒髪の少年 > 「………ぁー……お風呂入りたい………」
今だけはフードを外して、空を仰ぐ。
逃亡生活も続いたおかげで、長らくマトモに文明の利器を使えていない。
今まで当然だったように使っていただけに、身体の汚れ具合なんかはわかりやすいもので、
こんな状況下で人と接触できてないことを幸運に思っているくらいには、
彼の身体は汚れを落とせていない。
雨や川で凌ぐという手もあるが、血統の都合上変温動物のケもある少年は
長時間冷水に浸かると体の動きが鈍ることを自覚していたので、
そんなリスクのある行為は滅多にできなかったのだ。
「……あったかいお風呂はいりたいしー………」
いつも当たり前にあったはずの…しかし今は叶うべくもない願いを、
天に向かって吐くしかなかった。