2021/12/21 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に桃田舞子さんが現れました。
ご案内:「落第街 路地裏」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
■桃田舞子 >
今日はダスクスレイを探して随分と入り組んだところまで来た。
周囲はもう薄暗い。
そろそろ戻らなければならない。けど。
まだ何の情報も得ていない。
これ以上、行動を共にしている班の足を引っ張れない。
暗がりに潜んでいるかも知れないナニカが怖い。
私みたいなモブじゃ、やっぱり無理なのかな……
刀をいつでも抜けるようにしながら、路地裏を歩く。
■芥子風 菖蒲 >
この街に来るのは大抵、悪い奴を追いかける時だ。
けど今日は違う。とある捜査班の話を聞き、応援として来た。
探している相手と交戦記録がある分、捜査班に加わるのは楽だった。
勿論ある程度仕事はするが、それ以上に別の理由がある。
「確か、こっちに……」
他の風紀委員が言うには、彼女はこの裏路地にいるはず。
青空が見据える暗がり。常世の宵闇と同調する黒衣をはためかせ
少年は何の躊躇もなく裏路地を歩く。漆塗りの刀を担ぎ
程なくして、見覚えのある"白"が青空に映った。
「舞子」
後ろから、その"白"の名を呼んだ。
■桃田舞子 >
饐えた臭い。過敏にもなる。
声をかけられた時。
私は、最初に魂が抜けるほどビックリした。
でも、その次に。
安心感と………罪悪感のようなものがジワジワと染み出してきて。
私は、振り返るのにすら勇気が要ることに気付いた。
「あっちゃん………」
刀から手を離して。
どうして、とか。もう怪我はいいの、とか。
そういうのじゃなくて。何か私は。
言い訳を探していたんだ。
■芥子風 菖蒲 >
声を掛けた彼女は振り返ってくれなかった。
その背中は、学生街にいた時よりも硬くて
少年には何処か、震えているように見えた。
「舞子」
少年の声音は何時もと変わらない。
相変わらず感情の抑揚が少ないが、表情だけは違った。
眉を下げた困り顔。少年も言葉に困っている。
彼女の事を根掘り葉掘り深く知ってるわけじゃない。
それ以上にあの時"興味が無かった"。
自分が護りたいものの一つに過ぎなかった。
けど、彼女は困った顔であの時『戦いが苦手』とハッキリ言ったんだ。
そんな彼女が"歓楽街"の調査に来ていると聞いた時
少年は驚きに目を丸くした。
その理由は、今なら何となくわかる。
あの時は何とも思わなかったけど、きっと"自分のせい"なんだろう。
病院に、お見舞いに来てくれた彼女のあの時の顔が、脳裏に何度も過る。
「……舞子」
もう一度、名前を呼んで。
「ここ、危ないよ。どうしたの?人手不足……じゃないでしょ」
「皆、心配してたよ。碧先輩とか、絶斗とか」
■桃田舞子 >
ああ、何を言ったらいいんだろう。
私は。どうして自分勝手な正義に周りを巻き込んでいるんだろう。
あっちゃんは……芥子風菖蒲委員は。
心配してくれているんだ。
それに対して、私はどう答えればいいんだろう。
風紀委員として?
彼の友達として?
それとも………?
「友達を傷つけた奴、絶対に許せないし」
「他のみんなは関係なくて……」
「けじめ、だから」
振り返らずに答えた。
あわせる顔がない。
■芥子風 菖蒲 >
「…………」
その怒りは、気持ちは、よくわかる。
自分が違反者(はんざいしゃ)に抱く気持ちが
風紀委員としている理由がまさにそれだからだ。
身勝手に自分の大事なものが傷つけられるのは許せない。
ああ、そうなんだ。きっと、彼女にとっては……。
「……オレの事、そんなに心配してた?」
自分が、そうなんだ。今なら何となくわかる。
自分が外側にいるつもりで、もしかしたら結局初めから─────。
もしかしたら、そう言う資格はないかもしれないけど
少年は戸惑いを覚えながらも一歩、一歩と彼女へと距離を詰める。
「オレ、そこまで舞子が考えてくれてるってわかんなくて。
舞子が落第街にいるって聞いた時凄く驚いて、その……」
「えっと、言いたい事があるんだ」
許される距離なら、その肩に手を伸ばす。
そうでないなら少年の手は宵闇を握るだけだ。
■桃田舞子 >
言いたい事があると言って伸ばされた手。
肩を掴まれて振り返る。
私の双眸には、涙が滲んでいた。
「あっちゃんはあの時、人を護ろうとしたんだよね…?」
「私にもできる……!」
肩の手を振り払って、短く叫んだ。
「あっちゃんを怪我させた奴を捕まえる!!」
そっか、今の私。意地を張って泣いている。
おばあちゃん。私、子供みたいだ。
力がないのに、意固地になって。バカだ。
ダスクスレイが許せないから。
あっちゃんを怪我させたことを謝らせたいから。
そんなことのために。頼まれてもいないのに正義と強権を振り回す。
今の私は、きっと誰より醜いだろう。
■芥子風 菖蒲 >
振り返った彼女は泣いていた。
思いつめるように声を張り上げて、手は振り払われた。
「あ……」
なんて、間抜けな声が漏れた。
振り払われた手は宙ぶらりんと
何をしていいかわからないかのように、力無く項垂れる。
「…………」
"何時か、自分の言葉で話さなきゃいけない事がくる"。
何時かあった車椅子の少女の言葉が反芻された。
今がその時なんだろうか。わからない。
少年は戦い以外の事が苦手だ。
それ以外はほとんど他人に任せた。
否、"頼っていたんだ"。
自分に出来る事しかやらなかった。
それしか知らないし、出来ないと思って"やらなかった"。
きっとそれが彼女を追い詰めてしまったんだ。
「……舞子」
だったら、目を背けちゃダメなんだと思う。
青空を数度瞬きして、涙に埋もれた瞳を見つめた。
「うん」
先ずは強く頷いた。
少年が戦う理由は何時だって誰かの為だ。
その為に怪我も命を懸ける事も厭わない。
容易く身を切る事自体は、きっと今でも変わってないのかもしれない。
「……オレ、こういう時何て言っていいかわからない。けど」
「オレ、舞子が"無理"してるのはイヤだ」
彼女は確かに苦手だって言ったんだ。
戦いは怖いことだって。自分が追いかけている
少年を傷つけた存在がどんなものか、知っているはずだ。
心の機敏を察する事が出来ても、本当にどう思っているか分かる程人を知ってる訳じゃない。
少年はエスパーじゃない。だから。
「だから、"ごめん"。オレずっと舞子に謝りたかった。
……えっと、無茶したこと、とか?怪我した、事……?」
まだ、彼女が思いつめる理由にハッキリとした言葉が思いつかない。
ただ、感覚的に自分が許せない事が彼女も許せない事はハッキリしている。
たどたどしい言葉選びをしながら、もう一度手を伸ばす。
今度は涙を拭うように頬に、手を添えようとした。
■桃田舞子 >
長い沈黙が痛かった。
この場から揮発して、いなくなりたかった。
私がそうさせたんだ。
力がないのに落第街なんかに来て。
周りに心配させて。
今はあっちゃんに気を使わせている。
恥ずかしくて、消えたくて。
でも、そんなことはできなかった。
否応なく自分が生きてることを再認識しただけで。
「……無理なんか…………」
否定ができない。
無理をしている。ご飯が美味しくなくなるくらい、辛い。
私に裏の世界は荷が重い。
そんなことはわかっている。なのに。
言葉が出てこない。
頬に手を添えられると、表情をくしゃりと歪めて。
「無理、してた」
「あっちゃんにこんなところに探しに来てもらって」
「私……なんて言っていいのかわかんないよ…」
■芥子風 菖蒲 >
「…………ごめん」
でも、無理をさせたのは自分が原因だ。
だから謝るしかなかった。
けど、そうだ。その気持ちはよく分かる。だって。
「……オレもわかんないや」
どうやったら彼女をまた笑顔に出来るのか。
傷付いた彼女の心をどうすれば温かくできるのか。
少年にはまだ、言葉を選ぶ手段も知識も持ち合わせていない。
何だか似てるなんて思うのも、不謹慎かもしれない。
指先で暖かな涙を掬い、暖かな手先が彼女の頬を撫でる。
「どうすれば舞子が納得してくれるか、オレもよくわかんない」
「けど、オレはこれからも怪我はするし、何度でも戦うと思う」
「それだけはオレが多分、最初に自分で決めた事だから」
自分には無いはずの温もりを分けてくれる皆。
無辜の民を、友人を、彼女を護りたい。
今は少しだけ、その意味も変化してきているのにまだ少年は気づかない。
対話って、こんなに難しい事なんだ。
こんな事を押し付けてきた、任せて来たなんて
我ながらとんでもないなと思ってしまう。
「だから、こういう事は"オレに任せて"欲しい。
オレは舞子に泣いてほしくないし、無理してほしくない」
「……あ、でも、泣かせてるのはオレだから……ええっと……。
……ごめん。やっぱりこういうの苦手なんだ、オレ」
だけど。
「だけど、オレの言葉じゃないと多分ダメだから」
だから思いつく限り、戸惑いながら
困惑しながら拙い言葉を思うままに紡いでいく。
「────帰ろう、舞子」
この闇は、貴方には必要ないって。
■桃田舞子 >
「………っ」
自分では、彼を止められない。
そんなのわかっている。
私はただのモブで、きっと彼は自分の物語を生きる主人公で。
彼を止める手段なんて、持っているわけがないんだ。
頬を撫でられると、その手に自分の手を重ねた。
彼が言いたいことはわかる。
苦手なんだ。私も、あっちゃんも。
こんなことは似合わない。
そもそも。
裏の世界にいることも、生の感情をぶつけ合うことも。
私には似合いはしないんだ。
「わかった!」
スパッと決めて。
笑顔で歩き出していく。
ヴィランと戦うとか。彼の代わりに戦うとか。
そうじゃない。
「あっちゃん、交通誘導不慣れだもんね」
そう言って空を見上げた。
まだ満ちきらない月が覗いていた。
「私がやらないと」
と言ってにっこり笑った。
どんなにたくさんの祈りを捧げて。
どんなにたくさんの願いを叶えても。
痛みが消えることなんてないんだ。
そう思って、歩き出していく。
明日から、交通部の仕事を重点的に。
私にできることを精一杯だ!
「あっちゃん、退院おめでとう、それと……ありがとう」
■芥子風 菖蒲 >
「…………」
彼女がまた笑顔になってくれた。
だけど、不安になる。
また無理をしてるんじゃないかと思ってしまう。
なんだか、ちょっと諦めにも見えてしまった。
歩き出した彼女が何処かへ行かないように
黒衣をはためかせ、すぐ隣へ。
「舞子」
間髪入れずに、その手を握ろうとした。
決して逃がさないように。
離してしまわないように。
「……オレは別に特別な事がしたい訳じゃない。
舞子がいるあそこを護りたいだけ。……うん」
「オレは、日常(あそこ)にいたいんだ」
別に主人公とか特別な事とかそう言う事じゃない。
きっとこの感情は皆が皆思う事だ。
誰も彼もがきっと同じように日常を生きようとしている。
それを大切にしている。忘れてしまいそうな他愛ない輝き。
ただ、それを護りたいだけ。自分なりのやり方で。
やれる力があったから、そうしている。
だから。
「オレは正直、舞子みたいに愛想良くないし
皆みたいに上手く人と話せるわけじゃない」
「けど、オレは舞子達のいる日常がいい」
主役と意味では、きっと彼女だってそうだ。
多くの人々が、それこそ交通整備で行き交う皆も
それぞれが主人公で、皆が皆他愛ない日常で過ごしていたいと思う。
そう、特別な何かなんかじゃない。
彼女が灯すように、日々の輝きを護りたいだけ。
自分らしい答えを少年は必死にひねり出している。
決して彼女はモブなんかじゃない。
彼女だからこそ頼みたい。
彼女にしか頼めない事だから。
「だから、護っててほしいんだ。オレの帰る場所」
■桃田舞子 >
手を握られると、驚いた。
隣にいるあっちゃん。
背が高くて、手は男の子のそれだった。
「私達がいた場所に………?」
ミーちゃんや、絶斗くんと一緒に行ったファミレスみたいな。
なんてことのない温もりに。
闇の蔓延る余地のない場所に。
続く言葉に、涙が溢れた。
私にも護れるもの、あるのかな。
「わ、なんでだろ………また涙が…」
ゴシゴシと自由なほうの手で涙を拭って。
「うん」
「何度だって守るよ、あっちゃんの帰る場所」
そう言って少し赤い目で笑った。
「帰ろっか」
「カレーが食べたくなっちゃった、一緒にファミレス行こ」
私は。これからも痛みを抱え続ける。
それでも、私にできることを精一杯続けていく。
風紀委員は戦う集団じゃない。
日常を守るための────
■芥子風 菖蒲 >
「……ご、ごめん。また泣かせた……?」
また彼女の眼から涙があふれた。
また自分のせいなんだろうか。
……ちょっとだけ違う気もするけど。
少年は思わずおどおどと慌ててしまった。
けど、すぐに笑った彼女の笑顔は何処か晴れやかで。
少年は胸を撫で下ろした。
「うん、頼んだ」
役割分担とは言わないけど、出来る事を精一杯。
彼女たちのいる場所を脅かす連中は
自分達が影で戦って護るから
明るい日常を繋いでくれるのは、彼女に任せた。
涙の痕が少しまぶしく見える笑顔に釣られて、少年の口角も上がる。
「そうだね。オレも腹減ったし、行こう」
手を握ったまま、二人で帰ろう。
待ちに待っていた新しい自分を白日の下に。
彼女と一緒に、今日は日常の明るみに帰るのだった。
ご案内:「落第街 路地裏」から桃田舞子さんが去りました。
ご案内:「」から芥子風 菖蒲さんが去りました。