2022/02/23 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に八ツ墓千獄さんが現れました。
八ツ墓千獄 >  
「~♪ …♪ る、るる…♪ る…♪」

───……一難去って、また一難
この掃き溜めの街に物騒な話の種が尽きることはなく
一人、討たれれば、また一人
集団が討たれれば、また別の集団が
叩けば次々に出てくる塵のように

「私みたいな女が潜み生きるには…都合の良い街、なのですけどねえ」

鼻歌交じりに、薄ら笑いを顔に貼り付けた女が一人
寒空の下、僅かに差し込む月明かりに照らされながら

鮮やかな朱滴る、刃の血拭い───足元、には……数瞬前まで、人の形を成していた、肉の塊があった

ご案内:「落第街 路地裏」に清水千里さんが現れました。
清水千里 >  
 落第街の路地裏は常世で最も危険な場所と言ってもだれも否定すまい、
 情報収集を生業とする清水やその友人たちですらあまり立ち寄らない場所だ。

 二月の下旬というのに外は未だ寒く、フィラメントの切れた吊燈並ぶ街頭では
 月明かりだけがそこにいる人々の影を地面に映し出していた。

「……」

 面倒なことだな、と少し思う。

 石畳に転がる成れの果てのことではない。
 目の前に薄ら笑いを浮かべ佇む女のことだ。
 路地は狭く、女を無視しては進めないだろう。

 こういうことはこの地域ではよくあることだが。清水は黒い傘に自らの顔を隠した。


「そこを通らせていただいても、お嬢さん?」

八ツ墓千獄 >  
「───あら」

鼻歌を歌うのをやめ、女性へと視線を向ける
血のように紅い、暗がりで見るにはどこか不気味な瞳だ

こんな現場を目撃して悲鳴を上げもしなければ、狼狽する様子もない
人の死、それも殺人となれば、一般の人間には縁遠きもの…
淡々とした言葉を投げかけられれば、くすりと唇を笑みに歪める

「ふふ───どうぞ?
 …こんな、月の出た良い夜…お一人で此処を歩くのは危険でしょうに」

女の言葉は穏やかに紡がれる
まるで遊歩道でたまたま通り過ぎる他人に気さくに挨拶をするかのような
その光景とはあまりにもかけ離れた雰囲気を、刀を手にする女は醸し出していた
特に女性が通り過ぎるのであれば邪魔をする気もないといったように、壁のほうへとその背を寄せていた

清水千里 >  
 清水は唇を噛んだ。
 相手の素性が分からぬ以上、自分にできることは何もない。
 もっとも知っていたからと言って、何もする気はなかった。

「この人間は何をしたのかな」

 そのまま通り過ぎれば、何事もなく通過できたかもしれないが。
 清水は足元の”それ”を見て、もの悲し気に呟いた。

 女性に背を向ける危険も厭わず石畳に片膝をついて、
 邪魔されなければ手を合わせながら、彼女の言葉に応える。

「君こそこんな寒い夜、そのような姿で風邪をひかないか心配だよ」

八ツ墓千獄 >  
「…?」

「さあ…何をしていたんでしょうね…?
 私には判りかねますけれど…」

お知り合いですか?と首を傾げる
死、そして殺人の現場に慣れている割には、なぜそんなことを気にするのかとさも不思議そうな女は言った

「んふふ…お気になさず。
 少し昂り、火照っておりますので…♡」

他人を気づかえるなんてお優しい
こんな街のこんな場所を歩くには随分と、似つかわしくない女性だと女は思った

清水千里 >  
「知り合いじゃないがね。
 あいにく、人の死には慣れるということができないんだ」

 この女は違うな、と清水は考えた。
 拷問官は熟練するほど囚人により強い苦痛を与える。
 人殺しも同じだ。熟練すればするほど、危険が増せば増すほど、行為により強い快感を覚えるようになる。
 立ち上がり、傘の間から女の顔を見る清水の瞳は夜の海のように先の見えない黒に染まっていた。

「せめてこの人間がどういう人間ぐらいは知りたいじゃないか、
 弔う奴が一人ぐらいいたって、ここの連中は気にしないだろう。
 君はこの死人について何も知らないのかい?」

八ツ墓千獄 >  
「変わったお方ですねぇ」

女は小さく肩を竦める
人の死に慣れていないと言いながら、遺骸を視界に収めることにも嫌悪を見せない
つまりこの彼女は、そういった通念の存在する出自を持っているのだろうと

「ふふ、弔うのでしたら、どうぞご自由に…
 此処ではそういった方がいるほうが、珍しく、気にされると思いますが」

「──ええ、知りませんよ?
 顔も覚えていませんし、お名前も知りません。
 …まぁ、不運だったのですねえ、ということくらいは、わかりますが」

言葉を零しながら、どこか楽しげに、女は薄く笑っていた

清水千里 >  
 ――シリアルキラーか。

 一瞬前に殺した人間の顔も知らない、名前も覚えていない。
 あるいは目撃者と喋って笑う。そんな不用心な暗殺者はいない。
 いるとしたら、殺人自体を好む人間だけだ。

「そうかもしれないな」

 珍しい、変わっている人間、そう言われて。ここでは確かにそうなのだろう。
 罪の美しさに魅入られた人々の街。

「不運?」

 と、一言。

「何かが君の琴線に触れたのかな」

八ツ墓千獄 >  
「いいえ?」

女は再び首を傾げていた

「この街で失われる命など、往々にしてそのようなものでしょう?」

死んだということは、運が悪かったということ
ただそれだけの理由で片付いてしまうほど、此処では人の命に尊さはなく…

「この街の住人ではないようですねえm貴方。
 ふふ、危険な目に遭う前にすることを終えて、先に進んだほうが宜しいかと」

「いつ不運に見舞われるか、わかりませんよ?」

清水千里 >  
「それは脅しかね」

 と言って、清水は苦笑し、

「理由はいついかなるときも人が作るものさ。『運命』とて変わらんよ」

 そう言って再び、傘で顔を隠した。

「失礼するよ、お嬢さん。
 君の無事を祈っている。」

 そう言って、彼女のそばを通り抜けようとする。

八ツ墓千獄 >  
「ふふ…脅しに聞こえました?
 単なる気まぐれでの注意喚起といった程度のもので…」

くすりと女は笑い、通り過ぎる女性を見送る構え
そして再び、口を開き──

「貴女は──」

「運が良かった…ということで御座いますね」

くす、くす、と
小さな笑いが狭い路地に僅かな響きを残す

「…ねぇ?アナタも、今日はもう満腹で御座いましょう──」

朧気な月の光の下、黒衣の女は愛おしげに、腰元の刀の柄をゆるゆると撫でていた

清水千里 >  
「……貴女の心が満たされ、いつの日か救いの在らんことを」

 そう言って、清水は路地を足早に立ち去る。

 この場所は嫌いだ。
 それでも時たまここを訪れるのは、心に刻むためかもしれなかった。
 どうしようもないほどに自分を叩きのめす何かがここにあることを。

ご案内:「落第街 路地裏」から清水千里さんが去りました。
八ツ墓千獄 >  
「──満たされる」

最後の女性の投げかけた言葉を反芻するように、言葉として紡ぐ

「十全に、永遠に満たされる時など──」

「在ったとして、今際の際だけで御座いましょう、ね──」

くす、くす、くす──

落ちる月の光、香り立つ死と血の匂い
この路地裏の一角が、美しくも残酷な光景で染め上げられるのは──別段、珍しいことでもない

──嗚呼、素晴らしきかな
最後に、愛するモノの柄をもう一撫ですると、薄い笑みを残し女はその場を立ち去った

ご案内:「落第街 路地裏」から八ツ墓千獄さんが去りました。