2022/07/31 のログ
ノア >  
「石より先に言葉を投げれるくらいには親切な住人だよ」

ここのな。そう言いながら更地を指さして。
驚かせる意図が無かったとは言わない。
少年のトゲのある言葉に笑いながら諸手を挙げる。

「まぁここじゃ昨日あったもんがぶっ壊れてるなんざ日常茶飯事だからな……
 壊されては均して作って壊され。そんなもん」

入り浸っているような類の人間では無いのだろう。
この街に慣れた人間ならさっさと次に向かう所だろう。

「俺は探偵――それかまぁ情報屋みたいなもんでね。
 ここに用があるってよりは興味深い人間がいるって聞いてな。
 面白そうだから見に来たって訳」
まぁ、君の事だよと取り出して銜えた煙草の先で少年を指し示し。
風紀委員のお片付けの跡を見に来た観光客って訳じゃあないらしい。

「んで、まぁ店主は瓦礫と一緒にスクラップになったか絶賛雲隠れ中だが。
 探しもんがあるなら内容次第で力になれるかもな?」

学生から金をせびる趣味は無いが、からかうように指で金はあるかい?と笑う。

レナード > 「探偵………」

ここに住まいを構える立場であり、なおかつ情報収集に長けていよう職の者。
自分を指さす男の姿を訝し気に眺めているが、品定めをしているようにも見えようか。

「……まあ、おめーに興味を持たれるくらい、
 周囲の情報に無頓着だったのは僕の反省点だとして……」

確かに落第街以外のところからここまで通ってはいたが、
それも外部の人間としてしっかりマークされていたのかと、
事ここにきてやっと自覚が芽生えたようだ。
自分の無防備さに一つため息を吐きながら。

「そう……それならそれで、しかたねーし。
 そして探してるものなら、あるにはある。
 あいにく僕はそういう伝手もコネもねーから、
 こうして地道に探してたってわけ」

どこまで知られているのだろうか。
どこまで話してしまってよいものか。
ただでさえ油断ならない立場同士、言葉は選んでいる。
事実でありながら、核心に触れない表面の部分だけを。

「……とはいえ、目つけられてるとは思ってなかったけど。
 どこぞの風紀委員と違って、乱暴してるつもりもねーし」

ノア >  
「財布1つにコート1つ。それこそアンタの立場を欲しいって奴もいる。
 学生証なんて結構良い値段で取引されてんだぜ」

作るより成り代わる方が安くて楽だしな。
かくいう俺とて人様の身分を金と暴力で奪い取って居座った身だ。

「っと、そう睨むなよ。取って食ったりしねぇさ。
 言ったろ? 親切な住人だってな」

言いつつ煙草に火を付けて。遠巻きにこちらを窺う人の視線に向けて手を振るう。
しっし、と。虫でも払うかのように。

「乱暴な風紀委員じゃないからこそ、小ズルい奴らが付け狙うってもんさ。
 ま、信用しろとは言わねぇよ。今更とはいえ慎重なのは良い事だしな。
 ただまぁ、こんな所まで来て無駄足ってのもつまらねぇだろ?
 幸いこちとら伝手とコネなら多い方だ。どうだい、案外さっくり見つかるかも知れん。
 言ってみるだけならタダだぜ?」

まぁ綺麗とは言い難い繋がりではあるが。

レナード > 「…………。」

今の話を聞くに、目の前の男は少なくとも大手を振って外を歩ける立場ではない。
だが、ことこの日の当たらない場所には精通している。
…今の自分に足らないのは、そういう日の目の見ないところの情報だ。
ゴーグルのレンズ越しに、少年はその黄色い眼を細めた。

「こうして僕の目の前に出てきたってことは、
 おめーはそれなりに、自分がこのまま無事に帰れるって納得いく情報を得た上のことだと思ってる。
 その出所は知らねーけど………ムカつくことに、今の僕にはそういう情報元が足りてない。」

そういうところは、認めざるを得ない。
相手もそれを見越しているのだろうから。隠したところで弱みと思われるだけだ。
だったら、最初から明らかにした方がいい。

「僕は、自分の眼の力を抑える装備を探してる。
 …丁度こういうゴーグルなんだけど、同じような効果のある…
 もっと、こう、奇抜じゃないタイプのが欲しいわけ」

だから、ここに入り浸る理由を明かすに至った。
今もなお着用中の、ファッションとしては奇抜な類のそれを人差し指で示しながら。

ノア >  
「ははっ、素直で良いこった」

俺が異能を使って探せるのはせいぜい失せ物、誰かの縁のある物って所だ。
そんでもその失せ物を死に物狂いで探してる奴らがここにはわんさかいやがる。
文字通りの情報網。培い、編み続けたツテの山。

「眼の力、ね。
 なるほど、自分で制御するには余りある異能って訳だ。
 まぁ、効力の強いもんは得てしてデカくなりがちだが……
 そいつはアンタの趣味じゃあなかったって事か」

くっくと喉を鳴らして、歩み寄りながらしげしげとそのゴーグルを眺める。
眼に宿る異能か、あるいは何かの副産物。
それを封じるための拘束具と言ったところか。
いかにも重く、物々しい。

「異能自体を制限するってもんなら、まぁアテが無いわけじゃないが。
 異能が身体に宿ってるタイプならヘタ打つと副作用がデカすぎるからな……
 まぁ、手っ取り早いのは作らせちまうって所か」

アテならあるが、問題は果たして少年の瞳は何を見てしまうか、だ。

「参考程度に、そいつをちっと借りても構わねぇか?」

指指すはそのゴーグル。
現状で問題なく抑え込めているのであれば、それの仕組みを知っておくのは仲介するにしたって必要な事ではあるだろう。
が、嫌がるようなら無理強いはすまい。

レナード > 「………。」

そのゴーグルを外せ、と。
前にも同じことを言われたことがあった。
その時は、場所柄もあって素直に応じたが、今は多少の油断もしたくない。
だが、渡さなければ話は進まない。
少年は、決まりきった答えを告げるにも逡巡する。

「………いい、けど―――」

そのまま、少年は言葉をつづけた。

「ゴーグルを外した僕は困らないけど、おめーが困ることになるかもしれない。
 そういうリスクがあると先に言うのは、親切心からだけど、
 それでもおめーは、借りたいというわけ?」

ゴーグルという枷を外すと、あなたに不利益があるかもしれない。
少年は、事前にそのことを告げておく。
ただし、具体的にどう困るかは、口にしないまま。

ノア >  
「おー、おっかねぇなソイツは。
 そんなら見るだけにしておくか」

言葉通りの親切心を受け取って、優しいねぇとこぼし。
そうしてジロジロとゴーグルを観察する。
不躾に、それこそ遠慮なく。
ゴルゴンの瞳、なんてもんもある。
腕が飛ぶ程度の事なら困らんが、石になるのはちっと困る。
視線だけで意図せず人を殺める異能とてあるやもしれん。

「……ま、見て分かるような事は多くは無いか。
 異能を封じるだけで良けりゃさっきも言ったがアテはある。
 もっと踏み込んで指向性を持たせるってなったら話は別だがな。
 どっちにしろ今日明日どうこうしてやれるわけじゃあないから信用するかは勝手だが――」

言いつつ一枚の名刺を取り出して。
シンプルな紙の物、表にはノアという名と電話番号が記されているだけのものだ。

「どうにもならなきゃ電話しな。
 表の医者から裏の医者、それから怪しい呪具の製作者でも紹介してやるさ」

レナード > 「………賢明だし。」

このゴーグルを外せば、今の少年にとって御しきれてないその眼は、
きっと男の外衣を透かしてその内側を容赦なく暴くだろう。
それどころか、藪蛇にさえなりかねないものも見透かすかもしれない。
折角出来かけたつながりを、こんなところで断つのは望むところでない。
できれば、より脅威に感じてもらえるならそれでいい。
不躾なまでに観られることは甘んじて受け入れることにして、少年は安堵したようだった。

「僕のゴーグルがどういう類のものか、僕の悩みがどういう類のものか、
 それについては……まあ、追々教えるってことで。
 流石にこんなとこで明かす話じゃねーし。」

個人の異能について触れるのだから、より相応な場所で、より秘密にできる場所で。
受け取った名刺を眺めながら、いつかの再開を示唆しながら。

「どうせ、おめーは僕の名前を知ってるんだろうし。
 僕からの自己紹介は不要なわけ?」

ノア >  
「まぁな? この街に一回踏み入れたら足はつくし
 二回も踏み入るってんなら調べもするさ」

それが仕事だからな、と含むように笑いながら。
ひとたび調べ始めれば名前どころか交友関係まで出てくる。

「まぁ、興味津々って奴らが集まって来ちまってるしな。
 名乗らねぇのが大正解」

文字通りの更地で話なんかしてりゃ目にも付く。
追い払った程度で引き下がるような連中の方が少ない。

「人が集まってきたな……
 歓楽街の通りの方までくらいなら人払いは引き受けてやるから、 
 今日の所はお開きとするか」

言いつつ、吸っていた煙草を携帯灰皿に押し付ける。
行きはよいよい帰りは怖い。そんな街だからこそ案内人を引き受けよう。
と言っても出口までの短い距離ではあるが。

レナード > 「……確かに、こんなところで長居するもんじゃねーし。」

未だ更地になった店の前でたむろしていれば目立つもの。
ようやく周囲の目を気にするくらいに、目の前の男に対して張りつめていた意識を緩める気になったようだ。
さて、後は帰るだけだが…このまま道案内に甘えておんぶに抱っこというのも、子供扱いが目立つようで気分が悪い。

「帰りは困らねーし。
 その時は、ゴーグル外しながら歩くから。」

あなたは傍にいなくていいし、それでいて安全に帰路に就くことの出来る自信があるのだと、短い言葉に含める。
見られた側は困るかもしれないと言ったそれを、無関心な相手には容赦なく向けると言うに等しい。
そういう意味でも、エスコートは不要であると。

ノア > 「はてさて、腕のいい奴らはまぁいるんだが……」

記憶の中を辿り、裏の技術者連中を思い浮かべる。
ゴーグルと同等の品を作れ、尚且つ少年のセンスに叶う美的感覚の持ち主。
はたしてそんな奴がいただろうか。
腕のいい奴らは軒並みセンスが尖ってんだよなぁ。
口にはしないが、そんな事を思いつつ。不安をあおっても仕方がるまい。

「そうかいそうかい」

見送りは不要と言われればそれを受けて二本目の煙草を取り出す。
元より余計な世話。押し付けよりのお節介。
薄暗い路地を去るのであればその背中を手を振って見送ろう。

レナード > 「気持ちだけは受け取っとくし。
 じゃあ、またいずれ。」

袖にするつもりではないのだと、予防線を張っておきながら。
ポケットに名刺を突っ込んで、気だるく上げた掌をひらひらと振ると、少年は背を向けるようにして去っていく。

それから間もなく、彼に対して背を向けながらゴーグルを外す。
そこから先、危険な場所をまるで熟知しているかのように安全な道のみを選びながら、
学生通りの方角へと消えていったのだった。

ご案内:「落第街 路地裏」からノアさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からレナードさんが去りました。