2022/12/14 のログ
■言吹 未生 > こつこつと地面を噛む、硬質な靴音を引き連れて。
「普通の学生になりたい者であれば、こんな薄暗がりに来やしないと思うけどね――?」
拾い上げた言葉を引っ提げて、一つ眼の白皙がひょこりと横合いの隘路からまろび出る。
暗澹とした背景も相まって、さながら時節も空気も読まぬ亡霊の如く。
もっとも、次いで覗かせる上半身に抱えた紙袋は、
およそ幽霊らしからぬ生活感を醸し出しているけれど。
「こんな悪所で復学事業だなんて、随分と挑戦的だねえ君。
――どこから来たんだい?」
誰何の声は、相変わらず平板で。
けれどもはぐらかしを許さぬ、仄かな圧を添えて、ただ静かに。
■ジョン・ドゥ >
「表の通りで生きられるようなのは、放っておいても復学するだろ?そういうのを攫って行くのは、俺よりもよほどよい子ちゃんに任せておくさ」
聞こえた声に肩を竦めながら、出て来た小さい影に視線を向けようか。荷物を抱えているのやら、抱えられてるのやら。買い物帰りか?
「俺は委員会街の方から来ましたよ?お前は?この辺のやつか?」
何とも言えない威圧感がある、な。ガキのわりには、随分と堂々としたもんだ。
■言吹 未生 > 「ふうん? つまり君は、自力救済の困難な者専門と言う訳だ」
灰銀の瞳に、わずか興を引かれたような光が宿る。
が、後から向けられた視線の推移を観ずるにつけ、じとりとした目つきに変わる。
己の小兵と抱える袋の間尺を比べられたようで――まあ、有り体に言ってカチンと来た。
「使い走らされてるようにでも見えたかい?
れっきとした、この街の住人だよ」
ふん、と少し鼻息を荒げて言い切った。
嘘は言ってない。登記情報を当たったとて何もないが。
そもそも、そんなものがないのがこの街の在り方だ。
「それと――君のそれは答えになってない。聞き方を変えようか。
《 何者か / 名乗れ 》」
お行儀のよい質問では効き目が薄いようであるので、呪力を添えて再質問。
【圧魄面説】。それは質問と言うよりも――詰問/尋問と言うべきか。
■ジョン・ドゥ >
「そうそう、裏口入学を斡旋しちゃうような、こわーい人攫いだよ」
ガキの目つきがが据わったな?くく、俺が体つきを眺めてたのに気づいたか?
「いいや、立派で堂々と生きてるように見えたね。自立してるのは大したもんだ」
小さな体で、おそらくハイティーンにはいかないだろう。それでこの街で自活してるってなれば、多少褒めたくもなるよな。
……とはいえ。あんまり「こわいこと」されるのも嫌なもんだが。
「もともと隠すつもりもないけどな?名前を聞くなら、まず自分からってお母さんに教わらなかったか?」
異様な圧力を感じるが、これが多分、こいつの能力だな。精神、思考干渉系ってところか。
「それと、相手の実力が分からないのに、自分から手札を切るのはオススメしないぞ」
くく、と笑いながら年長者の余裕くらいは見せておこうか。まあ、この手の干渉系には、戦場を歩いてれば嫌でも慣れるからな。思考が誘導されている事を自覚できちまえば、欲しい答えを逆算する事も出来ないわけじゃない。
……ま、前に居たPMCで鍛えられたお陰だけどな。
■言吹 未生 > 「…学業アレルギーでもあれば、恐れられるかもね。
あるいは――力尽くでそうする、とか?」
それで行く先が違反部活/組織であれば、処断対象だが――戻るのは表の世界である訳で。
毛色の変わった更生ないし救済プログラム、と言えなくもない。
「……それはどうも」
遠慮のない観察眼を向けられておいて、手放しに褒められるとどうにも調子が狂う。
言葉少なに、ぶっきらぼうに切り返して。
己の年齢に関して頓着がないのは、『皇国』での技官としての生活が長かったゆえか。
裁く側に立った時点で、年齢など問われる立場にない――。
「……有益な助言、感謝する――と言っておこうか?」
干渉には抵抗されたらしい。
死者、にしては溌剌とし過ぎている。
機械・無機物の類には見えない。異界生まれで、偽装レベルが飛び抜けていれば別だが。
ならば――純粋に、経験あるいは地力の差か。
それを裏付ける綽々とした鷹揚さに、表情の苦味が増す。
「――言吹未生」
不愛想の極め付けのように、無造作な名乗り。
偽名を使う意味はない。
“元”学生として、恐らく風紀辺りのデータベースには既に登録されているだろうし。
何となれば、先だっての『鉄火の支配者』との交戦の報告も上がっているだろう――。
僕は名乗った、次は君。
そう言わんばかりに、挑むような目つきで相手をねめつける――。
■ジョン・ドゥ >
「強引になにかするつもりはないぞ?ただ、可愛いネズミちゃんになれば、犯罪歴くらいならキュっと潰して入学させてやれるってだけさ」
実験動物になった上に、危険があると判断されれば、頭の中で花火が飛んじまう。それでも、正規の身分が欲しい、ってやつは少なくない……だろうな。
「くく、なかなか可愛いな?ちょっと拗ねたか?」
変わっていく表情。ぶっきらぼうな言葉。反抗期のお子様……とまではいかないが、どことなく子供っぽい反応に見える。
「ジョン・ドゥ。偽名だけどな。ああ、本名は訊くなよ?俺も覚えてないんだ」
据わった目で見られながら、両手を上げて答えよう。うっかり撃たれちゃうのも嫌だからな。
「で、言吹は買い物帰りか?よかったら、お兄さんとお食事でもどうだ?」
発育不良はそんなに好みじゃないが、可愛げのあるなら話は別だ。一人前の女性をお誘いするのは、ある意味礼儀っでもんだしな。
■言吹 未生 > 「良い事尽くめに聞こえるね。
けれど――それだけじゃあ、ないんだろ?」
表が全き平和で安全な場所であれば――敢えてそこを離れる者には二種類いる。
それで満足出来ぬ者と――そこに不満を持つ者だ。
どこに過不足を感じるかは千差万別であるが。
裏の人間が易々と陽光の下を歩めぬのと同じく。
表の人間にも表の人間で在り続ける為の義務が生じる。
“出戻りであればなおの事”。
「…正直に答える義理はないね」
窺うような言葉に、ぷいとそっぽを向いた。
そんな憎まれ口と所作こそが、答えになってしまっているだろうに。
「身元不明。英語圏の…だったかな?
君の名付け親は随分とねじくれたセンスの持ち主らしいね」
意趣返しにそんな皮肉を投げ寄越す。
予想だにしなかった食事の誘いに、暫しきょとんとするが、
「あいにく、風紀の息の掛かった人間と、この界隈で食べ歩きをしようとは思わないね」
腕章こそ見えないが。
救済した者の犯罪歴をどうこうしてやれる立場と言えば、“彼ら”か財団の連中ぐらいだろう。
拒否したのは風紀憎しの巻き添えを喰らうから? ――否。
狂犬にとっては、今や風紀でさえも潜在敵なのだ。
同じく秩序の護持を謳う者であったとしても。
その秩序が“ただ一部の者の為だけのもの”である限りは――。
「これは買い物って訳じゃないが……ああ、そうそう。
君、神代と言う名の委員に心当たりは?」
既に相手が風紀であろう前提を、もはや崩す事なく問い掛ける。
出た名前は――あまり聞きたくない相手のものだろうけれど。
そんな都合を斟酌する者を狂犬とは呼ばない。
■ジョン・ドゥ >
「そりゃあな。従順じゃないペットがどうなるかなんて、予想は難しくないだろ?」
ぽいっと捨てられるか、悪くて殺処分ってところだ。「よいこ」でいるか、いれば利益を生むような「にわとり」でもなくちゃな。
「くく、可愛い(キュート)だな?」
いい反応だ。微笑ましくもあるな。皮肉もいい感じに塩気が効いてて上手いもんだ。とりあえず肩でも竦めておこうか。
「そいつは残念。いい女と晩酌するのが趣味なんだけどな。……っと、まだお酒は飲めないお年頃か?」
個人的には仲良くなりたいもんだけどなあ。塩辛い御対応されちゃったら仕方ないな。
「ん?ああ……あの偉そうな先輩様ね。知ってはいるが、それこそこの街にとっちゃ、忌々しい名前かなんかじゃないのか?」
先輩のあの行動の是非はともかく、この街からすれば、相当に恨みを買ってる名前のはずだ。
■言吹 未生 > 「…民衆を飼獣扱い、か。ますます相容れないな、彼らとは」
傲岸な支配者と、法廷なき処刑人と。
より安心を得ようとする民衆がどちらを選ぶかなんて、自明だ。
けれどそれは、何ら狂犬の歩みを止めるものにならない。
誰に乞われずとも、願われずとも。
「……未成年を酒で酔わせてどうする気だったんだい。
仮に君と茶飲み話なりする日が来るとすれば、お互いの柵が消えるか。
さもなくば、もっと色気のないビジネスの話をする時だろうさ」
如何なる相手であれ、今後を思えば友誼を深める手もある。
――そんな懐の広い者であれば、何ゆえ狂犬の誹りを受けようか。
「知ってるさ、よおくね。いや何、借りたものを返そうと思ってさ?」
差し出す紙袋。
中身は先程クリーニングから下ろしたての、風紀委員会のコート。
ちゃんと血痕も落としてある。
「あいにく表を憚る身でね。彼に返しておいてくれないか。
ああ、ついでに言伝も頼みたいな。
――次は唇だけでは済まさない、ってね?」
ずけずけとそんな“お願い”をして。
そこで初めて、悪戯っぽい笑みを浮かべてみせた。
色々と――彼にとって――面倒極まりない誤解を呼ぶ台詞も添えて。
■ジョン・ドゥ >
「……ま、それを言えば、この島にいる人間、誰もが実験動物(モルモット)、だろ?」
大なり小なり、その側面からは逃れられない。今更何を、とは思わないけどな。そう思う事を嫌悪する気持ちってのも、大事なもんだろ。
「そりゃあ、ナニするんですよ?まあ、お前の場合、もう少し肉付きが良くなってからの方が嬉しいけどな。……ビジネスの話ねえ」
そんなお仕事のお話が出来るようにも思えないけどな。協力できるような事でもあるんならいいんだが。
しかし……なるほどね。
「ああ、あの時「デート」してたのはお前か。先輩もなんだ、隅に置けないね」
紙袋を片手で受け取ってみるけど、本当にコートが入ってる。なんか仕掛けでもしてあったり……しなさそうだなあ。
「先輩のお手付き、っていうなら、俺が手を出すわけにもいかないな。わかったよ、しっかり伝えておくとするさ」
……さて、そろそろ通りの方も静かになった頃合いかな。
「じゃ、俺はフラれちゃいましたし、犬は犬らしく、飼い主の所に帰りますか。……ああそうだ」
袋を受け取って踵を返すが、一度立ち止まろう。
「「よいこのふうきいいん」には話せないような事があれば、俺にでも言いな。どうせまた、この辺、暇つぶしにでも歩いてるからさ」
と、それだけ言い残して、さっさと帰るとしましょうか。あんまり可愛がって、噛みつかれるのも怖いしな。
■言吹 未生 > 「身も蓋もないね。――けど、そういう物言いは好ましくもある」
元より漂着者である己は、常世島の体制その他について、盲従するべくもない。
言わば全てが疑わしい。
だからこそ、仮借のない言は却って狂犬の気を捉えた。
ただの軽薄な風紀くずれではないな、などと失礼気味な認識を密かに改める。
…正しくは、改めようとした。
「……前言は撤回させてもらうよ」
ナニとは何だ、などと問い質すほど物知らずではない。
赤らむほどの稚さも、今となっては残っちゃいないのだけど。
とりあえず今度会った時は、向こう脛辺りに一発イイものをくれてやろうかと。
「聞こえ――もするか。彼もなかなか派手好みだしねえ」
さんざんこの辺りをどよもしたろう砲火音の幻聴に、くつくつと肩を揺らして。
その手に渡った紙袋の中は――真っ正直にコートだけだ。
何ぞのトラップなど仕込むのは、それこそ“風紀そのもの”を打ち崩す時ぐらいだろう。
「覚えてはおくさ、悪い子のジョン・ドゥ君。
――精々、こちらでは用心したまえよ」
ひらりと手を振り返して、こちらもまた来し方の薄闇へとその身を融かし行こう――。
ご案内:「落第街 路地裏」からジョン・ドゥさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」から言吹 未生さんが去りました。