2019/03/08 のログ
ご案内:「スラム」に金剛経太郎さんが現れました。
金剛経太郎 > 「ああ……クソっ、何やってたんだ俺は。
 幾ら見た目がガキとはいえ、中身はもう18だぞ。それをあんな……」

寂びれたスラム街に似つかわしくない少年が、ぶつぶつと独り言を繰り返しながら歩いている。
内容は主に先日の古書店街での一幕の反省。
丸一日近く実年齢よりも10歳も鯖を読んでの言動を続けたことが、余程こたえたらしい。

「あんな……あんな……。」

と同時に思い返される、己を小学生として偽って接した少女のこと。
するとたちまち耳まで朱に染まり、ぶんぶんと首を振って顔を冷ます。
まだ鼻の頭を赤くさせたまま、少年は俯きながらもぽつりと、

「ま、まあ……言うほど悪くも無かったかも、だ。」

金剛経太郎 > 「……ぅ、あああああっ!クソッ!
 全部迷子になったのが悪い!……古書店街に迷い込みさせしなければ……ッ!」

どうにか自分なりの納得をしようとしながらも、すぐに羞恥心が込み上げる。
情緒不安定になりながらスラム街をずかずか歩いていたが、前方に居た男とぶつかってしまう。

『──あぁ?何だぁこのガキ。いってえじゃねえか』
「痛いのはお互い様だ……見ろ、こっちは尻もちまでついてる。」

少年を睨みつける男に対し、言葉通り尻もちをつきながらも不機嫌そうに舌打ちまで交えながら返答する少年。
あまりの態度に男の額には青筋が浮かぶ。

金剛経太郎 > 『──ンのガキぃ……口の利き方ってもんを知らねえのか!?』

男が怒りに任せて少年を掴みあげようと腕を伸ばす。
少年の胴体程もありそうな太い腕が、その握力だけで潰せてしまいそうな少年の細い首へと迫る。

「チッ、野蛮人はこれだから困る──【騎士】よ。」

しかし、男の腕は少年へと届くことは無く。
突如出現した黒い甲冑の騎士が持つ、巨大な大剣に遮られた。
男が面食らい腕を引いた隙に、地べたに座り込んでいた腰を上げて、二、三度叩いて埃を払い落とす。
顔を上げた少年─金剛経太郎は、およそ小学生然とした見た目にそぐわぬ、人を軽蔑しきったような目を男へと向けた。

金剛経太郎 > 「口の利き方とやら、せっかくだからご教授願おうじゃないか。
 ……ま、あんたの口からまともな言葉が吐ければの話だが。」

経太郎がつまらなさそうに言葉を紡ぐのと同時に、黒騎士が動く。
何とか困惑から抜け出て、戦意を取り戻そうとする男へと大剣が振るわれ、鈍い音と短い悲鳴がその場に響く。

(──現実世界では僅かにだが命令から行動に移るまでに間が空くな。
 肉体がある弊害、といったところか。)

この“力”を使って現実の人間に攻撃をするのは初めての試みだ、と思い至った経太郎は、冷静を通り過ぎて冷酷に男に対する騎士の一方的な暴力を見据える。

『ギッ……ひっ、ヒィ、もうやめてくrがぁ……お、俺が悪かっ……ギャッ』
「そうだな、その汚い許しを乞う声が止んだら、考えてやる。」

騎士の剣が振るわれる度に男の身体から骨の砕ける音がする。
それでも経太郎は騎士へと命令を出し続け、やがて男が気を失って静かになったころ。

「──ふむ、ふむふむ。これは少し慣れる必要がある、か。」

一人で納得したかのように大きく頷いたのだった。

金剛経太郎 > 「騎士よ、そのゴミクズを路地裏にでも投げておけ。」

近くの瓦礫に腰を下ろしながら、男を指さして騎士へ命令する。
物言わぬ黒騎士は静かに動き出すと、痙攣する男を掴み上げ、命令通りに路地裏へと放り込んだ。
その一連の挙動を確認してから、経太郎は思案げに薄く灰色がかった空を見上げる。

「それにしてもガラの悪い男だったな。
 歓楽街にあのような男が居るのは無理もないが、子供一人因縁つけられていて誰も何も言わないとは。」

そこまでぼやいて、ふと眉間にしわを寄せる。
おかしい。子供が絡まれている事に無関心な事以上に、大の男一人が一方的な暴力に晒されていても、誰も何も言わない。
それだけでなく、風紀委員や公安委員といった組織が出張ってくる様子も無い。

「……まさか、ここが噂の?」
(──落第街、という区画だろうか。)

とすればまたしても別の区画に迷い込んでしまったのか、と経太郎は大きく肩を落とした。

金剛経太郎 > 「まあ、ここが落第街であるのならば長居する理由は無い、な。
 一度どんなものか見てみたかったのは否定しないが……想像の域を出ない場所だった。」

ブランコから飛び降りる様な動作で、座っていた瓦礫から立ち上がる。
落第街──自分のような者には危険極まりない場所だと、かかりつけの医師含め周囲から散々聞かされていた経太郎だったが。
当たりをぐるりと見渡せば、なるほど確かに危険な場所だと納得できた。

「確かに、ここで泣き事を言う子供が居て気に掛ける様な酔狂は居ないだろうな。
 あのふわふわ女もこんなところまで迷い込みはしないだろうし……」

ふふん、と自嘲も込めて笑ってから、騎士を引き連れ元来た道を歩いて戻り始める。
異能を行使している影響か、歩くのも億劫ではあるのだが、

「これもまたリハビリ──この力を現実世界でも扱える為、だ。」

眼光ばかりぎらぎらとさせながら、無法地帯に似つかわしくない少年はその場を後にしたのだった。

ご案内:「スラム」から金剛経太郎さんが去りました。