2020/07/19 のログ
ご案内:「スラム」にマルレーネさんが現れました。
ご案内:「スラム」にアルン=マコークさんが現れました。
■マルレーネ > 長い棍を持つ女。
修道服を着た女は、堂々と路地を歩く。
周囲から突き刺さる視線は冷たく、ところどころ鋭い物も混ざる。
まあ、そりゃそうですよね。
気にした素振りも無い。
ついつい、調子に乗って腕を怪我しているが、それも身体の動きを変えるほどのものでもない。
静かに、古びた……もはや、人のたまり場としても機能していない修道院跡の前に立って。
「コイツは大変ですねぇ……」
これを片付けて使えるように………いや、もはや使えるようにするというより、きれいに潰した方がいいくらいの寂れ方だ。
■アルン=マコーク > 修道服を着た女性の後ろに立っているのは、同じく長い竹箒を持った金髪の少年。
周囲の視線は気にもせず、ただ目の前の修道院跡――もはや建物というよりは瓦礫と呼んでしまったほうがいいような――をぼんやりと眺めている。
表情は何を考えているのか、いまいちとっかかりのない無表情だ。
「これをどうすればいいのでしょうか」
『掃除』しますか。
マルレーネに向かって尋ねながら、右手に魔力を集めていくアルンは、あきらかに真っ当な掃除をするつもりはなさそうだ。
修道院跡だけでなく、周囲の一角もろともに吹き飛ばしてしまいそうな。
それほどの力が集まっている。
■マルレーネ > 「………ふぅ。」
静かに吐息を漏らして、首を横に振る。
そう、今日の目的は本当はこの場所にはない。
背後の少年を見極めることだ。
「………この付近には人が住んでいます。
その意味が分かりますか?」
問いかけるような言い方に変えて、微笑みかける。
相手の力そのものは理解できないほど弱くもない。
そして、自分に太刀打ちできるかどうかも、理解できないわけではない。
■アルン=マコーク > 「なるほど。協力を要請してみるということですね」
何かに納得しながら、アルンは小さく何度も頷いた。
強く感じられていた魔力は、あっという間に霧散して、今は力を感じない。
それはつまり、先程の強すぎる力でさえ、この少年にとって意のままに制御できる程度の力でしかないということになるのだろうか。
少なくとも、何が何でも力で解決しようというつもりはないようだ。
「ですが、この瓦礫を片付けるのは重労働でしょう。大きなものを僕が退けてからでなくては、動くことさえ難しい」
そう言って、竹箒をその場に置くと、袖をまくりはじめた。
……力で解決する気だった。腕力で。
身の丈よりも大きな、崩れた壁の欠片、と呼ぶには大きすぎる壁を持ち上げると、少年は振り返った。
「とりあえず……大きなものは端に除けておけばいいですか」
■マルレーネ > 「いいえ。 その掃除の仕方をしたら、瓦礫が飛び散ってしまいますからね。
それに、私は私の掃除を。 貴方は貴方の掃除をする、のではありませんでしたか?」
言いながらも、相手の言葉、態度、様子をじっと見つめる。
「本来は修繕なんですけどねー。
修繕となると何日かかることやら。」
とほほ、と苦笑しながらも、瓦礫を持ち上げる姿に少しだけ目を見開いて。
「……では、横に避けておいてくださいね。
お願いします。」
■アルン=マコーク > 「僕の掃除は、どこを掃除するという目的があるわけではないので。この世界を少しでも良い方向に傾けられるなら、それでよいのです」
およそ掃除について話しているとは思えないような、スケールの大きなことを言いながら、持ち上げた壁を何気なく脇に置いた。
どうやら、はじめから手伝うつもりでやって来たようだった。
ずん、と重い音が響き、砂埃が舞う。
アルンは見られていることに気付いているのかいないのか、次に運ぶべき瓦礫を探すように、視線を彷徨わせている。
「修繕……は、僕には難しいですね。人の身体ならいくらでも治せるのですが、建造物を修復するとなると、僕には技術がありません」
淡々と、事実を述べるだけといった様子でそう呟くと、何かに気付いたようにマルレーネの方を振り返ると、目を見開いて尋ねる。
「もしかして、そうなると。僕はお邪魔でしょうか……」
それなら、掃き掃除を進めますが、と言うその表情は、どこか寂しげでもある。
捨てられた子犬のような雰囲気。
■マルレーネ > 「いいえ。お邪魔だなんて。
むしろ、聞きたいことは山ほどありますからね。」
あはは、っと笑いながら、様子を伺う。
悪意は本当に全く無い。
無いからこそ、踏み込まなくてもいいかもしれないけれど。
「……もしもですけど、私がこの周辺を全てなくして、一から作りたいので掃除したい、と言ったら、何をしていましたか?」
踏み込んでいく。
何かがあるなら、私が戦わなければならないかもしれない。
■アルン=マコーク > 「よかった。僕にできることであればなんなりと」
笑顔でそう答えるアルンは、そこだけ切り取れば悪意などないように見える。
笑顔の裏のマルレーネの葛藤など想像もしていないような、とぼけた表情で、アルンは問いかけについて考えているようだった。
「いちから、ですか。そうですね……」
顎に手をやり、うむと唸りながら。
「僕の神聖雷撃魔法でも、この瓦礫を灼き尽くして消し飛ばすほどには至らないかと。細かく砕いて、運び出すしかないですかね」
人の多く住むこの一角に、雷の魔法を使うことにまるで躊躇いがない。
それは、自身の魔法制御に自信がある故か、はたまた、人の命などさしたる問題ではないと考えているからか。
この返答からだけでは杳として伺い知れない。
■マルレーネ > 「細かく砕く、は手で?」
首を傾げて。相手に尋ねる。
ただ黙々と掃除を続けるだけでもいいのだろうが、それは彼女の心が許さなかった。
「その魔法を使うとしたら、この周囲に住んでいる人が、巻き込まれてしまう可能性はありませんか?」
使わない理由は、威力が足りないから。
その言葉が……言葉が足りないからか、何かが欠けているからか。
それを確かめるように質問を重ねていく。
■アルン=マコーク > 「纏めてやるなら神聖雷撃魔法のほうが早いですね。『羽根』でやっても構いませんが……」
今日の夕食を何にするか、といった気軽な調子でアルンは答えた。
その背中から光が漏れ出し、翼を形作る。
翼を形成する光の羽根が、するりと伸び、先程除けた脇の壁をつついてみせる。
石の壁が、砂糖菓子であるかのようにぼろぼろと崩れた。
「はい。よほどのことがなければ巻き込むようなことはないと思います。それでももし怪我をしたなら、神聖治癒魔法で治しますよ」
アルンは向けられた質問に、淡々と答えていく。
それは彼の中で当然であるのだろうか、返答に淀みはない。
誰かを傷つけてしまったなら、治せば良いというような考え方が、彼の中では当然の常識であるのだろう。
はじめから、傷つけないという選択肢が存在していない。
傷があることが、前提であるといった、荒涼とした世界観の一端がそこには見て取れた。
■マルレーネ > 「………なるほど。 怪我をした方がもしいれば、すぐに分かる、と……?」
能力の底が知れない。精神の底が知れない。
底が知れないからこそ、逆に踏み込みづらく。
雷を己の手指かのように操るからこそ、当たった場所までを正確に把握できてしまうのかもしれない。
羽根もまた、能力がとらえきれない。
全容を把握しきれないから、問う質問はそれほど選択肢が無い。
「………見たことが無いから分かりませんが。
一回で死んでしまうようなことも、無いんでしょうか。」
■アルン=マコーク > 「はい。雷が当たったものであれば、何に……どんな命に当たったのかは把握できます」
ああ、ですから探しものにも使えますね、などと言ってのけるその顔は、変わらぬ微笑み。
およそ口にしている言葉の内容に合わない、ちぐはぐな、致命的なズレを孕んだもの。
「雷も羽根も。勇者の力は僕の四肢の延長です。本気で撃てば、天を割き、人間を一人消滅させることも容易いでしょう。僕の腕は、全力で振るえば大地を割り、建物一つを崩すことだって難しくない。けれど……この手で掃除をすることもできます」
そう言って、目の前に手をかざしてみせる。
細い腕。少年の、成長途上の、細く白い腕を伸ばし、マルレーネの眼の前に差し出した。
「僕の力が恐ろしいですか」
いつの間にか、その眼は紅く爛々と輝き、マルレーネの瞳の奥を射抜くように見つめている。
■マルレーネ > 「……なるほど。」
聞けば聞くほどすさまじい力であることが分かる。
分かるからこそ、ちぐはぐさが気になる。 そのズレがこの後、大きなことを起こしてしまいそうな。
「………いいえ。
ですが、どこまで、何ができるのか分からないままお願いはできませんよね。
………それに、悪を滅ぼすと仰いました。
その悪を見極めるのは、自分の瞳だけなのでしょうか。」
紅いその輝きに、僅かに挑戦的な微笑を浮かべて、ぐ、っとその場に踏みとどまる。
理解はしている。
その気になれば自分をどうすることだってできる相手だろう。
■アルン=マコーク > 「そうですか」
アルンは、目の前の女性の足元を見る。
マルレーネの脹脛が、僅かに緊張しているのを確認すると、小さく息を吐いて。
「それならよかった」
微笑みの形に顔を作った。
それから、目の前の微笑に向かい合う。
向けられた質問に、真摯に答えていく。
「僕の瞳、というよりは……五感に属さない、別の感覚ですね。
勇者なら誰でも持っている、『悪』への感覚といいますか。
『悪』とは、共に生きるに値しないという確信があるんです。
それは、僕の人格とは独立して存在している、何か別の――」
手を振り、球体を形作るような、よくわからない身振りを繰り返しながら、とぎれとぎれに説明をする。
それは、独善的な善悪の裁定者というよりは、どうにか自分の中身を伝えようと必死な、少年のようであった。
■マルレーネ > 「………別の感覚。
それは、ここの世界の住人にも、そして私にも無いもの、ですね。
つまり、何かを為したからではなく、明らかに悪であると分かったら、斬ると。
その理由に関しては「そう感じたから」であって、説明ができるものではない、と。
………もしも、私がその悪の前に立ち、庇うのならばどうするのですか。」
尋ねなければならない。
彼の基準は分からない。 もしかして、こちらの価値観からしても完璧なのかもしれない。
だけれども。
善悪を山ほど見てきたからこそ、その断罪方法は選べない。
本当は他にも聞きたいことはあるが、優先順位と、順番だ。
■アルン=マコーク > 「そうですね。ああ、以前『悪』を感知する力は『神官』にもある、と言いましたが……マリーさんは正しく『神官』だったのでしたね。謹んでお詫びを」
そう言って、アルンは深々とお辞儀をする。
いつかの七夕の日ように。
そうするものと定められているからそうしているように。
「『悪』が動き出すまで待っていたら、確実に被害者が出ることになる。しかし、この世界の人達がそれを許容しているということは、僕にもわかってきました」
どこでなにをして『わかって』きたのか。
わからない。
しかし、それは既にアルンの中で確信に近いところまで印象付けられているようだった。
「もしマリーさんが『悪』を庇い立てるのであれば、僕は……」
勇者は目を細める。
その瞳の輝きは、しかし逆にいや増すように見える。
「その理由を問います。僕にはこちらの『悪』がわからない。目の前の『悪』を斬ってはならない道理がわからない。だから、多分そうするでしょう」
そして、アルンは正面から尋ね返す。
「この世界の……いえ。あなたにとって、『悪』とはなんなのでしょうか」
■マルレーネ > 「あはは、そうですね。 神官と言えば神官です。
こちらの世界では神官として振舞えてはいませんけれど。」
お辞儀を眺める。眺めながら、少しだけほっと力を抜いて、吐息を吐き出した。
「………少しだけ安心しました。
私にとっての悪は、全ての人間の中にあるものです。
もちろん、多寡はあります。
その人の心の内にとどまらず、街を、国を、世界を覆いつくす悪も無いとは言いません。
もしくは、本当に慈愛をもって、悪の心を曇りなく持ち合わせている人間もまた、いましょう。
そして、一方からは悪であっても、もう一方からは善であると考える場合もあるでしょう。
………ですから、全員が持ち合わせているんです。
当然、私の心の中にも。」
己の胸に触れて、少しだけ、物憂げに微笑み。
「ですから、貴方がもしも、ただ全てを斬るというのならば、まずは私を斬ることになるでしょう。」
■アルン=マコーク > 「全ての人間に『悪』がある。
それは……この世界に来て、皆に言われました。
悪は絶対ではない、と。ならば……
この世界では、『悪』とは滅ぼすものではなく、共に生きるべきものなのでしょうか」
アルンはじっと目の前の女性を見つめている。
瞬き一つせずに、視線だけで相手を押さえつけるかのように。
その視線が、最後に告げられた一言で、ひどく大きく、揺らぐ。
「えっ……」
そんなことはありえない、という言葉を飲み込んで。
アルンは額に大きな皺を寄せ、考え込む。
その額には、いつの間にか大粒の汗が流れている。
「僕は……
マリーさん、これは……
僕は、なんでしょうか。
えっと。わからないことを言いますが、」
しどろもどろ、といった様子でなんとか言葉を紡いでいく。
ぎこちない日本語。彼にとって異なる世界の言語を。
「多分僕はあなたを……
神聖治癒魔法で、斬ったその次の瞬間に傷が治るとしても……
こんなことは、思ったこともない。
でも、そう、
僕はあなたを斬りたくない」
顔色は蒼白で、視線は宙を見て焦点が定まらない。
そして、絞り出すようにぼそりと漏らす。
「けれど勇者はそうしない……」
■マルレーネ > 「………私は悪です。
生物の命を奪ってきました。
欲望を満たすための行為に加担してきました。
暴力で持って問題を解決してきました。
そんな身の上で、人に善を語り、救いたいなどと考えている。
これ以上無い悪意が私の中に沈んでいる。
自覚もあります。
ですから、貴方が悪を斬るならば、まずはここにいる悪魔からです。」
腹は括った。
これで斬られるならば、それまで。
何故なら全て本当のことだから。処罰が下ったのだと考えよう。
死ぬまで生きる。それだけのこと。
「貴方は誰なんですか。
アルンという少年であるだけなのか。
それとも勇者と呼ばれる存在なのか。
それとも別の……黒髪の男性なのか。
何かを滅ぼすならば滅ぼされる覚悟が必要です。
己をはっきりさせずに行動を起こすのは、卑怯でしょう。」
明らかに少年は苦しんでいる。
困っている。うろたえている。 だが、その中にはまだ誰かがいる。
その確信があるからこそ、言葉はあえて優しくない。
■アルン=マコーク > 「あなた、が。
命を奪っても、欲望を満たしても、暴力で問題を解決したとしても」
苦しそうに答える。
なぜそうなのかはわからない。
言葉が、ただの問答が、少年の何を苛んでいるのかはわからない。
だが、アルンは答える。
「それら全てを『善』の名の下に正当化したとしても、それを、僕は……『悪』とは断じない。
それは、僕が滅ぼすべき『悪』ではなく、この世界における『相対的な悪』、なのでしょう。
僕は、それを滅ぼさなくていい。そこまでは、わかる」
目の前の女性の覚悟に応えてようとでもいうのか。
額の汗はもはや通り雨でも降ったようで、顔色は白く透き通るようだった。
「そう、あなたは『悪』ではない。
しかし、たとえあなたが『悪』だったとして、僕はあなたを斬りたくない。
……そんなはずがない、僕は『悪』を許さない。
僕は、光の勇者。アルン=マコーク。
そのはずだ、なのに。
どうして、僕は。あなたを――」
そして、言葉の途中で。
操り人形が糸を切られたかのごとく唐突に、身体の力が抜け、その場に崩れ落ちる。
「ぶえ!」
地に倒れ伏した少年の、その髪の色が、黒く染まっていく。
■マルレーネ > 「………意地悪を言い過ぎましたかね。
ああ、本当に私は性格が悪いこと。」
どっと汗が流れ落ちて、足元がふらつく。
本格的に攻撃してきたならば、きっと素直に斬られてはやらない。
自分の出せる全力で抵抗して、この場で戦って死んでいたはずだ。
それでも。
彼は何も思わずに刃を知り合いに向ける可能性を考えれば、ここで命を張らねばならない。
彼女は、自分の命を机上に乗せることに躊躇はあまりなかった。
「………どうにも。
"勇者"という概念が私たちと違うようですね。
大丈夫ですか?」
黒髪の男性を抱き起せば、その場に座り込んで抱きかかえて、優しく揺する。
目覚めないのであれば、背負って……どこぞの修道院にでも連れて行くしかないだろう。
■アルン=マコーク > 「いや、大丈夫……だい、大丈夫ですけど、ち、近ッ!!!」
少年はぼんやりとした様子で返事をしていたかと思うと、突然大声を上げて、飛び上がろうとして、やめた。
だって、揺すり方が優しすぎる。
しかも、すごくいいにおいするし、身体を寄せて触れている部分だけでもめちゃくちゃ身体が柔らかくて、いいにおいするしすごい。
すごいことになっていますので。
役得……
「じゃなくて! お姉さんナイス! 何したの? あんなヤバい奴相手にどうやって勝ったの……って、そっちでもない!」
そして、わざとらしい咳払いをして立ち上がる。
ぺこりと頭を下げる仕草は、先程までのアルンとはまるで違う、年相応の落ち着きのない、雑なものだった。
「マジで助かりました! あざっす! っつっても、あいつが目を覚ますまでの一時的なものだろうけど……」
そう怯えたように口にする。
『あいつ』とは、誰のことだろうか。
「あ、俺は閂悠一って言います。扉につけるカンヌキに、悠久の一人ぼっちと書いてユウイチっす」
アルンと同じ顔をした、黒髪の少年はそう名乗った。
■マルレーネ > 「大丈夫です? 意識を失った倒れ方、だったです、けど。」
相手がどう思うかはともかく、ここで乱暴に引き起こすことはしない。
子供をあやすかのように抱きかかえようとして。………しばらくすれば、咳払いと共に立ち上がったので、こちらも立ち上がることにする。
「………情報量が少なすぎて、ちょっとその、何が起こっているのか分からないのが本当のところなんですけど。」
頬をぽりぽり。
自分のしている行動が正しいのかすらよく分からないまま、目の前の少年に対しても変わらない瞳を向ける女。
「ユウイチさんは、この状況を説明できる方なんですか?」
■アルン=マコーク > 「大丈夫っす! 元気元気!」
そう言って、ぴょんとその場で一度跳ねて見せる。
好きな女の子にカッコつける小学生みたいだな、と自分で思って、二度は跳ねなかった。
そして、問われたことに改めて答える。
「中から見てたんで、大体は説明できると思うっつか……助けてほしいんで、説明させてほしいんですけど、」
深刻そうな表情で、居住まいを正して。
とりあえずは現状を簡略に説明する。
「俺は身体を乗っ取られてるんです。あいつ――勇者とか言ってる、あのアルンって奴に」
■マルレーネ > 「………説明を、聞きます。
どちらをどう信じるかはわかりませんけれど。」
相手に対して軽く言葉を発しながら、ふむ、と顎を撫でて。
「………乗っ取られ、ですか。 まあ………。
状況からして、同じ体に複数の何かが入っていることは、予想はしていましたけれど。」
正直、すぐには信用できない、と言おうとしてやめた。
彼の言葉が本当だとしたら、また声は聞こえなくなってしまうこともあるのだろう。
それまでに情報はしっかり集めておかないといけない。
■アルン=マコーク > 「あ~そっかァ~~~そうか、信じてもらえないとかもあるよな……
クソ~なんて言えばいいだろ」
がしがしと乱暴に頭を掻きながら、思ったことをそのまま口に垂れ流している。
あるいは、そういうフリなのかもしれないが。
「えっと、じゃあ長くなるけど。
俺……っていうか、閂っていう家系がですかね。
なんか、そういう異界? からものを喚び寄せて、憑依させるみたいな家柄なんです。
そんで、俺はそのコントロールがクソ下手だったんで、この島で見てもらいなさいみたいな感じで呼ばれたんですけど」
うーんうーんと唸りながら、言葉を選ぶようにして紡いでいく。
「そんで呼ばれて一日目に、研究室で『喚んで』みたら。あの勇者が来ちゃったんですよね。
あんな強い奴、親父も爺さんも喚んでんの見たことないよ……」
とほー、と大きく息を吐きながら、泣きそうな目を伏せた。
さり気なく、気付かれないように目を腕でスッと拭う。
「んで。何よりヤバいのは、あいつ……あの勇者。
あいつは、感染そうとしてるんです。
止めないと、この世界の人間は終わるかもしれない」
■マルレーネ > 「………落ち着いて。
私は敵ではありませんから。」
少しだけ苦笑をして、両方の掌を向ける。
ひとまずの矛盾は感じられない。………ただ、"どのような経緯で"そうなったのかは、ある程度聞き流す。
それを真実だとする証も、また無い。
そして過去の経緯に関しては、こと今となっては関係が無い。
「……感染すとは、どういう?
そこをしっかり聞かないと、何もできませんし、判断もできませんからね。
それに、………はっきり言いますけど、私がマトモに立ち向かっても、死にますからね、私。」
にへ、と少し困ったように笑った。
■アルン=マコーク > 「うわ……」
少年の見開いた黒い瞳が潤み、あっという間にぼろぼろと大粒の涙がこぼれ出す。
「っあ、っ…………ふぅ、ず、ずいばぜん。安心したら、なんか涙でちゃった……あれ……」
意に反して溢れ出す涙に、しばらく嗚咽を続けた少年は。
マルレーネの微笑みを直視できないようであった。
ようやく少し落ち着いてきても、まだ、頬を染め、視線を逸らしたまま、質問に答える。
「……いっつも、おふくろにも、国語の先生にも言われんスよね。目的語が抜けてて何の話してんのかわかんねーって……えっと。あいつが感染すのは、『勇者』です」
具体的にその中身を言われても、いまいちピンとこない文言を、悠一は口にした。
「『勇者』であるあいつは……
名前を、フルネームを得た人間を、『勇者候補』にするっつーか……
あいつに名前を教えると、『予備』にされるんです。
アルンが死んだ時、次の『勇者』として使われる『予備』に」
そして、今度こそ正面から、マルレーネを見つめて訴える。
「アルンには、怒ったり悲しんだりみたいな感情がないんです。『勇者』には必要ないから。あいつはそれを、こっちの世界で『勇者』を、その『予備』を増やそうとしてる……あんな、人間じゃない、化け物みたいなやつを」
■アルン=マコーク > 【後日再開予定】
ご案内:「スラム」からアルン=マコークさんが去りました。
ご案内:「スラム」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「スラム」にフレイヤさんが現れました。
ご案内:「スラム」に神代理央さんが現れました。
■フレイヤ >
数人の如何にもな不良を引き連れて歩く、スラムには似つかわしくない上品な格好の少女。
周囲を物珍し気にキョロキョロと眺めながら、右手に持った鞭の先端を左手で弄ぶ。
「この島にはこんなところがあるのね」
母国ではあまりこういうところは見かけない。
家族が見たら卒倒しそうだな、なんて楽しそうにクスクス笑いながら。
「ここが貴方たちの「街」ね。結構楽しいところじゃない」
躾甲斐のありそうな連中がゴロゴロいる。
楽しい遊び場になりそうだ。
■神代理央 > 【領域】の探索と報告を終えても、休暇が訪れる事は無い。
期末試験最終日を控え、次々と人手が抜け落ちるシフト。
これ見よがしに歓楽街や落第街になだれ込む生徒達。【健全化活動】とかいう実働人数を考慮しないキャンペーン。
誰かが言った。風紀委員会はブラック企業なのでは、と。否定はしたいが、したいのだが。
そんなこんなで何時もの様に訪れたスラムの警邏任務。
折り目一つない風紀委員の制服と腕章は、周囲の住民からの怨嗟の視線を浴びつつも、移動を妨げられるものではない。
流石に此処迄訪れる生徒は早々いないだろう、と高をくくって任務に励んでいたのだが――
「……其処の君。すまないが、少し話を伺っても良いかな?」
視界の前方に、スラムに似付かわしくない姿形の少女――の、後ろ姿。似付かわしくない、というレベルではない。違和感があり過ぎて一周回って違和感がない。
補導は苦手なんだがな、と小さく溜息を吐き出しながら、少女に向かって歩み寄り、後ろから声を投げかけるだろうか。
■フレイヤ >
後ろから声を掛けられた。
聞いたことがあるな、と振り向いてみれば、
「――リオ!」
ぱあっと輝くような笑顔。
のみならず、たたっとステップを踏むような足取りで駆け寄り、
『会いたかった、リオ! 本当にこの島にいたのね!』
母国語で捲し立てながら飛びつく。
無邪気な笑顔。
大好きな兄に飛びつく妹のような、無邪気な行動に見えるだろう。
――こんな場所じゃなければ、そして自身の後ろから警戒する表情を見せる三人が居なければ。
■神代理央 > 投げかけた言葉に振り返り、華が咲く様な笑顔を見せる少女。
はて、見覚えのある顔だな――と思案しかけた瞬間。
「……っと。誰かと思えば…フレイヤ。お前だったのか!」
鮮やかな新緑の髪を靡かせて、此方に駆け寄る少女。
忘れる訳も無い。最後に会ったのは何時だったか。遠い異国の地で出会った、妹の様な少女。
『驚いたな、まさかフレイヤが此の島に来ていたなんて。知っていれば、迎えに行ったのに』
飛びつく少女を受け止めて。穏やかな笑みを浮かべながら少女の髪を撫でるだろう。
しかし、再会を喜ぶには場所も、雰囲気も、周囲の状況も些か悪すぎる。
『…ところでフレイヤ。一体何故、こんな場所に?それに…お前の後ろにいる男共は御友人の類、では無さそうだが』
此方を伺う三人の男達に鋭い視線を向け、異能を発動する準備を整えつつ。剣呑な声色と共に尋ねるのだろう。
■フレイヤ >
『ふふ、私もリオがいると知っていたら真っ先に会いに行ったのに』
抱き付いたままこの島に来て一番の笑顔で見上げて。
彼が居ると知ったのは彼の恋人経由だったのでそれは叶わなかったが。
『お散歩よ? 彼らは私の「お友達」』
彼から離れ、三人の前に立つ。
男たちも風紀委員の彼を警戒しているが、彼と違って手を出そうとする雰囲気はない。
「――この子たちね、正規学生になりたいんですって。リオ、風紀委員でしょう? この子たちのこと正規学生にしてあげてくれない?」
風紀委員は二級学生を正規学生へ救い上げるのも仕事の一つだ、と聞いた。
彼が風紀委員である以上、自身の言葉は真っ当なものと言えるかもしれない。
「リオは私のお願い、聞いてくれるでしょう?」
――繰り返して言うが、こんな場所でなければ。
そうするのが当然と言わんばかりに、両手を胸の前で合わせて無邪気に笑う。
■神代理央 > 『アースガルズの御当主様も御人が悪い。或いは、サプライズにするつもりだったのかも知れないがね』
クスクスと、華やかな笑顔を浮かべる少女に笑顔を返しつつ。
恋人と少女が既に出逢っているとは露知らぬ儘、撫で心地の良い髪を手櫛で梳かす様に軽く撫でる。
『……散歩、というには些か物騒過ぎる場所を選んだものだな。そして、お友達――嗚呼、成程な…」
此方を警戒しながらも敵意は見せない男達。
おの不可思議な様子に首を傾げかけるが、少女の言葉に合点がいった、と言わんばかりに納得と諦観の溜息を吐き出す。
――少女の両親から、その苛烈な加虐心について相談を受けた事は、一度では無いのだ。
「……正規学生に、か。所定の手続きを終えて、今迄の素行に問題が無ければ問題なく学生証を発行する事は出来る。前科があるかないか次第だが、唯のゴロツキ風情であれば、恐らく問題はあるまい」
確かに、二級学生の保護は風紀委員の任務の一つ。
それ故に、正規の学生になりたいと申請があれば、それを叶えるのは当然の事。少女に頼まれる迄もなく、彼等が願い出て問題が無ければ、少女の願いは叶うだろう。
しかし――
「……なあ、フレイヤ。少し聞きたいんだが。先ず、彼等とは何処で、どの様に友人になったのかな。此処を訪れた理由と一緒に、詳しく聞かせて貰いたいんだがな」
無邪気に笑う少女に、少し厳しめの口調と真面目な表情。
スラムを訪れた生徒への注意は風紀委員としての仕事の内でもあるが――妹の様な少女が、久しく合わぬ内に色々と拗らせてしまったのではないかと、無意識に察したが故に。
■フレイヤ >
『お父様はお兄様の事しか考えてないわ。私の事なんてどうでもいいんだもの』
父親の話が出れば途端に機嫌が悪くなる。
当主と話をする機会の多い彼にはそんなことはないとわかっているだろうが、自身はそう信じているのだ。
「本当!? じゃあ――」
やはり彼はワガママを聞いてくれた。
手を叩いて喜びかけたが、続く言葉を聞いてきょとんとした顔になる。
「どこって、歓楽街の奥――落第街、って言うんですっけ? そこでちょっと、悪いことをしていたから、懲らしめてやったの」
すらすらと、平然と嘘を吐く。
襲われたのは本当だ。
それを返り討ちにしたのも本当。
ただ、その後に個人的な嗜好のために過剰なまでに痛めつけたことは言わずに。
「それでリオが風紀委員だって聞いてたから、この子たちに正規学生になりたくないの、って聞いたらなりたいって言うから。ね、そうでしょう?」
三人に振り返る。
一瞬の逡巡のあと、頷く三人。
彼から顔は見えないだろうが、もしもその顔が見えていたならば、きっとそれは彼の知らない顔だったろう。
■神代理央 > 『…まあ、年頃の娘を抱える父親というのは、得てしてそういうものになってしまうのだろう。許してやれ、とは言わぬが余り自分を卑下するものではないよ。そんな風にむくれていると、可愛い顔が台無しだぞ?』
不機嫌そうな少女に、小さく苦笑い。
とはいえ、彼女の父親に味方するでも無い。少女の感じる疎外感に、共感しない訳ではないのだから。
「……あのな、フレイヤ。落第街や、此処みたいに危ない場所は、本当は普通の生徒が立ち入って良い場所では無いんだ。
私も、今夜は生徒が此処に足を踏み入れていないかどうかの、警邏の任務に訪れているんだからな」
深い溜息と共に、腕を組んで少女に呆れた様な視線を向ける。
「それに、異能を持っているからと言ってゴロツキを簡単に懲らしめるなどと思いあがってはいけない。偶々連中が本当に唯の不良だったから良かったものの、強力な異能や魔術を持っていたらどうするつもりだったんだ?」
お説教。完全にお説教モード。
少女が沈めた嘘に気付かぬまま、めっ、と言わんばかりに言葉を紡ぎ続けて――
「………というか、貴様ら。フレイヤに手を出しておきながら正規の学生になりたいとは、良い度胸をしているな?
私の。鉄火の支配者の身内と知って尚、そんな態度でいるつもりかね。頭が高い。烏滸がましい。汚らしい。先ずは土下座の一つでもして、誠意を見せるべきではないのかな?」
少女の言葉に頷く三人に、仄かな怒りを含めた視線と言葉。
その視線は三人に向けられていたが故に、少女が浮かべた表情には気付かない。三人組からすれば、少女と己の両方から向けられる視線と感情は、堪ったものでは無いだろうが。
――しかし、表情は見えずとも。少女の纏う雰囲気の僅かな違和感には、内心首を傾げざるを得ない。
些か加虐趣味があるとはいえ、記憶の中では未だ無垢な少女が。何というか、どことなく。女としての色を滲ませている様な、違和感。
■フレイヤ >
「あら、大丈夫よ。私リオが思ってるほど弱くないわ」
基本的な攻撃魔術は使えるし、鞭の扱いにも慣れている。
その自信が過信に変わるなんてことを理解しない、子供っぽい理屈を口にし胸を張る。
「昔から心配性ね、リオは。なんともなかったんだから良いじゃない」
それでも尚お説教されれば、面白くないと言うようにむくれて腕を組む。
頬をぷう、と膨らませる様は、年相応の少女だろう。
「だめよリオ。この子たち、ちゃんと反省してるんだから。可哀想に、怖がってるじゃない」
今度はこちらがめっと鞭の持ち手を突き付ける番。
眉を吊り上げ、口をへの字に結び、怒って見せる。
――自分よりも年上の少年たちを「この子」と呼び、庇って見せる。
自分のものに手を出すのは彼と言えど許さない、と言う様な表情。