2020/07/26 のログ
花ヶ江 紗枝 >  
「その問答もう終わってるわよ。
 ああいうのを鶴の一声っていうのかしらね。
 急進派っていうのはいつだって声が大きいものねぇ。
 まぁおおむね予想通り、だわ。
 私、予言が良く当たるの。素敵でしょう?」

ころころと笑い声を響かせながらもそこに温かさは無い。
可能性なんて信じていない。今も昔も、未来にも。
何故なら救われるなんて言うのは所詮運。
偶然その場に偶然嵌るピースが適切なタイミングで現れなければ
……何も救われない。
だからこそ、救おうなどという言葉は嫌い。

「ええ、実は我慢しているの。
 本当は今とっても機嫌が悪いから。」

その笑顔は微塵も崩れることなく這うようにこちらへ向かう後輩を見つめる。
柔らかく鯉口に当てられた指先はピクリとも動くことはなく。
後の先が得意であることも知っている。が、抜かないのはそれが理由ではない。
”まだ”抜く必要がないから。

伊都波 凛霞 >  
「ですかね。…まぁ先の話もあるので然程期待はしてなかったけど……
 ──…できれば、そのまま私が通り過ぎるまで、"我慢"していただけると助かるんですが」

また一歩、歩みを進める
前進を止めるつもりはないことを、視線に暗に宿して
無論、自分に余裕がないことも自分自身で理解している

されど伊都波凛霞は女
雄雌に大別される人間の中でも理論より感情を優先して動く生物

──おぼつかない足取りの、歩みは止まらず

花ヶ江 紗枝 >  
「無理ね。」

端的に返す。こうして立ちはだかっている以上、押しのけでもしない限り前には進めない。
そしてどれだけ歩もうと、退けるつもりはさらさらない。
何故ならその理由がない。

「ああそうそう、一応伝えておくわね。」

嗚呼、これはちゃんと伝えておこう。
本人も覚悟がいるであろう大事な事だから。

「もし斬り合いになったらこの辺りはただでは済まないと思うわ。
 私の火力は一応知っているのでしょう?
 付近の住人が逃げるほどの時間なんて戦闘において準備しないわ。
 巻き込まれて怪我人が出るかもしれないけれど、まぁ仕方がないわよね」

さらりと天気でも口にするように”予定”を口にする。
誇張しているつもりはない。本気でやるなら砲撃込みでこの辺りを更地にする自信はある
なにも殲滅できるのは”鉄火”だけではないのだから。
そして紗枝にはそれを行うに躊躇う必要は今、どこにもない。

「”かわいそうな子たちに手を差し伸べる前には些細な犠牲よね”」

伊都波 凛霞 >  
「………」

これまでは、なんとか笑みを浮かべていれた
でも……

「…それ、本気で言ってるんですか」

「私を立ち止まらせるためだけの脅しとしても、随分と…ヒドいですよ」

ぴたり、と足を止めた
表情は、やや睨めつけるようなものへと変わる

知っているのだろう
凛霞という少女の行動方針を
考えの根底を
だからこそ、『手の届く』対象の認識を、一気に拡大させたのだ──

花ヶ江 紗枝 >  
「私がこの状況で冗談を言っていると思えるなら
 成程あなたは大した楽観主義ね。」

沸き立つ怒気もどこ吹く風と。
慢心はしない。けれど不要に恐れず。
一挙手一投足が命を、意思を表す。
武人として育った者として目の前の少女が敵としてあるというならそう相対するだけのこと。

「脅し?違うわ。
 これは意思決定とその宣告。
 そうやって言葉にせずに察してもらおうとしている貴方と違って
 私はそうしますよと宣言しているの。」

こちらを睨みつける眼差しを受けても笑みは全く崩れない。
そう、苛ついていると同時に紗枝はおかしくも思っている。
これを笑わずにいられるだろうか。

「貴方、まさかその程度の事も理解していなかった訳ではないわよね?」

伊都波 凛霞 >  
「……心外ですね」

大きく溜息をつく
楽観できるならそれはしたいに決まってる
直接的な言葉を向けずに伝わるなら、そのほうが楽
そんなの最初からわかりきってる

「縋っただけですよ。単なる希望的観測です
 可能性は低いけど、そうだったらいいなって思うだけの…」

刀に手をかけた先輩と対峙しているのだ
その表情からも、雰囲気からも、本気はいくらでも伝わってくる
それでいて、その可能性をできれば捨てなくなかった、それだけの話だ

「じゃあ…もういいです」

汗に濡れた、制服の上着を脱ぎ捨てる
まるで手品のように脱ぎ捨てられた上着の影から

一体何処にどう仕舞っていたのか如何にも不可思議
大量の刀剣、銃器、暗器、爆薬、火器に至るまで──
それらがバラバラと地面へと落ち、散らばる

「…もう、『我慢』しなくて結構ですよ。降参です、はい」

そう言いながら、両手をあげる

万全の状態なら…
例え相手が"鉄火"であろうと『判っていれば』その広域攻撃を封殺することなど物の数ではない

今だからこそ、その宣言は…凛霞に降参を促すに易い条件だった

花ヶ江 紗枝 >  
紗枝は両手を上げる後輩の姿に一つ大きなため息を漏らした。
安心したように一度地面へとむけられていた顔が再度少女へと向く。
その双眸には隠し切れない激情が宿っていた。

「……一体どれほどの反省を積み重ねれば理解するの?
 伊都波の才女と聞いてもその実がこれとは、嗚呼、月日は残酷ね。
 もはや貴方は武器を持つ資格もないわ」

いつまで他人に甘え続けるのだろう。この娘は。
目の前で踊って、傷ついて見せれば事態が好転するとでもいうのだろうか。
可能性があるならなどと嘯いた”同情にも満たない”無様な踊りで。
嗚呼、ずいぶんと”お優しいこと”で。
能面の様に張り付けた笑顔のまま、紗枝は鋭利な言葉を吐く。

「……いえ、言っても無駄ね」

事実、紗枝は怒っていた。
穏やかな口調と、笑みを浮かべながら怒り、そして失望していた。
役立たずの上層部や、好き勝手に島で暴れまわる違反部活、
そして今夜、命を投げ捨てた愚か者共と比べても目の前の少女に憤怒を抱えていた。
けれどその苛立ちをぐっと飲みこむ。
例え残念でも、完全に予想通りの形で願った事態になったのだからと。
時計を取り出し時間を確認する。
……もうほとんどの幕が下りた時間。今から急いでももう間に合わない。
一縷の希望を持ちながら紗枝は背中を向ける。

「……一度学園に帰りましょう。伊都波 凛霞。
 そして心療科と魔術関連の医師に必ず早急に相談すること。
 貴方の体は万全には程遠い。」

伊都波 凛霞 >  
言っても無駄、と
紗枝が背中を向けた瞬間に、凛霞は動いた

「帰るならどうぞ、お独りで」

落ちた得物の中からテーザーガンを選び、その背中に、心臓の裏に銃口を突きつけながら
この一瞬の動きだけで、精一杯だったが

言い終われば、その背中に押し当てたまま引鉄にかかった指へと、力を込めた

花ヶ江 紗枝 >  
忘れがちだがこの島は学生による自治が強い。
だからこそ、仕方がない部分もある。
それで牙もないともなると、嗚呼、悲しくて仕方がない。

「ああ、良かった」

そう思っていたからこそ背後の圧に振り向くことなく発される喜色に満ちた声。
一歩だけ前へ進むと同時に鯉口が鳴った。同時に走る衝撃と閃光。
対異能者用の電磁銃はいかんなくその性能を発揮した。
騙し打ちとしては典型的で、そして王道でもある。
ともすれば熊ですら一瞬で制圧するその雷撃に叩かれ、ふらりと体が揺れ

「”お茶目な子は好きよ”」

そんな囁きと共に雷撃により生じた紫煙切り裂き緋色の切っ先が雷光じみた速さで弧を描いた。
正確無比に、少女の喉元へと。

伊都波 凛霞 >  
「───っ……」

首元に、スゥ…と、赤い線が走る
とっさに手元のテーザーガンを引いて…その銃身は、閃光が煌めくよりも一瞬遅く、ズレて、落ちた
ほんの僅か、ズラせなければ……

「(ていうか、これでオチないなんて…)」

舐めていたわけではないけれど、等身大の相手に、人間に耐えられるのは想定外だった
やはり、情報不足はダメだなと。フラついた足取りで1歩、2歩、後ろへと下がる

花ヶ江 紗枝 >  
「あら、ごめんなさい。もう少し反応するかと思っていたのだけれど。
 余計な傷を一つ増やしてしまったわ」

氷の様な気迫を纏いながら刀を払い、ころころと笑う。
そもそも彼女がとりうる手段は会話の時点で一撃離脱か逃走しかない。
そして体力的に無理があるこの子がとる手といえば素直に降参するか、視線が外れるのを待っての奇襲。
その後うまくいけば急速離脱といったところか。手段としては直接的な打撃よりも毒か雷撃。
ならそれを誘えばいいだけの事。

「それともう一つ謝っておくわ。
 ごめんなさいね?私”不意打ちにだけは”とても慣れているのよ。」

正面から対処できないならとだまし討ちは数えきれないほど受けてきた。
鍛錬を重ね、その強固さを排除するための奇策に真っ先に狙われるよう、矢面に立ってきた。
そうすれば部隊の子が真っ先に狙われずに済むから。
……あの忌むべき日も、もとはだまし討ちからだった。

「でもちゃんと牙があるのね。安心したわ。」

伊都波 凛霞 >  
それ、完全に反応できてなければ首飛ばしてたってことだよね、と
やや表情が引きつりそうな言葉を受けるが、頑張れ、平常心

「っ……構いませんよ。傷くらい…治りますか、ら───ッ!?」

ほんの一瞬の、安堵
それが凛霞を支えていた緊張感を一瞬だけ、途切れさせた

それは、その瞬間に凛霞の両脚から『立っていなければいけない』という命令を奪い去った

膝が笑い、揺れて、崩折れるようにして、スラムの路地へと座り込んでしまう
わかりやすい『限界』
慌てて立ち上がろうとしても、その意思を身体は脚へと伝えなかった

花ヶ江 紗枝 >  
「駄目ねぇ。やっぱり鈍ってるわ。
 訓練の日が開くとやっぱり少し手元が”ぶれる”わね。」

困ったように僅かに眉をよせながら切っ先を見つめ、首をかしげる。
……疲労が本人が思っているよりも堆積しているようで僅かに反応が遅かった。
すくなくとも極端に反応が落ちているのは確かだ。
万全のこの子であれば、こんなじゃれ合いの速度容易に躱した筈だから。
狩人がこの程度の速度反応できなければとっくに死んでいる。
早くも刀身周りに霜が発生しつつある刀を一振りし、納刀する。

「わかったでしょう?
 貴方今、他人にどうこう言える状況ではないのよ。
 私が本気だったら首が飛んでるわよ?まぁ気道に穴をあける程度で留めたとは思うけれど」

座り込んだ少女に本気であきれたような声で投げかけた。
この程度で立てない脚でどこに向かおうというのだろう。

「……ほら、引き上げてあげる。
 もう斬り合いは十分でしょう。
 時間をごらんなさい。もう”あの子たちの幕は終わっている”わ。」

目の前でしゃがみ込むと白の絹手袋に包まれた右手を差し出す。
その上には小さな桃色の飴が乗っていた。

「帰りましょう。もう、灰乙女の魔法はとける時間だわ」

伊都波 凛霞 >  
「……~~~~!!!」

俯き、声にならない声
それは少女、伊都波凛霞にとっては珍しい声、だったかもしれない
悔しさと、情けなさと、行き場のない感情の入り混じった、苦悶の声だった
常に学園トップクラスの成績をとり、文武両道、運動神経も良く周りにも優しい優等生
多くの生徒が知る少女の姿からは、絶対に出ないであろう、そんな声だった

「………先輩の言うことに従います」

小さく、そう零して
差し出された手へと、自身の手を重ねる
間にあったものは…飴?だろうか──?

…騙し討ちは、一回限り。彼女の言う通り、時計の針も過ぎ去っているようだった
紫陽花さんは、レイチェル先輩は…辿り着いてくれただろうか。手を届かせてくれただろうか──

花ヶ江 紗枝 >  
「ありがと。助かるわ。
 私は戦うことが得意ではないから。」

煩悶の声を上げる少女に紗枝もまた寂しそうな笑みを浮かべる。
なまじっか、何でも出来てしまうというのは案外色々と苦労することになる。
それが義務だという人もいるけれど……
義務で助けられるというのもまた傲慢だと誹られる。
随分と身に覚えのある事。
ふと耳元の通信機の震えに気が付くとそれを抑え、報告に耳を傾ける。

「……ああ、一応伝えておくわね。
 公安の男性が一人、女の子を連れて帰ったらしいわ。
 他にも数名、生き残りはいるようね。」

その中にこの子が救いたかった子がいるかはわからない。
けれどまぁ、牙を見せてくれたのだからこれぐらいは今伝えてもいいでしょう?
掴まれた右手にぐっと力を込める。

「生き残りの子を迎えてあげるのが私たちの仕事よ。
 そうでしょ?……よいしょ」

そのまま腰を掬い上げるように抱え上げて。
ああ、そういえば昔見た少女漫画にこんなワンシーンがあったわねなんて思い出しながら。

伊都波 凛霞 >  
戦うのが得意でない?さすがに謙遜でしょ…とは思うが
技術があるから得意だ、とは言い切れないのも、確かだ
どこか掴みきれない先輩に支えられ、起こされる

「……──え…」

途中、通信の内容を伝えられる
公安の男性…思い当たる人は、ちゃんといる
もしそうなら…彼は約束を守ってくれたことになる
二度目の安堵、再び身体から力が抜けそうになったが頑張ってそこは堪らえよう
さすがに抱っこされて帰るわけにはいかない

「…そう、ですね…迎えて……。
 ……よいしょ、なんて、まるで私が重いみたいじゃないですか…」

少しだけ気が楽になったせいか、普段は言わないような冗談じみた恨み言を言ったりもしつつ、支えられ落第街を後にするのだろう
手元に残った桃色の飴を口に含むと…甘い味が口の中へと広がって
映画の後なんかに飴玉を渡された、子供のような…ああ、終わったのかな…といった気持ちを湧き出させてくれていた

花ヶ江 紗枝 >  
「私としてはこのままお姫様抱っこで帰還してもぜーんぜんきにしないわよ?
 ほら、女の子の夢っていうじゃない。
 ……掛け声位は言わせてちょうだい。私だって一応か弱き乙女なんですから」

くすくすと笑いながら足腰が頼りなくなっている後輩を支える。
……そう、まだこの子たちは子供で、未来がある。
背伸びしている姿を見てつい忘れてしまうけれど。
だったらきっと、今はまだ間違えても良いはずだから……。
足元に散らばる武装と上着を身を屈めて拾い上げながらその先を想い、クスリと笑う。

「あーぁ、余計なカロリー使っちゃった。
 ”今度、”貸しは返してもらいますからね。
 ……その前にゆっくり休みなさい」

年はそう違わない。
けれど幼い子供にかけるようにやさしい声で告げた後、
大事に抱えるようにして紗枝はその場を後にする。
ちらりと振り返ったその場所は昔と同じく薄暗いままで……

ご案内:「スラム」から花ヶ江 紗枝さんが去りました。
ご案内:「スラム」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「スラム」に紅月 純さんが現れました。
紅月 純 > 昨晩は風紀、公安の健全化運動だったのか、尋常じゃない程のドンパチが聞こえた。
様子を見に来てみれば、普段と漂う空気が違うし、戦闘跡は残ってるし。

派手な争いで人がいなくなれば、別のものが現れるわけで。
異能の残滓やら残留思念やら、そういうものが混ざり悪霊なり怪異となって、
俺の魔力と財布の糧になる。

そんなわけで、魔力集めと怪異探しを並行で進めながら落第街の治安悪い場所を歩く。

絡んでくるチンピラは殴って魔力を奪っておく。

紅月 純 > 「……」

人が少ない。
草野球に誘ってきたチンピラに話を聞けば、大規模戦闘が各地で起きたりしてて、頭のいる勢力は身を潜めて様子を伺っているらしい。
何も考えないグループは風紀委員に絡んで散ったと。アホだな。

ある程度魔力を集めて結晶にしたあと、情報提供のお礼も兼ねて草野球に混ざる。

紅月 純 > 草野球は敵チームがいないので打った人が守備と交代してローテーションで遊ぶ。
遊んだ奴らの中には面白い異能を持ってるやつもいた。

止められない衝動(ノンストップ・ラブ)。
自分で制御できない速度で走って壁に突っ込んでた。

顔面セーフ(フェイスガード)。
顔にだけ強固なシールドが張られるが、それで球を返せばデッドボールだぞ馬鹿。

二段ジャンプ(エアステップ)。
高く飛び過ぎて奴のタマに打球がクリーンヒット。南無。

学園のカリキュラムで活かす機会がなく落第した奴らだそうで、他にも似たような学生もいるらしい。

二級学生、落第学生ってチンピラとか治安が悪い奴らばかりだと思ってたが、表に出ないだけで温和なやつもいると知った。
そういう奴は、比較的安全な場所で真面目に学費を稼いだり勉学に励んでいるそうだ。

紅月 純 > 遊んだあとは情報を交換して解散。
……落第街にしてはかなり平和に見えた。
大きな争い事のあとはこんな感じなのだろうか。

一休みしたら、転移荒野の方まで足を運ぼうかね。

ご案内:「スラム」から紅月 純さんが去りました。
ご案内:「スラム」にトゥルーバイツ構成員さんが現れました。
トゥルーバイツ構成員 >  


ヒトは、己の存在意義を疑う時、狂い始めるという。


 
陽が落ちて来る。最早『トゥルーバイツ』の面々はとうとう後が無くなっていた。
期限は27日。そこを過ぎれば『真理』に繋がる窓は機能しなくなる。

スラムで1人、ボロ切れのような青年はデバイスを見つめていた。

薄暗い中でも僅かな光を浴び、血色の眼と髪は、
あまりにその色とは対照的に温度を失い、虚ろだった。

トゥルーバイツ構成員 >  



「……母さん。」



 

トゥルーバイツ構成員 >   



「……俺は、いらない子だったよね………。」



 

トゥルーバイツ構成員 >  
どれほど風紀委員や公安委員から逃げただろう。
デバイスを奪おうとする輩から逃れただろう。

漸く1人になれて、青年はようやく声を出した。

どれだけ暴力を持ってしても、
強引な手で彼からデバイスを奪うことは叶わなかった。

彼は、あまりに半端な不死者。



青年が己の存在意義を疑ったのは、幼少の頃だった。

《大変容》の起きたこんな世界でも、己の子を忌む親は後を絶たない。
いいや、異能などという馬鹿げたモノのせいで、むしろ数は増えたのかもしれない。

ご案内:「スラム」にルギウスさんが現れました。
トゥルーバイツ構成員 >  
青年の異能は、そんな日常のありふれた、ありふれてはならない悲劇の中で目覚めた。

ゴミだらけの部屋、明かりも電気も無いアパートの一室。
もう誰も帰ってこない部屋の隅で、餓死寸前になりながら。

歩くことすら最早ままならない。


身じろぎで、落ちた酒瓶の破片で指を切った。

――アカイ、アカイ。

……それを何を思ったか、青年は、口へ運んだのだった。


そうして、彼は今ここに居る。

彼の異能は『自食』。
己を食べねば生きられぬ。己を傷付けねば生きられぬ。

青年は、物心ついた頃から、地獄を歩き続けていた。

ルギウス > 「おやおや、そのような格好でこのような場所に。
 どうしました?
 折角の腕章も見るに堪えない有様じゃあないですか」

何時からそこにいたのだろうか。
最初から居たかのように、瓦礫に腰かけて紫煙が靡く細葉巻を咥えている。
トントン と 指で灰を落としながら、汚れ一つない司祭服の男は続ける。

「まるで歴戦の戦士のなり損ないじゃないですか。
 どうです、貴方の物語を少しばかり語って見せてはいただけませんか?
 ミスター『グーラー』」

トゥルーバイツ構成員 >  
鮮やかな色で、灰色の世界から、青年は来訪者を虚ろに見る。


「……まだ、邪魔が、来るんだ。」

もう全員振り切ったと思ったのに。
どうしてヒトは来るのだろう。

「……知らないおじさんとは、喋らない。」


背丈の小さな、細身の青年は、抑揚を忘れた声で話す。



自分を食べてさえいれば何年も生きることが出来た。
けれど、それには全て痛みを伴った。

普通の食事では、最早青年は自分の体を維持出来なかった。

鎮痛剤の類はいくらでも試した。
最初のうちこそ効いてはいたが、感覚を麻痺させる類は麻薬と同じく、
繰り返す度に効力を鈍らせ、最早この世に彼に効く鎮痛剤の類は無くなってしまった。

痛覚遮断の類は、身体を食べて再生するときに戻ってしまう。

生き地獄だった。

しかし、生きる為に発現した異能のせいで、青年は今まで死を選べずに居た。
だからこそ真理に手を伸ばした。

ルギウス > 「ああ、それはそれは。
 申し遅れました、私はルギウス。“自由なる”ルギウスと申します。」

立ち上がって、仰々しいお辞儀を一つ。

「ほら、これでもうお友達です。
 私の事は気安くルギウスお兄さんとでも呼んでください。
 それで、どうです、死ぬ前に貴方の人生を語ってくださいよ。
 私が常世中に知らぬものなどないくらいの感動舞台にしますから」

細葉巻を美味しそうに味わい、空に紫煙を吐き出す。

「貴方のエンディングについて、貴方自身の口からきいておきたいのですよ」

トゥルーバイツ構成員 >  
「そう……ルギウスお兄さん。」

早くどこかに行けばいいのに。
ゆらゆらと頭が首の座らぬ赤子のように揺れる。

「エンディング。終わり。
 うん、もう……終わりでも良いや…。」


むしろどうしてもっと早く終わりにしなかったのだろう。
死のうと思えばいつでも死ねたはずなのに、
自分を食べないでいると、無意識に食べようとして。

今もまた問いをかけられて、ストレスを紛らわそうとしたのか、
自分の指に歯を立てた。まるで子供の指吸いのように。

「俺は、生まれ変わりたい…。」

ルギウス > 「ほうほう、生まれ変わりたい。
 さぞや今世にいい思い出がなかったのでしょうねぇ。
 どのような未来をご希望ですか、悲劇の君よ。
 
 どんな悪にも負けない英雄譚?
 真実に牙を突き立て、理不尽に怒るヒーロー?

 それとも……

 母に愛され、安寧と平和に満ちた一般人?」

そこまで言って、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

「ええ、いいですよ。
 どのような未来も、来世も。この世に対しての恨みも辛みも。
 全て総てを語ってください。

 可能であれば、私がそこに到達できるように協力しますとも。
 何せ私は―――魔法使いですからねぇ、魔術なんてケチくさい事はいいません。
 魔法です。どんな望みも願えば叶う」

トゥルーバイツ構成員 >  
「現実なんて、痛いこと、ばかり。」

育児放棄される前は殴られて、
この身体になった後は自分を食べてさえいれば良いからと妙な実験をされたりした。
自分の細胞を培養したモノを食べさせられたりもした。
けれど、自分の心臓から繋がっているモノでないと、身体は受け付けなかった。

彼は、自分自身にだけの吸血鬼に等しかった。
自分の中に化物が居て、それとずっと一緒に生きて来た。

「俺は、ちゃんとお父さんとお母さんがいて、
 "普通"に、生きたいだけ、なの、に。

 俺は何のために生まれたの、魔法使いのおじさん。」

自らの存在を問う度、心は軋む。

「俺は、自分を食べなきゃ、生きられない。」

もう嫌なんだ。自分を傷付けるのが。

「――どうすれば、愛してもらえる?」


酷く断片的、酷く欠落した感情、
凍った瞳の子供たち。

被虐待児が行きつく有り様。

泣けない赤子は、泣いている。

ルギウス > 「ええ、全くです。
 貴方は、その現実に打ちのめされてきたのでしょう。
   ちから
 その<異能>で死ねずに苦しんできたのでしょう。
 とてもよくわかりますよ、死を記憶している身としては非常に親近感が湧きます」

大きく頷いて。
相手の言ったことを繰り返し、理解していると示す。

「神は時に厳しすぎるほどのクソッタレな試練を課すことがありますが……。
 そうですね、貴方のソレは度を越しています。
 何のために生まれたのか、それは……『此処で私に逢う為です』よ。
 魔法使いの“お兄さん”である私に。」

コホンと小さく咳をして。
                   ちから
「私が愛しましょう、貴方の全てを。その<異能>も一切合切全てを。
 <真理>では癒せないものを、私が魔法で癒してあげましょう。
 貴方は貴方のまま、そこに居ればいいのです。
 誰に恥じることなく……私は、貴方を肯定し護りましょう」

トゥルーバイツ構成員 >  

「うそつき。」



真偽を見抜く眼は濁り果てた。

「そんな魔法、あるもんか。」

こんな自分のことなど、気持ちが悪いに決まっている。


保護されて、そうして生き良いようにと繰り返した実験は彼を苦しめただけだった。

何が楽しくて自分のものとそっくりの腕を食べねばならない?
何が楽しくて己の骨をかみ砕かねばならない?
何が楽しくてこの目と髪と同じ色の錆を口にし続けねばならない??

『親』という、赤子が生まれて初めて出会う『世界』に拒絶された彼は、
届かない泣き声をずっと上げているのだ。

ルギウス > 「これはこれは、手厳しい。
 確かに見たモノしか信じないのが人間というものですか」

ふむ と少し考える素振りをした後に。
左手を突き出して。
いつの間にか右手に握っていた大きな剣で、なんの躊躇もなく己の左手を切り落とした。

少しだけ顔を顰めたが、すぐに笑みを浮かべて。
己の左腕に食らいつく。

「……我ながら筋肉質で美味しくないですね。
 せめて火を通せばよかった。
 さて、これで晴れて同じスタートラインになりましたねぇ?」

もちろん、血は流れっぱなしで傷なんて治らないが。

トゥルーバイツ構成員 >  
「………"よく食べれるね"」

相手の意図が分からない。
血の匂いには、慣れた。慣れていない。

自分だって嫌なのに、よく同じことをしようとする。

「……なんでそこまでするの。」

地面に広がる色と同じ眼で、青年は問う。
赤の他人ではないか、と。


時間は刻一刻と過ぎていく。

デバイスを握る手に、僅かに力が籠る。

ルギウス > 「美味しいモノじゃありませんが、私も初めて食べるというわけではありませんので。
 流石に、貴方と違って怪我は治療させていただきますよ。
 『偉大なる自由神よ、信徒の怪我を癒したまえ……キュアウーンズ』」

今回は敢えての止血のみ。
どうせ生やすのは後からでもできる。

「私はねぇ、神からの祝福だとかギフトだとかで苦しんでいる方を見るのが大っ嫌いなんですよ。
 昔の私を見ているようで、我慢ならないのですよ」

ふぅ と落ち着くために大きなため息。

「いいじゃないですか、私達が幸せになっても。
 そのような泡沫の夢くらいは私だって見るのですから。
 そして―――夢は、偶に現実になるんですよ」

トゥルーバイツ構成員 >  
「……でもさ、どうやったら、しあわせになれると思うの?」

腕を掻きむしるようにする。
人間は、力の加減をしなければ脆いモノだ。
すぐに手に付く自分の血を舐める。

自分が本当に欲しいと思うモノはどうあがいても手に入らない。

だからこそ、彼らは、彼は『真理』を手にしているのだ。
それがどうしようもない博打だとしても。

「昔の、お兄さんは、どうしたの。」

同じところまで下りて来たというなら問おう。
この回らない頭で、この赤子のような思考で、
この常人と同じになれない小さな身体で。

赤子は、愛情が無ければ死んでしまう。
《大変容》以前、遠い昔行われた、壮絶な実験がそれを語っている。

ルギウス > 「さて、幸せの形は現在の私でもわかりかねます。
 今でも悩んではいますが―――」

少しだけ笑いの質が変わった。
浮かべる笑みはそのままに、漂う気風は挑戦者のソレ。

「昔の私は貴方と同じです。
 流されて殺されて、また流されて殺されて。
 何百何千何万と繰り返し繰り返し。
 今も力を得るために、長い長い旅路の途中です」

すっかり短くなってしまった細葉巻を血だまりに投げ捨てる。

「さて、貴方は―――どうなりたいですか?
 世界に復讐を願いますか?
 来世での平穏を願いますか?
 それとも―――今世での安寧を願いますか?」

トゥルーバイツ構成員 >  
「……………。」

『真理』に縋る程の『願い』
この世に未練が無いといえば嘘になる。

誰かに助けられた記憶が無い訳じゃない。

 赤子
 青年は、デバイスをぼんやりと眺める。


  「俺は……愛されたい。」


絞り出すのは、現在への本当に一欠片の僅かな執着。
復讐なんて考えたことがあるモノか。
来世で幸せになれるならそれに越したことは無い。

 だけど、けれども。

  親
   に、愛されたかっただけなんだ。
 世界
 

ルギウス > 「では、そのように。
 安寧に満ちた波乱のない世界を貴方に与えましょう。
 どうぞ、満ち足りた揺り篭の中で微睡ください。
 次に目覚める時には、世界はきっと貴方に微笑みます」

右手を広げて、いらっしゃい と誘うように手を伸ばす。

トゥルーバイツ構成員 >  
「…………。」

分からない。

分からないけれど、せめて夢の中だけでも、愛されるなら。
せめて夢の中だけでも、この痛みから逃れられるなら。


 凍った瞳の赤子は、

 自らを食べねば生きられぬ化物は、

 
「…魔法でずっとなら、それでも……。」

もしそれで自分を食べずに死ぬならそれでも、構わない。

本来は道理が許さないだけ。
本来は自由が許されていないだけ。

ルギウス > 「安らかに、愛で満たされてお眠りください。
 私が魔法で貴方を害する全てのものから護りましょう。
 道理も自由も貴方に与えましょう」

そっと近づいて、右手を使い青年の目を隠すように近づける。

「ほら、お疲れでしょう?
 大丈夫、眠っている間に親の温もりを授けましょう」

トゥルーバイツ構成員 >  
がくんとルギウスへ青年が力を失う。
手に持っていたデバイスが落ち、転がった。
『真理』への『窓』は、残り2時間を切った所で、彼から失われた。

次に目覚めて彼が生き地獄のままならば、
次に選ぶのはきっと自殺であろう。

それこそ本当に、一切食事をせず、

遠いあの日、彼が世界から見放されたように、日常の悲劇の一部になるだけだ。





けれど今は、今だけはどうか、


願わくば、彼に永久の安寧の眠りが与えられますように。

トゥルーバイツ構成員 >  




  『おかあさん だいすきだよ』


 

 

ご案内:「スラム」からトゥルーバイツ構成員さんが去りました。
ルギウス > 「汝の魂の平穏のあらんことを。
 暗闇が全てを隠し、安寧をもたらさん事を」

小さな声で、聖句を唱える。

「ああ、まったく……問答無用で殺す方が手っ取り早いのですが。
 甘くなりましたかねぇ?」

そのまま流れるように患部を撫でて傷を癒しながら大袈裟にため息を一つ。

「記憶処理と偽造身分を三人分、加えて異能封印と若返り。
 ああ、ついでに祝福も。
 じっくりと近くで観察できたので、彼の異能は理解したので容易でしょうが」

やれやれ と 首を振る。

「どうせ暇をしていたのですから。
 たまには平和な日常系の舞台も悪くはないでしょう……なに、たったの50年程度です」

ルギウス > 「ああ、一つだけ仕込んでおかないと。
 そのまま死なれては感想が聞けない。それでは舞台化ができないじゃあないですか」

危ない危ない と 大袈裟に掻いてもいない汗を拭う。

「死の間際にはすべてを思い出して、インタビューしませんと。
 機会は無駄にできませんからねぇ」

ルギウス > 「さてさて、この場はこれにて閉幕。
 幕間の後に、彼の新しい開幕にご期待とご声援をお願いしたします」

青年が座っていた辺りに向けて、大袈裟な一礼をした後に。
スポットライトは消え、舞台の幕は閉じられた。

ご案内:「スラム」からルギウスさんが去りました。