2020/09/23 のログ
ソレイユ >  
「記憶がない、とはいっていたが……そうか。
 君は……君の肉体は、人ですらなくなっているのか。
 それでも記憶の整合性が保たれているというのは……すごいな……」

さきほど自分が見せたように、相手が己の姿を変えて見せてくる。
似たようなもの、とはいえないが、近似とはいえる。
お嬢が気にかけたのは、そういうところもあったのだろうか……

「事はそう単純でもないが……
 うん、いや……そう、だな。」

クロロが示してきたのは実にシンプルなものだ。
今、自分が決めたこの姿こそ、己自身であり、それを認めろ、と。

それは、その通り、なのだ。
わかってはいる。
それでもブレてしまう。というより、混ざってしまい、見失いそうになる自分がいる。

しかし――

「お嬢……いや、エルが、ブラドが、スピカが、みなが……そして、クロロが。
 私を定義してくれる、というのなら。それに頼るのも大事だな。」

仮面を外す。

「実のところ、先程の"忘れっぽい"というのもそうなんだが。
 私の中では常に無数の人間の記憶が渦巻いている。
 忘れる、というよりは、どれが必要な記憶かわからなくなる、というのが正確だな。」

爽快に笑う男を好ましく思った。
だから、そこまで話そう。

「ゆえに、"私"すら見失いそうになる、のだが……ああ、それは君が。皆が、保証してくれるという。
 だから、"私"は。皆を、記憶の海に消したくない、とそう思っていてね。
 思いついたのは、このメモと。そして――引くかもしれないが……」

何処からかナイフを取り出し、腕をまくる。
そこに、何事か、記号のような"何か"を刻み始める。

クロロ >  
「おう。お陰様でな、スゲーアチーンだわ。オレ様。
 ろくに人様に触れやしねェ。まァ、例外もあるけどな」

今目の前に見えるのは炎を内包した人型の器に過ぎない。
ある程度制御出来ているとはいえ、その体温は高温。
生命には火傷を伴い、紙は燃える生ける炎。
不便な体だ。一々魔術詠唱を挟まなければ、ろくに人と生活も出来やしない。
不便と思えども、そこに後悔も悔恨も挟まない。

「テメェの頭で小難しく考えるから、そう見えンじゃね?
 安心しな、ここにゃオレ様も、他の連中もいるンだからよ」

後は此方で手を差し伸べて助けあうのも"スジ"と言うものだ。
ソレイユ自身も、自身の記憶の心配もしてくれたのだ。
だったら、ソレイユがソレイユであるように
"覚えて"、"声をかける"ものだ。
自身の首を軽く撫でれば、小首を傾けた。

「人様の写しッつーけど、記憶まで行くンか?
 まァ、そうか。そう言うのもあるわな」

「…………」

だとしたらそれは写しと言うよりも、本当のその人自身に成るという事か。
異能一つにしては、出来過ぎだ。ともすれば、それは"呪い"に等しい。
人間の器に宿せる人生なんて、それこそ人一人だ。
だとすれば、ソレイユ自身の苦悩は想像絶するものだ。
笑みも消えて、真面目な顔つきにもなった。


─────だとすると、余計に"アイツ"に似て……。


「……ッ……」

僅かに、頭痛が走った。苦痛に表情が歪む。
また何かを思い出そうとしたが、思い出せない。
その痛みを振り払うように首を振れば、じっとその腕を見据える。

「何してンだ、ソレ公」

ソレイユ >  
「……いや、君もなかなか難儀だな。
 それを笑い飛ばせるのは大したものだ、本当に。
 まったく、確かに"最強"だ。」

面白そうに笑う。
久しぶりに仕事以外で感情を動かした気がする

「自分の"初心"を忘れぎみだったようだ。
 あの女に出逢って以来、どうにも不調だったからな。
 いや、すっきりしたよ」

あの時の邂逅で、己を揺さぶられた。
それ以来、どうもフラフラとしてしまっていた。
それが、今、晴れた。

「……うん、いや……君の、名前を……刻み込んで、いる。
 ああ、"私"にしか読めない、字、だけど、ね。
 こうでもしないと、記憶に安定しないんだ」

そうして、彫り上がったのは奇妙な記号のような模様のような何か。
何処の文字にも何処の記号にも一致しない、不可思議なモノ。

「しかし、クロロ。どうした?
 なにか、苦しそうな顔をしていたように見えたが。
 まさか、これが気持ち悪かった、というわけでも……」

いや、そういうこともありえるか?
意外と繊細な男であってもおかしくはない。

クロロ >  
軽く首を振って、気を取り直す。
全く以て、不便な頭をしている。
思わず苦笑いを浮かべた。

「ヘッ、だろ?オレ様が一番強ェーンだよ」

楽観的と言われればそれまでだ。
だが、クロロはやはり"それも良し"で終わりだ。
その方が何よりも面白い。今の人生が、それを証明してる。
だから、誰かに何を言われようと、それは揺るがない。

「気にすンな。お前がまた迷ッたら、何度でも呼ンでやるよ。ソレイユ」

所詮裏側の人間であろうと、そこにはそこの営みがある。
何人たりとも、この"縁"を否定させるつもりはない。

「……別に気持ち悪かねェよ。ちょッとまた記憶がな。
 ま、結局なーンも思い出せねェけどな」

生憎繊細さは何処かへ置いてきた。
そう言う事に耐性はある。
魔術師であるクロロにとって、その辺りの"効率さ"を拒否する事は無い。

「文字通り自分自身に刻ンでる訳だ。いいンじゃねェ?
 オレ様も暗号とか作るし、それがお前の覚え方なら、いいじゃねェか」

「つか、オレ様もわざわざ入れといていいのか?
 お前の容量、ヘンにとッちまうぞ。つか、どうなッてンだ?見せろよソレ公」

刻み込まれる様をまじまじと見ていた。
クロロは魔術師であり、"好奇心"はある。
自分にしか読めない文字。知恵の輪めいた好奇心があった。
金の瞳はききとして、その腕を覗き込もうとするだろう。

ソレイユ >  
「うん、君のような男が我々の一員になるというなら……
 実に心強いことだ。」

ああ、そうか。
似たような境遇ながら揺るがぬ意志を持つ彼。
それは実に眩しくて、また憧れなのだろう。

「ああ、それは期待するとしよう」

実のところ、ソレイユというこの名も。
無形の暴君、という名も。
あまりしっくり来ていたわけではない。
それでも、誰かに呼ばれるのは心地よいものだ。

「……どうも、君の記憶はなにか妙なものを抱えてそうな雰囲気があるな。
 いや、それは君のものだから私から何かいうものでもないと思うが。」

思い出させていいものだろうか、と思う反面……
それを尊重したいと思う自分もいる。
結局はクロロ次第の話なので、そこで思考を切る。

「君も、『裏切りの黒』の一員だからな。容量を割く価値はある。」

とはいえ、身体にまで刻み込むのはほんの一部の人間だけだ。
これは彼を認めた証。まあ流石にそれはちょっと口には出来ないが。

「……うん? 興味があるのか?
 といっても、私自身、よく理解しているわけではなくてね。
 私の"何処か"にあった、そういったものなんだ。
 ただ、いまのところ誰にも読まれていないのは確かだ。」

これについては色々な予想があった。
例えば、混ざりあった記憶からできた融合言語。
例えば、異邦の誰かの記憶にあった言語。
例えば……

が、どうにも結論は出ていない

クロロ >  
「それはオレ様にもわからン。けど、オレ様のものだ。
 妙な記憶だろうと、思い出した所でオレ様の抱えたモンだし、どーッて事ねェよ」

思い出した所でそれこそ、前々から抱えていたものだ。
それを今の自分が抱えきれない何てこそ、お笑い者だ。
己のものは全て背負いきって、ちゃんと二つの足で歩いていく。
クロロと言う男に、"こんな程度"で膝をつくなんてことは無い。
だからこそ、こう言った。

「気にすンな。お前も適当にしてろよ」

それ位で、十分だ。

「お前、ホンット裏黒大好きだなー。わからンくもないが」

中々居心地のいい組織だという自覚はある。
じーっと眺める腕に刻まれた数々の文字は……
流石のオリジナル言語、即座に解読は出来ない。
と言うよりも、余りにも多種多様すぎる。
これは、一から解読するのは骨が折れそうだ。

「まァな、オレ様魔術師だから、そーゆーのに興味がある。
 つーか、理解してないッつーけどよ。ソレ公、お前自身が全部読めるのか?」

多分、あの真新しく刻まれたのが自分の名前だと思う。
それ以外はさっぱりだ。そもそも、当人が読めるのだろうか。
訝しげに眉を顰めて尋ねた。

ソレイユ >  
「……まあ、そこはね。"私"の居場所だからね。
 先程も言ったけれど、私は『裏切りの黒』を『愛している』。
 これは間違いのない事実だ。」

指摘されたことは、事実だ。
いや、むしろ。それだけが私の唯一の真実、と言ってもいい。
だから、それには胸を張って応えられる。

「そういえば、君は魔術師だったね。
 そうか……相応に知識欲もあるんだな。
 はは、道理だ。」

笑ってまだ見るかい?と模様を見せる。
そこで、もう一つの問に、ふむ、と考える。

「おそらく、君は……解読できないものが理解できるのか、という質問をしたいのか?
 うん。そこの原理については私も正直、分からない。
 わからないが、どうも私の記憶の何処かに、この文字は存在するようでね。
 理由は正確にはわからないが、私自身は書くことも読むこともできるんだ。」

真っ当な研究者からすれば噴飯ものの答えだろうな、とも思う。
しかし、これはもう理屈ではない。
本当に「なぜだか分かる」としか言えないのだ。

案外、これが私のルーツなのかもしれないが……なにしろ、正体がわからないので結局答えにはならないのだ。

クロロ >  
「それもそーか。いいンじゃねェの?ソイツが"真実"ッてなら
 絶対忘れンなよ?忘れても、オレ様が、オレ様たちがブン殴ッてでも思い出させてやるから安心しな」

それが"ソレイユ"の事実、彼女を成すものであれば
決して忘れてはいけない。忘れさせてはいけない。
それをずっと、愛せるように、記憶に必ず思い出させる。
これは、"宣誓"だ。クロロなりの、友情へと示し方だ。

「……一週間か二週間位あれば解読出来そうだからちょッと腕貸して欲しい位」

御覧の通り知識欲には従順だった。
爛々と輝く金の瞳は相変わらず腕を見つめている。
そりゃもう嘗め回す勢いでじー、と見ている。

「……はァン、そら、成る程な」

そして、それを聞けば納得したように頷いた。

「そりゃ、お前自身がそこまで大切だッて思ッて刻ンでンだろ?
 お前ッつーか、もしかしたら"お前等"とか?理屈じゃねェンだ」

「そう言うの、心が覚えてるッつーンだろうからな」

確かにクロロは魔術師だが、理屈屋ではない。
何方かと言うと直情型、人の心を素直に信じれるタイプだ。
だったら、きっとソレイユ自身のルーツか、或いは……。
だが、それだけ"大切"だというの心で、理解出来る。
自身の胸をトントン、と叩けばニィ、と口角を吊り上げた。

「ちゃンと、幾つでもあンじゃねェか。"ソレイユ"ッてのがさ。
 迷子になる事もねーだろ。もし、迷子になりそーだッたら、オレ様がなンとかしてやる」

「オレ様の炎は、伊達じゃねェぜ?」

その笑顔も志も、暗闇を照らし燃え盛る紅蓮の炎。
『悪』の中でも凛然と燃える灯、≪篝火≫の名に偽りはない。

「つーか、どッか行くか。どーせ、お前暇だろ?付き合えよ。飯ぐらいなら奢ッてやるぜ」

ソレイユ >  
「ははは。そうだな。君にそうまで言われてしまってはな。忘れるつもりはない。
 まあだけど、もし忘れてしまったらその時はよろしく頼む。」

さっぱりした気分で答える。
ブレにブレた自分だが、もうブレることはないだろう。
そんな風に自信をもって言えるようになった。

「ああ……そこまで気になるか。ふむ……
 腕をちぎって渡す……こともできなくはないが。
 それでは何のために刻んだかわからなくなってしまうのでね。」

しかし、そうではあるが。
目の前の男に報いたいという気持ちはある。
では、解答としては……これか

「しかし、別に身体に刻んでいなくても文字は文字だ。
 メモで良ければ渡すことはできる。それでいいかな?」

そもそも普段のメモ書きも、秘匿情報はそうしている。
流石にメモを見られてしまってバレるようなヘマは出来ないので、これで重宝しているのだ。

「……心が覚えている、か……さて、どうだろうか。
 だが……うん。それはなかなかに興味深い考察だ。一考に値するな。」

無数に現れては消える自分。
その何処にあるのかも分からない奇妙な文字。
それが本当の自分に繋がるのかどうか、それもわからないが。

わからないことを考えるより、今見えていることを考えたほうがきっと健全だろう。

「うん? ああ、まあ……そうだな。
 今日の見回りは此処で終わりのつもりだったから暇といえば暇だな。
 うん……それくらいは付き合うとするよ」

さて、先程の姿に戻ろうかどうか、と思案したが……まあ、今日はいいだろう。

クロロ >  
「おうよ、任せておきな」

力強い言葉だ。迷いなく、この器に刻まれた約束を違える事は無い。

「や、気軽に腕ちぎろうとすンなよ。体は大事にしろ、欲しいッたのはオレ様だけど」

「ああ、それでいーよ。わかりゃ十分だ」

確かに言い出しっぺは自分だがまさか、そんな事出来るのか。
それはそれとして体は大事にしてもらわないと困る。
シエルの時もそうだが、意外とコイツ等自分を大事にしないのか?
もしかして、意外と嫌な覚悟キメてる連中が多い場所なんだろうか。
だとすると、難儀な組織に入った気もする。後頭部を掻いて、溜息を吐いた。

「一考じゃなくて、そう言うモンだろ?おう、じゃぁ行こうぜ」

楽しげな笑みを浮かべながら、一足先に住居を出ていく。
繰り出す暗闇でも、その輝きは決して消えないだろう…。

ご案内:「スラム」からクロロさんが去りました。
ご案内:「スラム」からソレイユさんが去りました。