2020/11/18 のログ
神代理央 >  
少女が襲撃者に語る言葉。
それを、僅かに苦い表情を浮かべて聞くのだろうか。
己はそうやって、一体どれ程の者を結局闇の中へ引きずり込んでしまったのかと――

「……良い判断だ、池垣。其の侭押し通せ!……奴にとっては、此のスラム全てが、人質の様なものだ!」

此れでは、何方が悪役なのかは分からないな、と内心小さな苦笑い。
しかし、それをおくびにも出さずに――轟音は止まらない。
襲撃者は、見事に後方への砲弾を防ぎきった。
それどころか、此方へカウンター迄決めてみせた。その実力は、素直に感嘆すべきものなのだろう。

……けれど、砲弾の嵐は、吹き荒れ続ける。
襲撃者が弾き返した砲弾を、弾幕の如き砲弾の礫が迎え撃ち、それを倍する数の砲弾が、更にスラムの上空へとなだれ込む。
そして、無理矢理位置を変え、急上昇した代償は――少女を肉薄させ、攻撃の手を緩めない連撃。

「…砲兵とはな。一度や二度で終わるものではない。
間断なく、休息なく、絶え間なく。
戦場に鉄火を降り注がせるのが、砲兵の仕事だ」

「此の街の溝鼠が、シェル・ショックにならぬか心配だよ。
ストレスで夜も眠れない、と貴様に訴えた時は良い薬局を紹介してやると良い」

にこり、と穏やかな迄の笑みと共に――破壊と火焔の嵐が、再びスラムへと迫る。

虚無 > 「そこまでの覚悟があるのなら……いや、これ以上は愚問だな」

 彼女への言葉を止める。彼女の意思は強い。きっと今この場でそれを曲げるなど不可能だろう。
 ならばやるべきことは一つだけ。己がその障害となり……彼らを防ぎとめるのみ。
 しかし再び吹き荒れる砲撃の嵐に目を見開く。

「少しはチャージが必要だと思っていたが。当てが外れたかッ!!」

 その刹那現前に現れる少女。完全に対応が遅れた。突き出される槍。時間がスローに見える。
 思考はいくつもめぐる、後ろを見捨てれば少なくとも直撃は回避できるだろう。だがそれでも大ダメージは避けられない。ならば己の選んだ道に殉ずるのみ。すなわち己は裁けぬ悪を狩り、灰色に生きる弱者を守る存在。

「池垣あくる。でいいんだな」

 突き出される槍。それをまともに腹部で受ける。

「お前の覚悟にこたえてやる。俺がお前と……後ろの男の前に立つ障害だ突き崩し払ってみろ」

 バチバチと紫電を纏う。槍の直撃を受け内蔵にも届かんというダメージ。それでも能力は緩めない。
 体を突き抜け貫通しきる前に。放たれるは拳。衝撃波を指向性を持たせて放つ。砲撃すべては打ち落とせないだろう。だがせめて自身の正面に入る分だけでも。
 眼前の池垣に放たれた拳は衝撃波を放ち、砲撃の一部がそのまま神代へと向けて降り注ぐだろう。
 

池垣 あくる > 「ええ、私は、池垣あくると申します」

腹部を貫きながら、その慣れたようで慣れていない感触に、わずかに顔をゆがめる。
それこそが彼女の大きな変化の一つなのだが、それを当人も自覚しないまま、しかし頭の中で次の最善を模索する。

「(これは、槍を『掴まれ』ました、ね……返し技が出せません……なら……!)」

異能発動、再度の『縮地天女』。
虚無を貫いたまま、今度は下方向に高速移動する。

「くっ……」

喀血。
縮地天女は、あくまで『予備動作なく高速移動する』異能。
それ故に、高速移動によって発生するGなどの負担は回避できない。
向きを極端に変えての連発は危険。だが、今この時、この相手の動きを少しでも妨げるには、それしか、思いつかなかった。
そのまま、もろともに地面に叩きつけられようと。

神代理央 >  
少女の槍に貫かれながらも、少女への反撃と此方へのカウンターを同時に行う襲撃者。
そして、自らの身を顧みず地面へと高速で叩きつけようとする少女。
二人の激しい攻防を俯瞰しながら、感嘆の息を零さざるを得ない。
襲撃者も、少女も。紛れも無く強者であり――

「……それを横からかっさらうというのは、中々に酷い事だとは思うが」

落下していく少女と襲撃者。
その動きがどうなるにせよ、落下し少女が離脱した直後に砲撃の雨を降らせようと異形達に思念を飛ばそうとして――

「………どうした?状況報告は明確に……おい、どうした。何が……!」

その瞬間、スラムに響き渡る咆哮。
そして、通信機から漏れ聞こえるのは、離脱した隊員達の悲鳴。


「………あくる!戻れ!」

何か、良くない事が起こっている。
その状況で、強者である襲撃者と此れ以上の戦闘を行うのは――不味い。

虚無 >  
「うっくぁ……」

 通常状態ですら対応できるかわからない瞬間移動。それにこの状態で対応できるわけもない。無理やり引き下げられたたきつけられる。
 運がいいか悪いか。地面にたたきつけられた衝撃で槍は抜けるだろうが。かえってそれは大流血を招くわけで。
 それでもまだ逃げられない。眼前の男にまだダメージは無い。自分で言った言葉がそのまま跳ね返る。周りの隊員はどうでもいい。眼前の男をそしてそれを守る騎士でもある少女を。ここで止めなければこの殺戮は終わらない。
 だから立ち上がり構えるが。

「はぁ……はぁ……?」

 何か様子がおかしい。いつもであればこのタイミングで仕掛ける。だが体のダメージがそれを許してくれない。下手に動けは倒れるのが目に見えている。

「何か……あったようだな。まぁ護衛がいなければそれも当然か」

 精一杯の強がり。完全に劣勢だからこそ。背を伸ばししっかりと立っていた。

「そろそろ潮時だ。退け……今ならまだ、撤退指揮くらいは間に合うだろう」

 だが強がりでしかない。もし今彼らがせめてこいつだけでもとこちらに攻撃を加えてくるのならば逃げ伸びるしか方法はない。

 

池垣 あくる > 「う、ぐう……」

他方、あくるもダメージは甚大。
内臓攪拌に加え、叩きつけられた衝撃で足はふらついている。
そんな状態でも、まず構えようとして……

「……わかり、ました」

じりじりと後退する。
万一の追撃に備え、満身創痍ながらも槍圧を放ち牽制しながら、理央の下に、下がっていく。

神代理央 >  
「…………」

現在の戦況と、己の"手駒"を鑑みる。
襲撃者は大きく負傷している。このまま攻勢を強めれば、或いは討ち取れるやもしれない。
しかし――己の後輩である少女もまた、ダメージを負っている。
戦闘が継続した場合、より深刻な負傷を負う可能性も捨てきれない。
そして何より、落第街の方へ展開した隊員達からの応答が無い。
また、先程響いた咆哮も留意すべき点ではある。

目の前の戦果を取るか。
部下達の保全を取るか。


「…………落第街へ転進する。此れ以上の戦闘は、此方に利が無い。
勘違いするな。此れは撤退ではない。此の侭戦闘を続けても、此方は構わないのだ。何せ、未だ私は無傷。手負いの獣と戦うくらいは、私にも出来る」

「別途の問題に対応する為に、戦力を集中するだけだ。
我々が撤退したのではない。貴様が見逃されたのだ。
それを忘れるな。襲撃者」

フン、と。相も変らぬ傲慢な態度で、此方を見つめる襲撃者へ言葉を紡ぐ。
此れもまた強がりでしか無いのだろうが――それは、御互い様だろう。

「……池垣、聞いての通りだ。撤退する。……というよりも、お前は後方へ下がれ。その怪我で、私について来るつもりか」

此方へ下がって来た少女へ、一瞬複雑な表情を浮かべた後。
淡々と、訥々と。事務的な声色で少女に言葉を投げかけた。

虚無 > 「……同意だな。俺もここを襲わない以上そちらと敵対するつもりはない。一度は協力し合った関係だ。それはそちらも理解しているだろう……見逃されたというのも今回は認めておこう。不愉快だがな」

 相手を見据えそう言い返す。だが構図は完全に見逃してもらった形である。
 今回ばかりは守るはずだったこの街の住人に助けられたといったところだろう。

「そういう事だ行け。別に威圧せずとも追撃などできないさ」

 威圧し続けている池垣にそう告げるとこちらは相手を警戒しながら相手を見据える。
 攻撃する意思はない。

池垣 あくる > 「……わかりました。その言葉を、信じましょう」

そう言って、虚無に背を向け、理央の方に駆け出していく。
満身創痍ではあるが、何とか理央のところに辿り着いて。

「ごめん、なさい……下がらせて、いただきます。今の私では、足手まといになって、しまいますし」

ぺこりと、申し訳なさそうに頭を下げて。
そして、後退していく。

泣きそうな、辛そうな、そんな顔をしながら。

神代理央 >  
「…物分かりが良いのか悪いのか。まあ、構わぬ。
無益な戦闘は、以後は避けたいものだがな」

小さく溜息を吐き出すと同時に、異形の群れもゆっくりと後方へ下がっていく。
それは、襲撃者の望み通りであり。此方の望まぬところでもある。
今回の勝負は――襲撃者の勝利、という事にしておこう。
業腹ではあるが。

「……気にするな。お前は良く役目を果たした。
私が無傷で済んだ。それだけでも、お前は十分に槍としての役割を果たした」

「………先程のお前の言葉、信じよう。
特務広報部は、今日からお前の居るべき場所だ。
引き続き、私の槍としてその力を振るうと良い」

後方へ下がっていく少女に、ほんの一瞬穏やかな言葉を。
しかしそれは直ぐに、事務的かつ怜悧な表情へと変化して――

「……落第街へ移動する。ではな、襲撃者。
息災であれ、とは言わぬよ」

異形達と共に、少女を庇う様に。
スラムへ暴虐の嵐を降り注いだ一派は、こうして襲撃者の努力もあって――今宵は、漣の様に退いていくのだろう。

虚無 > 「物分かりがいいのなら、お前の下でこの拳を振るっているさ。槍になど貫かれずにな」

 どう考えても物分かりが悪いからこうなっているのだから。
 試合に負けて勝負に勝ったというべきかその逆か。完全にこちらの勝利というわけでもないだろう。
 それから後ろにさがる池垣に視線を投げる。

「……まだ連れ戻せる位置にいる。だがもし鉄火の支配者の上がそいつを切り捨てるようなレベルになれば取り返しはつかなくなる……今はそのままでもいい。だがそうなる前に道の選び方を考えておけ」

 それだけ告げるとこちらも歩き出す。闇の中へと。
 向かうは闇医者か仲間の下か。どちらにしても組織内での懲罰は免れなさそうな出来事であった。

池垣 あくる > 「はい……私は、貴方を守る槍と、なります。どうか、上手く『使って』ください」

言いながら下がろうとする、中で。
虚無に、ちらと目を向ける。

「――――貴方が、私を混乱させたくて言っているのではないこと、なんとなくですが、わかります。武を交えた敵相手に言うことではない、でしょうが……ありがとう、ございます」

そう言って小さく、頭を下げる。
槍狂いの少女は、着実に、情緒を身に着けつつある。それは理央が救い上げたからであり、それ故にどうなるかは、まだ、分からないが。
そして、下がっていたところを、少し戻ってきて。理央のそばへ行き、叶うなら袖を摘まんで。

「それでも今は、私は、先輩の槍となります。そうしないと……」

このひとがこわれてしまいそうだから。

その言葉だけは、飲み込んで。

「――次は、勝たせて、頂きます。それでは、さようなら」

そう言って、今度こそ後退していった。

ご案内:「スラム」から池垣 あくるさんが去りました。
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