2021/07/27 のログ
ご案内:「スラム」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
夏と言えば真っ先に思い浮かぶのは何だろう。
当然答えは人によって様々だが、共通して浮かぶ
ステレオタイプなイメージというものも存在する。
特に『学園都市』と銘打たれているこの常世島では
『夏』とは切っても切れない恒例行事が存在する。
即ち──『夏休み』である。
暑くて屋外活動に向いているとは言い難い季節に
レジャーのイメージがついて回るのは、夏休みの
存在あってこそと言っても過言ではないだろう。
しかし夏休みはきちんと学業に励んでいる学生に
与えられるご褒美のようなもの。そもそも学園に
顔を出さない落第街の不良学生にとってはさして
影響のある行事ではない。
……と思われがちだが、実はそうでもない。
■黛 薫 >
学園では毎年夏季休業の直前に風紀と公安による
『歓楽街健全化運動』が行われる。建前の上では
歓楽街の一部とされる落第街にも当然手が入る。
時期の決まった通例行事の為、ここで尻尾を出す
頭の悪い違反部活動は少ない……1件か2件ほどは
毎年あって、夏季休業期間中の笑い者にされるが
それはさておき。
とにかく落第街の面々にとっては警戒するほどの
行事ではなく、休みに浮かれて気の緩んだ学生を
ターゲットにした運動がメインとなる。
そんな運動の一環として、落第街を含む歓楽街の
美化活動がある。治安の悪い区域にゴミや汚れが
溜まるのは言わずもがな、夏本番までにそれらを
一掃しないと衛生的に見過ごせない事態になる。
しかしながら、歓楽街や落第街の掃除にあたって
健全な学生を招集することは出来ないし、風紀と
公安の動員可能人数にも限りがある。
従って『社会奉仕』という名目で、ごく一部ながら
学業、社会復帰への意欲がある違反学生には招集が
かかる。学園公認のお仕事なので、きっちりお金も
支払われるし、無償でお弁当も貰える。
落第街に身を落としてまともに暮らせる学生の方が
少数派であるため、自力で暮らせない困窮した者や
魔が刺して引っ込みが付かなくなった学生の救済と
いう側面もあるのだとか。
■黛 薫 >
要するに、招集に応えるような違反学生は大抵が
落第街で暮らしていけない者ばかり。これを機に
学業に復帰するように、という勧告でもある。
(毎年参加してんの、マジであーしくらいじゃね?)
支給されたタオルで覆われた口元を雑に拭いながら
黛薫は思案する。学業、社会復帰への意欲があって
なお落第街に留まる学生などまずいない。
落第街での厳しい生活に心を折られて虚ろな目で
黙々とゴミ拾いに励む学生を尻目に、腐り溶けて
元が何だったのかも分からないゴミ溜めに向き合う。
本来、きつい仕事は概ね風紀と公安が引き受けて
くれる。社会復帰を促す活動だし意欲ある者には
優しくしてくれているのだろう。人の嫌がる仕事を
黛薫が引き受けているのは自主的な行いである。
■黛 薫 >
黛薫は既に何度も社会復帰を試みており、その度に
失敗している。疾病にも等しい異能は彼女を錯乱と
自棄に駆り立て、なまじ罪悪感を覚えるだけの感性が
生きているから赦しは悪化を招くばかり。
復帰の意欲とそれが叶わない葛藤など書類上から
読み取って貰えるはずもなく、自首も任意同行も
拒まないから処分回数ばかりが嵩んでいく。
お陰で書類上でしか彼女を知らない風紀委員からの
評判は最悪である。人と形を知られたら知られたで
『どうして落第街なんかで暮らしているのか?』と
悪意のない言葉のナイフでぶっ刺されたりするので
それも良し悪しではあるのだが。
毎年美化活動に参加しているため、不本意ながら
主導する委員とは顔馴染みだ。頼み込んで仕事の
割り当てを変えてもらうくらい訳はない。
それで楽をするのではなく、誰もやりたがらない
仕事を率先して引き受けるあたりが彼女らしさ。
■黛 薫 >
(こんなん罪の無ぃ学生にやらせらんねーもんな)
監視を兼ねて一緒に作業するはずだった風紀委員の
男子は腐臭と汚臭の混ざり合った空気に耐えられず
嘔吐して運ばれていった。南無。
二重に巻いた分厚いタオルで口と鼻を覆い隠し、
沼地での作業でも任されたのかと引かれるほどに
徹底した防水の作業服でゴミ溜めに踏み込む。
大きめのゴミは袋に詰め、半ば液状化した廃棄物は
機械で吸い込む。言葉にすると実に簡単な作業だが
経験のない人間からすればトラウマ必至である。
「うわ」
だってゴミ山の中から明らかに人間の一部だった
モノが出てきたりするし。蛆とか湧いてるし。
■黛 薫 >
落第街で暮らしていてもこの手のモノに慣れるかと
問われれば否である。少なくとも黛薫は何度見ても
慣れない側の人間だった。
(あーしもそのうち……こーなんのかな)
だからこそ余計に任せられない、任せたくないと
率先して行う姿勢は滑稽だろうな、と自嘲する。
最も大きなゴミ溜めを撤去した頃には日が暮れて、
他の区域の掃除は概ね済んでいた。
その後も水洗いと消毒が行われる手筈だったが、
撤去が終わった段階で自分はお役御免。汚れた
作業服を廃棄してようやくひと心地ついた。
ご案内:「スラム」にサティヤさんが現れました。
■黛 薫 >
お茶を飲むフリをしながら、作業を終えた面々に
ぼんやりと視線を走らせる。和気藹々と言うには
些か沈んだ疲弊し切った雰囲気だが……落第街の
一角にしては優しい空気の集まりだ。
社会奉仕の招集に応じる違反学生はやむを得ない
事情で落第街に身を落として耐え忍んできた者や、
己の力を過信して暗部に足を踏み入れた結果心を
折られた敗北者がその多くを占める。
一切後ろ暗いところのない仕事、良心の呵責無しに
受け取れる金銭は彼らにとって喉から手が出るほど
欲しいものだろう。これをきっかけに足を洗う者も
決して少なくはないはず。
久方ぶりに人の優しさに触れたと思しき違反学生の
女子が涙を流しているのを見て、そっと目を逸らす。
きっかけさえあれば社会に復帰できる学生たちを
妬む気持ちがないと言えば嘘になる。けれど……
落第街でしか生きられない境遇の苦しさを知って
いるから戻りたいなら戻って欲しいという感情が
強いのも確かだ。
■サティヤ > 「すみません、そこの学生さん
自分もとなり、いいですか?」
僅かに消毒のにおいがする灰色のコートを身にまとった、一息つく少女より頭一つほど大きい人型が少女に声をかける。
少女が一息つける場所はこの状況ではそれなりに魅力的であっただけであり、少女自体には目的はない。
それを裏付けるように、人型は興味の無さと、わずかな労いが込められた視線を少女に向けている。
少女がそれを見かけたかはわからないが、この人型も清掃活動に参加してはいた。
しかし人型は落第街暮らしという条件が付いてもあまり学生のような雰囲気は持っていないだろう。
その雰囲気は例えるなら暗殺者から死臭を抜いたようなもので。
■黛 薫 >
呼吸もままならない悪臭の中、完全防備の厚着で
炎天下での作業。悪環境での作業中に向けられる
忌避と嫌悪、憐憫の視線。自分を遠巻きに監視する
風紀委員からは突き刺すような不信を感じていた。
ずっと視線に晒されていたお陰で神経は尖っていて、
貴方に声をかけられるよりも一拍早く顔を上げた。
「別に……あーしの許可とか、いらねーですし」
やや掠れた声で許可はいらないと伝え、座る位置を
少しずらしスペースを空ける。話しかけられたなら
応えるのが礼儀かとも考えたが……提供できそうな
話題が思い付かず、未開封の弁当箱に視線を落とす。
■サティヤ > 「ありがとうございます、
それでは隣失礼します」
隣にいても良いと言われたこと、
それと少女が場所をあけてくれたことに感謝の言葉を伝え、空けてもらったスペースに腰掛ける。
「そのお弁当」
一拍置いて。
「あなたも清掃に参加してたんですか?
お疲れさまです、それとありがとうございます
自分も汚いところは好きではないのでこういった活動があってとてもうれしいです」
少女がフードを被っていること、
それと自身もコートのフードで視界が狭まっていることから、視線を少女の弁当と膝のあたりに向けながら声をかける。
声音にはねぎらいと純粋な感謝が、視線にも概ね同じ意図が混ざってはいるが、少女に対する表層のみに対する興味が含まれている。
辞書を意味もなく読むような、そんな興味。
■黛 薫 >
初めは風紀か公安のどちらかだと思った。
多少の労いこそあれど、興味のなさすぎる視線は
奉仕活動に志願した学生にはそぐわなかったから。
しかしそれにしては会話の内容に違和感がある。
汚いところが好きではない、というのは落第街に
暮らす側の人間のような言い分だ。
何より、視線から読み取れる感情が薄っぺらい。
機械的というか、感情より先に意図があってそれを
なぞっているような不気味な無機質さが感じられた。
「ん……あーたも参加してた、んすよね?
ならお疲れはお互いさま、っつーコトにしといて
くださぃな。これからの季節、ゴミを残しとくと
腐ったりしてメンドーですし……いぁ、どっちか
ってーと、少し遅いくらぃ?ですけぉ」
偏って割れた割り箸を弁当箱の上に置き直す。
会話のために食事を後回しにしたようにも見えるが、
黛薫は箸を割ってから弁当の蓋すら開けずにじっと
座っていた。食欲がないのだろう。
■サティヤ > 「はい、参加させてもらいました。
学生じゃないとダメだって風紀委員会?の方々には言われたのですが
頼み込んで参加せてもらいました。
お金はもらえませんでしたがお弁当だけはもらえました、優しい方々でよかった」
「これからもっと暑くなると思うと確かにそうですね。
ゴミは腐ると……食欲が無いのですか?
良くない話題でしたね……すみません、愚かでした」
ー人を殺せる匂いになることもありますからね、と言いかけて口を紡いだ。
手つかず弁当と割られた割りばしを見て少女の気分をさらに悪くするのは憚られると感じたからだ。
言葉にも視線にも謝罪に相応しい意は込められているだろう。
後悔もあるだろう、しかしそこに反省はない。
やってしまった、そう思った先に次は気を付けよう、がない。
■黛 薫 >
「学生じゃなぃ、ってコトは異世界、異邦人か。
今なら風紀がいるから事情を話せば取り計らって
もらえると思ぃますが……そうじゃねーんだろな」
困っている様子ではない。落第街目線の発言から
察するに、未だ訪れて間もなく事情が飲み込めて
いない訳でもないだろう。
明らかに表面上のものでしかない無機的な感情は
世界の隔絶による文化の差で片付けるには難しい。
繕い演じるだけの知恵もあり、しかしその目的が
見えない不気味さがあった。
「別に……出されたモノくらい食べれますし。
配られたばっかだから問題なぃとは思いますが、
この暑さですし?あーたも早いとこ食べた方が
良ぃんじゃないすかね」
食欲は無いけれど捨てるのはもったいない。
掃除したばかりの街を汚すのは気が引けるし、
この街における食料の価値は身に染みている。
かといって返却しても廃棄されるだけだろう。
加熱済みとはいえ、夏場はとっておくことも
難しい。結局のところ無駄にしないためには
今ここで食べるしかないのだ。
■サティヤ > 「お気遣い、ありがとうございます。
でも、自分はどちらかというとここの方がマシだと思ってるので。
ここを出ても……きっとさらに愚かになるだけなので」
ここにはもう持っているものがあふれている。
ここから出て新しいものを持つなんて、考えられない。
今まで表層のみに触れるようだった視線に、内面を見透かすような感情が乗った。
ラベルを張り付けたのだ。人型が少女に向ける視線の好奇心が薄れた。
代わりに「お前もそうか」という。高評価でも低評価でもない。
”規格内”のラベルが張り付けられた作物を見る目。
期待も失望もない、平坦な感情が視線に合わせて少女に向いた。
「ええ、今日の夕食にしようと思ってます。
せっかく貰ったものを無駄にするのはあからさまに愚かですから。
食べない手はないです」
視線が変わっても、ラベルを張り付けても態度や言葉遣いが変わることはない。
「ところで、あなたはなんで清掃に参加したんですか?
ずいぶんと……年若そうに見えますが、
ここに住んでたりするんですか?」
相変わらず知識としてしか興味のない問いかけ。
年少の者でもここに住んでいることは知っているが、まさかこの少女もそうなのだろうか、という。
憐れむ"感情"ではなく、哀れな"事実"としてしか見ていないことが少女にならわかるだろうか。
■黛 薫 >
「愚か、ね」
殆ど噛まずに米を飲み込む。味が分からない。
酷い味の食べ物を飲み込むことになれたからとか、
保存や補給のためにきつい味のものばかり食べて
いたから仕方ない、と心の中で言い訳する。
食べてもらう為に作られた物を『美味しくない』と
言いたくないから、理屈をつけて自分の所為にする。
「ま、あーたが良ぃなら別にあーしが言うことも
無ぃでしょ。だから、コレは単なるお節介ですが。
あーた、さっきから『決断』してねーだろ。
自分の中の既知で分けるのは『判断』ですし?
考えもしてねーのに愚かとか、可笑しいったら。
思考停止は賢愚の分岐以前の問題でしょーよ」
わざとらしく煽るような物言い。
表面的な言葉、視線に込められた感情から相手を
定めるのはそれこそ『愚か』。だから判ずる為の
材料は此方からアプローチして引き出す。
「そ、あーしの住まいはこの街ですとも。
手が入らなきゃゴミも汚れも放置されっぱなしの
酷い街すよ。あぁ、あーたにゃマシに見えるって
話でしたっけ?どーやら良い目をお持ちのようで」