2021/10/07 のログ
黛 薫 >  
「あ……ぅ、いぁ、しないときも……ある……」

相手が救急キットを取り出して初めて発言の意図を
理解する。落第街に長くいるといつの間にか怪我は
日常の一部になる。傷は他者に付けられようが自分で
付けようがどうでも良い物になっていて。

少なくとも目の前の彼女にとっては当たり前では
なかったのだと飲み込むまでに時間を要した。

黛薫には『視線』から感情を読む異能がある。
貴女の痛ましい表情が打算や八方美人のための
演技ではないと分かってしまうから……余計に
どんな表情をして良いかが分からない。

「……怒らなぃんすね。風紀って、もっとなんか、
落第街の住民に……厳しぃってワケじゃねーけぉ、
自己責任ってか、自業自得ってか……そーゆー線、
ちゃんと引いてるもんじゃ、ねーんすか」

伊都波 凛霞 >  
「…そっか。あんまり続けると痕が消えなくなっちゃうよ」

その行為を嗜める、叱るというようなことはしなかった
見た時は、勿論慌てたけれど
痛みや苦痛を、何かの反動や糧…あるいは生の証明…
色々な理由で、当人には必要な行為の場合だってある
それをまとめて否定したりは出来ないのだと知っていたから

嫌がらないのであれば、その手に痛まない程度の消毒や軟膏などを施し、清潔な包帯を手際よく巻いてゆく

「うーん…厳しい人もいるから、間違いじゃないかな。
 学園としては、この場所と住人の存在を認めていないから」

「でも理由があって此処に住んでいる人もいるしね。
 正規の学生だろうがそうでなかろうが、痛いものって同じく痛いと思うから」

てきぱきと処置を終えると、もう一度微笑みを向ける

黛 薫 >  
「……変なの」

どうせなら優しさに報いる言葉を言いたかった。
痛いものは痛いから、と。惨めな自分にも言える
美しい心を持つ人には、せめてそれを飾るような
綺麗な言葉で繕いたかった。

けれど同じくらい、その優しい言葉が疎ましい。
全部嘘であってくれたなら。やっぱり裏切ったと
貶すことが出来たら、こんなにも惨めな気持ちで
いなくて済んだのに、と。

そう思ってしまう自分が何より嫌だった。
そんな言葉しか言えない自分が嫌だった。

それでもマイナスな言葉を口にしてしまったなら
せめて釣り合いを取りたくて。憎まれ口だけ叩いて
別れるのは負けたような気がして。だから感謝の
言葉くらいはきちんと目を見て言おう、と。

フードと長い前髪で隠していた顔を上げる。
目を逸らしていた貴女の顔を初めて直視して。

ひゅ、と喉の音で細い音が鳴った。
治療を受けていた手が急に強張った。

知っていた。その顔を知っていた。

一昔前、学園内でバラ撒かれた画像と動画。
目を逸らしたくなるような映像に映っていた
女子生徒の顔と、同じだ。

伊都波 凛霞 >  
「ヘンかなー、あはは、ヘンかも」

今となっては自分のような風紀委員は珍しいのかもしれない
戦闘能力に特化した過激派も多いし、落第街周辺に暮らす人からすればそちらのイメージのほうが強いはず
なのでそう見られても、仕方ない
もっともそういった事情がなくとも、この女生徒は朗らかに受け止めるのかもしれないが

「これでよし、っと…。
 この辺りじゃ清潔に、っていうのは難しいかもしれないけど
 感染症なんかも怖いしできるだけ… …? どうしたの?痛かった?」

短い呼吸音と、その身体の強張りに不思議そうにその顔へと視線を上げる

黛 薫 >  
咄嗟に、突き飛ばすように距離を取った。
体幹の強さの差があるから殆ど自分だけが
転ぶ無様な姿勢になってしまったけれど。

「なんで」

「なんで優しくした」

バツの悪そうなおどおどした声音は鳴りを潜め、
泣きそうに、吐き出すような声で呟いた。

「変だ、そんなの。おかしい、だって」

貴女は、酷いことをされたはずだ。
他ならぬこの街の、落第街の住民に。

そう言おうとして、喉が詰まる。
言ったところで何が変わるだろう?
嫌な思いをさせるだけじゃないか。

知っている。知っている。知っている。
望まない行為の悍ましさを知っている。
『そういう目』で見られた人に対して、
人間がどれだけ残酷になれるか知っている。

「あーたは、怒っていぃはずじゃねーか。
あーしだって、この街の、不良で、だから、
悪いんだ、この街に、いるから……」

伊都波 凛霞 >  
「っ、と…!」

突き飛ばされる、が…こちらは一歩後ろに下がった程度
むしろ相手の少女のほうが転んでしまって
思わず大丈夫かと近寄ろうとした、時
少女の悲痛な声が届いた

なぜ少女がそうしたのかはわからなかった
手に触れたときも、異能で読み取るなんてことはこの風紀委員の女はしない
してもバレないと理解っていても、しないのだ
だから、わからなかった

「…あはは、だからヘンなのかも、って …そういう話じゃなさそうだね」

少しだけ困ったように、頬を掻く
この街にいるから、不良で、悪い
そんな言葉を聞けば少しだけ心苦しそうに、笑う

「うーん…でもキミが悪いコで、
 私に危害を加えようと思ってるならとっくにしてるだろうし。
 誰かに悪いことしてやろう!ってタイプじゃないのはなんとなく、わかるよ」

手当をしている間も、少女に近づいて来る時も
どちらもこの女生徒は余りにも隙だらけだった
気を張っていては相手を警戒させる…なんて事情もあるが、
どちらかといえば人柄に寄るところが多いのだろう

目の前の少女が自身の過去の事件を知っているなんてことは、考えにもなく…

黛 薫 >  
自分の言葉が足りていないのは分かっている。
此方の行動は奇怪にすら見えるかもしれない。

それでも、自分が行動の理由を口にした所為で
相手に嫌なことを思い出させてしまったら、と。
そう思うと何も言えず、まるで癇癪を起こした
子供のように、勝手に泣きそうになるばかり。

もし、ここで自分が豹変して相手を傷付ければ
『優しい女の子』は風紀委員としての立場を
優先してくれるだろうか、なんて考えたところで
実行出来るはずもなく。

「ロクなヤツ、いねーよ。こんな街なんだから。
あーしだってそうだ。あーたに危害加えなくても、
悪いヤツだ。そーやって割り切った方がイィだろ、
あーたみたいな優しいヤツから、人を信じようと
してくれるヤツから食い物にされるんだ。

落第街って、そーゆー場所だろ、分かるだろ。
優しくなんかすんなよ、あーしもろくでなしだ。
何だよ、なんで無警戒で近付くとか出来んだよ。
もしあーしがホントにあーたに危害加える気で、
隠してるだけだったらどーする気だったんだよ」

絞り出すような言葉は、危害を加える気がないと
告白しているようなもの。貴女の身を案じている。
けれど自分はこの街にいるから悪人だと卑下して、
(そう感じた理由は伏せつつも)貴女には怒る権利が
あると主張する。

変なのは一体どちらやら。

伊都波 凛霞 >  
「………」

捲し立てるような少女の言葉を、ただ黙って聞いていた
少女がその言葉を吐き出し終えるまで、待っていた

「でも、人に信じられないのって痛くない?」

ゆっくりとした喋りだし
優しくするなと、自身をろくでなしだと言う少女に近づいて

「悪い人はたくさんいると思うけど…
 そうじゃない…仕方なく此処で暮らす人もいるってことは知ってるから…。
 一方的に信用されない痛みを誰かに与えるくらいなら、まぁ風紀委員って痛いのにはなれてるからさ」

そう言って微笑み、大丈夫?と転んでしまった少女に手を差し伸べる

「人を傷つけるよりは、騙されるのは痛いけど自分が悪いだけだから、気楽なんだよ」

とんでもなくお花畑な思考回路なのは自身でも理解しつつ
何度も是正しようとしたこともあったし周りからも言われたけど変われず
痛い目にあっても直らなかったのだから、自分がこういう人間なのだと受け入れた

過激な風紀委員がいる中で、自分は必要な人に手を差し伸べられるように在ろうと
例えその手を跳ね除けられても、そうしようと決めたのはいつ頃だったか

黛 薫 >  
「……頭お花畑かよ」

ぽつり、呟いた言葉は結局憎まれ口。
しかしその声音には嫌悪もなければ侮蔑もない。
相手が『痛い』目に遭うのを心配するかのような、
不安と心細さが入り混じった声だった。

「変。やっぱ変だよ、あーた」

差し伸べられた手は取らず、自力で立ち上がる。
自分が触れたらその手を汚してしまう気がして、
けれど跳ね除けることは出来なかったから。

「……でもよ、他の人が痛い目に遭うくらいなら
自分が引っ被る、とか。他人を大切にしてんのな。
そーゆー変人、あーたの他にもいるかもだし。

なら、あーたが痛い思いすんのがイヤな人だって、
ホントにいるかなんざ知らねーけど、いるかもだろ。
だったら、痛いのは悪ぃヤツの自業自得で済ませて
自分を大切にするのもイィんじゃねーの、とか。
あーしは……思ったり思わなかったりしますけぉ」

気まずそうに視線を揺らしながらも、フードに
隠れずに貴女の顔を見て、そうぼやいた。

伊都波 凛霞 >  
「よく言われる」

可愛らしい憎まれ口には笑顔でそう返す
手を取らず、自力で立ち上がる姿には無用な心配はいらないという感情も感じつつ

「うん。勿論自分を疎かにしてるわけじゃないけど、
 ほら、風紀委員っていう立場上、そういうわけにはいかないことも多いからね」

左腕につけられた腕章を引っ張って、描かれている風紀の文字をアピールする
危険と理解っていても動かねばいけないし、責任もある
それがなければ、自分をもっと大事に考えてもいいのだろうけど

「私はヘンかもしれないけど、キミも悪い子ではないよね」

悪い子はそんなコトを言ったりしないものだ
弱さが見えればそれにつけ込む、隙が見えれば入り込むもの
この子は信じても大丈夫
漠然としていたそれがカタチを帯びてきた

「キミも、何か理由があってこの辺りで生活してるんでしょ?
 もしかしたら一筋縄でいかない複雑な事情かもしれないけど…
 私で何か力になれることがあったら、いつでも言ってくれていいからね」

この辺りはちょくちょく巡回するだろうし、と付け加え、

「あ、風紀委員の伊都波凛霞って言います。良かったら名前、教えて?」

笑顔を崩さず、そう問いかけた

ご案内:「スラム」にフィーナさんが現れました。
フィーナ > 「………おっと」
薫を追って、スラム街にきた人に擬態したスライム。

見つけたは良いものの、一緒になっている人物を見て思わず影に隠れる。

あの服装は、確か…風紀委員、だったか。

心得の有る者なら怪異である私を見抜くかもしれない。
一度、物陰から様子を伺うことにする。

黛 薫 >  
「悪い子じゃなくなんか無……なんかややこし。
あーたがどう感じたかとか?知らねーーですけぉ。
あーしが此処にいんのはちゃんと学園に通えねー
クズだからすよ、フツーに不良で悪い子でーすー」

拗ねたように呟く姿は普通の女の子のようで。
『悪い子』という響きがいっそ可愛らしいほど。

「……あーしは黛薫(マユズミ カオル)っす。
忘れてもらって構ぃませんけぉ。あーしの名前を
知ったとこで、ロクな話と繋がりませんし」

自分で言っておいて少し気が重くなる。

違反学生、黛薫の処分は1件あたりの罪状こそ
軽めなものの、処分件数は一般的な違反学生と
比較してかなり多い方だ。

違反を咎められても抵抗せず、時には自首する為、
一部の風紀委員のポイント稼ぎに使われたことが
遠因だが……どうあれ悪事を成し、風紀に手間を
使わせているのは事実。

「……んじゃ、あーしはこの辺で。
どうも迎えが来たみたいなんで」

彼女相手なら顔を合わせても問題ないのでは、と
思う反面、万が一にも同居人と凛霞が敵対するのは
見たくないと思ったので、この場を離れる選択を
取ろうと試みる。

伊都波 凛霞 >  
自分で自分のこと不良っていうコで根っから悪い子、今の所見たコトないんだけどなあ
なんてことを思っていると、ちゃんと名乗ってくれた

「黛さんね。大丈夫、知ってることが重要なんだよ」

呼ぶ時に困ったりもするしね、と笑って

「迎え?」

視線を巡らせる
物陰に隠れているのだろう気配をなんとなく感じると、成程と頷いて

「そっか。じゃあ安心」

私もそこの人が起きないうちに帰ったほうがいいね、と
自身がKOした男性を一瞥して

「それじゃ、気をつけてね?」

救急セットをポーチに締まって、えーとどっちから来たっけ…と
方向を確認すると手を振って別れの挨拶をして歩きはじめる
もうしばらく巡回をしてから帰路に着くのだろう

話の全く通じない悪漢と出会って少しげんなりしていた気持ちが
ちゃんとお話のできる子と出会ったことで癒やされた夜だった

ご案内:「スラム」から伊都波 凛霞さんが去りました。
フィーナ > 「………隠れてる意味無いじゃないですか」

一応他にもいるかも知れないので、両手を挙げて姿を表す。

「今の、風紀委員…それも、かなり有名な方ですよね?」
スラムや落第街を根城にしている以上、ああいった代物は目につくし、それ以上に風紀委員としての活躍が凛霞を有名にしている。

発生してから1年程しかいなくても、耳に入るというものだ。

「別にお邪魔するつもりはなかったんですが。手厚く治療もされてたみたいですし」

黛 薫 >  
「有名って『灰被り』としての方だよな?
隠れたところでどーせ気付かれてただろーし、
んなら信用……信用?されてたあーしが敵じゃ
ねーって伝えんのが1番安全だったろ」

言外に貴女を危険な目に遭わせたくないとぼやく。

「あーたが拙速な行動に出るとは……思ってなくも
ねーけど、考えるときはちゃんと考えるヤツだって
ちゃんと知ってるんで。そっちの心配はハナっから
してねーです。

あっちも風紀委員っつー立場があるし、どこまで
怪異を見逃してくれるかあーしにゃ分かんねーし」

フィーナ > 「まぁ、あの時点では顔を突き合わせないほうがお互いの為でしたし。一応、私人間から見たら悪でしか無いと思うんですけどね?」

一応、自覚はある。悪食であるが故に人も食うし、なんなら人を寄せるためにヤクだってバラ撒いてる。
私個人は最近は控えてはいるが、人類の敵には変わりなく。なんなら禁書発掘もしているので本当に最悪である。

「あぁ、そうそう。この前ちょっと無理矢理黄泉の穴に潜入しまして。禁書の類といくつかアーティファクトっぽいものを回収してきました。」

勿論、損害なしとは言えない。かなりの魔力を持っていかれたので、今戦えと言われても殆ど魔術は使えないだろう。

「それで、『召喚儀式』というのを見つけましてね。利用できないかと考えたんです。あれは、魂を呼び込む『転移術式』でして…」

ざっくばらんだが、薫の左目の深淵に閉じ込められている魂を、召喚儀式で呼び出せないか、という話だ。
身体となる素体も、つながりも、薫自身がいるから大丈夫なのではないか、と。

「ただ…ちょっと欠けがあるように思えてですね。一度失敗したものですし、貴方の力も借りれないかな、と思いまして」

黛 薫 >  
「無理矢理入り込めるっつー無理が通っちまうなら
あーしの助けとか誤差レベルだと思うんだけぉ……」

ため息ひとつ。魔術が行使できないという前提が
ある限り、黛薫が手伝えるのは理論構築がメイン。

高出力でゴリ押してどうにか出来てしまうのなら
半分以上が無駄になるし、机上の空論じみた出力
頼みが出来るなら、大雑把な理解だけで事足りる。

緻密に組み上げたプログラムも(バグがなければ)
スパゲティコードで動く高性能マシンに敵わない。
そういう差だ。

「そーゆー無茶を通すから拙速な行動をしないって
断言出来ねーのな。ま、あーしは食わせて貰ってる
身だかんな。やれって言われりゃやりますよっと。

召喚儀式関連っつーとアレか、黄泉の穴が出来た
キッカケに関わるやつだな。やらかした組織も
出来る限りの準備は整えてたんだろ、それ関連の
資料は黄泉の穴で見つけやすい部類に入るかんな」

フィーナ > 「いえいえ、無理を利かすのは相手が怪異であったり容赦の必要がないからでして…綿密な構成が必要になるものは私では難しいのですよ。
攻撃術式とか多少雑でも魔力があったり物理ができればいかようにでもできますから」
これは、事実だ。ただ火を起こす、温度を上げる術式等は簡単だ。単純に、それに莫大な量の魔力を注ぎ込んでビームにしてみたり爆発させたりしているだけで。

そうではない、綿密な精度を要求するものに関して言えば、過剰な魔力は逆に扱いづらいのだ。

要はパソコンである。出力を間違えればハードが壊れる、コードを間違えれば…セーフティを設けていなければ、文字通り『何が起きるかわからない』のである。

「黄泉の穴にあるのはそういったモノが多いようで。いろんな書物がありましたが…何しろ元が『失敗したモノ』ですので。慎重に運ぶほうが良いでしょう。それで、一応それを元に組んでみたんですが…」
ノートを取り出して、薫に渡す。
儀式をする上での、術式を纏めたものだ。
媒体を使用して魂を固定、座標を特定、転移門を使用し魂を転移。更に媒体を利用して魂の固着、魂の情報を元に身体を構成。転移門の閉鎖等。様々なものがあるが…フィーナはこれでは足りないという。

黛 薫 >  
はらり、はらり、ノートの頁を捲る。
流し見ているような速度だがその目は真剣だ。
それだけ魔術書に、魔術式に目を通し慣れている。

「この場合媒体にあたるのがあーし自身てことか。
てことはココとココとココ……あとはココも、か。
最低でも4箇所、術式を安全に終了させる予備策を
備えとかねーと、失敗したときあーしヤバいな。

1番大事なのは転送直前のセーフティになんのかな。
あーたの事前調査通りなら……あーしは実感とか
ねーけど、あーしの眼ん中に『虚空』があんのな。
ココでのセーフティが機能しなかった場合、最悪
それが一緒に引き摺り出されるコトになるだろ。
『無』は果てが無ぃから『無』なワケなんだから、
うっかり召喚でもしたら、物理的に想定出来ねー
規模で空間が食い破られるコトに……」

言葉を切る。呼び出そうとしたものは違うにせよ、
『黄泉の穴』が出来た原因も根本的には変わらない。
物理的な『規模』で測れない存在を呼び出そうと
した結果、呼び出すべきモノが存在するはずだった
『空白』が『穴』として残った……なんて。
あり得るだろうか。あり得なくはない気がする。

「悪ぃ、考えすぎた。どうあれ、あーたの報告を
あーしなりに噛み砕いた予想だと、眼の中にある
『虚空』はあーしを内包してる。で、そん中から
あーしだけを取り出したい……ってトコか。

安全を取るなら身体の構成は召喚対象の固着より
先が良ぃと思う。元から不可分を切り離す目的の
術式だ、どうしたって切り離したい要素が別れず
付いてくるリスクは付き纏う。失敗したときの
成果をマイナスじゃなくゼロにする方策って言や
イィのかな。でも……多分『欠け』を感じたなら
問題はそこじゃねーな。精査しなきゃなんねー所、
別にあると思う」

相変わらず魔術のことになると口数が増える。

フィーナ > 「セーフティがないのはまだ理論の構築の段階で…あ、気になることがあったら書いてもらって構いません。
で、取り出す場所が場所なんで、万全を期したいのですが…多分、彼らは彼らで安全策は講じているはずなんですよ。それほどの代物を呼ぼうとしてるわけですから。」

これだけの術式理論を構築するのだ。失敗したからと言って馬鹿ではない。むしろ才があったからこそ、失敗の取り返しがつかなかったと言ったほうが正しい。

「それで、貴方の言う通り空間が食い破られるなら、術式そのものを防護する必要がありそうですね…身体構成には貴方の身体をそのまま使うので、正直省略しても良さそうな気はします。ですが…うーん」
やはり、何か足りない気がする。どうして、召喚が成らず黄泉の穴が出来たのだろうか。

「何故、異界が出来上がってしまったのか…いや、異界と繋がってしまったか?」
私が読んだ禁書には転移門の閉鎖も書かれていた。つまり―――それだけでは不十分なのか?

黛 薫 >  
「あーしと『虚空』が不可分なら、あーしの身体を
そのまんま再利用すると上手く切り離せたとしても
再統合されるかもだかんな……ってもだから自己を
構築し直すってのもリスク的には……んんー……」

「有能だったから此れだけの被害を齎すほどの
『何か』に手が届きそーになったワケだもんな。
その手の術式で1番簡単なリスクヘッジは召喚の
対象の規模を制限するコトだけぉ……制限したら
意味がない、って場合もある。『黄泉の穴』が
出来る程の惨劇ってこた、制限はしなかったと
見て良ぃんだろな……。

ま、あーしらの場合問題が別にある。失敗した
場合に引き摺られてくんのが『無』である以上、
制限って手段が取れねーのな。存在規模だけに
焦点を絞った場合、呼び出そうとする対象より
小さいコトになる。フィーナの言う通り、術式
そのものに防護を施さねーことにはまず試行すら
出来ねーんだわ。『無』が引き摺られて来た場合、
波及が小規模でも術式に穴が空いちまうかんな。
そうなりゃ術式暴走真っしぐらだ」

「どうもフィーナが引っかかってんのは未だに
異界と繋がってる穴が残ってる事実そのものか?
閉じる方法が書いてあってかつそれが正常に行使
されてたんなら、失敗しても門は閉じられてる筈。
最低でもあーしらと同等の賢さがありゃその辺の
セーフティに手が回ってねーはずが無ぃ。

可能性の1つは儀式が途中で破綻して、術式自体が
崩壊して予期された終着点まで届かなかった場合。
そうじゃなければ……あーしらは勿論、当時儀式を
行ったヤツらにも気付かなかった、知り得なかった
不足があったか。もしそうだとしたら迂闊に手ぇ
出せねーのが1番困るわな」

フィーナ > 「うーん…しかし禁書が形として残ってる以上、人数がいた事も考慮すれば『書き直し』は利くはずなんですよね。その辺りのリスクも完璧ではないにしろ勘案はしてるでしょうし。

何にせよ『強制終了』に近い手段も用意していたと思うんですよ。それでも、ああなってしまったのは…『呼び出したものがそういうモノ』だったのか、あるいは、『理論構築自体に不備があったか』。術式に問題がなく、セーフティも機能してるのなら、そういうことになるはずなんですよ。ですが、呼び出したものは存在せず、異界だけが顕現している。なので、私は『理論に不備』があるのではないか、と考えてるんです」

黄泉の穴は、あくまで副産物なのだ。でなければ彼らは壊滅することはなかったはずなのだ。

「文字通り穴なんですよね。そこにあったものがなくなり、別のものに置換されてるっていう……………」

そこまで言って、気付いた。

「……無くなってる?」

黛 薫 >  
「皮肉なコトに『無くなる』リスクはあーしらも
抱えてんだよな。完璧に理想通りに事が運んだら
その心配もいらねーけぉ……要素を綺麗に完全に
切り離すってのは元から簡単じゃねーんだし。
ましてそれでくっついてくる可能性があるモノが
『虚空』ときたら、召喚の結果『穴』が空く……
なんて割と冗談じゃ済まねーと来てる」

そういえば、黄泉の穴が出来るきっかけとなる
事件で、違反部活動が呼び出そうとした存在は
『無名の恐怖』と呼ばれていたのだったか。

「『無』……なぁ」

嫌な整合性を見出してしまい、思わず溜息。

「少なくともあーしと直接の関係はねーよな。
そもそも、その頃あーしは島にいなかったし。
でも、不吉な共通点がある事例を無視するのは
いくらなんでも怖いんだわ。

あーしはあーしで術式の方、色々見直しとく。
フィーナもなんか気付いたら教えてくれな。
勘ってのは馬鹿に出来ねーし、実際に魔術を
行使できるフィーナじゃねーと気付けないような
違和感も、あるかもだかんな」

フィーナ > 「…いえ、それもあるにはあるんですが…最も基本的な事に立ち返りましょう。

所謂『対価交換』ですよ。

勿論、召喚の結果として穴が空いた可能性も否定は出来ませんが…これが、『対価』として持っていかれたとしたら?

ええと…新世魔術師会、でしたか?もし、彼らがきちんとセーフティをした上で召喚しようとして…その対価として彼ら全員とこの世界の一部を持っていかれた上で、それでも辻褄が合わないから穴が空いたまま…という事じゃないでしょうか?」

そう、均衡を保つための、『等価交換』。錬金術の基本中の基本。

儀式は成らず、異界との繋がりも消えていない。と、するならば…下手をすれば、これは『儀式が現在進行系で続いている』事を意味するのではないか?

「下手をすると儀式が継続したまま…というのも考えられますが。その辺りどう考えます?」

黛 薫 >  
「その場合、儀式に用意した対価が不足してたって
コトか。儀式が継続されてると仮定したら、維持の
リソースが何処から来てんのかって問題はあるけぉ。

あーいぁ、でもあり得なぃ話じゃねーのかもだな。
対価の不足でそれ以上が持っていかれる可能性が
あったんなら、当然それを止めようとする動きも
あったはず。現状『黄泉の穴』は完全な封印こそ
出来てなぃながら、魔術的な封鎖はされてんだし。
召喚用に繋げられた門は対価が不足していた為に
周囲全てを飲み込む可能性があった。儀式は既に
対価を要求するフェイズにあったから強制中断は
出来ず、儀式を維持しつつ対価を満たすまでの間、
封鎖という形を取って……時間をかけて要求量の
対価を支払い続けてる、とか。

その場合、不足分の対価を補填さえ出来たなら
穴は塞がんのかな。封鎖の規模を見る限りだと、
この世界が終わるのと対価の支払いが終わんの、
どっちが先だかって感じだけどな。

っても、それもあり得るってだけの話であって
確認は難しぃけぉ。確認が取れたらあーしらの
目標のヒントに……ならなそうだなー……」

フィーナ > 「そもそも対価を補填する、というのがナンセンスです。もし対価を払い終えたら…それは、儀式の進行を意味します。つまり…次こそ本当に『無名の恐怖』が出て来てしまいかねないです。

そうなったら一体誰が止めるんですか。あれ以上の惨事引き起こす奴と対峙するなんて嫌ですよ私は。

幸い、現状だと穴から出てくる怪異のお陰で支払いが終わる目処は無いですけど…まぁ、仮定ではあれど、用意するものはそこまで難しくありませんよ。

なんせただ一人の魂です。同じものを用意して、足りない分は魔力なりなんなりで補填すればいい、とは思います。
今ハロウィンだかなんだか知りませんが、幽霊やらなんやらが飛び交ってるみたいですし。その一つでも確保すればその問題はクリア出来るんじゃないですかね?その場合…多分新しく身体作ったほうが良さそうな気はしますが。」

いうなれば左目に誰ともしれぬ者を抱え込むことになる。いい気分はしないだろう。

「ともあれ…何より実験ですね。仮定を実証へと変えなくてはいけません。実験を繰り返して記録を取って、足りないものを見極めるしか無いでしょう」

その段階で、色々と犠牲になりそうな気もするが。

黛 薫 >  
「そりゃそーだ。実際に払い終えたらもっと酷い
コトになるのは目に見えてるもんな。そーなると、
儀式が中断されてねーって仮説はハナから対価を
支払い終える気が無くて、引き伸ばし先送りして
中断出来なくなるまで進行した儀式を誤魔化してる、
っつー結論になんのかな。合ってるかしらねーけぉ」

確かめようがないからこそ議論は気楽に出来る。
逆に言えば形にしなければならない議論の方は、
真剣に考えざるを得ないのだが。

「その足りない分魔力で補填すれば良ぃって考え
出来んの、あーたくらいだかんな?死者の魂なら
色んなしがらみが切れてるから問題ねーけぉ……
生者の魂って存外重いんだぞ。じゃなきゃ生贄は
有効に機能しねーし。

ま、んでも『黄泉の穴』で行われた過去の事例に
比べりゃ呼び出したい対象があーし1人分てのは
軽いのは間違ぃねーな。極端な話、運命の重さが
あーしと同等の生贄が用意出来りゃ良ぃんだし」

顔を顰めるあたり、そういう手段は好みでは
無いのだろう。とはいえ黛薫の魔術への渇望を
考慮すると、代替手段が見つからなかった場合、
苦しみつつも手を出すのだろうが。

「実験にあーし使うなら、術式の防護最優先な。
うっかり『虚空』の欠片でも召喚しちまったら
術式に穴が空くから、もうアウトなんだよな……。
似たデータなら取れても、同等のデータの為には
あーしが身体張らねーといけねーワケだし……」

議論を交わしながら帰路に着く。

魔術関連の話なら延々と続けられるのは黛薫の
長所でもあり、短所でもある。興味ある分野に
関しては寝食も忘れかねないので……帰宅して
議論が終わったら倒れるように眠るだろう。

ご案内:「スラム」から黛 薫さんが去りました。
フィーナ > 「…………いやいや、『大切なもの』を安々と実験に使うわけ無いでしょうに…っていうかそれは実験じゃなくて本番になっちゃうじゃない」

薫への危険性を限りなく少なくするための実験なのにこれでは本末転倒である。

「要素は一つ一つ潰せばいいです。最初は対価の問題…死者の魂を呼び出す儀式。次にその左目と似た環境である異界を用いた儀式。生きてる人間も試して…それで実証を詰めていって、それから本番ですよ」

元々がスライムだから人間に対する犠牲を厭わない。倫理というものがないから簡単に言ってのける。まるで実験用のマウスが如く。

それでも、薫のことを『大切なもの』と称する辺り、変わってきてはいるのだろうか。

ご案内:「スラム」からフィーナさんが去りました。