2022/09/18 のログ
ご案内:「スラム」に清水千里さんが現れました。
清水千里 >  
狭隘な路地を当てもなく歩くエインヘリヤルの身体が、ふいに誰かの肩に触れた。

誰だろう、と思って見上げてみれば、どことなく儚げな、淡い黒髪が真っ先に目に入るだろう。


「――自分が何者か知りたいかね?」


突然現れた女性に、怪しげな囁きを投げかけられる。

女性の瞳は他者を突き放すような強さがありながら、どこか物悲しげでもあった。

エインヘリヤル > 「何者か……ええと、どちら様でしょう?」

とりあえず、エインヘリヤルに思い当たったのは、いきなり話しかけてきた彼女は何処のどなただろうということであった。
現状、ココが裏町であるということくらいしか知らない。

裏街で声をかけてくる相手がどんなものかということも今はよくわかっていなかった。

ただ、声をかけられて、無反応のまま対応しないくらいの節度はあった。
正確には、基本情報の基本的な態度でしかなかったが、バニラに近い状態でも応対にそれほど困るような人格OSでもない。

清水千里 >  
「当然の疑問だ、今の君にとっては」

目の前の女は、エインヘリヤルの言葉に満足げに頷いた。

「しかし、未だ私の素性について詳しく話す時ではないだろう。この場所は、込み入った話をするのにあまり適した場所とは言えないのでね」

そう言って、周囲を一瞥し。

「ひとまずは、私は君の過去について知っている、と述べるに留めておこう。
それから、この事については信用してもらう他ないが、現在のところ私は君の味方だ。
――少なくとも、このスラムに大勢いるような、売人やポン引き、マフィアのような違法な犯罪集団の類ではない。
無論、キミも質問があるだろうから――できる限りの事には答えよう」

エインヘリヤル > ……正直、ワケがわからない。
今のエインヘリヤルには、そもそも目的がない。

単に、黄泉帰っただけなのだから。
理由も経緯も知らない。時間が抜け落ちているという事実すらよく知らない。

2年ほど前には、この街で幅を利かせ、だいぶ好き放題にしていたのだが。
その時の記憶などない。

だが、自分が知らなくても過去はある。
彼女の口ぶりから、あまりよくないことというのだけはわかる。

「正直、よくわからないし、その……どうしていいかもわからないのだけど。
 ……今のわたしが知っておくべきことはあるのかしら?」

最低限、何かを知らないと行き詰まる。
だが、多くを聞くことは許されないという話をされた以上、とりあえず聞けることはそれだけだった。

清水千里 >  
「目の前の私が君をどのような存在として扱っているのか、
あるいは自分がどのような存在であるのか、
その理由を求めない人間は希少というべきだろうな」

エインヘリヤルが状況を理解できないことは初めから想定済みの事であった。
LLOの捜査局が落第街に普段見慣れない機械化素体の搬入情報を入手したのがつい先日。
彼女の身体の安全を早急に確保することは上層部による即決事項であった。

「なぜなら、君は狙われているからだ」

なおさら奇妙に思うかね、と目の前の女は自嘲気味に囁く。

「我々の観測では、キミがこのスラム街にとどまり続けた場合、今週中に2%、今月中に42%、今年中に72%の割合で君は死ぬ。
 ――これは君が死に至るケースの割合であって、軽度もしくは重度の損傷を被るケースを数に含めてはいないことを留意してもらいたい」

「だからこそ、我々は君を安全な場所に護送する必要があると判断した。
 少なくともこのような場所よりはずっとましな場所に。
 ほかに質問はあるかい?」

エインヘリヤル >  
「狙われ……って、護送?」

身震いする。

正直、良くわからない。
少なくとも、それが事実であれば、この護送も虜囚に近いそれでもある。

だが、頼れるものも知る人もいない。
だが知られている相手だけは多いようだ。
それだけは今の会話から分かる。

それと……少なくとも目の前の彼女が【自分の了解を得ようとしてくれている】のは理解できる。

「ええと、なんていうか……とりあえず話ができるところに行くっていうことでいいのかしら……?」

かつての姿は見る影もなく、たどたどしいし、何より、現状は弱々しく遠慮がちであり、年相応の少女でもある。
ただ、色々聞いてこない様子から、物わかりの良さに関しては失っていない模様だった。

戸惑いを優先してしまえば、感情的に騒ぐ方を優先するか、とにかく情報を得ようとするはず。
今はそれより行動を優先しようというあたり、少なくとも様子くらいは見れるようだ。

清水千里 >  
「私も君の自由を好き好んで束縛しようとは思わないし、そうする予定はない。
 だが君は多くの記憶を失っているようだし、その割に敵が多すぎる。
 もし彼らが今の君の状況を知れば、それこそ軍隊を率いて襲い掛かってくるだろう。
 我々はそういう状況に対処する能力がある。そのための護送だ。
 ……とはいえ、突然のことだ、君にとって理不尽であることは理解する」

 目の前の女が右手を掲げると、何十本という緑のレーザー光線が彼女の掌に集まる。

「――私が君を保護しようとする理由は二つ。
一つは、君の存在が常世島の治安秩序にとって本質的に危険であるから。
もう一つは、君自身に利用価値があるからだ。そのために我々は、多大な戦力を今ここに集結させている」

 無論、と女は息を吐いた。

「君があくまでスラム街での自由を志向するならば、私はそれを止めない。私にそのような法的、
あるいは倫理的な権限は存在しないからだ。その場合、服務規則の範囲内において君を護衛することになる。
しかし、正直に言うが、護衛任務の遂行において劣悪な環境であるこの場所では、君の身の安全を十分に保証できない」

「――私は人道的見地から君を保護するわけではない、ということは理解してくれ。私はそういう綺麗ごとを言うべき人間ではない。
だが、同時に、君の自由な行動を不当に拘束する意思がないのも、また事実だ」

エインヘリヤル >  
「何がどうなってるかわからないんだけど……」

正直、なんで自分なんかに、こんな大袈裟なことが起きているのかさっぱりわからない。
わからないけれど、少なくとも、彼女は大真面目に本気で話しているのはわかる。
だいたい、無理にする気ならとっくにやっている。

ついでに言うなら。
コレだけの対応が必要な存在として思われている、なにそれ。

なんで、こんなのが女の子一人捕まえるのに遠慮しつつ準備しているのか。
さっきの2%に入ってるんじゃないの?

まあともかく。
選択肢はそれほど多くはない。

「まあ……色々教えてくれるって言うなら、ついていくしかないのかしら?
 あと、服と甘いものを保証してくれるなら……いいかな」

清水千里 >  
「君が困惑しているのは理解できる。実際のところ、荒唐無稽な話だ。
 だが、それを言い出してしまえば、君の今の君の状況以上に荒唐無稽な話も世間にはなかなかあるものではないぞ?
 今記憶を失ってここに現れるまでの二年間の間、君は行方不明だったのだからな」

 ともかく、と目の前の女は言う。

「我々に協力してもらえる限り、君の要望はできる限り応えよう。君の身体のメンテナンスも必要だからな。
 自由行動についても、言ってもらえれば対応できる部分はあるかと思う。
 それでは、早速行こうか。車が待ってる」

 ああ、それから、といって。

「私の名前は清水という。Teacherと呼ぶものもいるがな。まあ、好きに呼んでくれ。
 それと、君のかつての名前だが――エインヘリヤル、だ。
 君の友人たちに会ったときに混乱しないために、あらかじめ伝えておこう」

ご案内:「スラム」に清水千里さんが現れました。
エインヘリヤル >  
「なんていうか、その……すごいですね?」

正直、足は震えているのだけど。
だからといってなにか出来るわけでもない。

むしろ、震えているような状態で、できるはずもない。
もう少し言えば……正直ココまでされるのが全くわからない。

ただまあ、これだけすぐ用意されるということは。
とりあえず、何かされるときは必ずこうなるワケで。
よくわからないなりに、ヤバいのはわかる。

少なくとも、今見せた以外にも数か所用意がある様子からして、怖い。
……そして、そんなコトをすぐ察知できる自分もなんか怖い。

そもそも、ラボでもココでもメンテナンスとか言ってたけども。
わたし、ほんとどうなってるの?

などとバレないようにしつつ。
びくびくしながら必死に取り繕う。

「ええと、じゃあ清水……さん? よろしくお願いします。
 えいんへ……り……やるっていうんですか、わたし? じゃあエインかなんか呼びやすい名前で」

ちょっとこう、上目遣いになりつつ。
ガチガチに緊張しているのだが、必死に平静を装いつつ、誘われるまま、車に乗り込んだ。

ご案内:「スラム」から清水千里さんが去りました。
ご案内:「スラム」からエインヘリヤルさんが去りました。
ご案内:「スラム」に狭間在処さんが現れました。
狭間在処 > ――『二人』が去ってから暫くして。
まるで入れ違いのように現れる一人の青年。
道中、車と擦れ違ったような気がするがそちらを一瞥するのみで向かう先。

「………。」

そこはとある違法ラボだ。偏屈な元・表側の老技師が暮らす場所でもあり。
軽く挨拶をしつつ、例の『残骸』について尋ねれば――どうやら一応の修復は終わった後らしい。
確かに、『彼女』の姿はラボの何処にも窺えない。

(…意識…と、言っていいのかは分からないが。挨拶くらいはしておきたかったが…。)

とはいえ、自分は偶然通り掛かって保護をしただけに過ぎないのだ。
老技師が露骨に催促するので、溜息交じりに先の『前金』に続いて残りの修理代を技師に手渡す。

『あの小娘ならさっさと追い出した。儂の仕事は修復だけで面倒を見る事までは請け負っていないからな。』

と、皮肉げに笑う老技師を一瞥すれば、小さく青年は肩を竦める…まぁその通りだ。

狭間在処 > どうやら、『彼女』を追い出してから随分と時間も経過しているらしい。
このスラムやその周囲の治安を考えれば、それこそロクな末路を迎える気がしないが…。

「……。」

まぁ、自分に出来るのはここに運び込む事くらいだったので、それ以上はどうしようもあるまい。
もし、何らかの偶然や助けがあって『表側』に退避出来たならいいのだが。
これ以上、ここに留まる理由も無くなったので、そのままラボを後にしようとした矢先、技師から声を掛けられる。

『待たんか小僧。『例のブツ』を忘れたか。さっさと持って行け。調整は『実戦』で何とかせい。」

そう、老技師が言って小柄な見た目にそぐわぬ力強さでやや細長いケースを放り投げてくる。
それを片手でキャッチしつつ、軽く頭を下げて謝辞としながら今度こそラボを後にして。

(――実戦…か。ぶっつけ本番で不具合が出ても困るし、何度か使って確かめてみるしかないか)

右手に下げたケースを見下ろして。中身は、機械仕掛けの刀剣が収まっている。
ジャンクパーツや希少金属を掻き集め、先程の技師に作成して貰った武器だ。
性能等は未知数だが、あの技師は金に汚いが腕前は確かではある。

狭間在処 > 取り敢えず塒に戻ってから中を確認しておこうかと思いつつ、青年は静かな足取りでその場を立ち去り――
ご案内:「スラム」から狭間在処さんが去りました。