2021/12/24 のログ
ご案内:「産業区/農業区」に暁 名無さんが現れました。
■暁 名無 > 幻想生物とは、なにも生まれた時から幻想的な能力を有するというわけではない。
時にはこの世界に昔から生息していた生物でも、人の想いによって特異な能力を得ることもある。
狐や狸が変化したり、鶴が反物織ったり、猫の尻尾が二股になったりと、まあそんな感じだ。
そしてさらに言えば、ある期間限定で特異な能力を発現させる生物も居る。
――今日は12月の24日、クリスマスイブ。
まさにこの日この瞬間に特異能力を発現させる生物が居た。
【というわけで、諸君!今年もこの日がやって来たわけだが!】
時刻は夕方を少し回ったころ。場所は農業区の東側。牧草地の広がる一見長閑な地域。
そこに数人の風紀委員、生活委員を連れて俺はその生物たちの前に立っていた。
【去年は年末進行で仕事が火の車状態だったからこうして指揮を執ることが出来なかったが、
今年はこうして諸君らを送り出すことが出来ることを俺としても誇りに思う。
なお来年も同様に出来るかは分からない。俺だってリア充したい!】
高らかにスピーチをしている俺だが、周囲の生徒たちは怪訝そうな顔をしてる。
……まあ無理もない、実際に俺が口から発してるのは「ぶぉぉ、ぶもぉ」とホラ貝でも吹いてるのかという鳴き声だけだ。
■暁 名無 > 【さて今年は実に40頭もの同志がこの場に集ってくれたわけだが
例年参加してくれている者も中には居るだろう。というか大半だと思う
今更やる事は言われずとも分かっていると思うが、敢えて説明させて貰おう!】
ぶもぉ、ぶもぉ。
生徒からの奇異の視線が痛いくらい突き刺さる。しょうがないだろ相手は人間じゃねえんだ。
【説明と言っても長い話をする気はない、時間も差し迫っている。
飛び、牽引し、届ける!諸君らに求められる仕事はそれのみだ!】
ぶもお、ぶふぉぅ。
俺が言葉を切ると、同じような鳴き声があちこちから上がる。
並々ならぬ決意と労働意欲を瞳に宿し、此方を見つめる80の瞳。
この日、大役を任される獣たち―――馴鹿。トナカイ。
そう、今日この日、この世界に生息する普段は何の変哲もないこの偶蹄目たちが、特異能力を発現させているのだ。
それは飛行能力。
空を飛び、ソリを引く。この日に決して欠かす事の出来ない要素。サンタクロースのお手伝いさんだ。
■暁 名無 > 【ではこれから諸君らの担当地区をそれぞれ発表する。
今回は10頭ずつ4チームに分かれて働いてもらうわけだが、そのチーム編成も同時に発表となるので心して聞いておくように。】
40頭のトナカイが一堂に会する光景は圧巻というほか無い。
実際俺以外の人間は大半が気圧されているし、だいぶ離れたところから様子を窺っている生徒も居る。
まあ分かるよ、見慣れてないトナカイ怖いよな。デカいし。
【まず1号から10号、学園地区。学生街と居住区の北側!
11号から20号は居住区の南側だ、どちらも学園にサンタ担当の者とソリが準備されているので合流し仕事にあたってくれ。
21号から30号は研究区から歓楽街、研究区の一画を集合場所として準備してある。
危険を伴う恐れがある為、サンタ担当の他に風紀委員が同行する、粗相の無いように!
そして31号から40号は異邦人街だ。この地域は特に飛行する住人が多いことが予測されるため、低速飛行で事故等には十分注意を払うこと!】
生活委員が用意してくれた地図を指揮棒で指しながらトナカイたちに指示を出していく。
トナカイたちは熱心に聞いてくれているが、人間の方は相変わらず変な物を見る目でしか見てくれない。つらい。
■暁 名無 > 【それでは自分の担当を把握した者は現地へ向かってくれ。
とはいえ単独先行はしないように、必ず2頭から4頭で向かう事!
新顔には先輩たちがキチンと指導すること、くれぐれもはぐれを出さない様に!分かったか!?】
ぶもおお、ぶおおお、とトナカイたちが一斉に返事をする。少しうるさい。
あんまり驚かすと来年参加してくれる生徒が居なくなるでしょーが。
【では最後に。
諸君らの働き如何によってこの島の子供たちが夢を失わずにいられるかが決まると思え!
諸君らには期待している!以上、解散!】
はあ、疲れた。トナカイ語って結構腹筋に来るのよね。
やる気に満ち満ちたトナカイたちが一斉に移動を始める。その足音は小さな地震かと思うほど。
ほらまたビビっちゃう生徒居るよ……。
「こんな感じで、話せば分かってくれるから。
もし来年俺が居なくてもやれるっしょ……?」
水筒に入れたコーヒーで喉を温め直しながらその場に居る生徒たちへ声を掛ける。
うんうん、出来ないか。そっかー……そうだよなあ……。
言語翻訳の術式とか誰か編めない?トナカイ語。無理?
■暁 名無 > そもそも何でトナカイ語なんて喋れるんですかって?うんうん、大変もっともな質問だ。
それはね、練習したからだよ。え?練習以前の問題な気がする?
……そんな事ないよ~?
「まだ偶蹄目は解りやすい方、そもそも奇蹄目がそんな種類居ないからね。
ラクダなんかはちょっとスローペースで喋るからあんまり早口にならない様気を付けなきゃいけない事だけ覚えておけば……あ?ラクダと話す機会なんか無い?
無くない無くない、エジプトとか言ったら普通に居るから。」
居ても話さないだろ、と正論をぶつけられてちょっと泣きそう。
まあ海外に行っても人間同士でさえ積極的にコミュニケーション取ろうとするのは稀らしいもんな。
何だろう、根本的な違いを思い知らされてる気がしてちょっと疎外感。ぶもぅ……。
人間同士でそんな雑談をしているうちに、トナカイたちはそれぞれの担当地区へと飛び立ち始めた。
いつ見ても壮観だ。数十頭のトナカイが助走のまま空を駆けて往くのは。
「とりあえず、トナカイたちは現地向かったから、各委員連絡回しておいて。
各配達が終わり次第、此処に戻ってくるから。そしたら1日2日自由にさせてやって、その後は随時お帰り頂くって感じで。」
はよ帰ってシュトーレン食べたい。一昨日一切れ切って食べてそれきりなんだよ。
そんな事を思いながら、生徒へも指示を出して俺は朱くなった空を見上げる。うーん、今夜は少し曇るだろうか。
■暁 名無 > 「さて、そんじゃ俺は帰らせて貰うとするか。
君らも同行ご苦労さん、この辺街灯無いから、真っ暗になる前に帰るんだぜ。」
そう言って俺は報告や連絡をしている委員たちを残して一足先に帰路につく。
確かもうちょっと行った辺りに幻生学の放飼場の一つがあるから、そこから準備室へと帰ろう。
日も沈みかけ、いよいよ寒さが増してくる中、帰る足は自然と早くなって。
「来年はトナカイの前でスピーチしたくねえなあ……」
ぽつりと溢した愚痴は誰にも拾われることなく。
ご案内:「産業区/農業区」から暁 名無さんが去りました。