2020/07/01 のログ
ご案内:「異能学会ポスト大変容文化学派異界文化研究室 ラウンジ」にアルン=マコークさんが現れました。
アルン=マコーク > とある研究室。ラウンジとは名ばかりの、学生や研究員のたまり場。
その中央に、金髪の少年が所在なさげに座っている。

「毎度毎度、そう緊張しなくてもいいだろうに」

湯気の立つマグカップを二つ持ってきた、眼鏡の男は、異界文化研究室に所属する研究員。
異界の文化についてを金髪の少年――アルン=マコークから聞き出し、同時に、こちらの文化について聞かれたことを答える役として、対応している。

研究員はアルンにマグカップを差し出した。インスタントコーヒーの安い、しかしそれなりに芳しい香りが漂う。
アルンはカップに手を付けず、研究員は僅かに肩を竦めてアルンの対面に座った。

「さて、勇者アルン。今日も君の知能と倫理を測るテストを始めよう」
「よろしくお願いします」

机に座ったまま、頭を深く下げる少年を横目に、研究員は机の端に置かれていた数枚のカードと、少し汚れたカジノチップをかき集め、目の前に置いた。

「今日は私と、こちらの世界で『囚人のジレンマ』と呼ばれているゲームをしてもらう」

アルン=マコーク > 研究員はそう言って、傍らに置いてあった、何らかの……なんだろう、これは。
何やら奇妙な格好をした人形を二体、アルンの目の前に置いた。
アルンは眉を顰めて、人形を一瞥すると、研究員に問いかける。

「囚人。彼らは何をして囚われたのですか」

研究員は静かに笑って、コーヒーを啜る。
このアルンという少年――光の勇者は、こちらの文化についてまだ理解が浅い。
そのせいだろうか、こういった喩え話についていちいち引っかかってしまうのだった。

「いや、そういうわけではないんだ。アルン。これはゲームの例えで……ああ、そうだな。私が悪かった。もっと単純に行こう」

そう言って、人形を乱暴に腕で払うと、両手を開いて打ち合わせた。

アルン=マコーク > 「君と私は同じ村に住む友人だ」
「僕に友人はいません」

(おいおい)

心によぎった憐憫が表に出ないよう、研究員はなんでもないように表情を作り、即座に言葉を継ぐ。

「じゃあ、同じ村の人間。君も私も畑で作物を作る。生活のために」

研究員はそう言うと、カジノチップを数枚掴み上げる。
そして、ぱち、と乾いた音を立てながら三つ、アルンの目の前に並べていく。

「君と私、二人で互いに『協力』すれば、お互いに三つの作物が手に入る」

そして言葉の通り、自分の前にも三つ。

「作物が……三つしか手に入らないのですか。それは……」

愕然とした表情のアルンに、研究員は少し考えて、付け足す。

「……一日につき、三つだ。その作物一つで一食に足りるとしよう」
「それなら安心ですね」

表情を緩め、安堵のため息をつく少年を、研究員は眼鏡越しに冷静に見つめる。

感情を隠している様子はなさそうだ。これは、純朴な少年そのものなのか、あるいは。
我々にそうと気取られないよう、仮面を被っているのか。

――見極めなくてはならない。

アルン=マコーク > 「しかし、私が君と『敵対』することを選ぶとする。君が『協力』を選んでいた場合、私は作物を五つ手に入れ、君は作物を一つも手に入れられない」

そう言って、研究員は手元のカードから『敵対』と書かれたカードを取り出し、机に置いた。
骸骨の剣士が剣で殴り合う絵が、ファンシーな絵柄で書かれている。
研究員はアルンの前に置いたチップを二枚、自分の手元に移動させた。
アルンは目を細めた。

「それは……略奪、ということですか」

魔力の高まり。戦闘の気配。
そんなものを感知する能力がなかったとしても、少年の目――爛々と紅く輝く目を見れば、部屋に満ちた緊張に気付くことができたろう。

「『悪』だ。許すわけにはいかない」

アルン=マコーク > 研究員の男は、その気配に気付いたのか、あるいは気付いていないのか。
手元のコーヒーを人すすりして、軽い口調で答えた。

「その通り。このテストを通じて、私は君の言う『悪』を理解したいと思っている。
それと同時に、君の――君たちの世界の、知能レベルについてもね」

その言葉に、アルンは昨晩のことを思い出す。


『今必要なのは、互いの知っている世界の姿を知ること…』


『法』が悪を定めるというこの世界のことを、彼はまだ何も知らない。

(異なる勇者リンカは、この世界を知れと言った)

ならばこの『ゲーム』は、光の勇者アルンにとっても、彼らの示す『悪』を知る機会になり得るかもしれない。
アルンは小さく頷き、目を閉じたまま口を開く。

「わかった。説明を続けてくれ」

アルン=マコーク > 研究員はアルンの様子を見て片眉を上げた。
それから、『協力』と書かれたカードを手に取り、自分の手元に置いた。

「君が『敵対』を選び、私が『協力』を選んでいれば、今度は逆に君が五つ作物を得て、私は何も得ない」
「なるほど。わかってきたぞ」

アルンは研究員の手元を見ながら、何度も小さく頷いている。

「そして、両者が敵対を選んだ場合は、お互いが死ぬと」

(なんでやねん)

沈黙。
を、ごまかすようにコーヒーをさらにひと啜り。
説明を再開する。

「そうじゃない。お互いに一つの作物を手に入れる。無駄な争いで畑が荒れてしまったんだろうね」

そう言って、手元のチップを一つ、アルンの目の前に置いた。
自分の目の前のチップを三枚脇によける。