2020/07/17 のログ
ご案内:「研究施設群 次世代型新エネルギー開発研究センタ 実験棟」にレナードさんが現れました。
レナード > 少年は、液体に満たされた研究カプセルの中に居た。
背中のラインに、頭の数か所に、それぞれ電極を取り付けられ、
四肢は大の字になる様に開かれて、その先々を固定する器具で拘束され、やはり電極が取り付けられていた。

呼吸はできた。
口に被せるように取り付けたマスク状の器具から、繋がったチューブ経由で空気の循環が行われているから。
視界は見透せた。
両目を覆う様に取り付けたゴーグル状の器具があれば、外部の状況が把握できるようになっているから。

これは、自分の発電能力を測る実験だった。
"発電する異能を持っているがまだ新芽の状態だ。これをこの研究所の技術で成長させられるかもしれない。"
そういうアイディアをこの新エネ研に持ち込んで、この研究設備の技術を用いた異能取扱いに向けた特訓の実施と、
定期的に実証実験データを得ることになったのだから。

似たような異能を持つ者は多数いるし、過去にもいただろう。
だが、その成長の過程をデータとして採取することは、今後の異能に関する取扱いに役立つはずだ。
…そのようにプレゼンして、渋る責任者に頼み通した挙句なんとか承諾してもらい、ここに居た。

レナード > 既に自分の、発電に関する異能については説明してある。
現在では発電効率が非常に悪く、ほとんどが熱として排出されてしまうことも。
また、消費するエネルギーに対する変換効率もよくないことも。
本人としては、新エネ研との連携でこれを改善しておきたかった。

昨日、色々と心境の変化があった。

風紀委員に疑念を抱いたこと。
彼らの代わりになる組織へと身を委ねるなら強くあらねばならないと、この新エネ研の門を叩こうと決意したこと。
読書好きな少女の協力で、自分の仇敵の情報がようやく得られたこと。
…その過程で、自分の苦労が少しでも報われたことを、労わって貰えたこと。

行き詰まりかと思っていた、進まねばならないと思い続けていた話に、僅かな僅かな進展が見られた。
精神的な疲弊から、自分の欺瞞を…辿り着きたくないから現実を見ないと言う虚構を改めて自覚したことが、
トリガーになったのかもしれないが。

情緒が崩れる自分を、優しく抱き留めてくれた彼女がいたから。
その先の事を、まだ考えないでいられる自分がここにいた。
その先の事を、まだ先延ばしにしていられる余裕が、今の自分にはあった。
…きっと、今まで背負い続けていた錘が、あの時の涙となって全て零れ落ちたから。

焦る必要はない。
風紀委員に対する疑念も、正直これとは別の話なので持ち続けてはいるが、
妄執として処理する必要はなく、寧ろこの機会に歳を取らない自分のための研鑽として用いるべき…そう思えている。

レナード > 「…………。」

研究カプセルの傍で、発電開始を指示するランプが点灯する。
今日の測定項目は大きく分けて、発電した電力の総量と、発電できた時間。
細かく見ていくと、最大発電量近辺で何時間保持できるか、などのデータなども取得するという話だった。
そのため、作った電力を全て体外に流すことが求められていた。

少年は、じっくり自分の体内で発電を開始する。
絶縁性の液体に満たされた研究カプセル内において、漏電の心配はない。
取り付けられた電極から、センサーを通じて少しずつ、発電量を示すバーグラフが登り始めた。

眼は瞑る。集中して、電気を作る。
さっき食事は十分に摂った。現状で最適のパフォーマンスで、電気を送っていく。

全ては自分の成長のために―――

レナード > 「………ふぅ……。」

実験棟の、ある一角。
休憩室で少年は休んでいた。

暖かいシャワーを浴び、纏わりついた液体は流し終えた。
事前に食事をしてまで備えていたが、その全てを解き放って空になった腹を満たすために
手配を依頼していた菓子パンを片手に食むつきながら、ソファに座って実験結果の整理が終わるのを待っていた。

レナード > 休憩室にやってきた研究員と、一言、二言会話を済ませる。
手渡されたのは、さっきの実験で採取した自分の発電量に関するデータを記した紙だ。
…やはり、想定していた通り、数値にしてみると非常に悪い。

「………んー……」

研究員が去っていった後で、悩ましげに唸る。
悪いことは意識していても、いざ数字にして表されると、自尊心に響くものがあるのだ。

「……まあ、分かってたことだし。
 僕の成長は…ここから、ここから……」

目的を忘れてはいけない。
一つ大きく息を吐いてから、この結果を、まずはぐっと飲み込むことにした。

レナード > 今日はこれにて退散しよう。少なくとも、現状把握という点でここに来た甲斐はあった。
これからも定期的にやってきて訓練するわけだから、ひとまずその旨を彼らに伝えておくとして。

休憩室を後にする。
その少年の眼には、やはり光が灯っていた。

ご案内:「研究施設群 次世代型新エネルギー開発研究センタ 実験棟」からレナードさんが去りました。