2019/02/09 のログ
ご案内:「訓練施設」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
「───ふぅっ、はぁ、はぁっ…」

ドームの中を何周ほど走ったか、少女は立ち止まって額や頬を伝う汗をタオルで拭う
異能や魔術用の訓練施設、結構な広さがあるおかげでこうやって運動するにも適している
何をするにしてもやっぱり身体が資本、自身の異能も対外的に使用するものではないとはいえど、
連続使用すれば身体に負担は掛かってくる
何より武術家としても日々の運動はやはり欠かせない

「んー…ッ、でも…っ、さすが、にっ…ちょっとなまってるなぁ」

先日の事件以降、小さいとはいえど怪我も負ったため、しばし風紀委員としての活動を制限、
試験勉強にがっつり打ち込んでいたのもあってか、ほんの少しだけ鈍りを感じる
施設の一画で座りストレッチをしながら、そんなことを呟いて

伊都波 凛霞 >  
「こっち編入してからは、退魔のお手伝いも減っちゃったしなぁ…」

怪異が出没する青垣山に自宅と道場をもつ少女
過去からの習わしとして、魔を退ける一族の影としてサポートする
そんな裏の顔を持っているのだった、が……

「………」

ぐっぐっ、と伸脚運動をしつつ、色々と思い出してしまう
自分も一人の退魔師の影、伊都波として本来なら今もそういった役に従事している筈だった

「…はぁ、悠薇があんな話するからだ」

過去のことをいくら顧みても仕方がない
影としての自分が今いないおかげで、学園の風紀のためのお仕事なども出来ているのだ

伊都波 凛霞 >  
少女の自宅はあの青垣山の山中にある
自宅近くには道場も構え…子供の頃から怪異や妖かしといった類には慣れ親しんでいる
だからこそ、ここ最近になって島のあちこちで耳にする言葉には違和感を感じる
鬼、鬼、鬼…
学園の先生から鬼の話を聞いて…
学園の噂でも鬼の話を聞いて、
つい先日は落第街の裏路地で、鬼の犠牲者になったと思われる遺骸の残留思念を視た
もちろん、異界から訪れてそのまま島に根付いたり、学園に溶け込んでいる鬼もいる、だろうけれど…そうじゃなくて

「たまたま、が続いていいのは3回まで…ってドラマの刑事さんが言ってたっけ……」

ぐぐぐっ、と肩寄せの柔軟運動
右に三回、左に三回…ゆっくりと背筋を引き伸ばすようにして、身体を捻ってゆく

ご案内:「訓練施設」に史乃上咬八さんが現れました。
史乃上咬八 > ――――ドオン。

――――ドオン。


「ッし!!」

ドオン。




……先客の耳には、別のトレーニングルームの方から、鈍く、大きな音がふと耳に入ってくるかもしれない。
恐らく、サンドバッグを殴る音なのかもしれないが、その音の大きさから、かなりの威力で、何発も、規則正しく打ち込んでいるのがわかる。

柔軟をするそちらの耳には少し、音として一縷の不安を感じるようなものが、あるかもしれない。

伊都波 凛霞 >  
「ふぅっ…」

5分間のダッシュと柔軟体操が終わって、さて次は何をしようかなと立ち上がる
身体が冷えないうちに…と、そんな時に別室から聞こえてくる重い音
試験もはじまるというのに、自分以外にも身体を動かしてる人はいるらしい

「(でもこの音…)」

音が規則正しく、ずっと途切れない
誰が叩いてるんだろう、とそれを覗きに行ってみることにした

「失礼しまーす…」

向かっている間もずっと、その規則正しい音は続いていた
それを発している人物をようやくその視界に捉えて……

史乃上咬八 > 「――ッシ!!」

――ドオン!!

「……ん」


……丁度、特大の一撃が叩き込まれた音がした。
一人、隅のサンドバッグが吊り下げられた場所で。

バンテージを巻いた左の拳をサンドバッグに突き立てたまま、顔だけを部屋にやってきた相手へと向ける形で。

「…………あ?」

――――貴女の顔を見て、真紅の眼を見開く青年。
褐色の肌を汗で濡らし、長い髪を顔に張り付かせた姿。
トレーニングウェアの上下に、一枚ジャケットを羽織って、
左の拳にだけバンテージを巻き、
……右の腕はだらりと、ジャケットの下に袖を通さず垂らしているのか、袖は萎んだまま。
そんな格好の彼に、貴女は、「遠く見覚えがあるような」。

伊都波 凛霞 >  
「……あ」

───二人の目が合う
きっとお互いに記憶からの差異はあれど、些細なそれを補完するには数秒でこと足りる

「…風紀委員だからさ、名前はね、聞いてたんだけど…珍しい名前、そんなにあるわけないし」

サンドバッグに拳を突き立てる、咬八へとゆっくりとした足取りで歩み寄る
その間に、"当時"のことを色々と思い出したりもして、余計にその姿と、今の彼の姿の差が痛ましい

「久しぶり。…ずいぶん、変わっちゃったね」

顔を突き合わせる距離まで近づくと、彼の中の記憶とはおそらく変わらぬ笑顔を作って、そう話しかけた

史乃上咬八 > 「……伊都波、さン」

ゆっくりと拳を離すと、その腕をだらりと垂れ下げて、ほつれたバンテージを握っていた手を解いた。
ほつれて落ちていくバンテージの下、ぼろぼろになった拳を――。

「……御無沙汰ス、伊都波さン」

――近づいていく相手へと、片膝を付きながら、左の拳を床につけ、頭を深く下げた。
それは、当時から変わらない『彼の目上に対する最大の忠義の仕草』だ。

「……アレから、東欧や南米に渡る機会がありやしたから。帰ってきてから、ある案件で」

もう治療は完全に終わってまスから。と、ジャケットを羽織り直し、袖を通した両腕は。
左の腕より、右の腕は細い。袖から出た手は、医療用の義肢だ。
軽量な素材で作られた、見た目だけを繕うためのもの。

……僅かに上げた顔の隙間から見えた貌もまた、
その右の片目は、髪の隙間に隠すように付けていた眼帯で隠され、それでも尚隠しきれていない大きな傷跡があり、
少なくとも、"当時"の彼にはなかった大きな変化だ。

「……伊都波さンは、お変わり、無いようで」

伊都波 凛霞 >  
「頭あげてよ、もう、昔みたいな立場じゃないんだから…ね?」

あの頃からそんなに時間が経っているわけじゃない
身についたそれを正すには、きっと短すぎる…と、理解ってはいても

「──大変、だったんだ。…大丈夫なの?」

治療は終わっている、と言いつつも片腕を失い、その貌に大きな傷を残した姿に、目を細める
そっと優しく触れるようにして、心配するような声色を向けて

「私は…ううん、たった数年だって人は変わるよ、私だって」

そう行って小さく苦笑を浮かべてみせた

史乃上咬八 > 「あァ、いえ、ですが……。……失礼、しやした」

ぐ、と躰を起こす。左の拳を床につけていたところには、薄っすら赤が残った。
……随分な威力で、どれだけ続ければそれだけ拳を痛められるのか。
尋ねられることに、少しだけ気まずそうな顔をした。
あの時よりは、少しだけ柔らかい印象があるのが、もしかしたら前向きな変化かもしれない。

「……不自由は多かったッスけど、慣れってのは人間の一番の特権スから。今は義肢でも、ある程度、家事くらいなら」

この前は狗共に餌を作ったりとか。と、

「……伊都波さンは、相も変わらずスよ。俺には、そう見えまス。変わらず、お変わり無く綺麗スから」

伊都波 凛霞 >  
体を起こしてくれる様子にうんうん、と微笑みかける
風紀委員に属していると、彼の悪い噂や話ばかりを聞いていた
けれどこういうところを見れば、根っこは何も変わってないんだという安心を覚える

「そっか。じゃあ、安心。今は何処に住んでるの?ご飯くらい、たまになら作りにいったげるよ?
 …ふふ、ありがと。きれいでいられるうちは、頑張ってキレイでいないとね」

言いながら、朱の滲む拳と…同じく朱の印がついたであろうサンドバッグを交互に見る
それから再び咬八へと向けられた視線は、ほんの少しだけ、もの悲しげで

「……こんなに叩くと、拳、壊れちゃうよ?」

それは本人だってわかっていそうなこと、だから、次に聞くのは…

「どうして、そんなことしてるの?」

史乃上咬八 > 「……学生街付近の仮宿、ス。大量の狗の世話をさせてもらう代わりに、家賃を少し安くさせてもらってやス」

ドーベルマンにグレートデーンにレトリバーに……等々。狗の名前を羅列し始めたが、どれもヘビー級の犬種ばかりだ。
……は、として小さく頭を下げた。

「失礼。……居られやスよ、俺は、そう思いまス」

何処か、過剰な信頼を向けていなくもないかもしれない。ただ、眼は真っ直ぐに向いた。
それだけで、彼の内心は知れる。何処か、未だ"当時"の彼女への忠義の影響は残るようだ。

が。

「……どうして、と聞かれると、答えに困るスけど」
――その左の拳をゆっくりと自分の顔の前に。

「――"ダチ"が、二度と、一人で突っ走る前に、ブン殴って止められるように、スかね」



過る。誰の陰が。その拳を映す、赤い眼に。

伊都波 凛霞 >  
犬がいっぱいの下宿先、と聞くとなかなか賑やかで可愛らしいイメージだが、
挙げられる犬種がどれもでっかいやつばっかりでちょっと苦笑する
それでも、ちゃんと生活できているということを確認できれば、内心、とても安心する

「カミヤくんは優しいね、あの頃と一緒で…でも……」

そうなんだ、"彼も"あの時の取り残されているんだ
続いた、咬八の言葉から、その表情から、その誰かの陰を感じ取る
ふー…っ、と抜けるような溜息をついて、その視線を外す

過去のことなんて忘れて、自分を痛めつけるような真似はやめろ
そんな言葉、言える筈がなかった

「…男の子がやる!って本気で決めたコトは、女の子じゃ何言っても止められないからなぁ…」

冗談めかしてそんなことを言って、苦笑する

何より、そのことから目を逸らし続けてきた自分が言える言葉じゃない──
同じ間違いを二度とおかさないよう前を向く、そんな彼の足を引っ張るような真似、できるわけがない

「あ、でもテーピングくらいはしっかりしようよ。ほら、手だして」

言いながら、擦り切れた部分の消毒とバンテージの直しをしようと自身のバッグを開いて救急用具を取り出した

史乃上咬八 > 「……優しい、スかね」

あの頃から、俺は不器用スから。と、眼を細めて顔を僅かに陰らせた。

「……止められりゃ止めるスけど、どの道俺は、あンまし加減が出来ねェスから。自分自身には、特に」
そればかりは生来スから。と、眉間に皺を作った。
……彼自身解っててもそれが出来ない、というのは、恐らく彼自身の不器用の本懐なのかもしれない。

言葉の裏側を掬うことも、きっと彼には解らないだろう。貴女の内心を伺うには、憧憬と忠義が過ぎるのだ。

「……あァ、その、お願いしまス」

手を差し出す。素直に出す様は、少し狗のようだ。狗好きなのは昔からだろうが、彼自身が狗のようだ。

史乃上咬八 > 「……」

――ふと、その手を差し出す間にそちらの格好を一瞥した。

……次には、何だかちょっとだけ笑いを堪えるような唇の緊張と、眉間の皺が緩んだのが伺える。

「……ジャージ、お似合い、スよ。先生、ぽくて」

全く意味のない一言を添えて、彼はすぅっ……と視線を横にそらした。

ピンク色のジャージ。それは何というか、生徒のポジションより、先生のポジションの人が着そうだな、と思ったのかもしれない。

伊都波 凛霞 >  
「優しいよー、カミヤくんは不器用っていうか、人にそれを伝えるのが下手なだけだよ」

言葉を交わしながら、丁寧に擦傷を消毒して薄く包帯を巻いた上に厚めにテーピング、バンテージを巻いていく
包帯を多めにしてしまうよ余計に摩擦を増やしてしまうので、何度も巻くよりはこれが良い…
それも武術を修得しているなりの、知識なのだろうことが手慣れた様子から伺える

「む…サイズちょうどいいのでいい色のがなかったんだもん」

似合っているといいつつ視線を背ける彼にちょっとだけむくれてみせる
長身な凛霞のことである、女性用の色々で苦労することもあるのかもしれない

「はい、おっけー」

ぽん、と拳の上から軽く叩いてみせる
擦れや痛みが和らいでいるのを確認する作業のようなものである

「にしてもこんなところで会うなんて、私めったに此処にはこないんだけど…
 もしかしてしょっちゅうこんなことしてるんじゃない…?」

じーっとその顔を見つめてみる

史乃上咬八 > 「……そう、スか。風紀委員の耳には、悪い噂が多いかと思うスけど。
…………すいやせン、あの、伊都波さン。先程、風紀委員だ、と」

――何か思い出したように。というか、それを思い出して、ちょっとだけ何かを意気込むように。

「……あァ……」
察した、そしてそっと、

「……大丈夫スよ、伊都波さン。人に物教えンの、上手スから」
敢えてそっち側へのフォローをした。大丈夫スよ、と重ねるが、大丈夫ではない。
純朴にそんな感想が出るところ、彼の根っこが伺えた。


「……ありがとうございます。……で、その」

――お礼を言いたいが、顔を直視出来ない。
その様子からして、毎度毎度こんなことをやっているのがバレバレだ。分かりやすいがゆえに、悪いことをしでかした時、飼い主と眼を合わさなくなる狗のように、そちらを見ることはない。

伊都波 凛霞 >  
「うん、多い。誤解されやすいんだから、少しは気をつけないと…
 風紀委員には、融通効かない人もたくさんいるよ?変な揉め事になってからじゃ…」

きっとその時は間に入ることも難しいだろう
正義執行即断即決、そんな実力行使の風紀委員だって大勢いる
誤解を招く、それ自体が悪だと断ずる強硬姿勢の人だっているかもしれない

「カミヤくんなら私がこう言えばきっと気をつけてくれるでしょうから~、ってもうその話はいいよお!」

ちょっと顔が赤い、桜色のジャージが恥ずかしくなってきた模様
しばらくわたわたとしたところで、落ち着きが戻ってくれば、窓からは夕日が差し込む時間帯

「……まぁ、拳、壊しちゃったら彼みたいな人を殴りつけることもできなくなっちゃうんだから、ね」

少しだけ大事にしよう?と、両手で咬八の拳を包むようにしてそう言ってから、長いポニーテールを流すようにして踵を返して

「夕方になっちゃった。そろそろ、帰らないと」

史乃上咬八 > 「…………あァ、いえ、まァ、その……。……俺、ある風紀委員の人に、護衛を頼まれやして。補佐的ではありやスけど、風紀委員として、力を使うことになる、かと」

――脳裏を別の人がよぎった。しかし、思い出して微妙な顔をし、眉間の皺が深くなった。

「……伊都波"先生"が言うなら、気をつけることに」

誂う。そんな一言の後に、彼がここに来て、一番やわらかい笑顔を浮かべた。

「……ス、ね。拳は、そン時まで、労ることにしやす」

包まれて、少し顔を柔らかくしたが、同時に少し赤らんで、視線を落とす。暫くその手を包む温度に、細めた眼が揺れていた。

「……俺もこのへンで上がるッス。帰ったら狗共の散歩と餌やり、頼まれてまスンで」

伊都波 凛霞 >  
「そうなんだ? ふふ、面目躍如の大チャンスだねっ」

この日一番の明るい笑顔
悪い噂が払拭できて、本来のこの優しい男の子がちゃんと認められたら、
そんなに嬉しいことはないのだろう

「あー!またからかってる!もう…!」

むっすり、でも向けられた笑顔にはなんだか安堵しつつ、彼ももう上がるのだと言葉を受ければ…

「じゃ、駅まで送ってってよ、カミヤくん」

人懐っこい笑みを浮かべて、そう言葉を綴るのだった
帰り道、そんなに長い時間ではないだろうけれど、ちょっとだけ昔話に花を咲かせたりしながら、

たまたまの再会は、彼を懐かしむちょうど良い日となったのかもしれない───

史乃上咬八 > 「……俺が不得手なことは、恐らくその風紀委員の人が力を貸してくれるスから。その分、身を守ってほしいと「女」に言われると、断るに断れねェスけど」

――女。その単語を言うとき、彼が別に男性としての心ではなく、「明らかに何か別の理由で断れない」という雰囲気を滲ませた。
というか、眉間の皺が物凄い事になった。岩肌のヒビか、というくらい深くなった。威嚇する狗のようだった。


「ッ、く、はは……ッぁ、いえ、失礼しやした」
思わず笑ってしまったようだった。すぐにさっと顔を引き締めたが、その後は。

「……ええ、御身、護らせて頂きやす」
……彼の雰囲気は、そのあたりだけは変わらなかった。

帰り道、話しながら歩む中で、彼の雰囲気はまた少しだけ柔らかくなっていったようだ。
懐かしさと、これからへのこと。色々と募ることもあるが、この咬八という青年は、きっと上手くやっていけるだろうと、思えたことだ。

ご案内:「訓練施設」から史乃上咬八さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から伊都波 凛霞さんが去りました。