2019/05/30 のログ
ご案内:「訓練施設」にアガサさんが現れました。
アガサ > 斜に構えるという言葉がある。
物事に正対しない態度である様を記した言葉だ。余り、良い意味では使われない。
ただ、斜めになるだけでそうであるなら、斜めどころか真横を通り越し、上下逆さとなった私は如何程の素行の悪さであるものか。

「おぎょおっ!?……っぶなかったあ……集中しないとね」

──そんな与太な思考が浮かぶや否やに、天井を床として着いていた私の足がふわりと浮かんで本当の床に落ちかかる。
ジャージの上から身に着けていた全身用の転落防止ハーネスが無ければ大怪我をしていたに違いない。

「それにしても、まさかこれがセカンドステージ?……いやいや、単に練習の賜物であって、
もっとこう、ばあーって凄い感じになるのがセカンドステージの筈……」

吊られる格好からベルトのスイッチを操作して床に降り、ついでに独り言も落ちていく。
何をしていたのかと言えば平たく言えば異能の特訓。
私の異能は足さえ着けば何処でだろうと踏破するもので、けれども今までは素足に近い状態でしか発露しなかった。
それが、徐々にではあるけれど靴を履いたままでも使える兆候が見え始めたから、此処数日は放課後に訓練施設にお邪魔している。
訓練施設と言っても、私の居るこの部屋は四角くて真っ白くて、あるものと言えばハーネスのフックを引っ掛ける器具と、
気温調整が出来る空調のパネルくらいなものだけれど。

アガサ > 「この異能が完成の暁にはビルの壁面清掃のアルバイトとか、建築現場のアルバイトが易々と出来るかもしれないし。
………乙女チックじゃないなあ……」

いい鳶になれるよ!とか言われても嬉しくもなんとも無い。
ただ使えるものは使えるようにしておいた方がいいだろう。とは思う。
準備はし過ぎたら笑い話で済むけれど、逆ともなればそうはいかないのだから。
私はもう一度、壁に足を掛けて床とし、自然に不自然に壁から天井へと歩いていく。

「そうしたいと思うことが大事。私がそう求めるなら、形になるのはそれだけで、余計なものは介在しない……」

確かめるように呟きながら天井を歩く。
衣服も、ハーネスのワイヤも、長い髪の毛も、全てが天が地であるかのように振る舞う。
何処か魔術の構成力を培う訓練にも似て、一石二鳥だな──なんて思った瞬間に足が浮ついて慌てて踏みとどまる。
二度目の落下は、無い。

ご案内:「訓練施設」にアリスさんが現れました。
アリス >  
テンションが上がらないのは、よく見ずに買ったジャージが常軌を逸したダサさだったからである。
アーサー・C・クラーク第三法則。

今日も私は訓練施設に来た。
なんとかあの技術をモノにしたくて。
そこで見たのは、親友の姿だった。

「アガサ……どうしたのかしら」

ガラス越しに見た彼女の姿に、友達ですと許可を取って部屋に入る。

「やっほー、アガサ。珍しいところで会うわね」

ハーネス装備だ。ああいうの、装着が大変だと思う。

アガサ > そうしたいと思う事で通常ならざることを構成す。
異能も魔術もそういう意味では同じ事と言えるかもしれない。
私は部屋の中央、天地逆しまの中で呼吸を整え魔術を象る。

「Twfu Twfu Twfu...《満ちよ 満ちよ 満ちよ…》」

呟く事三度、本来マルチタスクである筈の思考の集中は今は乱れず──

「んえっ?あれえアリス君じゃなあ"ぅあっ!?」

──突然の親友の来訪に脆くも乱れて、私の身体が清く正しく宙吊りの恰好になる。

「や、やあアリス君じゃないか。こんなところで会うのも奇遇だねえ。今日はどうしたんだい?」

何事も無かったかのように挨拶をし直し、腰のベルトのスイッチを押して速やかに床に下降した。
顔が少しばかり赤く見える?それは身体を動かしていたからに違いないよ。

アリス >  
「あっ」

自分のせいで集中を乱してアガサが宙吊りになってしまった。
そして自分のせいだということを棚上げして言わせてもらうけどちょっと面白い。

「え、ええ………ちょっと異能のトレーニングを…」
「そういうアガサも異能の練習?」

足元を見ると、なんと靴を履いている。
なるほど、そういう特訓なわけだ。
手を差し伸べて地面に足がつくように手助け。

「ルールブレイカーにも努力の影、という一面で明日の常世学生新聞は決まりね」

アガサ > 「んふふ、聞いて驚くことなかれ!……と言う程でも無いんだけどね。
靴を履いたままでも異能が使えるようになってきたから、滞り無く使えるように練習していたのさ。
凄いだろう、まるで忍者みたいだと思わない?」

それで墜落するところを視られているのだから、忍者も何もあったものではないのだけど、
私はポケットからイニシャルが刺繍されたハンカチを取り出し、汗をかいてもいないのに額を拭くようにした。
誰がどう見ても誤魔化していると判る動きだった。

「アリス君もトレーニング?それはまた……大変そうな。
ほら、君の異能って無から有を作るものだから想像力?構成力が大事だろうしーってやめてくれたまえよ~
私の異能、そんな騒がれるようなものじゃないったら」

誤魔化す仕草を合間に顔に熱が上がる。
この学校には星の数程の異能者がいる。それこそ目を瞠るものから路傍の石の如きものまで。
前者が私の親友で、後者が私。別にその事自体はどうでもいい。
異能が生まれたから、私が此処に居るという事こそが大事なんだもの。

「それで、えっと。私の方はこうやってぐるぐる歩いたり?してたんだけど……
アリス君の方はどんなことをしているのかな?」

話題を切り替えるように空咳をしてから訊ねる。
親友がどう、というモノは当然としてあるけれど、それ以上に他人のそういうトレーニング模様に興味があるのもまた事実。
それはもう瞳をきらりと煌めかせて訊ねてしまうんだ。

アリス >  
「ジャパニーズニンジャ! オリエンタルファンタスティック!」

大仰に外人リアクションを取ってみせる。
しかし、靴を履いたまま縦横無尽に走れるのなら。
都市部での戦闘は彼女の魔術適正も加味してかなりのものになるのではないだろうか。

いやそもそも15歳女子が戦闘スタイルを気にするのはおかしい。
私の頭も大分、この街に、この学園に染まってきているようだ。

「アガサだけの異能だもの、私には興味津々なわけ」
「あ、そのハンカチ使ってくれてるのね。嬉しいわ、お揃いだもの」

ふふ、と笑って、距離を取る。

「私が今、練習しているのはこれよ」

手元に複雑怪奇、率直に言えば珍妙なコントローラーを錬成する。
続いて周囲にドローンや戦闘機のプラモを錬成する。

「よっと」

コントローラーを弄ると、種類もバラバラな飛行する玩具が無数に空を飛び交う。
これが結構、難しい。特注(したものの構造を覚えた)コントローラーで切り替えながらの飛行ショー。

アガサ > 「お、嬉しい事を言ってくれるね。それなら猶更頑張ってジャパニーズニンジャをやってみせないといけないじゃないか。
……日本人じゃない人がやっていいのかはちょっとまた別の問題だろうけど」

ニンジャの定義が思考を走り抜け、最後は煙に巻かれて消えていく。
同時に異能に長じればニンジャショーの役者もアリなのかなと、真っ白い天井を見上げるようにして思考を浮かべた。

「ハンカチは使っているとも。君が誕生日にくれた大事な宝物だからね。大事に使って──」

視線を戻すとアリス君が距離を取っている。
手には初めから其処に在ったかのような機械があって、次いで水に絵の具が溶ける様を逆再生したかのように航空機の模型が顕れる。
私の煌めいた眼は数度瞬いてそれらを忙しなく見つめた。

「うわあ……これ、全部君が制御しているのかい?凄いなあ……ああでも……」

四角い部屋を縦横無尽に、それでいて激突事故なんて怒らず鮮やかに飛ぶ様々な色彩の様々な形の航空機。
私は感嘆とそれらを眺めていたけれど、ふと思う事があって飛んでいる内の一つ、イタリアンレッドのレシプロ機に右人差し指を向けた。

「Un...DaU...TrI...rhoi colled!《落ちよ!》」

停滞を想起し、現象を青白の煌めきとして指先に顕し、放つ。
魔術弾は光の帯を曳いて真直ぐにレシプロ機に吸い込まれていった。

アリス >  
「ニンジャが濃紫の髪だとやっていけない職業かなんて、わからないわよ」

ニンジャ。過去に存在し、隕石の落下による氷河期で絶滅したという伝説の存在。
でも今でも日本には野良忍者が存在すると私は信じている。

「日常で使ってくれると嬉しいわね、大事にしすぎるとハンカチが勿体無いわ」

そう言いながら部屋に浮かべたプラモの操作をしている。
これがまた集中力を使う。
小型の火砲が相手を取り囲んで集中攻撃を浴びせるロボットアニメを最近見たけど。
あれほど上手くなるには特殊能力が必要だと感じた。

「!?」

突如、青白の煌きに撃たれるレシプロ機。
テンパってあわあわと操作してみるが、混乱して集中が切れた今、全てのプラモに意識が向かない。
イタリアンレッドのレシプロ機が墜落したのを皮切りに、
次々とプラモが不時着、あるいは壁にぶつかって破損した。

「あっ……危ない!」

コントロールを失ってアガサに向かって飛んできたドローンをアガサの前に立って、空中で分解。
かばうようにドローンを大気成分にして、その場にへたり込んだ。

危ない。ちょっとした異能自慢で親友に怪我をさせるところだった。

アガサ > 停滞の呪いを撃ち込まれたレシプロ機はその動作を停止して墜落する。
ああ、つまり物体としての属性が強いんだな。と納得する私の思考はしかして制御を失い乱れ飛ぶ模型群に押し出されて消えた。

「う"わっ、ちょ、そんな芋蔓式に……もしかして制御が……」

好奇心からの行動が仇になる。藪を突けば蛇が出て、怒った蛇は猫を殺す。
私に突撃してくるドローンを前にそんな事を思い、親友の御蔭で事なきを得た私もまた吊られるようにへたり込んでしまった。

「……その、ちょっと気になって……あ、あのね。色々な事を知るのって大事だーって魔術の教本にも書いてあって……
情報とは見聞きをしただけでは意味が無い。知識とは得た事柄を元に自らが考え納得する事で初めて成立する……って。
だから、アリス君の異能が作り出す物は、私の魔術がどう作用するのかなあってふと気になって……」

私にはドローンがアリス君に激突したように見えた。
だから私は四つん這いのまま彼女の前に進み出て彼女が怪我をしていない事を確認して、安堵の溜息を吐いて、
それから、上目遣いに俯き加減に理由を話し始める。がちゃがちゃと合間に混ざるハーネスの音が少しばかり、煩い。

「……言ってからやればよかったね。えっと、御免なさい」

危ない所だった。私の勝手な好奇心で親友に怪我をさせるところだった。

アリス >  
様子を見に来た係員の人になんでもないと手を振り替えして、周囲のプラモを無害な大気成分に分解する。

「私が錬成した物質は、“私が完全に内部を把握した、ただの物質”なのよね」
「ついでに言うと私が錬成した物質は、少なくとも4年間は物質のままよ」
「いじめっ子に復讐した時の最初の練成物がまだ現存しているらしいから」

頭を下げて、謝罪の言葉を口にする。

「私こそごめんね、アガサ。あなたに怪我をさせたら、異能を捨てたくなっちゃう」

万能の異能を持ちながら、この異能で壊すことしかしてこなかった。
その歪みはいつか、最悪の形で現出する。
そんな予感じみた妄想を漠然と抱いていた。

「とまぁ、混乱しても異能の制御とプラモの操作ができるようになりたいのよ」

アガサ > アリス君の口から異能の説明を聞く。
今まで知らなかった事を聞き、レシプロ機の模型が墜落したのも尤もだと納得しよう。
ただ、それはそれとして親友を凹ませることを私は望まない。

「捨てたら駄目だよアリス君。君の異能は素敵なものなんだから」

彼女が鮮やかな拳銃捌きで私を助けてくれた事を忘れない。
でも、今それを云うのは少し面映ゆい気がして言えない。
私は彼女の手を取って、言葉短に励まして、それから思い出したようにハーネスを脱ぎ始める。

「意識の集中と制御。となると私と同じ感じかな?私もちょっと気を抜くと最初みたいに落っこちたりしてさ。
でも、そうしたい。と意識を傾けて願うのは魔術の術式構成力にも関わる事で、上手く行けば一石二鳥かなって私は思ってるんだ」

がちゃりとハーネスを脱ぐと重さから解放されて息を吐く。

「で、ちょっと思ったんだけど…アリス君は模型を操作する。私はそれを打ち落とそうとする。なんて練習もアリな気、しない?」

それから私は右手を指鉄砲に象って、親友の鼻先を人差し指で押して一つの提案を推す。
一石二鳥か三鳥か。それは判らないし解らないけれど、独りで練習をするより好い気がしたのは確かな事さ。