2020/09/25 のログ
ご案内:「訓練施設」に御白 夕花さんが現れました。
御白 夕花 >  
他に使う人のいない時間帯を狙って借り受けた訓練施設。
理由は単純。訓練風景をあまり人に見られたくはなかったからだ。
基礎訓練は嫌というほど叩き込まれてる。今日やるのは武器の扱い───《スピカ》としての戦いの技術を磨くこと。

プログラムを操作して、訓練用のダミーを数体召喚。
自律稼働でこっちに向かってくるように設定しておいて、バッグから三節棍を取り出して構えた。
金属製で、連結させると一本の棒として取り回すこともできる。
それ以外にはタネも仕掛けもない、ごく普通の三節棍だ。

御白 夕花 >  
まずは連結させた状態でダミーを攻撃していく。
バトンを振り回すような要領で、人型をしたダミーの胴や足を重点的に狙って。
この武器を選んだ理由の一つはこれ。刃物や銃火器より安全に相手を無力化できるから。

私が"施設"で叩き込まれたのは"殺し"の技術。やろうと思えば急所だけを的確に突くことだって難しくない。
まして私には、どんな物理的な防御も通用しない異能(ぶき)がある。
だから、だからこそ───そんなものを使わないで済むように鍛える必要があった。
対人戦じゃ絶対に異能を使わないって、そう心に決めたはずだったのに……

この前、アストロとの戦いで私はその異能(ちから)に頼りそうになってしまった。

御白 夕花 >  
訓練レベル上昇。だんだんとダミーの動きが不規則になってくる。
こうなると大振りな棒術では対処しきれない。即座に連結を解いて鎖を伸ばす。
ひゅんひゅんと風切り音を立てて振り回した三節棍がダミーの胴を正確に捉えた。
現実の相手が真っ直ぐ向かってくるとも限らないから、このくらいはできないと話にならない。

こんなに頑張って訓練してても、そもそも物理攻撃が効かないなんて相手もいる。アストロがそうだった。
異能や魔術が使える分、決して珍しくもないこと。その場合はもう逃げるしかない。
それなのに、つい頭に血が昇って……罠を警戒するのも忘れて追い詰められてしまった。
あの時アストロをナナちゃんと見間違えて、それを聞かれていなかったらと思うと……背筋がぞっとする。

ご案内:「訓練施設」にクロロさんが現れました。
クロロ >  
常世学園訓練施設。
クロロはほとんどこの場に足を踏み入れない。
訓練に向いてないし、何より自分の力に自信があるからだ。
強者は得て、訓練などしない。では、何故ここにいるかというと……。

「…………」

腕を組んだまま、少女の姿を見守っていた。
同じ組織の新顔として、如何やら様子を見に来たらしい。
上昇する訓練レベル、ダミーの動きと少女の動きを金の瞳が右へ左へ、追っていく。

「……右」

思わず、ダミーの動きを口に出した。

御白 夕花 >  
ダミーが右に動こうとする。その動きを先読みして、足払いのように転倒させた。
ここから更に訓練レベルが上がると、ダミーの中にホログラムが混ざるようになる。
ホログラムに攻撃が当たるわけもないから、本物を見極める判断力が要求される……わけなんだけど。

「っ……く、訓練プログラム停止!」

人の声と気配がして、咄嗟にプログラムを停止させた。
見られてた───いつから? 誰に?
声のした方を振り向くと、見覚えのある男の人が壁際に立っている。
内心ホッとした。見られても平気な人というか、同じ《裏切りの黒》のメンバーだ。
私より後に入ってきた人で、コードネームは確か……《トーチマン》だったかな。

「あ、え、えっと……こんにちは……?」

そうは言っても一対一で話したりしたことはない。どうしたって緊張しちゃうものだ。
タオルで汗を拭きながら、おずおずと挨拶をする。

クロロ >  
訓練プログラムが停止された。
ダミーの動きが停止し、ホログラムの姿がも消える。
眉を顰め、後頭部を掻いた。

「ア、悪ィ。邪魔しちまッたか?」

多分こっちの声に驚かせたかもしれない。
そんなつもりは無かったが、まぁ畏れられる風貌はしている。
腕を組みなおせば、御白の姿を見下ろした。

「おう、精が出るな白ガキ。名前なンだッけか?まァいいか」

一方で随分とフランク、と言うよりも大分適当な感じの態度が飛んでくる。
終始こんな感じだ。シエルに連れてこられた時も
その場で本名で名乗り上げたり、己が"最強"だと自負したり
馬鹿っぽさが如何にも滲み出ている。

「随分とマニアックな武器使ッてッけど、異能縛りの訓練でもしてンのか?
 や、攻撃向けの異能じゃねェッてならそもそも違ェッて話だけどな。随分と熱入ッてたぜ」

「なンか、ヤな事でもあッたか?」

御白 夕花 >  
「い、いえ……大丈夫です。
 ちょうど、ちょっと休憩にしようと思ってたところなので」

両手をぱたぱたと振って嘘をついた。
悪い事しちゃったな、なんて気分にさせないための配慮。

「御白です。御白 夕花……表でコードネーム呼ばれるよりはマシですけど」

この人、あの《ミストメイデン》さんもガキ呼ばわりしてたし……これがスタンダードなんだと思う。
正体を隠すのが常の組織に初っ端から素顔のまま入ってきて、本名を名乗られた時は開いた口が塞がらなかった。
ついでに私の変装が割とバレバレだったことも露呈した。
反省して認識阻害の魔術をかけてもらうようにしたからもう大丈夫。

「異能縛り……まぁ、そんな感じです。
 基礎も鍛えておかないと、異能に頼りっきりじゃ危ないですから」

これも嘘。私を見出した《ヴラド》さん以外に過去は話してない。
それぞれ事情を抱えて集まった私達だから、詮索はしないのが暗黙の了解みたいになっている。
嫌な事でもあったのか、と訊かれてこの返しじゃ「ありました」って答えたようなものだけど。

クロロ >  
「…………」

トントン、と自らの肘を指が叩いた。

「なら、丁度いいけどな。……ンァ、御白か。
 じゃァ、白ガキッつーのも間違いじゃねェな」

言われると白い髪だし、"体は名を表す"とはよくぞ言ったものだ。
案外、自分のネーミングセンスも悪くないな。
そう言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた。馬鹿である。

「…………ほォン」

適当な相槌を一つ。

「そう言うの、普通は異能と合わせてとか使うモンじゃね?
 お前、一体どンなの使えンだ。別に、答えたくねーならいいけどよ」

余程熱が入っていたようだが
強くなりたいなら異能も遠慮なく使うべきだ。
クロロは、力を使う事に"躊躇は無い"。
"躊躇する理由が無い"からだ。無法者らしく、在るがままに使う。
それが、本来の力の有り様だ。だから、力に関しては相応に考えがある。
だからこそ、と言うのもあるかもしれないが
熱がこもるような事に対して、そんな"加減"めいたことが通じるか、疑問になるのだ。
クロロは馬鹿だか、阿呆ではない。金の瞳がじ、と細くなる。

「で、お前は基礎を鍛えなきゃなンねー程ヘナチョコッつー事か?」

御白 夕花 >  
「できれば名前で呼んでほしいんですけど……」

自信満々の笑みに思わず溜息ひとつ。
まぁ、この名前も由来は見た目が半分だから本当にあながち間違いじゃないんだけど。

「それは、その」

私の異能について訊かれたら口ごもるしかない。
いつからいたのかにもよるけど、どの程度動けるかは今の訓練風景を見れば丸分かりだ。
クロロさんは単純なのに時々ものすごく鋭いから、いっそ話しておいた方が無難だろうか。

「……危険すぎるんです、私の異能。
 怪我をさせずに……とか全然考えられないくらい、ひたすらに攻撃的で」

訓練プログラムを変更。異能用の特殊なフィールドが展開される。
ここでなら、どんな異能を使っても建物が壊れる心配はない。
唯一の"壊せる物"であるダミーに向かって右手の人差し指を向けた。

瞬間、そこから放たれた光がダミーの頭部を貫く。
音も無く、派手な爆発を伴うわけでもなく……ただ正確に、狙った場所を穿つだけの力。
それが私の異能───白き一閃(ホワイト・レイ)。

クロロ > 「じゃァ御白でいいな」

そう言う所は素直らしい。
力強い頷きが謎の頼もしさを感じる。

「…………」

口ごもる御白。
そして、ようやく語れるのは彼女の異能。
指先から放たれた白の閃光が、ダミーの頭部を貫いた。
有体に言えば"ビーム"と言う事か。
魔力を使ったもの……とは、違う。
触れるままに全てを穿つ死の閃光。成る程、殺傷能力は抜群のようだ。
ふゥン、と感心の声が僅かに漏れた。が……。

「……で、テメェの異能にビビッて使えもしねェッて事か」

全て見聞きし、飛んできたのは溜息交じりの呆れた声だった。

「で、当のお前はその"異能"をどうにかしようと思わねェのか?
 怪我なンざ、お前の持ッてる"それ"だッてそうだろうが。お前の異能ばかりがそうだと思うな」

手に持った三節棍を一瞥しつつ言い放った。
力は所詮力でしかない。その三節棍も光も、クロロから見れば同じ。
単純に手間の差があるだけだ。どちらも人を傷つけれるし、殺せもする。
"危険"と言う意味合いではどちらも変わりはしない。

「もしかして、相手舐める為にわざわざ縛ッてンのか?
 ンなら、随分とイイ性格してるぜ、お前。オレ様でもンな事しねーわ」

御白 夕花 >  
「なめてなんかいないですっ! ……ビビってるっていうのは、その通りですけど」

クロロさんの言う通りだ。私はこの異能を怖がってる。
私が『道具』だった過去を象徴するような、ひたすらに洗練された力。
まさに"死"を体現したようなこの光が私はたまらなく恐ろしい。

「どんな武器も使い方次第で人は殺せるし、殺さないようにもできるってことくらい分かってます。
 でも、この力はそうじゃないんです……"それ"だけしかないんですよ」

投薬と改造手術で引き上げられた異能の出力を、自力で出来る目一杯まで落とした結果が今見せた一撃。
最低限が銃弾レベルなのに、どうしろっていうのか。

クロロ >  
「…………」

気だるそうに、自身の首を撫でた。
途端、その首が、手が、燃え盛る。
紅蓮の炎が、クロロの体から噴き出した。
正確には、"炎に成った"。呪いと同じ、全身を生ける炎へと変化させる異能。
煌々と燃え盛る炎の熱が、光が周囲にまき散らされればボッ、と音を立てて消える。
再び、人の形へと戻ったのだ。

「オレ様もそーだが?みたか。おかげで全身何時でも燃えてンだ。
 このカッコもな、偶然そこにあッた写真も真似て模しただけ。
 魔力制御で形は保ッてるが、オレ様に触れるモンは文字通り全部火傷すンだよ」

おかげで、まともに人に触れる事も、物を持つことも出来ない。
生ける炎。文字通り災厄のように、触れるもの全ても焼き尽くす。
文字通り、不便な体。まともな生活をこのままするのは、難しい。
面倒くさそうに語るクロロだが、"悲観の色はそこにはない"。
指先で宙に一文字を描く。それに合わせて、青の光が軌跡が走った。

『深き海底<Deep blue>』

『千の顔を持つ月<Hydra>』

詠唱。青の光、水の力がクロロに"ある力"を与える。

「それでも、オレ様なりに"まとも"に生活できるように色々やッた。
 不便だと思うが、恨ンでも悔やンでもしょうがねェ。何を言ッても
 コイツはオレ様自身の異能、オレ様の一部に違いねェ」

「だッたら、目を背けてたッてしょうがねェ。
 時間が掛かろうが、血反吐吐こうが、一生かけてでも向き合ッてンだ」

どうしようもない程に、自分の一部だ。
だったら、そこに向き合うしかない。
一生をかけてこの炎と向き合い、暮らしていくしかない。

「言ッとくが、不幸自慢のつもりはねェ。
 単純にオレ様は、お前にムカついてるだけだ」

煌々と光る金が、御白を睨んだ。
徐に伸ばした手が、その頭を軽くつかもうとする。
但し、掴まれても今は"人並みの体温"しか感じない。
そのまましゃがみ込めば、相手と視線を合わせるだろう。

「……で、お前はどうなンだ?"それだけ"で終わらせるか?
 別にオレ様には関係ねェ。一生このままビビり続けンならそれでもいい」

「どうせ、一生付きまとう事だ。"ケジメ"を付けるなら早い方がいーぜ?」

その禁忌は否定はしない。力とは恐ろしいものだ。
彼女の感性も否定はしない。だが、その光も、他ならぬ彼女自身の力。
ならば、お前はどうする?金色は真摯に問いかける。

御白 夕花 >  
八つ当たりみたいなことを言ってるのは分かってる。
私が今までどれだけ苦しんできたか、なんてクロロさんには知ったことじゃないはずで。
だから、突然に彼の全身が燃え上がったのを見て、怒らせてしまったんだと思った。

「な……そんな体で今まで……?」

同時に自分が甘えていたことを思い知らされた。
触れるもの全てを灼き焦がす力、そんなものを抱えていても絶望しない"強さ"が、そこにはあって。
どうしようもない、なんて諦めていた私とは大違い。不幸自慢と言われて当然だ。

「ひっ……!」

その手が私に向かって伸びてくる。頭を掴まれたらどうなってしまうんだろう?
黒焦げの自分を想像して逃げ出したい衝動に駆られたけど、金色の瞳がそれを許さない。
アストロと同じ色だから、溺死しかけたことを思い出したのもある。

死を覚悟して、ぎゅっと目を瞑った。だけど、思っていた熱さは訪れずに……わしっ、と髪の上から掴まれる。
恐る恐る目を開けると、荒っぽくも真剣な瞳が私を見つめていた。

「わた、私……は……」


───"君は赦されている。『選択』することを。『間違う』ことを"

───"それを、『正す』ことを。『自由』を"


不意に頭の中で声が木霊する。
私の人生を変えた……《裏切りの黒》に入るきっかけになった日の記憶。
もしも、自分の生き方を自分で『選択』していいのなら───

「私は……この"異能(ちから)"と、向き合いたい……です」

金色の瞳を、今度は臆せずに真っ直ぐ見つめ返して、そう答えた。

クロロ >  
御白の言葉に、ニヤリと口角が釣り上がる。

「ンじゃァ、後はお前次第だ。言ッた以上は、二言はねェだろ?」

確かに臆することなく、自分に向かって啖呵を切ったのだ。
それなら後はそれを実行するだけだ。
言った以上、"スジ"の通らない真似をする程
彼女は"弱くない"とクロロは思っている。
要するに、期待しているのだ。

「安心しな、オレ様も言うだけで終わらねェ。
 お前が助けてを乞うなら、オレ様は遠慮なく力を貸してやる。じゃねーと、"スジ"通ンねェだろ?」

期待する以上は当然の事だ。
彼女の『選択』を"尊重"し
彼女の『間違い』を"正し"
彼女の『道』を"示す"。
《篝火》の二つ名に偽りはなく
迷えるものへの、確かな明かりへと成り得るものだ。
鷲掴みにしたを少し乱暴に動かして、頭を撫でた。
わしゃわしゃと白い髪が乱れる事になるだろう。

「オレ様の体の事は忘れろ。見ての通り、魔術でどーとでもなる。
 まァ、この体のおかげで、水属性と相性ワリーし、一日一回、しかも数時間しか持続しねーけどな」

即ち、先ほどの詠唱がそれだ。
水属性の力を以て、炎を持続させたまま冷やして見せた。
そんな生活に必要なものを、"此の場で使ってみせた"。
別に、彼女の為じゃない。一種の挑発だ。
『オレ様はここまでやッたし、まだこれに満足してない。お前はどうだ?』
そんな意味を込めたものだ。それと同じくして
迷える相手に道を示すのであれば、不可能でない事を見せつけなければ
自分自身だってやってみせた、と見せなければ"スジ"も通らないのだ。

「ンで、休憩が終わッたらどーゆーメニューで行くンだ?」

御白 夕花 >  
「ひゃわっ……あ、ありがとうございます。
 顔合わせの時はとんでもない人が来ちゃったって思いましたけど、優しい人で良かったです」

頭をわしゃわしゃされてびっくりしつつ、気持ちは晴れた気がする。
安心感から、こう……ポロッと。思っていた事が口から出ちゃう程度には。
ここまで期待してもらったら応えないわけにはいかないよね。

「忘れろっていうにはインパクト大きすぎましたよ……
 でも、魔術か……そっちの線でアプローチしてみるのもいいかもしれません」

魔術って分野には手を出したことがなかった。
自分にどれだけ魔術の素質があるかも分からないし、都合のいい魔術が見つかるとも限らない。
それでも、何もしないよりはずっといいはずだ。

「できる事から試してみます。もちろんトレーニングも続けますよ。
 さっき中断しちゃった、ホログラム込みのやつと……遠距離射撃のメニューも一緒にやっちゃおうかな」

まだ少し怖いけれど、やると決めたからには出来る限りのことがしたい。
この光(ちから)も私の一部だから……《真珠星》らしく、眩い輝きを放てるように。

クロロ >  
「オレ様の事なンだと思ッてンの???
 まァ、いいけどよ。優しかねェ。テメェの"スジ"通して生きてるだけだ」

クロロは無法者だ。その気質だけは変わらない。
人並みの優しさはあるかもしれないが、その人間的本質は『悪』に違いない。
それでも彼は、彼なりの"矜持"を持って生きている。
それだけは決して、破られることは無い。

「カカッ、オレ様はやッぱ強すぎるからな。けどまァ、そうだな。
 そーやッて試行錯誤すンのは悪くねェ『失敗はセーコーの母』だからな」

クロロは魔術師だ。即ち求道者。
成功も失敗も表裏一体としている。
だからこそ、"出来る事は何でもやる"。
成功を掴むために、どんなアプローチもするだろう。
実に満足げな表情だ。くつくつと喉を鳴らし、笑った。

「おう、とりあえず見てやるから後は頑張りな。お前の"輝き"、期待してるぜ?」

言うだけの事は言った。後は一旦見守りの姿勢だ。
頑張れよ、と付け加えて悪戯ついでに軽くデコピンでもしてやろう。
後ろに下がって、後は同じように、見守るだけだ。

御白 夕花 >  
「えへへ、じゃあ言い替えますね。あったかいです、すごく」

その燃え滾る炎はどこまでも純粋で、真っ直ぐで、あたたかかった。
触れるもの全て焼き尽くしてしまう炎がそこまでになったのは、間違いなく彼自身の努力によるもので。
私もこんな風に強くなりたい。クロロさんや《ヴラド》さん、ナナちゃんに胸を張れるように。
そして何より、私の大切なものを失くさないために。

「あたっ……はい、頑張りますっ!」

気付けの一発をもらってジンジンする額をさすりながら、トレーニングの開始位置に向かった。

ご案内:「訓練施設」からクロロさんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から御白 夕花さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
さて、本日も講義の合間に寄ることにした訓練施設
自宅がどうしても遠いので、朝道場で鍛錬が出来ない日がある、というのもあるが…

ロッカーの並ぶ女子更衣室、するりとリボンを取り去って、上着を脱ぐ

別に体操着やジャージでもいいのだけど、どうにも気持ちが入らない…なんていうのもあって
わざわざスポーツバッグに道着袴を入れて持ってきている

伊都波 凛霞 >  
シャツのボタンに手をかける
かなりいっぱいいっぱいの状態で留まっているそれを外せば、
白いワイシャツにややゆったりと余裕が生まれた

「……?」

道着をバッグから取り出そうと手を伸ばして屈んだ時に、ちょっとした違和感を感じる
ボタンを一つ外しているのに、シャツの背中が突っ張る……?

伊都波 凛霞 >  
ああ~
まぁね、前屈みになるとどうしても重力の影響でね
いくらブラジャーをしっかりつけてるといっても多少はね

「………」

シャツのボタンを全部外し、ゆさりと現れたそれを両手でぽよぽよ

──眉を顰め、首を傾げる

…これは、また大きくなった…か…?
いや、前に山本くんといったケーキバイキングの影響かもしれない
まだそう判断するには早すぎる

ご案内:「訓練施設」に出雲寺 夷弦さんが現れました。
出雲寺 夷弦 > ――――。


「……ぇ、急用、っつわれても……は?ペットショップのシフト埋めに……?いや、あぁまぁ、良いけどさ。俺、どうしてればいいんだ?――いや、自主練って、あ、おいっ、ちょっと」

画面の「通話終了」という文字に呆れながら、トレーニングウェアでそれなりに張り切ってた男子生徒は、肩を落とした。
呼び出され、スパーの相手になれと言われていたのに、いざ来たところのドタキャンだった。
切れる間際の『犬の方がお前との殴り合いより何倍も重要だ』とか言われたの、怒ったほうが反応として普通だったんだろうか、と、真剣に悩んでいた。

ぽつねんと、放置されたまんま立ち尽くし、どーすりゃいんですかと室内をただただ見渡した。

伊都波 凛霞 >  
また大きくなった可能性
いい加減成長も止まったかなと思っていたのでこれは由々しき事態である
……まぁ家に帰ったらじっくりと測るとしよう…それではっきりする

若干嫌な予感はしつつも道着袴姿に着替え、いつもの通り畳の敷かれたエリアに向かおうと更衣室を出る

「──あれ」

…と、そこへ向かうまで、トレーニングルームを通りかかった時によく見知った顔を見つけて足を止めた

出雲寺 夷弦 > .
「……あ」

あ。と、視線が交差した。見知った顔がいた。
こちらは薄手のトレーニングウェア姿、対し向こうは胴着と袴。
――うっわ懐かしい!とか、ちょっと思ってしまって、自然に浮かんだ笑顔だった。
その後、そのまま小さく手を振る。
奇遇だ、ついでに言うならちょっとだけ新鮮で懐かしい気持ちでいた。

「……」

――違和を感じた。いや、何がどう、とかではない。見慣れた故に、新鮮に、懐かしくて、だからこそ。
なんか違う気がした。

伊都波 凛霞 >  
「やっほ、夷弦」

ふわっとした緩やかな笑みと、小さくひらひらと振られた手

さて、なにやら彼が怪訝な顔?というほどでないけれど、そんな雰囲気を感じた

「珍しいトコで会うねえ。……?
 …どうかした?」

ひたひたと近寄って、その顔を覗き込むようにやや姿勢を下げる
やや前屈みになる姿勢は彼が違和感を感じているパーツをゆっさりと強調する

出雲寺 夷弦 > 「お、おう、凛霞。その、ちょっと、カミヤに呼び出されてたんだけど、ドタキャンされて……」

ここに居る理由を簡潔に、それでいて努めて軽めに告げる。
目の前の相手も、多分あいつのことをよく知ってる。ドタキャンするなんて、
深刻なことでもあったのかと気取ることにならないように。
かといって尊厳の為にバイトの埋めに奔ったということも伏せつつ。
ともあれそういうわけでぽつねんとしていたことを、その一言でしっくり伝えようとしてる。

「……ッ!!」

違和は確信に変わる。そしてその認知と同時に、耳まで顔を染めながら、弾かれたように斜め上に顔を逸らした。

「な、何でもない!!何でもないッ!!え、えぇっと」

「凛霞は、その、一人で自主練とか、か?」

その視線だけ向け、首はそのまま。辛うじて頭の上半分とポニーテールだけ見えた。
ポニーテールの揺れる回数を数えることで冷静を努める。

伊都波 凛霞 >  
未だに名前で呼ばれるとちょっとドキッとする…
こうやって意識をしてしまう時点で、もー自分が彼にオチてるんだなー、
なんて自覚させられて、ちょっとだけむず痒い

「何でもない?ほんとに?」

顔真っ赤だけど…と言いかけたけれどやめておく
もしかしたら彼も名前で呼ばれることにまだ慣れていなくって…ということかもしれない
…と、そういうコトに限りなぜか鈍感な凛霞は明後日の結論を見つけてしまった

「そうだね。早朝に自宅でする暇がなかなかなくって…。
 青垣山から通ってるからしょうがないんだけどねえ」

口元に手をあてて、苦笑を浮かべる

「もう3年生だし、ずっと親元にいるのも、って思うから。
 学生街あたりにアパートなんか借りるのもいいかなーって思ってるトコ」

斜め上を向きっぱなしの彼に視線を合わせるようにそっちを見てみる
何かあるのかな?と思ったが別に何もなかった

出雲寺 夷弦 > 「ほ、ホントに何でもねぇよ、うん、ないない……」

言ったら言ったでそれはまぁ面倒で大変で恥ずかしいことになる。
"先日"、色々とあったことを思い返し、自分のこういう部分ほんとどうにかしないといけないと思う反面、
自分は相手のそこしか見てないんじゃ?という不安すら出てきた。
……彼の向けた視線の先には天井しか無――あ、なんか染みがある。人の顔みたいに見えるシミュラクラじみた奴が。

ともあれ、そんな内心議論に閑話休題を置いて、ゆっくり首の位置を戻しながら話に耳を傾ける。

「へぇ、アパートを……そっか、そういやもう……」

――三年生。それに、親元から離れて暮らすということなら。
……過ったのは、目の前の女の子の、"姉妹"の。

「――…………なぁ」

口を開きかけ、それがちょっとだけ息詰まり、
閉じられて、もう一度開いた時には。

「もし、凛霞が良いなら、だけどさ。久々に一手、組まねぇか?」

――組手の誘いに切り替えていた。

伊都波 凛霞 >  
「風紀委員の仕事もしてると青垣山まで帰ると夜も遅くなっちゃうしね。
 夏が終わったらどこか手頃なトコ、探そうと思ってたんだ」

視線を向け直してそう言葉を返すと。彼はなんだか言葉に詰まった様子
どうしたんだろう?と思いつつも、続いた言葉にはちょっと驚く

「組手…?
 いいよ、あっちに畳が敷いてあるトコ、あるから行こ」

一瞬不思議そうな顔をしたものの、そもそもカミヤくんとトレーニングする予定だったらしい、ということで納得
…はしたが

「思い詰めたような言い方するから別のコト言われるのかと思っちゃた」

先導するように歩きながら、背後を振り返ってそんな言葉を零してみたり

出雲寺 夷弦 > 「……風紀委員、か。そういや、凛霞は委員会、所属してるんだっけな。
転入してきてるって"風"だから、色々話は聞くけどさ」

どういうことを聞いたかと言えば、『伊都波さんは凄い風紀委員の人』だと。
自分がその名字を、名前呼び捨てかけて出した途端に、
返ってきた返事がそれだったのだから、その評判たるや今尚も。
若干興奮気味に話してたそいつの事を思い出して、苦笑いを浮かべる。
本当は、噂なんかよりずっと普通だってこと、知ってるのは自分以外、
誰かいるんだろうか、なんて思う。

「……ん、あぁ、そっちでやるか」

そちらへ向かうがてら、その背中を見ていた。
前より大きくなったのは、局所以外も普通に考えればそう。
前比べるような距離だったときは靴を履いていたから、今はちょっとだけ、
自分のほうが高いと思う。
そうしてみてれば振り返り、そんなことを言われた。
――普段なら、さっきみたいにまた慌てるが、
過った顔、思い返すこと、目の前の背中に思うことのほうが強かったからか、
存外彼は落ち着き払って。

「……別のコトなら、組手終わった後とか、帰り道とか、その帰り道で自販機で何か飲み物を買うときとか」

指を立てていくのは、青年が"帰るまで一緒にいることを前提としたシチュエーション"で。
そう数えること、指が片手本数を折り返した頃に、


「――これまでずっと言えなかった事は、本当に数えきれない位あるから、ちょっとずつでも言うよ」

そう言って、とても嬉しそうに笑った。

伊都波 凛霞 >  
「そっか」

これまで言えなかったことがたくさんある、と言ってくれた彼
待った甲斐があったなあ…なんて、内心思いながら歩いていると目的の場所へはすぐに到着して

畳の上に片膝ずつ降ろして、袴を払う所作
気持ちはしっかりと切り替えなければ

「…よし。それじゃあいつでもいいよ」

一度座すことでしっかりと気持ちを切り替えて
目の前の彼は組手の相手、それもとびっきりの『武人である』
そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと立ち上がる

出雲寺 夷弦 > 「――。」

言いたい事が一杯ある。伝えたいことが一杯ある。
思うことを、思い切って伝えて見ろと、アドバイスを受けた通りにしてみると、
なんだか少しだけ気が引き締まって、落ち着いて。

……対面するように座り、そして所作を倣いながら、
呼吸をした。
――すぅ、と、彼が息を吸えば、場の空気は厳かに『張る』
はぁ、と、彼が息を吐けば、彼を中心に、畳は『軋む』

彼は、そうすることで『武人』の顔を見せる。
何せ、かつてその背中に、"当主"の冠を背負っていた男、

「行くぞ、凛霞」


素人ではないのだ。並みでもない。
故に――最初の踏み込みから、彼は本気だった。
足が霞むほどの捌き、そして次には輪郭を結ぶ。
間合いへ彼は一気に踏み込んできて、手始めに掴み技を仕掛ける。
視線を正面へと惹く気迫、正面から左右の手は、どちらかが掴み、どちらかが投げる。
その瞬間まで、本命がどちらかを悟らせない――が。


――貴方は知っているのだ。"彼は左利き"であることを。
一見、踏みしめるのは利き腕を動かし易いほうの軸足。
だが彼は、そうでなくても動けるのだ。
右から仕掛けてくるというフェイント、左からの本命。
所作を迅速に、正確に行う事で悟らせまいとすることこそ、彼の癖で、一手目は必ず、『左』から来る。