2020/09/26 のログ
伊都波 凛霞 >  
対峙しているだけで緊張感が伝わってくる
その名を呼ばれただけで心音が高鳴るのは、先程までとは別の理由で、だ
頬を僅かに伝った汗は冷たいし、あたりの空気の張り詰め方だって尋常じゃない

これまで此処で立ち会った何人かの人は、自分のことを"強い"と評した
そりゃあ強くもなろうというもの、こんな男の子が幼馴染なのだから───

きっと初見ではいなせなかっただろうなー…と、左からのファーストアタック
優れた武人であればあるほどこのフェイントには引っかかるんじゃないだろうか
私は、彼の癖を知っている故にこうやって対応できる

「(やっぱり、左が本命)」

するりと左から掴みかかる腕に、蛇が絡むように凛霞の右手から絡みつく
そのまま体重移動の妙、彼の身体に突如として100kgを超えるGがかけられる

それで姿勢が崩れたなら、そのまま引き込むようにして四方投げを仕掛ける算段──!

出雲寺 夷弦 > 「――やっぱ、そうなるよ、なッ」

視界がブレ、身体全体がグッと揺れて、自分が行っていた物理運動の主導が、相手に奪われる。
投げの姿勢にまで一瞬で持ってかれながら、彼はそう、"冷静"な声を上げた。


――重量が大きく動くのに合わせ、腕と身体を捻りながら、投げの勢いに乗せて畳を蹴る。
投げられたかと思いきや、その勢い任せに跳躍しながら空中で投げを殺し、着地までの流れを鮮やかに作る。

"左を取られることを前提とした、投げの受け流し"だ。
――そうしてその勢いが終わる瞬間に発生する力の発散を、鞭のように袖を振り、掴みを振り払いながら彼は跳び退る
ファーストアタックを取られたら、次の手を矢継ぎ早に繰り出すよりも、彼は次点の技を再び隠すように構え直す質だ。
"慎重が故"だが、それ"故"だった。構え直すまでの動きも早く、次には最初の構え、つまり『次の"初"手』を繰り出せるようにしていた。

「ふッ……!!」

――次なる手は、間合いを中途に詰めるが、踏み出すや否や身体を沈める。
気迫は一瞬、正面から来る、と思わせての、低く沈み込んでからの足払い。
それも、気迫をぶつけ、潜航し、踏み出した足を軸に回り、繰り出す足を"さらに軸にして"、
そこから本命の、最初の踏み足による水平蹴り。
風を切る音が踵で起こる、当たれば、確実に身体を一回転半は回しながら畳に叩きつけられることになる威力で。

こんな躰捌きだ、膝か足首に大きな負担がかかろうものを彼は、あっさりこなしてくる。

伊都波 凛霞 >  
「それも──見えてるっ」

相変わらず、身体が強い
こんな無茶な制動、繰り返していたら確実に腱を潰す

冷静にその動作、フェイント、気迫と殺気、どれが偽物でどれが本物か、見定めて…
平手で、放たれた水平蹴りの"膝"を抑える
爪先を抜け、込められた力は飛散し、残った体は無防備になる

そしてそのまま鋭く入身──から、肘鉄をその鳩尾へと叩き込む
この流れるような動きも、きっと目の前の彼には覚えがある…よく見知った、よく喰った
そんな一連の動作の中の一つ、なのだろうけれど

出雲寺 夷弦 > 「ッぐッぅ」

『ドンッッッ』と、鳩尾に奔る衝撃に、声を漏らす。

――この一撃さえ、しっかり威力の弱い部分で取り、そしてすかさず隙を突いて、鋭利で、見目の地味でも、必殺の威力のカウンターが飛んでくる。

躰を折り曲げながら、取られた膝、その掌へ膝を蹴りつけるようにしながら、対抗方向にすかさず転身、その勢い足を、振り上げて蹴撃として、取ってくるだろうその肘に牽制として放ちながら立ち上がり、再び身を引いた。

……浅く息をつき、鳩尾を受けた場所を僅かに押さえる。
汗が滲み、けれど口許は、自然と笑ってしまう。

「……あいっかわらず、えげつねぇ対応力だよな。身体は前より頑丈なんだけど、今の結構痛かったぞ」

必殺の威力に必殺のカウンターが飛んだのだ。
逆に言うなら、割とそれでさっくり、相手を畳に伏せられると思っていたから、逆に自分が今の身体でなければそうなっていた程の威力。
畏怖と、感心と、若干の呆れ。

「――でも、一撃位俺だって、負けたくねぇから、さッ!!」

その声と共に放たれる攻撃は、そう、とても大振りな『数回のフェイントを挟む回し蹴り』だった。
だが、その大振りの動きで、空気が"裂け"、"震え"、生物として『威圧感』を与える。

――受けようとすれば、多分、ちょっと、『痛いじゃ済まない』と感じさせるのだ。
的確にいなし、反撃を打ち込む為に必要なのは――その大振りな動きの『必殺』の間合いに、飛び込む度胸だ。

伊都波 凛霞 >  
距離が離れれば、ふっと小さく息を吐く
傍から見れば完全対応、優勢に進んでいるように見えてもその実はギリギリの内容
予備知識、過去の組手からの予測、一手一手の切り出しが疾くなるからこそである

「…人間の身体が取れる動きは限られてるからね。
 でも夷弦は結構無茶苦茶な動きしてくるから神経使うよ」

最初のフェイントもそう、今の動きだって常人だったら出来ないか、やって身体を痛めるかだ

そして再び彼が繰り出すのは…
幾重ものフェイントに覆い隠された廻し蹴り
これを返しに行くのはリスキーだと一瞬で悟ることが出来る──けど

あえて正面から行く
繰り出された蹴り足、真贋を見極め、両手で捉えたその脚を巻き上げ、後方へ大きく投げ飛ばす

「──っ!」

そのつもりが──込められている力、彼の膂力が少女の想定…記憶の中とは大きく異なっていた
知っている、というのも時には計算違いを生む要因となる
大幅に補正したつもりが足りない。僅かな力の計算の狂いは緻密に練られた少女の技巧に亀裂を与え…

「あ、ぅッ!!」

畳の上を二転、三転
転がり、倒れ伏すこととなった

出雲寺 夷弦 > 『ドオンッ』

音があるとするならば、そんな大砲じみた音だろう。
受けた場所の次第では、そこから震動が全身に走るような錯覚さえ、
受けた相手に与えうる。――彼は『本気』の一撃を確とぶつけ、そして。



「――っぁ」

はっとした。久々の組手と、そして何度かの駆け引きに負けていたのもあったが、『今のはちょっと組手として必要な加減が足りていない。』

サァッ――と血の気が引いた顔で、構えを抜いて駆け寄った。

「凛霞っ!!」

何度か跳ねたのが見える。下が畳とはいえ。
転がった貴女の傍まで来て、容体を伺う。

「わ、悪い!今のちょっとまずかったッ!け、怪我は……ッ!!」

伊都波 凛霞 >  
「けほっ…あいたた……あ、大丈夫…ちょっと受け身できなかっただけ…」

上体を起こし、咳き込む
両腕もかなり痺れている。…あれを完全にいなしにいくのは勇気がいるなあ…と内心思いつつ、視線を向けて

「なんか懐かしくなっちゃって、
 昔と同じつもりでいたら、もう夷弦には勝てないね」

眉を下げて笑う
単なる組手、ではあるものの、負ければそれはそれで悔しいもの
けれど不思議とまったくそういう気持ちがない、どころか…
むしろ自分を負かした相手が誇らしい、なんてちょっと思ってしまった

「はい、悪いと思ったら起こして?」

そう言って、片手を広げて、彼へと伸ばした

出雲寺 夷弦 > 「い、いや、今のは俺が――……っ」

咳き込むわ、腕も痺れてそうだわ。今の一撃はちょっとアツくなり過ぎた。と、反省する。
相手はそういうけれど、ちょっとだけ違うんだ、と言いたかった。

「……今は、純人間じゃないからさ。加減、しっかり出来ないといけないのは、俺のほうだ。
――むしろ、やっぱ凛霞には、今も敵わないよ。同じ人間の立ち回りでなら、俺はまだまだ、その二手先まで取ってくる技には太刀打ち出来ない」

真剣な声と、確かな賞賛と、ほんの少しの悔しさ。
結局、その"膂力"でごり押ししたようなもので、技術で勝てたとは言えないという気持ちだった。


「ぁ、お、おぅ……」

伸ばされた手を、優しく握った、手を引いて起きるのを手伝うが。
起こすときには、それなりに距離が近づく訳で。
――トレーニングウェア姿の夷弦の屈強な身体、起こす時も全く軸のぶれない体幹。
"生物"としての強さを感じさせるには、充分過ぎる。

伊都波 凛霞 >  
──彼はそう言うけれど、読みを外したのも裁量を違えたのも力不足には違いない
だからきっと、悔しさを感じなかったのは…技術で勝っていただとかではなく……
多分、きっと、彼には負けてもいい、彼よりも弱くても構わない──そんな気持ちがあったからだ

手を引かれれば、彼の手にかかる重さはきっとその力にとっては微々たるもの
華奢で軽い、簡単に抱き上げられてしまいそうなくらいだろう

「ふふ、ありがと …と」

優しく引き起こしてくれた彼に笑顔でお礼を言いつつ、かくんと膝が折れかけた

「っと、と…あはは、情けない。
 今日はこんなところでおしまいかなあ…?」

十分すぎる緊張感だったし、集中力も十分に高められたから良しとしよう

出雲寺 夷弦 > .
「っと」


何でかは分からない。組手の後の、不思議な余韻は、随分と気が研ぎ澄まされたままでいるからか。
ほんのり感じるのは、相手との言葉以外での、意思の透視だった。
――どうして、ちょっと嬉しそうに見えるんだろう。
自分も、それに悪い気がしないでいる。

あれだけ技術を尽くして、自分の技を見事に押さえて退けて、
最後のごり押しで決着がついたことに、不服を互いに感じないでいるのは。

そんな思案が廻るのもつかの間。相手が膝から崩れかけて、支えた。

「……帰る前に、医務室まで行こう。手応え的に骨まではいってないと思うけど、痣とかそういう風になっちゃうとアレだろ?」

心配気に顔を覗くと、そこからふっと力を抜いて、
――真剣な顔をした。

「凛霞、少し楽にしろよ――っ、よッ」

崩れかけたのを支える姿勢から、随分と素早かった。
背中と膝の後ろ、足から先に上げ、背中を自然と横に出来るようにした。
――女子なら一度は憧れる、横炊き姿勢。又の名を「お姫様抱っこ」を。
夷弦は敢行する。実はちょっとだけ、往来の廊下で抱き着かれた時みたいなことを、今度は自分もしてみたいとか思ってたりしてない。
別にしてないったらないが。

「……こっちの方が楽だろ?」

至近で、ちょっと緊張混じった苦笑を見せる。
敢行したけど、やっぱり夷弦のそのへん、まだ少し恥ずかしさに勝ててない。

伊都波 凛霞 >  
「え?う、うん。大丈夫だとは思うけど…」

威を殺しきれないまま回し蹴りを受けた両腕からはまだ痺れが消えない
顔を覗かれるものだからちょっと距離感…おっと、近い、近いですよ夷弦サン…
とか思っていたのも束の間

「へ…ひえっ?!」

思わず間の抜けた声が漏れてしまう
突然の浮遊感と、視界の流転
自分が胸元に抱えられている状況だということに気づくのに少々の時間がかかった
理解すると同時にとんでもない恥ずかしさというか、色々なものがこみ上げてくるのだけど

「あ、え、は…ハイ、よ、よろしくオネガイシマス…」

顔を真っ赤にして俯き気味に、医務室GOを了解する言葉を漏らすのが精一杯
さっきの組手の緊張感とか緊迫とか目じゃないくらい心音が高くなっているんですけど!

出雲寺 夷弦 > 「……」


伝わってくる、滅茶苦茶心拍数も、心音も、上がっている。
――いや、自分もだけれど。相手が動揺するのと同じくらいこっちも動揺せずにいられない
何せこの姿勢では自然と自分の身体と相手の身体は触れあうというか、自分のエンジンのような心臓も、
それはもうばっくんばっくんと音を立ててるのだ。


「……ま、任せろください」

バグった返事。くださいじゃない。
でもまず、相手が怪我してるかもしれないっていう心配で頭の切り替えをする、まず医務室。照れるのはその後だと、トレーニングルームから出る。




……この後は医務室に着き、手当を行って。
幸いにも威力受けた割になんてこともなく、
軽度の打撲くらいのものだったので、湿布を貼っとけば大丈夫、となった。
その後は、組み手前に彼が言っていた通りな具合に、
着替え、施設を後にし、帰路を共にすることとなるだろう。
――彼が伝えたかった事、言いたかったと言って、その帰路で告げたことを、此処に抜粋する。


『今度、弁当を作らせてほしい』

『好き嫌いがあれば教えてほしい』

『今度、カミヤの家で季節早めの鍋パーティを一緒にしたい』

『試験勉強を一緒にしたい』

『たまにまた組み手もしたい』


やりたいこと、してあげたいこと。
――夷弦は、なんというか、同い年でも、ほんの少しだけ我儘っぽかった。

ご案内:「訓練施設」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から出雲寺 夷弦さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」に火光雷鳥さんが現れました。
火光雷鳥 > 訓練施設――ドーム状の形をした、主に生徒の異能や魔術の訓練、及び生徒同士の模擬試合を行う為の場所…らしい。
何せ今日初めて利用するのもあり、正直勝手がさっぱり分からないのだ。

(…いやいや、俺から誘っておいてアレなんだけど、大丈夫なのかね、これ)

とある友人との模擬試合の予定なのだが、まずそもそも能力の相性が最悪だ。
相手は水、こちらは火…五行何とかとかゲームとかでもよくあるように、相性はこちらが圧倒的に不利。
無論、立ち回り次第なのだろうけど…異能だとか訓練の経験は殆ど無い素人だ。

「…取り敢えず、やれるだけやってみるしかないんだけどさぁ…。」

ドーム型施設の中にある幾つかの訓練所の一つ…その中で戦々恐々としつつ待機する赤毛赤目の少年。
待ち時間の間に、軽く柔軟などをして体を解しておくが…さて、どれだけ動けるやら。
正直、運動神経抜群とかそういう訳ではない。ついでに言えば喧嘩とかもあんまりした事が無い。

火光雷鳥 > 「――お?…お、くらげからメール来てた。…えーと、30分くらい遅れる?…ほぅほぅ。『了解、ゆっくりでいいぞー』…と」

ポケットに入れていた携帯の振動音に気付いて取り出す。メールの送り主は今日模擬試合相手の少女からだった。
ぽちぽちと簡潔に返信を送りつつ、さて時間が少々出来てしまったが、どうしよう…。

「柔軟はしちまったし…こう、精神統一?…いや、何か逆に落ち着かないわ、慣れねぇ場所だし…どうすっかなぁ」

携帯でもぽちぽち弄るのもいいが、それで緊張が紛れる訳でもないし。
取り敢えず、動き易いように制服は上着だけ脱いで畳んで訓練所の隅っこに置いておく。

「…あ、いけね!貴重品貴重品!」

財布と携帯をごそごと取り出せば、先程畳んだ上着に挟み込むように突っ込んでおく。
流石に、模擬訓練とはいえ携帯や財布が水やら炎やらで台無しになったら目も当てられない。

「これで良し…と。取り敢えず緊張感は保ちつつ、もうちょいリラックス――出来ねぇよなぁ」

常世島初心者の自分にはハードルが高かった。模擬戦闘をやろうと思っただけ進歩と自分をささやかに褒めたい。

ご案内:「訓練施設」に綿津見くらげさんが現れました。
綿津見くらげ > しばらくすると……
遠くからふわふわ浮遊しながら近づいてくる少女の姿、
彼女の名は綿津見くらげ。
両手に抱えているのは、大きなバケツ。

「待たせたな。
 雷鳥。」
ふわりと雷鳥の近くに着地すると、
よっこらせ、とバケツを脇に置く。

「ふぃ。
 疲れた。」
バケツには並々と満たされた水。
重い物を持って浮遊するのは、結構疲れる。

火光雷鳥 > 「ん?お、来た来た。おーーい、くら――…」

待ち合わせ相手の少女がふわふわと浮遊しながらやって来る。
初対面で目撃していたお陰で、流石にそれは慣れたけど問題は彼女の両手…どう見てもバケツである。

(…あ、そういや確かくらげってこの前も水道から水を供給?してたっけか)

公園の水道破裂事件を思い出す…いや、あれは思い出したくないんだけどしょうがない。
つまり、あの中身は水か?案の定、ふわりと少年の近くに着地した少女がバケツを脇に置くのを覗き込めば…。

「そりゃ、こんだけ並々と水がありゃ重いだろうよ。…と、いうかくらげって物を浮かせたりは出来ないのか?
こう、自分だけじゃなくてバケツも浮かせるとか」

軽くジェスチャーも交えて尋ねてみる。能力に関しては素人だし、人様の能力なら尚更知識はゼロだ。

綿津見くらげ > 「浮くだけ。
 自分が。
 他の物は無理。」
自分を浮かせるだけ、
しかも高さや速度はあんまり出ない。
浮遊能力自体は、さほど強力な能力では無いのだ。

「それはさておき。
 やるか。
 早速。」
異能の訓練、模擬戦。
実際するのは、くらげも雷鳥も初めてである。
加減があんまり分からないが、ひとまず初めてみようと。

火光雷鳥 > 「なるほど、まさに『浮遊』能力って訳ね…。」

でも、能力は進化や成長する事もあるみたいだし、今後のくらげ次第でパワーアップするんだろうか、とぼんやり考え。

(まぁ、問題はくらげの水の異能の方なんだが…どう対処すりゃいいんだろうなぁ)

足りない頭を捻って考えてはみたが解決策や対抗策は浮かんでいない。
異能の講義は一応ちゃんと出席しているが、正直ちょっと前まで一般学生やってた少年には荷が重い。

「お、おぅ。じゃあ始めますか…どっちが先攻?」

そうくらげに尋ねつつ、近過ぎたらあれなのでそのまま後ろに少し下がって、おおよそ5,6メートルくらいの距離を取ろうか。
自分が分かっている範囲では、己の能力は視界範囲内、そして発火可能なのは10メートルが限界だ。
ゆっくりと深呼吸をしてから、僅かに身を低くして何時でも動ける体勢に。

異能を何時でも発動出来るようにか、少年の赤い瞳が薄っすらと輝きを帯びる。

綿津見くらげ > 「先攻……。
 先に仕掛けてくるが良い。」
控えめな自分は、相手に先を譲るのだ。
などと考えているが、
この前公園で問答無用で攻撃してきた奴が何を言うか。

「命を賭し………
 それはやりすぎなんだったな。」

「じゃ。
 賭けようか。
 何か他の物を。」
どうせやるなら、その方が面白い。

「言う事を聞く。
 何でも。
 負けた方が。」
『何でも』などと気軽に提案。
……少女に負けたら何させられるのか、たまったモノでは無さそうだ。

火光雷鳥 > 「…りょ~かい。俺からって訳ね…さて。」

力に目覚めてから、1,2ヶ月程度ではあるがちゃんと自主的に訓練や試行錯誤はしてきた。
だから、自分の発火能力に付いては幾つか気付いている事もある。
まぁ、それは今は後回しだ。それよりも…

「いや、模擬戦闘、というか生徒同士で殺し合いとか冗談じゃねーって!
…って、賭け?俺あんまり金とか持ってな……はいぃ?」

『いきなり何を爆弾発言じみた提案しているのこの娘は』、と言いたげにくらげを見る。
負けた方が何でも言う事を聞く?それ、女の子が提案していい賭けでもない気がするんだけど。

「いや、それはちょっと流石に…こう…なんと言うか……あぁ、いや、何でもない分かった…。」

くそぅ、一瞬だけ邪な妄想をしてしまった自分を殴り飛ばしたい。
…年頃なんだからしょうがないじゃない!!思春期の若者なんだもの!!
まぁ、こちらが負けたらどうなるか分かったモノでもないが…勝つ為のモチベーションは上がった。

「じゃあ…やるかぁ。いっちょよろしく頼むぜ…くらげ!!」

叫ぶように口にするのは己への鼓舞も兼ねている。再び少年の瞳が赤く光れば、くらげの目の前の空間に炎を発生させようと。
彼女を直接燃やす事はなく、ただの不意打ちの…目晦まし。意図は二つ。

(異能は集中が必要って聞くし…いきなり目の前に炎が出れば少しは集中が乱れる筈!!)

そしてもう一つは、炎で視界を塞ぐ事で…こちらの姿を少しでも見失わさせる事!!

およそ5メートルの距離を一気に詰めつつ、真正面から…ではなく、ステップで直前に彼女の右側へと飛んで――脇腹狙いで蹴りを放つ!

綿津見くらげ > 「流石に。
 何だ?」
雷鳥の邪な妄想を見透かしてか、いないのか、
変化の乏しい表情に、一瞬だけ不敵な笑みが混じった。

「では。
 始めよう。」
そう言うと、ふわりと宙に浮く。
同時に、バケツの中の水も彼女に付き従う様に宙へと舞い上がり、
水の羽衣の様に彼女の周りを漂い始めた。

先攻は相手に譲ったので、
まずはその出方を伺うが……

「おぉ。」
目の前で派手に弾ける炎。
間延びした声を上げて反応するが、
これでも結構驚いている。

眩い光に一瞬視界を奪われているうちに、
雷鳥の姿が正面から消える。
そして死角から放たれる蹴り。

「………。
 危なし。」
ばしゃん、水音が響き、
雷鳥の足先には水の様な、それでいて弾力のある不思議な手応え。
漂う水が彼女を守る盾となり、雷鳥の蹴りを防いだのだ。

火光雷鳥 > 「な、何でもねーよ!」

と、焦って否定するのは嘘が下手な証拠というか何と言うか。まぁしょうがないね。
そんな事よりも模擬戦闘に今は意識を集中する。正直、少しでも気を抜いたらあっさり負けそうだ。

「――っ、展開がはえぇ!!」

彼女の周りを水が羽衣のように漂うのは確認しつつも、あくまで初手は攻撃ではなく炎で視界を塞ぐ事。
特に驚いたように思えない間延びした反応だが、視界は塞げている…多分!!
だが、目晦ましの隙に側面へと滑り込んでの脇腹狙いの蹴りは…彼女をガードするように展開された水の膜で届かない!!

「――やっ…ば!?」

驚いている場合ではない。何とも言えない不思議な感触の水の膜から、咄嗟に足先を引きながらバックステップ。
至近距離だと自分ごと燃やしてしまう恐れがあるし…そもそも、人を、友人を燃やす度胸がまだ彼には無い。その覚悟も。

(マズい、初手で有効打を多少決めておければ良かったんだが…!!)

彼女はのんびりしているようだが、それは日常でこういう訓練でもそうとは限らない。
何より、想定以上にあの水の変化が厄介だ。畳み掛ける事よりも彼女の反撃を警戒する。

綿津見くらげ > 水膜がゴムの様に弾み、雷鳥の蹴りを弾く。

「………。」
雷鳥の初手はなんとか防いだ様だ。
では、次はこちらの番と行こうか。
どうやって攻めたものか。
水の使役は変幻自在なだけに、
くらげのイマジネーションが試される。

「行ってみようか。
 こんな感じで。」
水膜が彼女の周りから離れ、
雷鳥に向かってするすると伸ばされていく。
その先が指の様に分かれて、雷鳥を捉えようと。

火光雷鳥 > 彼女の能力の変幻自在さに対して、こちらは打てる手がどうしても限られる…常に炎を出せる訳でもない。

(”発火”能力だからなぁ…だからこそありふれてんだろうけど)

だが、足りなくても弱くてもこれが自分の力なのだ。どうにかやるしかない。
出来る限り息を整える。再び瞳が薄っすらと赤く輝く…と。

「……うぉっ!?」

水膜がくらげの周りから離れる…と、その水が今度はこちらに指か枝葉のように伸びて拘束しようとしてくる!!

「……やるしかねぇ…!ビビるな…俺!!」

自分に言い聞かせて――まず、二つの水の触手?へと視界の焦点を合わせる…熱量は高く…なるべく高く!!

(――蒸発しろっ!!)

そのまま、迫り来る触手の最初の2本を蒸発させて水蒸気と化させる。
そして、再び間合いを詰める!当然残りの水の宿主の魔手に自ら突っ込んでいく形だが。

「…こなくそぉっ!!」

咄嗟に地面を転がるようにして残りの宿主の追撃を交わし…切れなかった。何てこった!!
1本だけ左足に水の触手が引っ掛かるように拘束される…いやいや、今動きを封じられたらマズい!!

綿津見くらげ > 「……捉えろ。」
動きを止めた雷鳥に迫る水の触手。
獲物を捕食するクラゲの如く、それらが雷鳥を絡め取ろうとするが……

逆に雷鳥は間合いを詰めてきた。
同時に、眩い光を放ち発火。

「……む。」
ばしゅん、と音を立てて、水の触手2本が霧散する。
所詮バケツ一杯分の水、2本失っただけでも大きい。

それでも、1本だけ残った触手が雷鳥の脚を絡め取った。

「よっこら……しょ。」
少女の身体が青く光ると、
触手の力が増していき……
雷鳥の身体ごと、振り回して放り投げようと。

火光雷鳥 > 「くっそ…!!」

反射的に左足に絡まった水の触手に発火能力を用いようとするが…駄目だ、加減が難しいから下手したら左足に大火傷してしまう。
…と、視界の端に青い光が見えた。――ゾッとする悪寒じみた感覚。まずい、まずいまずいマズい!!

「う、おおおおおおお!?!?」

触手が足をがっちり捉える力が増したように感じたかと思えば、そのまま体が浮き上がり――触手に振り回される。
揚句の果てにはそのまま放り投げられ――

「…ちょっ…!げふっ!?」

そして、放り投げられたその体は宙を舞い、そのまま地面に叩き付けられてゴロゴロと転がる。
…痛い、めっちゃ痛い。受身?そんなの素人に期待するな、咄嗟に出来る訳が無い。

「くっ…そ。」

それでも、まだ勝負は付いていない、と無理矢理体を起こして立ち上がる。
ただ、頭もそれなりに強く打ったのか、足元がやや覚束ず若干フラついている。

「まだ…まだぁ!!」

とはいえ、焦点が中々合わず能力が上手く発動できない。くそ、こんな時に!