2020/10/09 のログ
ご案内:「訓練施設」に貴家 星さんが現れました。
ご案内:「訓練施設」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
貴家 星 > 時期尚早に冬の足音が聞こえる雨模様の或日。
秋の日は釣瓶落とし。と言われるにしても落下速度が速過ぎようと案じられる日。

「こういった場所が使えるのは、やはり有難いものよの」

雨も寒さも無関係とばかりに、真夏が如き室温を保つ訓練施設内で満足そうに頷く者あり。私である。
しかし訓練施設。と言ってもシミュレータの類がある訳でも無く、その内装はスポーツジム。
リングやサンドバッグなどもある事からしてボクシングジムとの折衷のような様相を呈しておる。
些かレトロな内装はそうした風であるからで、隣の棟などは色々と進んだ諸々が揃っておるそうだ。

──故に、然程人気は無いのか現在室内には黒のトレーニングウェアを着た私のみ。
ロハ(無料の意)で使えるならば無理も無い。そりゃあ新しい方のが人気が出ようものだ。
ぶら下がり健康器よろしく、懸垂台にぶら下がり感慨深げな声も出る。

芥子風 菖蒲 >  
あなや秋分。些か秋には師走の空気。
肌寒い寒気を感じる季節になっても、少年のやる事は変わりなし。
平時の時こそ、鍛錬を怠るべからず。
父の教えに従い、隙あらば鍛錬を積むべくしてやってきたは旧式の訓練施設。
生憎、普段使っているシミュレータが埋まっており、致し方なくやってきた次第だ。
とは言え、体作りも武術家の一環として必要なもの。
黒衣を翻し、一人ぶら下がる下へ少年はやってくる。

「なんだ、人いるじゃん。一人だけど」

てっきりだ。思わぬ先客に目をぱちくり。
ぶら下がるその姿へと近づけば、空のような青は不思議そうに上下。
興味津々と言った具合だ。別に体に興味は無い。

「……狸?」

その特徴的なモノにも、疑問の声を上げずにはいられない。

貴家 星 > ぶら下がった姿勢で力を入れて身体を持ち上げようとする。
持ち上げようとするのだから、現時点では持ち上がっておらず、力を入れてもそれは変わらない。

「んっ……ぬっ……むおお……」

渾身の力を込めても上がらない。
私は妖であるからして、その身体能力は常人よりも優れている筈なのだが、それでも上がらない。
いやいやまさか、そんな馬鹿な──と、再度挑むも変わらない。足が忙しなく宙を蹴る。

「……ふ、よもやよもや……いやいやまさか」

体重増加の4文字が脳裏を掠る。
いやいや、確かに先々日は贔屓の喫茶店で3段重ねのホットケーキをお代わりしたし、
先日は神代殿を贔屓の喫茶店に案内し、3段重ねのホットケーキをお代わりなどしたし、
流石に帳尻合わせに運動等もしておかねばな、と委員会活動も無い日にこうして此処を訪うものであるが。

「流石にそんな急に目方が増える筈──おや」

言葉の通りの筈である。そのような理不尽(?)罷り通るか。と唇が尖りかかったその時。
新たに訪う誰か──痩身の殿御より問われて言葉が止まり、腕を離して床に降りる。

「さようさよう。如何にも狸であるな。この学園には様々がおるゆえ、こういう者もおるものかと。
 様子からして島に来て日が浅い感じであるかな?」

この島には様々な者がいる。異邦人街などすずろ歩けば千変万化の住民模様に見えようもの。
ゆえに、彼は来島して日が浅いものかな、などと推察するものである。

芥子風 菖蒲 >  
ぶら下がっていても一向に体が上がらない気がする。
力は入れているが、体が持ち上がらない。
非力なのか、そんな事を思う今日この頃。

「へぇ、狸なんだ。結構馴染み深いんだよね。親父が狸鍋作ってくれたし」

左様然るに異邦人ないし獣人は少年にとって人である。
しかしまぁ、曲がりなりにも狸と申した相手にこう言うのは
余りにも肝が据わっているのか、デリカシーがないのか。
口元は一文字、表情写さぬ無表情。

「所で、さっきのソレ。全然上がってなかったけど、大丈夫?太った?」

──────デリカシーが無い方かも知れない……!

そんなものは知らぬ存ぜぬ我関せずと言わんばかりに
己のコートを適当に脱いだ。アンダーの黒シャツ一枚。
腕についた数多の生傷の後々は兵達の墓標と積み重ね。
隣の懸垂台についてはくるんと足を引っかけ蝙蝠の如く逆さづり。

「まぁ、ダイエットにも丁度いいんじゃないかな?」

ついでに付け加えた余計な一言。
腹筋に力を込めて宙ぶらりんに腹筋開始。

貴家 星 > 「おや馴染み深い。であればこの島も長──ん?」

今鍋って言った?言ったよね?と言わんばかりに私の首が傾いで彼を視る。
自然と下から見上げるように、ともすれば古式ゆかしい不良が用いる因縁付け的眼差しであるが、
肝心の彼は仏頂面──ではなく、不満も何も無さげな風情であった。

「まあ、うむ。うむ。一先ず鍋の行方は忘れるとし……太っ……」

閑話休題である。よもや出会い開幕から見知らぬ誰かと険悪になろう筈も無いのである。
私は風紀委員であるゆえ、うむと頷き会話を再開しかかり、言葉が止まる。
そしてまたもや同じように首を傾げて、古式ゆかしい見上げ視線を向けるものである。
しかし肝心の彼は意に介した風も無くコートを脱ぎ、施設利用の準備を始めるものであるから、
やはり不満であるとか、そういったものを持っている訳では無いらしかった。

「……いや、太ってないぞ。私は太ってない。ちょっとこう、そう。女子力というものがな?
 我が総身に満ちたが故に些かの不具合とでも言うべきか」

閑話休題その2である。
今は言葉を並べながらに、軽やかに懸垂台に逆しまにある彼を視て。

「……」

再び、言葉を止める事となった。
両腕に夥しく重ねられた傷の数は、彼が荒事に親しんでいる事の証左であったから。

「べ、別にダイエット目的などしとらぬわっ!……にしても、其方は随分とこう…達者だのう。
 何か腕に覚えでもある感じだろうか。先程の言葉からして猟師でもしておられたか」

となると、彼は一体どういった者だろうと気にかかるもので、達者に逆さ腹筋をする様子に問いが飛ぶ。

芥子風 菖蒲 >  
逆さとなった状態が上へ下へ。
規則的な動きは慣れを感じさせる肉体の流動。
細身の少年的体躯など感じさせぬ程に実によく動く。
父に鍛えられた賜物とも言えるだろう。

「どうか、した?なんだか、妙に、言葉、詰まるけど……?」

腹筋をしながら器用に喋る喋る。
おまけに言うに事欠いて此れである。
よもや、己の言葉が失言とは微塵も思うまい。
デリカシーよ、永遠に────。

「女子、力?ふっ…よく、わかんない…!けど、要するに、太ったって事?」

総身に満ちた言うべきであれば、その肉体に宿るのはまさしく……!

「まぁ、狸っぽいよね」

其れこそ童話に出てくるずんぐりむっくり。
実に少年らしい、少年らしい事を言う。
相手が相応の獣人で(そうじゃなくても)実際失礼に当たると言う事を除けばだ。
まさに己の肉を捩り、虐める姿とは実に対照的だと言わんばかりに動く動く。

「ふっ…ダイエットじゃ、ない?そう…っ!よ、と……ん……。
 小さい、頃から、親父に、鍛えられたり、した、だけ。後は、実践?」

あれは春うららの追憶。
よくぞ、あのいかつい父親の素顔が目に浮かぶ。
尚、腹筋に熱中しているので実際無防備。
何をしても今ならいい感じに入るぞ!

貴家 星 > 流麗に、鮮やかに、そういう動きをするよう定められた機構のような動作。
通常ならば、こうした動作の最中に喋るのは難しかろうと思うのだが、
件の機構ならぬ少年は露程も気にした風を見せない。

「……いや別に詰まっとらんよ。うん」

詰まる様子を指摘され、されどもそれとは別件に詰まりかかり。

「むがっ……ええいまるで飛矢のような物言いをしおってからに!
 食欲の秋って言うじゃろがい!自然の摂理ってものよ!」

次には腕を振り上げて大声を上げて地団太を踏む。尾は猛々しく真直ぐに立ち、
苛立たし気に『狸だよね』などと謳う少年の顔を柔らかく打つ。こう、腰のスナップを効かせて打つ。

「まあ、つまるところ運動して罪悪感を減らしておこう的な……
 それにしても父御によるものであったか、実践となると……ふぅむ。であれば風紀委員の誰かであるのかな」

無防備な彼の顔に尾撃(?)を加えながらに言葉が重なる。
この島で実戦を実践し得る所は概ねそれであり、そうでなければ私闘に興じる誰かであるものゆえ。
誰何する眼差しは幾許か見聞するように細くもなる。

芥子風 菖蒲 >  
「そう?俺から、見ると、詰まって、るけど……」

何がとは言わない。何とは言わない。
物理的に上下に揺れる青空が見据える先は、彼女の胸部。
少年の純一無雑な眼差しが見ている。彼女の胸部を。
求、デリカシー。

「やっぱり、太ったんじゃ……ぶっ」

べし。良い感じの尻尾がもっふり顔面にへと入った。
見事に入ったものだから変な声が漏れるわ、危うく落ちそうになるわ、因果応報。
流石にこの強烈(?)な尻尾を食らっているととてもじゃないが腹筋できる気がしない。
意外と肌触りのいいもっふり感。まん丸尻尾って気持ちいいんだなぁ。あやを。

「美味しいよね、秋の食べ物。けど、一日二日程度じゃ減らないと思うけど?」

運動で減らすとなるとこれが厄介で
それこそ継続は力なり、と人は言う。
当然だが、減らしたいのは罪悪感であってそう言う事ではない。
根本的なリアリストめいた発言が星を襲う────!

「そう。もうどっか行って、よく覚えてないけどね。それでも、決まりだけは守ってる。
 腕を鈍らせない様に、何時でも誰かの為にこの身一つに戦えるようにって」

最早行方さえ知らない父の消息。
あの親父が死んだとは思わない。
とは言え、何処にいるかは分からない。
つまりこれは、少年にとって唯一、父との繋がりとも言える行為だ。
ぶらさがったまま、視線は揺れる尾っぽに右往左往。

「そうだよ。風紀委員が一番向いてると思ったからさ。そういうアンタも?」

貴家 星 > 日々丁寧にブラッシングし毛艶の維持に余念の無い尻尾の一撃。
過分にモフモフとした一撃を少々の怒りを込めてお見舞いし、彼の頭を存分に茶色い毛塗れにし、
漸くと満足げに鼻を鳴らそうものである。ふんす。

「しかしこうも傍目に詰まってる詰まってると言われると……うーむ。
 『陽月ノ喫茶』に赴くのも控えるべきか……」

その後に己の身体(具体的にはお腹)に触れ、唸りながらに確かめる。
結果は──、一先ず、秘である。

「ええい1日程度で減らぬなど知っておるわ。だがしかし病は気からと言うじゃろがい。
 私は化け狸。怪狸であるゆえ、斯様な道理に則るとも限らぬし」

尾から解放された彼は恙無く逆さ腹筋を再開している。
私はそうした様子を視、鮮やかな青空が如き眼と視線を合わせた。

「して行き方知れずであったか……。この島でかの?
 であれば力になれるやもしれないが──」

それからと、彼に倣って懸垂台に登る。
この程度は造作も無く、これまた倣うように逆さの姿勢でぶら下がった。
そして倣うように腹筋をしようとするのだが、とても出来たものではない。ただただ、ぶら下がるだけだった。

「そうであったか。しかりしかり、私も風紀委員である。一年の貴家 星と云う。
 入学は春からであるな。其方は?」

宛ら猟師の罠にかかった獲物のようでもあるが、それはそれとして隣に誰何をし
言葉の後は腹筋しようとふんばってみるのである。

芥子風 菖蒲 >  
存分に堪能した。
堪能した結果、ちょっと動物愛護力がプラスされた。
恐らく、多分、メイビー。ペットが欲しくなる程度には。

「気にするなら、控えた方が良いと思うよ。あんまり大きくなっても、邪魔でしょ?」

相手の身体(具体的には胸)を見ながらズバッと言った。
生憎、色気に現を抜かす精神を持ち合わせはいないが、
それはそれとして打ち首級のスゴイ・シツレイだ。

「気にしたって病気は名乗らないけど?それに、狸も怪異も何でも一緒でしょ」

実に、実に竹を割ったような物言い、価値観である。
くるん、と回れば懸垂台の上に座るような形に成った。

「ううん、島の外。島の外で離婚して、それっきり。なんかごめん、気を遣わせた?」

小さく首を振った。
島の外で起きた問題であり、もう過ぎた事だ。
会いたいとは思うが、どうしようもない事は望まない。
諦観とも言える考え方だ。

「オレは芥子風 菖蒲(けしかぜ あやめ)。タイミング的に、多分一緒かな?多分同期」

ちらりと自己紹介ついでに相手の様子を見る。
意外と頑張っているが、上がる要素は微塵も見えない。

「とりあえず、上がらないなら腹だけじゃなくて背中にも力を入れたら?」

なお、上がるとは限らない。

貴家 星 > 力を込めて
力を入れて
力を満たし

──全く以て上がる気配無し。
膝裏にかかる負荷も中々の物。
私は人に比べればそれなりに頑丈でもあるから耐えられるが、そうでなければ忽ちに落下し兼ねない。
それを事も無げにやってのける辺り黒髪の彼の身体能力は瞠るべきものであり、
その身体能力を活かして風紀委員としての活動に勤しんでいるのかと思われた。

「そりゃあ腹が大きければ邪魔──おごぁっ!?」

──思っていたらずるりと滑ってマットの上に落下して、変な悲鳴が転び出て、身体も前転するように転ぶ。

「確かにまあ……同じやもしれぬがなあ。其方は中々どうして口が厳しい。
 なに、気を遣う程ではなかろうよ。袖触れ合うもなんとやら。
 好都合に私は刑事部にて行き方知れずを探すことが多いゆえ。
 して芥子風殿と申したか。菖蒲、菖蒲とは中々どうして典雅な名前かと思う」

それから、務めて颯爽と立ち上がって懸垂台に座る芥子風殿を見上げた。
率直に良い名だな、と思った。
そして同期と彼は云うが、少しくらい私の方が速かったりしないだろうか、などと思う。

「そして同期であったか。惜しいのう。私が先達であったら……いや特に教導することもないのだが。
 むしろ教導されておるが」

もしもそうであるなら風紀委員であり私の後輩である。
多分であるから今だ判然とせず、今は自然と姿勢も胸を張るようになった。
うむ、推定ではあるが先輩らしい所を見せねばなるまいよ。一先ず堂々としておくのだ。アドバイスを頂いてしまったが。

「ぬはは、次挑戦する事があらば背中に力を入れるとしよう」

それはそれ、笑って誤魔化し、直ぐ傍の自動販売機にてペットボトルのお茶(無糖)を2本購入し、
それとなく芥子風殿に差し出そう。言外にお近づきの印というものだ。

芥子風 菖蒲 >  
「……あ」

落ちた。ぽてりと落ちた。
リンゴの如く呆気ない。
思わず声を漏らしてしまったが、マットのおかげで大事ないようだ。

「大丈夫?」

見ればわかる程度には大丈夫だが、人を心配する心位はある。
無茶した方が悪いなどと咎める気も、ああだ、こうだと言う気も無い。
鍛錬とは怪我をして然るべき行いである以上、何も言うはずも無し。

「とりあえず、大丈夫ならいいや。……ん、そうかな?
 思った事を口にしているだけなんだけど……」

そんな事は初めて言われた。
少しばかり、驚いたと目を丸くする。

「そう?女っぽい、とはよく言われるけどね」

そう褒められるのも、初めてだ。
何が良いのかよくわからないけど、悪い気はしない。
よ、と棒の上から降りれば同じマットの上に降り立った。

「オレ、春の終わりぐらいだったし、もしかしたら後輩かもね?
 まぁ、次やる時はなるべく無理しない様に。死んだら意味ないからな」

怪我はしても良い。だが、死んでは元も子もない。
打ち所が悪ければ人は簡単に死に至る。良く知っているとも。
淡々と抑揚のない声が述べて、彼女が差し出すペットボトル。
手元と視線を交互に見れば、ありがとう、とお礼と共に受け取った。

「星はなんで、風紀委員になったの?」

一つ世間話の体で尋ね、早速茶を口に含んだ。
程よく失った水分が透き通るようで美味い。

貴家 星 > 「なになに、少なくとも私は芥子風殿の物言いは嫌いではない。
 厳しかろうとは思うが、実直かとも思うゆえ。
 悪意があるとも思わぬしな。よしんば有るならば、斯様に私の事を案じはすまい」

大丈夫大丈夫。と言葉身近に返し言葉に茶が添うて。それであるから無茶も無し。

「それで言うなら私の名は時折『男みたいだ』などと言われるな。
 芥子風殿の親御が如何な想いで名を付けたかは、私が解ろう筈も無いが、
 少なからず善き祈りがあったのではないかと──」

隣に立つ彼を視、それからと所在なく視線が泳ぐ。
そうしてペットボトルの口を開けて茶を流し込むように飲む。
外とは違い室温は真夏のようであるものだから喉が渇き、真夏のようであるから忽ちに汗を噴く。
泳いだ視線の先は懸垂台の傍にかけておいた手拭いに止まり、手に取り、額の汗を拭い、一息をつくように息を吐いた。

「む、であれば僅かばかりに私が先輩であるなあ!
 うむ、困った事があればなんでも相談して頂けると冥利に尽き──ほ?」

息を吐くに合わせて背を丸め、済んだら顔を上げて鮮やかに青い瞳を視た。
突然の問いに少し驚いたからであり、次には己の頬を撫でて勿体ぶり……等とはしない。

「うむ。私はこの島が好きだから風紀委員をやっておる。
 この島は様々なものを認め内包し、共に培おうとしている風に見えるゆえ。
 《大変容》以降、やれ異邦人だの怪異だの、島外は未だ騒がれる事も多い。
 そうした様子から比ぶれば常世島は善き所よ。この環境は是非維持して欲しい」

快哉の如き明るい声で明瞭に理由を延べ

「してそう問われる芥子風殿はどうして風紀委員に?」

次には手にしたペットボトルをマイクのように見立て、彼に差し向け問い返す。

芥子風 菖蒲 >  
「そう?ならいいけど」

事実そこに悪意はない。在るがままに、口にする。
厳しい物言いなのは、ある種の達観、諦観とも言えるものがそこに居座る。
身の丈不相応の価値観だ。故に、不愛想。

「あー、言われると確かにそう聞こえるかな。交換する?」

それでも、冗談位は多少言えるらしい。
他愛ない冗談だけを返した。
親御に関しては何も言わない、敢えて言わない。
貌にもおくびにも出さぬ程に、胸中何か、思う所があるらしい。
喉に出かかった"それ"を飲み下すように、思い切りお茶を流し込んだ。

「……けほっ」

ちょっとむせた。一気に流し込み過ぎた。反省。

「ふぅん、意外としっかりしたこと考えてるんだな。
 オレは異邦人とか怪異とかよくわかんないし、どうでもいいけど
 それだけで一々色眼鏡掛けるのは、確かに嫌な奴だと思うよ」

何であろうと、そこに居れば相違なく
誰であろうと、言葉が通じれば人と違わず
さっぱりとした価値観だからこそ、少年は差別意識などありはしない。
ある種、平等だ。

「星も、そう言うの苦労するんだな。
 この学園は確かに緩いとは思うけど……オレ?」

向けられたペットボトルを一瞥し、何気なく窓の方を見た。
寒天の寒空。今日も澄んだ青がそこに見える。

「星のような、大した理由じゃないよ。
 さっきも言ったけど、向いてるから入ってるだけ」

「オレに出来る事なんて、体を張る事位だし。
 オレが体を張って、誰かが楽できるなら、他に選択肢はないでしょ?そんだけ」

畢竟、誰かの為に、だ。

貴家 星 > 「同じお茶を交換して如何する」

特に思う所も無く言われた。ように感じたから思わずと笑ってしまった。
よもや冗談とは思わず、茶を飲み下す芥子風殿に呆れ笑いを放り投げ、

「おっと」

次には咽る彼の背を摩る。どうやら大事は無いようだった。

「意外とってなんじゃい。うーむそんなに私はアンポンタンに見えるかのう。
 だがしかし、どうでもよい。くらいが丁度良いのやもしれんよ。
 どうでもよくない場合は……まあ、然程穏やかならずな事にもなるし。
 例えば、ほら、昨今言われとる朧車の件などな」

鼻白むように声をあげ、次には追従するような声。最終的にはどうでもよくない事案を一つ上げもした。

「私の方は元々が見聞を広めに入学しておるからなー。
 そりゃ多少は苦労しとるよ。一族の道筋がかかっとるし──」

苦労を労われると頷くようにもし、彼の視線が彷徨うならば、釣られて其方を赤い瞳が追う。
いつしか雨は上がり、寒空ばかりが映っていた。

「……向いとるからとな。確かに芥子風殿の身体能力は凄そうだし、
 其方が身体を張るならば他の委員は楽も出来よう。実際人知れず私も楽出来ていたに違いない」

ちらと傷だらけの両腕に視線が映る。幾許か、新しそうなものもあった。
つまりは、そういう事だ。
朧車騒ぎが初めての鉄火場となった私よりも芥子風菖蒲は前に居る。

「そ、そうだ。であれば芥子風殿は如何にしてこの島へ?
 よもや身体を張る為に訪れた訳でもあるまい。学び舎であることだしの」

心裡で閑話休題とし、雑談のていで来島経緯を問う。

芥子風 菖蒲 >  
「オレが得する、かな」

結構一気に飲んだので残りの量に差がある。
呆れ笑いにつられるように、少しばかり首を傾けた。

「あんぽんたんって言うか、抜けてる?可愛げにはなるんじゃないかな」

主になんか懸垂出来てないのが悪い。
決して間抜けとは言わない、可愛げのある程度に見えるだけだ。
強いて言えば、先輩後輩で一喜一憂するのもちょっと子どもっぽい。
抜けてるポイントプラス一点。配点は最高五点までとする。

「ああ、アレか……アレは星たちとは違うんじゃない?
 "邪魔"だったし、斬られて当然でしょ」

言葉が通じない、分かり合う気も無い。
それは此方も同じ事。邪魔をするなら、死んでもらう。
シンプルな答えだ。仮にそれが朧車でなくても、立場が同じなら答えも変わらない。

「一族?結構重大な事考えてるんだね、星は」

家族のみならず一族ときたか。
随分と強い責任感があるらしい。
自分にはあまり考え付かない。

「此処しかなかったから」

シンプルな、答えだ。

「母親もいなくなって、異能しか能がないオレなんて、外じゃクズみたいなもんだよ。
 戦闘にしか使えないような異能。そんなオレがまともに生活するなら、ここしかない。
 そんなオレが、風紀以外をやるなんて、それこそ本当のクズみたいなもんでしょ?」

ただそれだけ。
全てがそこで噛み合ったから、噛み合わざるを得なかったからそこにいる。
何かが罷り間違う事は無い。必然とも言わない。
そうなったから、そうなった。

「でも、勘違いしないで欲しいけど、全部オレが選んだことだから、後悔は無いよ」

それでも、自分の道は自分で選んだ。
割り切りだ。何処まで行っても、身の丈には分不相応な価値観。
少年の考える事では無いが、生い立ちと異能がそれを許さない。
そして、それを後悔はしない。したところで、意味は無いから。