2020/10/10 のログ
貴家 星 > 「確かに特をするのう」
であれば飲む?などと芥子風殿と比べれば残ったペットボトルを向けてみた。冗談のつもりで。

「ってぬ、抜けてる!?……そりゃあまあ、おっちょこちょいとは言われるがー……」

主に報告書とか書類関係。無論パソコンを使えるならば良いのだが、
時折生じる手書き書類があまりよくない。どうであれ図星であるから困った様に視線が揺れもした。

──が。

「確かに私や私の一族とは違うな。アレらに如何な目的があったのかは知りようもないが……
 "邪魔"であるなら致し方なかろう。ゆえにまあ、私はそうならぬように。みたいな所があるかのう。
 なに、そう重大でもない。この島の居心地の良さに努め、折良い時に家族を呼ぼう。くらいのものである」

シンプルな解答には些か、眉が寄った。
当然の帰結に、でもあったし、重大と思われた事にでもあった。
いや、重大ではあるのだが、存外気楽なものでもあるゆえ、曖昧な笑みも混ざろうか。

「で」

次の芥子風殿の言葉にはもっと眉が寄りもするのだ。
卑下するような物言いは、何処か己をも俯瞰するような他人事に聴こえる。

──所感であるが。
所感であるが、話題選択を誤った気配を感じる。
尾が萎れるように下がり、床を掃くように数度揺れた。
些かに気まずい。レトロな訓練施設内を環境音めいたBGMだけが流れていた。

「で、うむ……いやクズとは思わんよ。うん、ぜんぜん思わない。
 後悔が無いのは全き善きことであると思うし、うん。
 おお、しかしな、しかし。折角の様々が満ちる善き混沌に目を向けないのも勿体なかろうよ。
 一つ柔軟な思想で色々やってみるのは如何かのう」

率直で実直な物言い。を嫌う事は無い。だが驚いた。
驚いて、恰も物語にあって人を誑かす化生の如き言葉が零れ出る。

「例えば此処においては……ストレッチとか?
 先程は見事な筋力を披露して頂いたが此方はどうであろうかな!」

ボクシングジムとスポーツジムを足して2で割ったような一角には体操用の区画もあり、
話題転換がてらに如何なものかと指で指し示して提案す!

芥子風 菖蒲 > 【一時中断】
ご案内:「訓練施設」から芥子風 菖蒲さんが去りました。
貴家 星 > 【中断!】
ご案内:「訓練施設」から貴家 星さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」に貴家 星さんが現れました。
ご案内:「訓練施設」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
芥子風 菖蒲 >  
「星が飲みなよ」

そこまで意地汚くはない。
軽く手を振って冗談をヒラヒラ躱す。

「何て言うか、何もない所で転びそうなイメージかな」

散々な評価だった。初対面の印象で中々酷い。

「別になったらなったで、オレはオレの仕事をするから別にいいよ。
 なるべくそうなって欲しくは無いけど、オレは別に大丈夫だから」

私情を挟まない、と言えば聞こえはいい。
だが、それは冷徹と言うに他ならない氷の理性。
感情がない訳では無いが、"それはそれ"と割り切れる冷酷さ。
それを含めて"向いている"という言葉の意味を、少年は自覚している。
黒の芥子の花から漂う香りは冷ややかで、高嶺よりも孤独に咲く。

「…………」

青空のような瞳は澄んでいるのに
何処までも少年は俯瞰的で、自分にも冷ややかで
星を見据える空は嫌に人間味だけは感じさせる。

「正直、オレにはよくわかんないし、あんまり興味ないんだ。
 結構ゴチャゴチャしてるのはわかるけど……何が違うとか、別に無いでしょ?
 オレには、どうして周りにも自分にも悩めるかよくわからないんだ」

異邦人や怪異の問題。話が通じぬ獣であれば狩るのみだが
そうで無い多数の生徒や住民が此の島にいる。
度々問題の槍玉に上がる意味を、混沌を一緒くたに考える少年には理解しえぬもの。

「……ヘンなの。同情でもした?オレは気にしてないよ。
 自分に出来る事も出来ないなら、オレには生きてる価値はないから」

垂れさがる尻尾を一瞥し、首を振って答えた。
そんな目を持ちながらも、抑揚なくも感情を持ちながら
ある種、人としての欠落、二律背反はありありとそこにある。

「筋力……異能の方だと強いんだけど、体だと中々付かないんだよね。
 多分体質だと思うけど……星って、結構肉体派だったりするの?
 人は見かけによらないって言うけど、素手でぶちのめすタイプ?」

人は見かけによらないというけどそれはちょっと判断突拍子過ぎない?
真顔で言うもんだからマジで言ってる。天然ものだ。
示されたマットの方へと行けば、まずは足を伸ばして軽くストレッチ。

貴家 星 > 「期待通りの御解答であるな」

手を風に吹かれる紙のようにする芥子風殿に笑い声。からから、といった風情を返し、
次には予言でもされたかのように、本当に何も無い所で転びそうになった。

「転ぶかっ!……いや転ばぬからね?本当本当。例え可愛げになろうとも転んだら痛いし」

蹌踉めきかかる足と脚を踏ん張って堪え、言葉を飛矢のように放る。
芥子風殿の語る仕事の行方については、語調を収め、鼻頭を撫でながらに述べようものだが。

「そりゃあ~この島にとって害ともなれば、芥子風殿が仕事をするのは道理である。
 なに、そうはならぬよ。少なからず"そうなってほしくない"と思われるなら、そうはならん」

人に害を齎すことの無い妖だろうと、人ではないなら狩り殺す。
そうした手合いも雲霞の如く居るこの世を思えば、友好的な相手に友好を示すのに不都合は無い。
移動をしながらに後ろ歩きの姿勢となって唇を歪め、莞爾と示して得意顔とてしてみせよう。

「これから解るやもしれんし興味も出るやもしれんよ。
 悩みはそれこそ、ほら、えーとどっかの有名な人間が言うてたであろ。
 "人間は考える葦である"などと。多かれ少なかれ懊悩するものではないか?
 芥子風殿とて多少はあるじゃろ。例えば今晩の夕飯の献立とか」

生きている価値の有無。同情の置き場。それらについて、どう答えようかは──それこそ悩んだ。
妖も懊悩するものであり、どうしたものか、と得意顔の後に悩み

「ぬおっ」

後ろ歩きの姿勢であったから、一段高くなったマットに躓いて後ろ向きにすっ転ぶ。
勿論、直ぐに起き上がるぞ、うむ。

「マットの柔らかさは上々。善哉善哉!」

ストレッチ、柔軟、マット運動。
いわゆる静的運動と呼ばれる部類を行うに適した一角は、成程マットの質も良さそうだ。
起き上がってから素足で数度踏みならすように確かめて満足そうに頷く。

──等としていると、当の芥子風殿はちゃっちゃとストレッチを開始しておった。

「なんと異能による筋力であったか。いや、私の異能は其方方面ではないな。
 素手でぶちのめす方でも無い。簡単に言うと雷を操るものである」

黙々とした彼の傍にしゃがみ、その柔軟力(ちから)を見分するように眺めよう。じー。

芥子風 菖蒲 >  
「そう。ならいいけど」

成らないならそれでいい。
狩人であっても、獣ではない。
人の道を外れようとは微塵も思わない。
何処まで冷酷だろうと、冷徹であろうと、人であるからやれる事がある。
道理を見失わぬ芯が其処に在る。

「そうかな?……まぁ、腹が減ったりすると困るかな……」

言われてもしっくりこない。
"考える葦である"とは言われるが、考えた結果がこれなのだ。
此れ以上、何をどうするべきか……。
まぁ、悩みがない訳じゃないけど、些細なものだ。

「…………」

転んだ。今間違いなく転んだ。
青空はしっかりと見ていたぞ!

「やっぱり転ぶじゃん」

そしてちゃんといいおった。
少年に空気を読む事は無理だ。吸う事しか出来ない。
空気清浄機な空気おいしい~~~~。

さて、かくいう少年の体は曲がる。良く曲がる。
なんだか足が首の後ろいったり、ストレッチと言うかヨガめいたムーブになってきている。

「そう、異能。ちょっと言ったけど、肉体強化するだけ。
 後、剣から何か飛ばせる?そんくらい。……かみなり?狸なのに?」

狸の事なんだと思ってるの。

貴家 星 > 「何より痛いのは嫌であるゆえ。平和が一番!
 そして空腹も嫌であるな。うむ、そうかも。だ。
 例えば『ああ天麩羅が食べたいが外に出るのが億劫だ』と悩んだりはせぬ?」

ならいいけど。と語る彼。ならばそれで良し。そう言わんばかりに語調を強め、
悩みの行方に首を傾げるが如くに当惑を示す芥子風殿に具体例を挙げてみた。
ちなみに天麩羅は私の好物である。あれはよいものだ。帰りに何処かで購って──

等々、思考をゆうるりと俯瞰させた所で、その思考を撃墜せしめる言葉が飛ぶ。
しゃがんだままの姿勢であった為、姿勢を崩して後ろにころりと転がって、次には起きて胡坐の姿勢となろう。

「マットに躓いて転ぶのはセーフかと思うが~!?」

何かある所で転ぶのは普通だと主張したい。ので主張した。
宛ら亡者が恨み言を垂れ流すが如くである。胡坐の姿勢から四つん這いとなり、詰め寄るように主張する。した。

一方で、身体を解し始める芥子風殿の様子は些かに理外である。
人体ってそこまで曲がるの?と言いたげに詰め寄る私の首も傾ぐものであり

「ははあ……その驚異的な軟体も強化の賜物であるのかな。
 そして剣を飛ばす……って狸が雷使っていいじゃろがい!?
 一族に伝わりし化生の術である。色々便利なんだぞー!?」

はたまた、獰猛な獣が威嚇するかのように舌鋒鋭くなりもする。
尾だって真直ぐに立つものだ!

芥子風 菖蒲 >  
「平和が一番、か……そうだね」

それは間違いがない。その為に風紀がいる。風紀にいる。
だが、本当に平和になった時、自分の"価値"は何処に在るのか。
不意に過った考えが、僅かに歯切れを悪くさせた。
そこまで考えた事はなかった。言われることも、なかった。
表情には出さないけど、僅かに動きが止まる。

「あんまりないかな……天ぷら好きなの?」

お腹空いて困るけど、あんまり食に好みは無い。
所謂"食べられれば何でもいい"タイプだ。
とことん、その辺りも希薄が決まっている。

「転んだは転んだでしょ」

ぴしゃり。取り付く島は島ごと流し。

「多分ね。異能を発動すればもうちょっと動けると思うけど……
 うん、飛ぶ斬撃……って奴?戦う分には便利だよ」

まさに戦闘にしか使えない異能だ。
異能が生き方一つを決めたと言っても過言ではない。
ぐるん、と腰を曲げればU字曲がり。ストレッチの域は既に何処か行った。
アイツはこの先ついてこれそうにない。

「ダメってわけじゃないけど……そんなに?充電とかに使えるの?」

怒鳴られようが何処吹く風。
微塵も自分のせいで怒らせたと思ってないぞ!

貴家 星 > 「好き好んで四六時中騒擾の渦中にありたい者は……たぶんおらぬかと。
 かの『鉄火の支配者』こと神代殿とて、最前線に詰めておられるが、
 その理由は平和を求めてのことだろうと思われるし」

言葉に迷うような所作をする芥子風殿に倣うように此方の言葉も少しばかり迷う。
神代殿が実際どういった理由でそうしておられるかは、知らぬし、判らぬ。
だが風紀委員であるならば、そう間違ってもいない理由ではなかろうか?と推論を述べ

「うむ、てんぷらだいすき。特に芋が良いな、薩摩芋。
 芥子風殿は特別な好物が無いと言うが、学生街に在る長寿庵の天丼は中々どうして善きものぞ。
 機会あらば是非是非赴かれるが宜しかろうもので。それこそ、転ぶかも相判らぬ」

好物論には推論ならざりき断言を以て応じる。取りつく島が無くてもめげはしない。
和食党に転びはすまいかと声が笑み、しげしげと芥子風殿の柔軟模様を眺め行く。

「……異能無しでそんだけ曲がるのは凄いのう……成程成程、斬衝を飛ばすか」

四つん這いの姿勢から此方も並んでストレッチの姿勢。形を真似て見ようと試みるが当然と曲がる筈も無い。
たぶん、平均的には柔らかいと思われるが傍らに理外がいれば是非も無し。芥子風殿からは硬く見えるかもしれなかった。

「……い、いや。充電には使えぬが。例えば音だけを鳴らして怯ませたり、痺れさせて動きを止める程度に留めたり……。
 下手人を捕縛したりするのに用いる感じであるな。殺傷せしめる程のは、まだ人には使った事は無いのう」

唸りながらの柔軟模様の合間に混ざる異能語り。
合間合間に「ぅゎぁ」だの「ぇぇ…」だの感嘆もつかない声が漏れるのは、無理からぬ事と思いたい。
どんな関節しておるの?と視線が好奇心にも満ちようか。

芥子風 菖蒲 >  
「オレも戦いが好きってわけじゃないけど、どうだろうな。
 戦い以外で役に立つ方法なんて、オレは知らないし
 オレはもしかしたら、その"数寄者"なのかもしれない」

彼女の言うように、そんな連中こそ稀有な存在だ。
世間的に疎まれるような存在だ。
自分はそんな連中と戦うために居る。
世の為人の為を思って戦う。なら、その先は……?
答えは見えない。畢竟、同族かもしれない。
何とも言えない不安に、眉を顰めた。初めて、その表情に陰りが見えた。

「そこまで言うなら、考えてみようかな」

食に選り好みはしないけど、そこまで押されるなら考えてみよう。
元々好き嫌いは無いし、脂っこいものは男の子大好き。

「そう?意外といない?異邦人とか特に」

このご時世、体が柔らかい位なら結構何処にでも転がっている気がする。
地球人でもそうだし、体を"改造"すれば、それこそ自分以上だ。
ぐいぐいと足を引っ張って、しゃちほこみたいになり始めている。
割と何でもありになっているぞ……!

「今はそれ位、かな。オレは。……星のは、なんていうか……スタンガン?そう言うの?」

例え方にもう少し捻りが無かったのか。
悪気が無い分だけ色々しょっぱいぞ。

貴家 星 > 柔軟に身体を曲げ、表情をも曲げる。
今日、初めて見る芥子風殿の顔に私の動きが止まった。

「──おお、であれば」

そうして"知らないのなら丁度いい"と言わんばかりに柔軟姿勢を解き、正座をし、それからと手をポンと打つ。

「これから知ればよいのではなかろうか。折しもこの地は学園島!全き学びが彼処に満ちようものなれば!
 私も大本はその為に来島しておるしのう。同学年でもあることだし、互いに切磋琢磨……でもないが、
 何かに悩めば相談し合うのも悪くないのでは?ほれ、人の字は互いに支え合ってなんとかって言うし」

生憎私は妖だがそれはそれ、これはこれ。手の次は渋面する彼の背を叩くのだ。
これは天麩羅について考えてみようと云う意志を後押しする意味も多分に含まれていたりする。

「まあ偶さかに支え無くとも立つ輩も居るのだが。そうそう支え無しと言えば……
 それだけ柔らかいとあれかの。アレ出来るかの、アレ。こう、立って足を上げるやつ」

アレとは、足を高々と上げてバランスを取る奴。俗にI字バランスとも言われるもの。
柔軟さのみならず片足で身体を全て支えるバランス感覚をも求められる高度な姿勢。
芥子風殿にジェスチャー交えに説明し、次には少し苦笑した。

「支え合うのが大事と謳った後に、支え無しで立てるか?と問うのもまあ底意地が悪かろうものだが……
 なに、他意は無いのだ。それ程までに柔軟であるなら、できるのかな?と気になったというか」

言い訳混じりに説明し、スタンガンと言われると頷く一方で、悩むように声が唸った。

「スタンガンみたいなこともできる。が正解であるな。実地で披露は叶わぬが……」

隣の棟に移動すれば別である。視線が通路へ続く扉を一瞥とした。

芥子風 菖蒲 >  
「…………」

彼女の言ってる事に間違いはない。
学び舎とは、得てしてそう言うものだと理解している。
だが、今一いい返事が出てこない。
言葉では理解している。しかし、今更何を学ぶと言うのか。
勉学に困っているわけではないけど、自分に出来る事など、それ以外に─────……。

「……ん」

リクエストとくれば断る理由も無い。
す、と立ち上がれば軽々しく右足を上げていく。

「片足を上げる……こう?」

ぴーん、と足先を立てて、片手で足を抱える見事なI字バランス。
柔らかさもさることながら、体幹バランスも悪くない。
少年然とはしているが、その脚も女性めいて細く、こう見ると体つきはあまり男性らしくない。

「…………いや、大丈夫」

嗚呼、そうだ。大丈夫、大丈夫だ。
あの時から、一人で歩くって決めたんだ。
何かを学ぶ以前に、一人で歩くって。
人を支えるのは自分の側だけでいい、そんな程度の生き方しかできないんだ。
小さく首を振って、口元は僅かに綻んだ。

「オレは一人でも立てるから」

だから、大丈夫。
そう出来るって決めたから。
そのほんの少しの笑顔に何を思うか。
人としての字の在り方を顧みない少年の笑顔に。

「思ったより不便だなぁ。せめて、充電位出来ればいいのに。……どうしたの?」

自然と視線は、相手の視線の先へと移った。

貴家 星 > 解答の行方は行き方知れず。
なれど何れ見つかるものであろうと、探索方の私は唇を莞爾と曲げて彼を視る。

「おお見事だなあ!」

リクエストに応えて頂けるなら更なり。
拍手を以て感嘆の声が追従し、トレーニングルームに一時喧しい声が満ちた。

──満ちたが、穏やかな笑みに些かだ。些か、手も歓声も止まるのだ。
それから、むうんと唸って唇を尖らせる。

「確かに今は物理的に立っておるがー……うむ、まあもしもの話よ。
 芥子風殿は独りではない。という事である。
 何かあらば私のみならず風紀の仲間でもよし、誰ぞ頼るも手であるよ。
 猫の手も借りたくなったら狸の手でも借りておくれ。
 まあ私などは、少しは独りで何とかせいって言われる事も多々あるのだが」

彼にかこつけ少々の自分語りをし、腕を組み唸る。
そうした折に視線を悟られ言葉がかかると、顔を上げ、視線を交わし、瞳を瞬く。

「おお、いやな。隣の棟ならばシミュレータ等もある為、我が雷の披露も叶うかなと。
 芥子風殿が良ければ如何かなと。序に其方の剣を…飛ばす?とやらも興味があるのう」

やにわに声が弾み、I字バランスに立つ彼の袖を不躾に引いて道行を問う。

芥子風 菖蒲 >  
「オレは一人でも大丈夫だけど。まぁ、何かあればアテにはするよ、星も皆も」

誰かを頼るなんて、この島に来てからは考えなかった。
そう言う事をするとろくなことじゃないと、島の外で学んだから。
それでも、そう言ってくれるなら少しは考えておこう。
一人でも十分だと思うが、人の心意気を無碍にする程じゃない。

「そんなに褒める事かな……星もやってみたら?」

移動する前にどうぞ?と促してみる。
当の少年は既に足を下ろして軽く肩を回した。
さて、何もない所で転ぶ狸の柔らかさや如何に。

貴家 星 > 「例えば授業のノートを取り忘れたので見せて欲しい。とかもあるだろうし──
 ……芥子風殿は『現代異能I』はとっておるかのう。取っておったら後でノート見せてほしいのう」

例文、そして実例。
感情の色を元通りに見せなくなった彼に対し、此方は頬を掻きながらたっぷりと感情の色を出す。
少しは独りでなんとかせいと、言われる事柄を早速と示し、いざいざと移動かと立ち上がった所で変な声が出た。

「え゜?」

促された。何を、とは言うまでもない事である。
多分無理である。しかし、何かあれば声をかけよ。と言った手前どうして無碍に断れようか。

「よ、ようし……何事も挑戦である。確と見……見……」

意気軒高と尾を立たせ、いざいざと脚を上げ──上げ──あ、上がらぬ。
右脚を高々と掲げんと手を添え持ち上げようとするが稼働領域がそれ以上は無いと言わんばかりだ。

──暫し奮戦。トレーニングルームに唸りが響くこと数分。

「ど、どうかな!?」

Iに届かぬYの字立をする私の姿がそこにあった。
壁にかかる大きな鏡にも見事な姿が映し出されているが、自分で言うのもなんだが顔が必死である。
額に汗して蹌踉めく足は、芥子風殿とは比べるべくもない。だが、立っている。Iじゃないけど。
よく見ると尾が補助輪宜しく床に降りているのだが、これがルール違反かは判らぬし、解らぬ。

芥子風 菖蒲 >  
「忘れ物はしたことないけど……ん、あるよ。終わったら見せようか?
 例の天ぷらにも興味あるし、そこで一緒にどう?」

それが例文と言うのには気づいてない。
ただ、何処までも真面目なのだ。
二つ返事で返せばついでと言わんばかりに食事の約束も取り付けようとする。
他意はない。友好を深める意味を込めて、だ。

さて、そうこう言ってる内に始まったI字バランス。
頑張ってあげようとする脚はとにかく堅いのかなんなのか、全然上がらない。
なんだか下手をすると、ミシミシと変な音まで聞こえてきそうだ。
じー、と青空がぱちくりと星を凝視する事数分……。

「尻尾なら真っ直ぐかなぁ、下方向に」

尻尾だけ見事なら逆I字。逆さにしてもIなので間違いじゃないが
間違いないアウト判定だ。ふぅ、と呆れたような吐息を吐かれてしまったぞ!

「行こう」

そんな彼女をしり目に、またずに、先に棟の移動を開始してしまった……!

貴家 星 > 「おお助かる!であれば後程お借りし──」

このYはYESのY。
と言わんばかりに明るい声とてまろび出るが、顔色ばかりはいよいよと関節の限界を示している。
とは言えノートや天麩羅道(?)に快諾を頂けたなら善哉とし、アウト判定にはしょんぼりと脚を降ろすのだ。
股関節が痛い。

「ぬう……ストレッチを日頃の日課にするべきか──て、ま、待たれよ……いやちょっと待って。
 足、ちょっと股間が悲鳴をだな……」

ゆえにさっさか移動してしまう芥子風殿を追う様子は罠にかかった獲物のよう。
腰回りを摩りながらに後を追う姿があったとさ。

ご案内:「訓練施設」から芥子風 菖蒲さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から貴家 星さんが去りました。