2023/06/26 のログ
ご案内:「訓練施設」に史乃上空真咬八さんが現れました。
史乃上空真咬八 > ――時刻は夕方の17時頃。放課後に此処に通う足はそれ程多くない。
まして訓練施設ともなれば、わざわざ来るには理由が必要なものである。

例えばこの男子生徒なんかは、くたびれた様子でベンチに腰掛け、眠そうに舟を漕いでいる。

簡単だ。こんなところでこんな時間に人が来ることが少ないのを理解ってるからだ。
要するに人気のないところでゆっくりじっくり休むにはもってこいだったのだ。
施設利用者の多くが訓練に来る中にあってこれでは、周りに居る人からすれば微妙にも映ろうが、それを見る人が居なければ問題ない。

よって堂々とくたびれ放題だ。

「…………はァァァァ……ん、く……」

大きな溜息、長い伸び、そして。

「ふ、すぅ」

脱力した犬のような鼻息が、漏れた。

史乃上空真咬八 > 大きく伸びをして伸ばした両腕のうちの右腕を、思い出したように目の前に翳す。

上から照らす照明に透かすように翳してみると、その男子生徒の褐色の肌とは少し艶や色が違うのが判る。
よく出来た人工皮膚に覆われた中に見えるのは、金属の質感。要するに義肢だ。
ちょっと前までは医療用の木製義肢をつけて誤魔化していたのだが、最近はそれなりのまとまった収入を得るようになったことや、
……風紀委員の手先として動くには不便もあるだろう、ということで。

「……技術の進歩……犬のコーミングには使い易いが……あァ……まだ少ししっくり、しねェな」

――超ハイテクな技術の結晶である人工駆動義肢をこうして手に入れた。
感覚のない右腕が、小さなビーグルをブラシで毛繕い出来た時の感動はひとしきりだった。
買い物をするにも口で財布を咥える必要もないし、リードなしで犬を連れて出掛けることもないので近所の視線も気にならなくなった。
まぁ犬のほうはリードをつけられて窮屈な思いをしていることを視線で訴えてきてたが。

史乃上空真咬八 > 動く腕を耳元まで寄せて、試しに少しだけぐーぱーと握って開いてみる。本当に微かにだが、そうすることで駆動音が中から聞こえてくる。
これだけのサイズでこれだけの動きをこんなにも小さな音で実現することの出来る義肢とは、本当によく出来ているものだ。
或いはそういう技術であるからこそ、これを使う人たちの生活を極力邪魔することのない想いが形を成しているともいえる。自分のような失い方より、ずっと不幸な事故で手足を喪失した人々への希望の技術。
だから、礼節と尊敬を忘れてはならない。便利であるだけ、不便は飲みこむ。なければもっと不便なのを知っているから。

「…………」

なお、経過観察という名の定期メンテナンスもあるが、その都度結構デカい金額が発生する。
たぶん社会人の皆々が車を持ったときなんかに発生する費用のようなものだろうか。
これは身体の一部であり、また四肢の何処かを喪失しているという点で障がい者支援制度の適応が効くそうなのだが、次回のメンテナンスがだいぶ先で、前回は初回の取り付けとチェックとテストその他諸々だった。
幾ら発生するのかは実のところ不明。財布が軽くなるか、心が軽くなるかはその時にならないと判らないわけである。

「……」